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「メリッサ。久しぶりだな。俺たちは話し合わないといけないことがあると思うんだ。」
婚約破棄してから、彼と面と向かって話すのはこれが初めてだ。そもそも王宮開催の舞踏会でもなければ、主催者の側が気まずい二人が鉢合わせないよう考慮してくれる。あえて会おうとしなければ、本当に会わないものだ。
ライナスが私の代わりに答えてくれた。
「メリッサ様の元婚約者・ハートフィールド伯爵令息ですね。あなたはもう彼女とは婚約を破棄し、別の女性と結婚した。今の態度は少し馴れ馴れしいのではないですか?それと隣はご夫人ですね。メリッサ様は何かあれば弁護士を通すように言っているはずですが、一体何の用でしょうか。」
ライナスは声色こそ穏やかだが、絶対に私を守るという芯の強さがあった。
「どなたか存じないが、あなたには関係ない。私はメリッサと話がしたい。」
「名乗り遅れて、申し訳ない。私はライナス・ブラッドフォード。彼女の今の恋人です。ですから、大いに関係があります。」
「なるほど。公爵令息を捕まえたから、メリッサはこんなに強気なのか。この本はなんだ!俺のプライベートを新聞社に売るなんて!俺は本当に君を愛していたのに、見損なったよ。」
見ると彼の手には『令嬢Mの婚約者観察日記~S編~』が握られていた。見ると彼が気になったページが何か所も折られている。繰り返し何度も読んだのだろう。ボロボロだ。
「メリッサ姉様、ひどいです。私のことを泥棒猫だなんて。お友達が一人もいなくなってしまいましたの。」
「それはセドリックが私の婚約者だと知っていたにも関わらず、あなたが関係を持ったからでしょう。誰もそんな女性と付き合いたいと思わないものよ。」
「ひどいわ、姉様。うわーん。」
昔から物事がうまくいかないと、ニコラはウソ泣きをする。もういい大人なんだから、いい加減にして欲しい。
「メリッサ、どうして気づいていたなら、言ってくれなかったんだ。行いを改めることならできたのに。――それに君がこんなに口汚い人だと思わなかったよ。俺の女神だと思っていたのに。」
セドリックの怒りも治まらない。どうして私がこの二人に責められなきゃいけないんだ。全て事実だし、彼らの名前は出していない。新聞社にも確認して、法律に触れない範囲で書いた。なんと言い返そうかと考えていると、ライナスが口火を切った。
「――口汚いだと?メリッサの文章のどこが汚いというんだ。終始、上品な文体で皮肉たっぷりに君の交友関係を描いただけだろう。むしろ、君はメリッサのコラムのモデルになれたことを光栄に思った方が良い!」
ん?話がおかしな方向に流れ始めた。ライナスはセドリックから本を奪い取ると高らかに言った。
「私の一番好きな部分はここだ、67ページ。"Sは私への操を立てているつもりか、娼婦たちに決して唇を許さない。そして、恋しそうに私の名を叫び、荒々しく娼婦を抱く。娼婦たちはそれを『純愛』だと言った。私の中での『純愛』と、Sや娼婦の思う『純愛』。おそらく、同じ言葉でも定義が違うのだろうと悟った。" 君の汚らしい不貞をこんなウィットに富んだ表現でまとめてもらって、どこが口汚いだと?どの口が言うんだ。」
やめてくれ、ライナス!確かに既に出版されたものだが、私にとってもあれは『黒歴史』に近い。それを堂々と多くの貴族の面前で読み上げないで欲しい。私の周りの視線が一気に我々に集まる。セドリックも顔を真っ赤にして俯いた。
「私は、今彼女の新しいモデルになっていることをとても誇りに思っている。新シリーズの貴公子"L"こそ私だ。」
彼の宣言に一気に、会場が湧き立つ。
「ワトソン伯爵令嬢が、令嬢M先生だったのか。」
「Sってハートフィールド伯爵令息のことだったのね。憧れていたから残念だわ。」
「略奪泥棒猫のNってニコラ様のことだったのね。」
「ニ、ニコラ行くぞ。」
「待って、セドリック様!」
セドリックとニコラは足早に会場を去って行く。私は茫然と彼らの後姿を見つめた。ライナスがこちらを振り返った。
「メリッサ様、私はあなたのことが大好きです。今後もあなたの創作活動を一番傍で応援したい。だから私と結婚して下さい。」
私に集まる視線。――もう答えは『はい』しかない。
「ライナス様、末永くよろしくお願いします。」
"氷の貴公子Lは私を抱き寄せ、燃えるような口づけを落とした。「永遠に君だけを愛する」と耳元で囁いて。"
婚約破棄してから、彼と面と向かって話すのはこれが初めてだ。そもそも王宮開催の舞踏会でもなければ、主催者の側が気まずい二人が鉢合わせないよう考慮してくれる。あえて会おうとしなければ、本当に会わないものだ。
ライナスが私の代わりに答えてくれた。
「メリッサ様の元婚約者・ハートフィールド伯爵令息ですね。あなたはもう彼女とは婚約を破棄し、別の女性と結婚した。今の態度は少し馴れ馴れしいのではないですか?それと隣はご夫人ですね。メリッサ様は何かあれば弁護士を通すように言っているはずですが、一体何の用でしょうか。」
ライナスは声色こそ穏やかだが、絶対に私を守るという芯の強さがあった。
「どなたか存じないが、あなたには関係ない。私はメリッサと話がしたい。」
「名乗り遅れて、申し訳ない。私はライナス・ブラッドフォード。彼女の今の恋人です。ですから、大いに関係があります。」
「なるほど。公爵令息を捕まえたから、メリッサはこんなに強気なのか。この本はなんだ!俺のプライベートを新聞社に売るなんて!俺は本当に君を愛していたのに、見損なったよ。」
見ると彼の手には『令嬢Mの婚約者観察日記~S編~』が握られていた。見ると彼が気になったページが何か所も折られている。繰り返し何度も読んだのだろう。ボロボロだ。
「メリッサ姉様、ひどいです。私のことを泥棒猫だなんて。お友達が一人もいなくなってしまいましたの。」
「それはセドリックが私の婚約者だと知っていたにも関わらず、あなたが関係を持ったからでしょう。誰もそんな女性と付き合いたいと思わないものよ。」
「ひどいわ、姉様。うわーん。」
昔から物事がうまくいかないと、ニコラはウソ泣きをする。もういい大人なんだから、いい加減にして欲しい。
「メリッサ、どうして気づいていたなら、言ってくれなかったんだ。行いを改めることならできたのに。――それに君がこんなに口汚い人だと思わなかったよ。俺の女神だと思っていたのに。」
セドリックの怒りも治まらない。どうして私がこの二人に責められなきゃいけないんだ。全て事実だし、彼らの名前は出していない。新聞社にも確認して、法律に触れない範囲で書いた。なんと言い返そうかと考えていると、ライナスが口火を切った。
「――口汚いだと?メリッサの文章のどこが汚いというんだ。終始、上品な文体で皮肉たっぷりに君の交友関係を描いただけだろう。むしろ、君はメリッサのコラムのモデルになれたことを光栄に思った方が良い!」
ん?話がおかしな方向に流れ始めた。ライナスはセドリックから本を奪い取ると高らかに言った。
「私の一番好きな部分はここだ、67ページ。"Sは私への操を立てているつもりか、娼婦たちに決して唇を許さない。そして、恋しそうに私の名を叫び、荒々しく娼婦を抱く。娼婦たちはそれを『純愛』だと言った。私の中での『純愛』と、Sや娼婦の思う『純愛』。おそらく、同じ言葉でも定義が違うのだろうと悟った。" 君の汚らしい不貞をこんなウィットに富んだ表現でまとめてもらって、どこが口汚いだと?どの口が言うんだ。」
やめてくれ、ライナス!確かに既に出版されたものだが、私にとってもあれは『黒歴史』に近い。それを堂々と多くの貴族の面前で読み上げないで欲しい。私の周りの視線が一気に我々に集まる。セドリックも顔を真っ赤にして俯いた。
「私は、今彼女の新しいモデルになっていることをとても誇りに思っている。新シリーズの貴公子"L"こそ私だ。」
彼の宣言に一気に、会場が湧き立つ。
「ワトソン伯爵令嬢が、令嬢M先生だったのか。」
「Sってハートフィールド伯爵令息のことだったのね。憧れていたから残念だわ。」
「略奪泥棒猫のNってニコラ様のことだったのね。」
「ニ、ニコラ行くぞ。」
「待って、セドリック様!」
セドリックとニコラは足早に会場を去って行く。私は茫然と彼らの後姿を見つめた。ライナスがこちらを振り返った。
「メリッサ様、私はあなたのことが大好きです。今後もあなたの創作活動を一番傍で応援したい。だから私と結婚して下さい。」
私に集まる視線。――もう答えは『はい』しかない。
「ライナス様、末永くよろしくお願いします。」
"氷の貴公子Lは私を抱き寄せ、燃えるような口づけを落とした。「永遠に君だけを愛する」と耳元で囁いて。"
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