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Another Story〜求めるアルファと求められるオメガ。〜
後
しおりを挟む鬼という強力な後ろ盾を得ても、自分の『運命』に出会えず過ごしていると高校2年生となっていた。
あの頃とは違い、オメガと結婚するという俺の考えに賛同するアルファが圧倒的に増えた。
オメガが安心して暮らせるように、オメガの為の環境を整える事に力を入れたお陰か…その行動が世間に評価され基盤がさらに固まった。
協力的なアルファがかなり増えた。そこで分かった事だが、オメガはアルファの能力を最大限に引き出す力を持っている。
アルファは番であるオメガの為なら己が無意識に決めつけていた限界を越える事ができる。そう立証されていた。
オメガに対して考えを改めるアルファやベータも居る中…
残念な事に両親の考えは変わらず、オメガをこき下ろしている…オメガを蔑んだその態度に決行が覆る事はなく実行に移した。
手始めに母方の方を潰した。典型的なアルファ至上主義者の集まりと言っても過言ではないからだ…
アルファやオメガより数がいるベータからもあまり良い印象を持たれておらず、寧ろ大いに不満を抱えている者の方が遥かに多かった…
ソコをそれとなく突いてやると面白いくらいに崩れてしまった。今では見る影もないほどに…過去の栄光とはまさにこの事かと思ったくらいである。
そして、次に父を潰しにかかる。母方を潰してから少し翳りが見え隠れしていたが…流石は当主カリスマ性を持つアルファであると再確認した。あれから何とか持ち直していたからだ…
そこで考えを改めていれば良いものを…考えが変わる事は全くなかった…
オメガを蔑むだけでは留まらず、アルファを優先してベータは後回しにするというベータを軽視しているきらいがあった。
アルファが常に優れているという思い込みだ。実際に優れている場合は多いが、それはあくまで努力やら習慣を怠らないアルファに限る。
その優越感にあぐらをかいていると、足元をすくわれる。努力を怠らないベータに勝てなくなるのだ…
特に物理的な力ではなく頭脳的な部分で…ベータに支えられている部分があるという事を頭に入れておかなければならない…
しかし、ベータを軽視して、敬意をはらわずアルファである事にあぐらをかいたその怠慢な態度が己の首を締める。
父はソレを本当の意味で理解してはいなかった…
ただ、それだけの事である。こちらには一切、手出しできないくらいには衰退させた。
だが、無理をしなければ普通に暮らせる程度には留めており、まさに殺さず…かと言って生かしすぎないというギリギリのラインを攻めた状態だ。
まるっと面倒を見るのはゴメン被る。欲しいのは優秀な血と自分たちに従順な息子である事はとうの昔に理解していた。
俺は自分の意思で切り捨てただけである…
☆
幾ら基盤を固めても俺の前に『運命の番』が現れる事はなく、気がつけば高校3年生になっていた。
焦燥感に駆られてはいるものの俺はその日、予感めいた何かがあり朝から落ち着きがなかった…
そのちょっとした変化に気づくのは側近である和人だけだった…気づいていたとしても触れてこないのは流石だと思う。
ちょうど昼過ぎくらいか…いつも通り煩わしいオメガどもを無視しつつ渡り廊下を歩いている時に突如それは現れた。
ビクッとして身体が硬直した。フェロモンだ…発情したオメガのフェロモンではないが、微弱なフェロモンが微かに漂ってきていた。
「神無月?」
「匂うんだ。あぁ、早く見つけてやらないと…漸く会える…俺のオメガ…」
早く早くという焦る想いが心を占めていく。
ー俺のモノだ。俺だけの…漸く現れた。俺の前に…
何か言っている和人をそのままにして早足で匂いを辿る…まるで犬にでもなった気分だった。
匂いを辿っていると、徐々にそのフェロモンは強くなっており、先程よりも発情している事が分かった。
強くフェロモンが匂ってきているトイレの個室の前に複数人のアルファが発情を起こしてその扉の前に立っていた。
ー俺のオメガを襲おうとしている…
頭で理解するのと、俺のフェロモンが漏れるのはほぼ同時だった。直後、そいつらは後ろを振り返り俺を見る。皆、顔から血の気が引いている。当たり前だ、番に手を出されたアルファの怒りをコイツらは本能で知っている。
実際に頭で理解できなくても本能で理解しているのだ。
ー失せろ…でなければ、どんな手を使ってでも貴様らを消すぞ…
という意味を込めて睨め付けると、一人が後ずさりをしたのを皮切りに全員が一斉に逃げ出した。
ソレを見届ける事はなく俺はトイレの個室へと近づく。ノックをしても当たり前だが、返事はない。寧ろ息を飲んで必死で荒い息を抑えようとしているのが伝わってきた。
ーこの扉、邪魔だな…
俺はトイレの扉を破壊した。火事場の馬鹿力的なナニかが働いたと言うべきか…普段は試した事が無いので分からないが、トイレの取っ手の部分を掴むと渾身の力で引く。すると、鍵ごとドアノブが根こそぎ外れた。
それを見た。和人が引いていたが無視をした。今はそれどころではない…
ー早くこのオメガを自分のモノにしなくては…
という思考回路に支配されていた…抱き上げた身体は思っていたよりも遥かに軽かった。
「ようやく見つけたー・・・俺のオメガ」
そう言ってこの小さなオメガを抱き締めた…
お前だけはあの卑しいオメガどもではありませんように…という願いも込められていた。
ー待ち望んだ分、この小さな俺の半身を大切にしたい…
そう思って、俺はこの子を自宅マンションへと連れ帰った。
*END*
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