ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄

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ベルサス(1):リズウェンside

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 『妖精の眠り』という魔術は彼によく効いた。

 それはいつまでも眠らず駄々をこねる子どもにかけるような簡単な魔術で、強い効果はない。

「……リズ」

 低く甘い声が心地良い響きを持って、私の耳元で囁いてくる。

 肩に置かれたベルサスの手が熱く感じて胸が高鳴る。

 直後、背後でとさりと音がして、規則的な寝息が聞こえはじめる。

 ベッドの中で寝返りを打つと、目の前には煌めく金色の髪をした端正な顔立ちの男が静かに寝ている。縁取る睫毛も金色だ。

 強い効果はないのにすぐに寝てしまうのは彼が弱い魔法でさえ抗えないほど疲れているからだろう。

 彼のテリトリー内のため、気を抜いているということも一理あるかもしれない。

「当然ですね……」

 疲労困憊の男に何を期待していたのかと自嘲気味に笑う。

 彼が遠征に出発してから半月以上経ち、彼は隣国が飼い慣らしたワイバーンに乗り、ありえない速さでアンシェント王国に戻ってきた。

 アンシェント王国がゼネラ帝国に襲撃されていると伝令が王都を離れた第七師団の各団長及び隊長に伝えてから一時間ほども経過していない。

 聞いた話では、アンシェント王国を取り囲んでいた兵は、彼と一緒に来たという黒いフェンリルにいとも簡単に一掃されたのだとか。

 黒いフェンリルが相当な強さだとわかる。

 それを使役している彼はどれほどの強さなのか、想像にかたくない。

 私はその頃、第二師団の副師団長ルーカス・モウラと共に、ゼネラ帝国兵がワイバーンで上空から城に乗りつけ侵入してきた輩を捕縛して回っていた。

 ゼネラ帝国の将軍とその周りにいる兵士は第三師団の師団長ロイ・エブリと、短剣使いの男がさっさと片付けてしまったので今回の襲撃は早々に幕を閉じた。

 少しの被害で済んだのは、大国が本気ではなく、小さな国がどれ程の武力を備え、抵抗できるのかを知るためだけに、わざわざ送り込んだ兵だったのではないか──と考えているようだった。

 しかし、お互いの地を踏み荒らさずという、一文が記載されている五国協定を結ぶ国に手を出すリクスを考えれば、それも違うような気もする。

 北のゼネラ帝国で何かしら起こっているのだろうとは思うのだ。

 もしそれならば、手柄を焦るあまり起こした襲撃であるともとれる。

 どちらにせよ、ゼネラ帝国の信用度はガタ落ちだし、周辺諸国にも警戒をされるだろう。

 いずれは理由についても第六師団が調べあげるだろう。

 そして、私の元へ来た銀色のフェンリルが生意気な口調で腹立たしかったが、彼のところに案内してくれたことには感謝している。

 同じ家で暮らすことになるとは考えもしなかったが。

 そして、『好きだ』、『愛してる』という言葉を貰い、身が震えるほど嬉しかったことを彼は知らないだろう。

「私のベル。疲れを癒した後にゆっくり話をしましょう」

 左の薬指にはまっている彼と揃いの指輪を感慨深く眺める。

 そして、柔らかな金の髪をさらりと撫でてから、白く滑らかな頬にひとつキスを落とした。
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