鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 担任も鬼だ。だが、教職員…一般にいう公務員は庇護鬼ではない中層くらいの鬼がなっている。
 庇護鬼にならないというよりなれない…中立の立場になっている。
 もちろんつがいもしくはよめもいて庇護鬼もついているが、公務員以外の鬼で構成されている。

  保健医養護教諭である紅輝の庇護鬼は例外なんだと…聞けばその庇護鬼は鬼関係の医療機関にも籍を置いているらしい。

 話は変わるけど、ちなみに花嫁庇護組織はなよめひごそしきという立派な正式名所があるとはいえ、強制的・・・に『この鬼に仕えろ』とはいかないらしい。

 大体は自分より上の鬼であり、仕えたいと思った相手に仕えるのが庇護鬼であり、自分が認めた鬼の伴侶はんりょを護りたいと思うから庇護鬼の契約を結ぶんだって。

 珍しい事に自分より下の鬼に仕える鬼も居なくはないと言っていたが、普通は自分より上の鬼に仕えるらしい。

 紅輝には10人いるけど、増える可能性もなくはないみたい。紅輝が承諾しないとなれないみたいだけど…
 元は8人だったけど双子の鬼が新たに増えて10人になったんだってさ。

 庇護鬼になるには自分の紋章を対象の鬼へ捧げるらしい。目に見えない契約書みたいなモノなんだって紅輝が言っていた。紋章は鬼とってとても大切なものなので、簡単には捧げられないらしい。

 
 紅輝や舞さんに聞いたことを思い返しながら午前の授業を終えた。普通の授業はあの頃とは違って受けやすかった。
 僕の席は一番端の真ん中だった。横はΩオメガの女の子。
話してみると第一印象は元気な子だった。

 椿と柊は四六時中、僕に引っ付いてる訳でもない…というか居ない。紅輝よりは近くにいて、呼べば紅輝より早く助けに来てくれる。というだけの話だ。

 移動教室は隣の浅峰 小幸あさみね こゆきという名前の女の子で鬼のよめ
 その子が案内をしてくれて、一緒に居てくれる。

 「この廊下を右に曲がれば教室があるよ」
 「ありがとう。僕、来たばかりだからどうして良いのか分からなかったんだ…助かったよ」
 
 小幸はフランクに喋ってくれる。上下関係云々の話は一応、知っているが、あの“御披露目”の会場に居なかったようで、僕がつがいである事を知らないらしい…

 僕が『神木かみき』の伴侶はんりょである事は皆知っているが、つがいである事が広まってないのに内心驚いた。
 あの会場に居た鬼とΩオメガの考えが分からなかった。

 小幸は僕をよめとして扱っているようだ。けれど、それで良いと思ってる…何か友だちが出来たみたいで嬉しい。
 話ながら歩いていると人影が僕たちの前に現れた。

 「いつき様でいらっしゃいますね?」

 見上げるとスーツを着こなしたキリッとしたイケメンが立っている……鬼だ。小幸は僕を庇うように立った。

 「あんた誰よ?如月に何の用?」
 「この方はいつき様のご友人で?」

 小幸の質問には答えず、僕に質問をしてくるので頷いておく。庇護鬼を呼んでしまおうか…と思っていると、前方の鬼が口を開く。

 「申し遅れました。私は朝日 陽穂あさひ ようすいに仕えております。庇護鬼です。」
 「誰ですか?」

 条件反射のようなもので、僕は思わず敬語を使ってしまった。
 その様子をこの鬼は冷やかに見ている…

 「朝日 陽穂あさひ ようすいは『神木かみき』の父に当たる方ですよ。あなたに会いたがっています。」

 一緒に来てくれますね?と詰め寄ってきたので思わず後退あとずさる。小幸は完全に僕と鬼の間に入った。

 「鬼が実家に自分の伴侶はんりょを呼ぶなんて習慣は無いはずよ…」

 そう言って小幸は警戒心を剥き出しにして鬼と対峙している。
 鬼に実家という概念はないのだと初めて知った。
 だからなのか、紅輝も自分の親の話は一切しないし、家族カードにも記載されていなかった。
 分かったのは中層の鬼とよめの間にできた鬼、という事だけだった。

 「『神木かみき』は特別です。」
 「これ、神木先輩は知ってるの?独断?」
 「貴女には関係ないでしょう?」
 「本当に神木先輩の父かどうかなんて確証無いし。嘘かもしれないでしょ?」

 と言ってどちらも譲らない…僕と違ってしっかりしている…
 僕は肝心なときに役に立たないなと落ち込む事しか出来ずにいると前方の鬼が分かりやすく顔をしかめた。
 
 何か嫌な予感がしたのだろう小幸は僕に何かを言おうとして倒れた。
 目の前の光景に驚きの声すら上がらなかった。
 何があったのかなんて僕には分からなかったが、この目の前の鬼が何かしたのは明白だった。

 「小幸に何をしたの!」と怒鳴っても返事は返ってこず、目の前の鬼は小幸をベンチにささっと寝かせ直ぐにこちらに戻ってきた。僕がまばたきを1回した瞬間の出来事だった。

 「時間を掛けたくはありません。『神木かみき』に気づかれてしまいます。手荒な真似はしたくないのですが…
 折角、未熟な庇護鬼を押さえているのですから―…仕方ありませんね。」等と言いながら僕に近づいてくる。
 椿や柊にも何かしたような口振りである。

 「っ…」

 僕は声にならぬ悲鳴を上げて紅輝を呼ぼうとしたが、それは叶わなかった。
 反応出来ない目で追えぬスピードで僕の背後に回ると、その鬼は何かを僕の口に当ててきた。
 そこで、僕の意識も暗転した。



 意識が浮上し始めて微かな振動を感じて目を開けると車に乗せられている事が分かった。
 状況を確認しようと微かに動く視線で辺りをキョロキョロと見渡すと後部座席に横たわっている状態だという事が分かった。

 そっと起き上がろうとしたが身体に全く力が入らないのだ…意識はあるのに身体が動かない。声も出せない。
 この状況に狼狽うろたえた。ヤバいと嫌な汗をかき、心臓の鼓動が速まる。

 運転席に座っていた先程の鬼であろう者が嘲笑うかのように口を開いた。

 「起きられたのですね。申し訳ありませんが、つがい専用の特殊な薬で身体の自由を奪わせていただきました。副作用など身体に悪影響を与えるものはありませんので、ご安心ください。」

 ご安心どころの話じゃない…全く安心できない。紅輝の所に帰してと叫びたい。紅輝に会って安心したい。怖い。

 「今、高速を走っております。後、1時間程度で着きます。『神木かみき』のつがいに対しての無体、許されるものではありません。例え『神木かみき』が頂点の鬼であっても私の主は陽穂ようすい様でいらっしゃいます。」

 優先すべきは従っている主の命令だと言いたいのだろう。これからどうなるのだろうか…何をされるのだろうか…
 未知への恐怖と紅輝が居ない不安にさいなまれる。

 どうしようもなくなった僕は紅輝の名前を呼んだ。
 漏れたのは言葉とは程遠い息だけだったけれど、泣きたい気持ちを押さえて、声にならない声で紅輝の名前を呼び続けた。

 「全く陽穂ようすい様も何をお考えなのか…頭が痛い…」

 聞き取れなかったけど、何やら呟くと頭の痛そうな顔をして、後は黙って車を走らせた。


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