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火種と

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 帝国の兵は見つけたらさっさと屠るに限ると、ルストは容赦がない。

「あ、人がたくさん集まっていますね」

 街の中央まで来ると、ローブを纏った青年が大きな杖を中心に魔法陣を展開させている。

 帝国兵を近寄せないよう円形状の透明な虹色のフィールドを創り街の人を護っている。

 その周囲を少しづつ狭めるように、帝国の兵が囲みジリジリとその隔絶されたフィールドを壊そうとしていた。その数ざっと二千ほど。

「あの黒い髪の彼は精霊の愛し子と呼ばれる方ですね。四大精霊と契約しているそうですよっ、と」

 ルストは後ろから滑空してきた帝国の兵士をワイバーンごと撃ち落とす。

 青年が守る多くは女や子ども、老人など逃げ遅れたもの達のようだ。

 青年は守るのが精一杯といった様子で集中している。

 囲む帝国兵の数がやたらに多い。目的がこの青年だとは思わないが隷属させれば脅威にはなるだろう。

「では行ってくる。リズの方を頼む」

 一刻も早くリズウェンに逢いたいが、民を見捨てるような真似は街を守る師団長としてもできない。

「ご期待に応えますよ」

「楽しみにしてる」

 銀色の毛並みをひと撫でして、ワイバーンから飛び降りた。鞘から剣を引き抜き、真上から帝国兵へ向かって剣を一閃させる。

 薙ぎ払った場所には何もない空間ができた。

 絶影を纏わせた剣は帝国兵だけを消していく。

「一瞬で仲間が……?! し、死神王子が降臨したぞっ!」

「ばかなっ、この王国には今、いないはずだろうっ?!」

「押すな! あいつの前に立つと消えるって噂だったが、本当に何も残らないじゃないかっ!」

 わぁわぁと喚きながら、帝国兵が蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。

 地に降り揺らりと俺は立ち上がるが、羞恥で顔が上げられない。

 ──死神王子ってなに? いい歳して、その二つ名が帝国で広まっているというのか?!

 民のザワザワとした声に、顔を上げると人の波が割れて精霊の愛し子という青年の姿が見えた。

 青年は大きな目をさらに大きくしてこちらを見ている。

 帝国兵から民を守ってくれる魔術師がいて良かったと思う。──魔術師は働かない金食い虫だとずっと思ってたからな。

 逃げ惑う帝国兵は追わず、襲い来る帝国兵を、捌きながら青年がいる方向に声をかける。

「君を守る護衛騎士は?」

 基本、か弱い魔術師には護衛騎士がつく。師団長が護衛騎士になることはないが、一人だけ大隊長以下から選ぶことができる。

 それだけこの王国の魔術師は手厚く大事にされる存在ということがわかる。

 戦場に借り出されても護衛騎士がいるため、話すこともないしおいそれと近づくことも出来ない不思議な存在だ。

「僕が走ってきてしまったから、まだ追いついていないんですー!」

 どれだけ瞬足であれば護衛騎士を撒くことができるのだろう。

「……わかった。それまで君を護ろう」

 護ると言っても帝国兵の姿はまばらだ。

 思い出したように襲いかかってくるがまったく相手にならない。

 そうこうしていると紅い隊服が見えた。青年に追いついてきたようだ。

 逃げ惑う帝国兵を駆けつけた第一師団が捕らえていく。

 こっちに来たら消すぞ、と憤怒の表情で睨みつければ怯んで去っていく。それでも相対する帝国兵は斬り捨てるしかない。

 絶影に触れれば死体も残らず消え失せるので、彼らの過去や存在を消しているようで複雑な気持ちにさせる。

 中央広場では保護された民が第一師団の面々に誘導されている。青年が創り出した虹色のフィールドはすでに消えていた。  

 もう襲い来る帝国兵の姿は見えない。

 俺の隣に魔術師の青年が並ぶ。

「敵に苦痛もなく慈悲を与えるとはなんという剣技なのでしょうか。悪行を働く帝国の所業は許せませんが、逝く間際は神の慈悲があって然るべきでしょう」

 優しさから青年はそう声をかけてくれるのだろう。

 殺戮だというのはわかっているし、そんな綺麗な言葉で飾られるべきものでもない。

 むしろ戸惑うだけだ。

 彼は黒髪に黒目、白い肌、そして顔の造りが、どことなくリズウェンに似ているので返答にも困った。

「きゃっ」

 ──き、きゃっ??

 理解し難い可愛らしい叫び声をあげたのは精霊の愛し子である青年だ。──女子力高すぎだろう。

 野太い声を出す淑女に聞かせてやりたい。

 第一師団の師団長が青年の腰を抱き、こちらを牽制するよう睨んでくる。

 何度見ても彼のおかっぱ頭が、古代に生息していたという幻の精霊カッパに見える。

 精霊大百科に絵入りで掲載されていた。

 金色のカッパ頭の男はジークフリート・グレイス・アンシェント。この国の継承権を持つ正真正銘の第二王子だ。

 護衛騎士のはずはないのだが、当然のように青年の傍にいる。

「皆さん、ここは危険です。速やかに避難をしてください!」

 カッパが叫ぶ。

 第一師団の皆さんが今その通りに実行しているではないかというツッコミは慎む。

「ジーク、僕は彼に危ないところを助けていただきました! 是非お礼を!」

 青年がとり縋るようにして、俺の腰に腕を回しながら、名前を訪ねてくるので答える。

「第七師団のベルサス・クラウだ。仕事なので礼など不要だ」

 カッパが青年の腰に、青年は俺の腰に手を回しているので身動きができない。

「貴様、ルーゼ様から離れろ!」

 ──それを俺に言う?!
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