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創造する
風の神のお気に入り
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真っ先に飛び出した風の神は、とある神の提示したきまりを思い出していた。
”この遊びを面白くするために参加する君たちには、いくつかのきまりを守ってほしい。
まず一つ目。人間は最初から創ってもいいし、好きな人間が下界にいればその子を使ってもいいよ。
但し、本人の許可は絶対にとらなくてはいけないよ。分かったかい?“
風の神は人間の形を創るために、見本となる人間を探して彷徨い、星の隅々まで楽しそうに吹きまわっていました。しかし、出発する速度は早かったのに、なかなかそれらしい子が見つけられず、途中で飽きて、空を漂うだけになっていたこともあり、時間を空費した風の神は約束の時が迫っていることに焦るのでした。
何かそれらしい者を創ることにしようかと半ば諦めつつ考えていると、目下に見える森の奥深くから歌声が聴こえてくるのです。その歌声はとても美しく、少し悲しさを併せ持つが、それでいて温かく感じるものでした。前回近くを通った時、人間は住んでいなかったはずなのにと思いながらも、興味がわいて歌い手を一目見ようと近づいていきました。
森の中は人の手が入っておらず、日中でもほとんど陽が差し込まないので、人間が本当にいるのかを疑いたくなるような場所でありました。
風はわくわくとドキドキを楽しむように少しずつ、ゆっくりと近づきました。木々を避け、進んだ先にいたのは、大層美しい娘でした。風は一目見て気に入ったのでこの娘にしようと思い、娘に話しかけてみました。
”娘よ、私の声が聞こえるか“
娘は返事をしました。
「はい、とても優しい声が聞こえます」
風は娘の反応に嬉しくなって、
”娘よ!私のものにならぬか”
そう言って娘の手を包みました。娘は大層驚きながらも「はい」と微笑みました。
風の神は娘をただ自分の玩具とするのではなく、意識を残して、本当の娘のようにしようと考えました。
”では娘、目を瞑り其方の体を我に委ねよ“
そうして、娘は目を瞑り、全てを風の神に委ねました。風の神は満足げに儀式を始めようと準備を終えました。すると、ガサガサと大きな音を鳴らしながら近づいてくるものがおりました。姿を現した時、その者は、「待て!」と叫びます。それは娘によく似た少年でありました。
「姉さんに触るな!この化け物!」
風は大変に驚きました。それはこの少年が自分の姿を視認できていることを表すのですから。驚きが嬉しさに変わった時の風の神の顔と言えば、長い付き合いの神々でも見たことがないほどではないでしょうか。それほどまでに嬉しいことだったのです。その傍らで少年は娘に駆け寄り、抱き寄せて、風に向かって言います。
「姉さんを連れていくのなら、僕も一緒に連れていけ!でないと姉さんは渡さない!」
風はその言葉でさらに嬉しくなって、
”それはいい提案だ。よかろう。お前たちはこれから我が子として生きるがいい“
そう言い放つと、双子の姉弟を風が包み込み、二人は宙を舞いました。
細胞の一つ一つを分解し、包み込む。それは風と一つになれるように。儀式は双子を苦しめるものでありましたが、終われば、人間のしがらみから自由に世界中を吹きわたれる存在へと変化させます。そして、風の神の子供として彼らはこれから生きることになるだろう。
風の神は双子の姉弟を我が子を愛でるように抱きしめ、約束の地へと向かうのでした。
”この遊びを面白くするために参加する君たちには、いくつかのきまりを守ってほしい。
まず一つ目。人間は最初から創ってもいいし、好きな人間が下界にいればその子を使ってもいいよ。
但し、本人の許可は絶対にとらなくてはいけないよ。分かったかい?“
風の神は人間の形を創るために、見本となる人間を探して彷徨い、星の隅々まで楽しそうに吹きまわっていました。しかし、出発する速度は早かったのに、なかなかそれらしい子が見つけられず、途中で飽きて、空を漂うだけになっていたこともあり、時間を空費した風の神は約束の時が迫っていることに焦るのでした。
何かそれらしい者を創ることにしようかと半ば諦めつつ考えていると、目下に見える森の奥深くから歌声が聴こえてくるのです。その歌声はとても美しく、少し悲しさを併せ持つが、それでいて温かく感じるものでした。前回近くを通った時、人間は住んでいなかったはずなのにと思いながらも、興味がわいて歌い手を一目見ようと近づいていきました。
森の中は人の手が入っておらず、日中でもほとんど陽が差し込まないので、人間が本当にいるのかを疑いたくなるような場所でありました。
風はわくわくとドキドキを楽しむように少しずつ、ゆっくりと近づきました。木々を避け、進んだ先にいたのは、大層美しい娘でした。風は一目見て気に入ったのでこの娘にしようと思い、娘に話しかけてみました。
”娘よ、私の声が聞こえるか“
娘は返事をしました。
「はい、とても優しい声が聞こえます」
風は娘の反応に嬉しくなって、
”娘よ!私のものにならぬか”
そう言って娘の手を包みました。娘は大層驚きながらも「はい」と微笑みました。
風の神は娘をただ自分の玩具とするのではなく、意識を残して、本当の娘のようにしようと考えました。
”では娘、目を瞑り其方の体を我に委ねよ“
そうして、娘は目を瞑り、全てを風の神に委ねました。風の神は満足げに儀式を始めようと準備を終えました。すると、ガサガサと大きな音を鳴らしながら近づいてくるものがおりました。姿を現した時、その者は、「待て!」と叫びます。それは娘によく似た少年でありました。
「姉さんに触るな!この化け物!」
風は大変に驚きました。それはこの少年が自分の姿を視認できていることを表すのですから。驚きが嬉しさに変わった時の風の神の顔と言えば、長い付き合いの神々でも見たことがないほどではないでしょうか。それほどまでに嬉しいことだったのです。その傍らで少年は娘に駆け寄り、抱き寄せて、風に向かって言います。
「姉さんを連れていくのなら、僕も一緒に連れていけ!でないと姉さんは渡さない!」
風はその言葉でさらに嬉しくなって、
”それはいい提案だ。よかろう。お前たちはこれから我が子として生きるがいい“
そう言い放つと、双子の姉弟を風が包み込み、二人は宙を舞いました。
細胞の一つ一つを分解し、包み込む。それは風と一つになれるように。儀式は双子を苦しめるものでありましたが、終われば、人間のしがらみから自由に世界中を吹きわたれる存在へと変化させます。そして、風の神の子供として彼らはこれから生きることになるだろう。
風の神は双子の姉弟を我が子を愛でるように抱きしめ、約束の地へと向かうのでした。
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