混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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【ネットショッピング】と、ダンジョン側の対策。

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「……おっ、攻略蟲か」

 ダンジョンに侵入者が入って来たことを確認して、俺は即座に対処のためのマッチョスライム達を送る。
 勇者対策という訳ではないがダンジョンには気配を感知する特殊な魔導具を張り巡らせており、個人の特定こそ出来ないが誰が入って来たかというのはおおよその気配で分かった。それによって、攻略蟲が放たれたというのが分かった訳なのだが。

 攻略蟲はダンジョン攻略など、迷宮探索に効果的な蟲。とある魔法使いが作り出したとされるこの蟲は、人間が通る道を覚えて持ち主に伝えるという特殊な生態をしている。人為的に作り出したのだから、人間にとって都合が良いのは当然ではあるが。
 攻略蟲の動きは簡単。人が通れるくらいの道を優先的に進み、障害物があったら避ける。以上の2点を繰り返して、ダンジョンの奥へと辿り着いたら元の持ち主の元へと戻って行く。
 ダンジョンの障害物を使って捕まったり、倒そうとしても、新たに増殖。
 ダンジョン攻略に詰まった場合はそれに対処する方向へと変異。
 どんなダンジョンであろうともそれを対処する為に進化する攻略蟲が送り込まれた際に、ダンジョンマスターとしての最善手は"珍しいモンスターを配置する事"。

 攻略蟲はダンジョン攻略に有利な蟲ではあるが、重要な事として生存期間を決めなければならないこと。
 決めておかなければ攻略蟲はどんどん無限に増殖してしまい、最後には持ち主の手が追いつかないくらいのバケモノになってしまう。故に攻略蟲は時間を決めなければ5分、決めても最大で30分ほどで勝手に自己消滅するように、魔法使いによって作られている。
 時間が決められているという事は、過去に時間制限を決めてなかったことでなにか問題があったからだろうが。

「攻略蟲には時間制限がある、それだけ分かれば後は十分」

 時間制限がある攻略蟲の弱点は、時間。
 時間内で、障害物を出来る限り、その上ダンジョンの情報を多く得ると言うことを達成しようとする。
 そのため、攻略蟲に対しては、意味のない情報をただ乱雑に置いていくことが重要なのである。

 無意味に置かれた、本の山。
 解いても意味はない、解答の壁。
 珍しいが、それだけの魔物。

 そう言った、情報だけをただただ増やし、攻略蟲の情報量を越えるだけのモノをこちらから先に用意して置いておく。
 これが攻略蟲に対する、一番の最善手である。

「まぁ、これもすぐに対処されてしまうんだろうが」

 この方法は最初の一発は、効果的に効くだろう。
 だがしかし攻略蟲が戻って来ないのを確認すると、【ネットショッピング】の勇者は今度は別の手段を講じて来るだろう。今度は人間とかを送り込んで来たり、水攻めが来るかも知れない。

 だから、本当の最善手は【攻略蟲をある程度残しつつ、情報を持って帰らせる】というのが一番なんだけど……そう言う最善手を探していると切りがないので、この辺で妥協しないといけないのだから。

「すらっ!」

「おっ、攻略蟲の対処が終わったか……って、おい」

 マッチョスライム達が戻って来たのでどうだったかと思っていたのだが、攻略蟲達が赤い糸の巣に捕まっていた。どうやら、ササの仕業みたいである。

「ふふっ、ご主人様? これでいかがですか?」

「うん、ササ。考えうる限り、最悪の選択肢だけど」

 情報を与えてはならないためにむやみに戦ってはならない、与えるにしても逃がしてはならないという状況で彼女の糸は最悪の選択と言っても良い。
 攻略蟲達は赤い糸から逃れようと、攻略蟲は新たに進化の道を遂げようとしていた。自らの身体の殻を破って新たに生まれた新・攻略蟲、そいつは糸の粘着をなんのそのと言った感じで逃げようとしていた。
 ササは逃げようとする新・攻略蟲を見つけて、それを赤い糸でクルッと丸めていた。

「これで良いかしら、ご主人様?」

「あぁ、逃がさなければ問題はない」

 1匹たりとも、攻略蟲が逃がせてないことを確認して――――あっ、逃げようとしてる攻略蟲をソラハさんが青の魔術によって止めている。
 本当だったら情報を持ち帰らせて、大したダンジョンではないという点を考慮して欲しかったのだが、今のところそんな事を考える方が邪推だと思うくらいの勢いで2人が対処してくれてるから困る。
 俺自身は過大評価してしまっているのに、2人の強さが強すぎるために攻略蟲が弱い蟲みたいになってしまっている。本当はもっと強い蟲なのだが。

「……あっ、どうやら【ネットショッピング】の勇者が動き出したみたいだな」

 攻略蟲が全然戻ってこないのを見て、【ネットショッピング】の勇者はダンジョンに入って行く。壁を越えてこちらに一直線に向かって行くのを見て、ツルハシ系の道具かなにかを使っているのがうかがえる。
 その上、時折爆破の影響がこちらに来ているのも見ると、爆弾かなにかも一緒に使っているのも分かる。

「……さて、どうするか」

 攻略蟲は良いのだが、次にやって来るのは勇者様。
 どのような能力なのかが分からない上に、こちらはどうするべきか……。

「ご主人様、勇者が入って来たんですか?」

「マスティスさん、どうしましょう?」

 ササとソラハさんがそう言うので、どうしようかと迷っていたのだが……

(この2人の実力なら、【ネットショッピング】の勇者だろうと勝てるか?)

 攻略蟲に対して俺は物凄い警戒していたが、この2人はそんな事関係なくただの実力で圧倒してしまった。それならば、【ネットショッピング】の勇者だろうとこの2人ならイケるのか?

 ……覚悟を決めよう。

「2人とも、よかったら【ネットショッピング】の勇者を倒しに……って、居ないか」

 2人に言って貰うようにお願いしようとしたのだが……その前に、2人とも勇者と戦いに向かっていったようである。


 大丈夫かなぁ、という疑問はすぐに消えた。
 【ネットショッピング】の勇者と思わしき気配の近くに2人……ササとソラハさんと思わしき2つの気配が物凄い勢いで向かって行ったかと思うと、それは勇者を取り囲む。

 勇者の気配がいきなり3つに分裂したかと思うと、それは三方向にそれぞれ出て行った。左の道、真ん中の道、右の道……といった風に、固まらずに。
 左の道に行ったのにはササ、右の道に行ったのにはソラハさんが向かったらしく、2人は危なげなく勇者と戦っていた。多分、この2人は危なげなく倒せるだろう。

 問題は、2人から逃れた3人目の勇者の気配。
 真ん中の道を進んで行った勇者、その先には色を与えるには与えたがまだ戦力としては不十分なダークエルフ達が居た。

「ダークエルフ達に対して、勇者……これは見に行った方が良さそうだな」

 3人にいきなり気配が分かれた事も不可解だし、その上向かっている先に居るのがダークエルフ達では怖いものだ。
 3人のダークエルフ兵たちは《黄色の力》で普通よりかは強いだろう、隊長も《橙の力》で戦力としては問題ないということは確認済み。問題があるとするならば、《緑の力》を与えた姫様。
 《緑の力》に関しては、どういう力なのかがまだ判明していない。そんな微妙な立場の者が居る場所に、勇者などと言う強力無比な力を持つ絶対的強者が向かっているのだ。どうしてもどうなるのかが気になるだろう。

「よし、行くか。ササとソラハさんは安心できてしまうくらい、むしろ俺なんかの部下でいることが不思議なくらいに強いが、ダークエルフ達はまだそこまでの信頼はないしな」

 むしろ、そんな信頼が出来てしまう方が可笑しいんだけれども。俺はそんな戦力なんて求めてないのに。
 俺は疑問を払拭する為に、勇者と戦っているだろうダークエルフ達の所に向かうのであった
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