4 / 18
見栄っ張り令嬢
しおりを挟む
その日の放課後、アルブレンド・コビーと妖精のカフェオレはしぶしぶ、仕方なく、指定された体育館裏へと足を運んでいた。
彼にしてみればこの戦いを受け入れる理由はなにひとつなく、だからと言ってあそこまで言われて引き下がる気合はなかった。クラスメイト達からの執拗な行け行けコールも受けていたので、行かなかった場合にどう言われるのも鑑みてだが。
「逃げずに良く来たわね」
「(出来れば放っておきたかったのだが)そうも行かなくてな」
「ふっ……それでこそ、レア妖精を手に入れた者ね」
なにをどう納得したのか。
コビーには全然理解できなかったが、どうやら相手の方----先に来て、優雅に紅茶を飲んでいたトルテッタはそれを勝手に理解していた。勝手に納得していた。
こうなるとコビーの方からは何も言えなかった。
「ルールを確認しましょうか、後でとやかく文句を言わないように」
どちらかと言えばそれを言いそうなのは、トルテッタの方だったが、ここで文句を言うとややこしくなるのは目に見えていたので、コビーは黙って頷いた。
紅茶を置いて、彼女はテーブルの上の花瓶に飾ってあった2本の紫色の花を手に取る。
「これが決闘の決着を見極めるのに使う、魔バルーン草よ。これを身体の前側のどこかに着けるのよ」
"キュキュ? マえ?"
「……学習力が高い妖精ね。さらに欲しくなったわ。前につける理由は簡単よ、その方が決着が分かりやすいからよ。後、防御魔法をやめさせる理由もあるわ。決闘なのに、防御魔法を使われるとシラケますし」
決闘の際に重要となってくるのは、"どこで勝利と敗北を見極めるか"。
魔力を与えると紫色の果汁を辺りに飛び散らせる特殊な花を用いているのだ。その果汁が"ついた"と言うのが分かりやすくないと、わざわざ使った意味がない。
それなので、これが分かるように"前につける"のだ。前で割れれば、すぐに分かるから。
防御魔法が使えないのは、魔バルーン草が魔力に反応するからだ。
防御魔法は魔法で盾を生み出す魔法だが、それは身体に近ければ近いほど効果が高くなる。そのため、防御魔法は身体に接着して発動される。その発動の魔力に反応して、魔バルーン草が破裂してしまう。
この魔バルーン草を決闘で使う目的としては、防御魔法を使われないようにするという意図もあるのである。
「魔バルーン草をつけたら、後は魔法の打ち合い。決闘の始まりよ」
「1対1、それで負けたら妖精1匹ずつを差し出す。その条件に相違ないな?」
「えぇ、そうよ。ちなみに横入れは禁止。これは鉱山国コールフィールドの貴族として当然、それを今確約するわ」
本当かどうかは分からない、むしろこの女の性格ならば横入れもあり得るだろう。
けれどもここで指摘するのかは、微妙である。それなので、分かったと了承する。
そしてコビーは右のわき腹、トルテッタはお腹の辺りに魔バルーン草を付けて決闘開始を待っていた。
「では、早速----先手必勝!」
トルテッタは距離を取ると共に、いきなり複数の光の球を作り出す。
数は20で、大きさはバラバラ。精度としては微妙なところだが、この決闘という面で見れば十分だろう。
「私はこうやって決闘に勝ってきた! この光の球体を複数生み出す、私の必勝コンボ!
破れるモノなら、破ってみせなさいっ!」
トルテッタが腕を振るい、それに誘われるように光の球体達はそのままコビーに向かって放たれていた。
大量の光がコビーに向かって降り注ぎ、コビーの姿は光の球体で生まれた土煙で消え去っていた。
"キュウゥ?!"
「あははっ! どうやら氷の妖精さんは主のことが心配でしょうがないみたいねっ! けれどもその心配は、もうしない方が良いわよ? だってこれで私の勝利、という訳であなたが心配するのはこの私っ! 誇り高い貴族である、タタン・トルテッタ様----」
「……やっぱり、こういう手か」
土煙の中、コビーがそういう心あきれた声を言うと共に、煙の中からコビーが現れた。
魔バルーン草も割れておらず、まったく傷を負っていない状態であった。
"キュッ?!"
「……?! まさか!?」
コビーが現れたことで、必勝コンボが決まっていないことに気付いたトルテッタが、慌てて同じように光の球を作り出す。
今度は40、大きさはさらにバラバラ。今度は当てるだけ、どうやって防いだのかを知る目的のために作りあげる。
「防御魔法、使ってないわよね? だって、魔バルーン草が割れてないもの。
それだったらどうやってあの数を防いだのか、興味深い! わねっ!」
先ほどと同じように、さっきよりも正確にコビーに向かって当たるようにトルテッタは光の球を放っていた。放たれた大量の光の球は、コビーへと----
「……何度やっても、一緒だぞ。トルテッタ」
‐‐‐‐轟っ、いきなり強烈な風が荒れ狂う。
荒れ狂う風は嵐のように、その風が光の球全てを吹き飛ばしていた。
「なるほど、【氷】は【水】と----【風】の複合属性。その風で、私の光の球を吹き飛ばしたという訳。姑息な真似をしてくれるわね、忌々しいっ!」
「どっちが姑息だよ……」
自分の身体から出す風を止め、今度は水で剣を作り出す。
「同じように球を連射だと芸がないからね、こっちは直接そのバルーンを割りに行くさ」
片手には水で出来た剣を構え、もう片方の手は地面の方に向けて大量の水を放つ。放たれた大量の水はコビーの身体を物理的に押し流し、そのまま勢いよくトルテッタの元へと流れていく。
「速っ----」
「終わり」
そうして、水に流されるようにして----高速で動いたコビーの身体、その手に持った水の剣はトルテッタの魔バルーン草を割る。
ぱんっ、という勢い良い音と共に、彼女の身体に大量の紫色の果汁がぶっかかっていた。
「ふぅー、はい。終わり、終わり」
"キュゥゥゥ!"
心配で、心配で、しょうがなかった。
そんな感じいっぱいで決闘が終わると共に、抱き着いてきたカフェオレを適度に相手にしつつ、コビーは相手が相当な"バカ"であったことにホッとしていた。
魔法使いにとって、一撃目はただのけん制。二撃目以降、その先の方が重要だ。
もし仮に一撃で勝負をつけるんだったら、そんなのは最大火力の魔法の撃ち合いをすれば良い。わざわざこの決闘を選んだ理由がなくなる。
この決闘で重要なのは、いかに的確に、相手の魔バルーン草を魔力で叩くか。その一点のみ。
それなのに自分ですら相手が負けたかどうか分からない大量の光の球で押しつぶしたり、防がれたことに驚いて油断したり----呆気ないにも程がある。
「(こんなので勝ちまくって来たとか、この学園の魔法学習は相当遅れてるなぁ)」
つまらない。
退屈。
相手にならない。
むしろ哀れ。
コビーが感じた感情は、ただそれだけだった。
勝利の喜びも。
血が沸くような情熱も。
激しい感動も。
窮地を制した安心も。
そのどれもがないのだから。
‐‐‐‐やはり、世界は退屈でしかたがない。彼はそう結論付けた。
"キュッ!"
てぃっ、と暇でしょうがない彼の頬を、小さく叩く存在があった。
「あぁ、そうだったな」
今は暇つぶしが居るんだ。
コビーはそれを思い出し、若干笑顔になる。退屈な日常にも、まだ退屈しないことが残っているのだと。
「まだっ、よっ!」
‐‐‐‐しかし、そこにあきらめの悪い女が居た。
トルテッタは自分が初めに提案した色と言う明確な敗北条件を無視し、それでもなおコビーへと鋭い視線を向ける。
「あなたに敗ける訳にはいかないの! ここで即座に敗北を認めてしまえば、私と言う高貴な存在に傷がつく! 私は勝ち続ける、それが私の意義!」
「勝ち続ける……だったか。今回の戦いはどちらかの敗北の意思表示ではなく、どちらかの攻撃が当たったのが明確になった状態だったはず。君がいくら吠えたところで、それは変わらんが?」
コビーにしてみれば、もう帰りたかった。
だが、その呆気なさそうに対応する態度が、さらにトルテッタをイラつかせる。
「~~~~っ! いいえ、まだよっ! あなたとの勝負、ここであなたの魔バルーン草を割って、引き分けまで持ち込むわっ! たとえ、"これ"を使ってもねっ!」
彼女はそう言って口を大きく開ける。
‐‐‐‐その瞬間だった。
コビーの、魔バルーン草が割れる。
「……っ?! 攻撃?!」
"キュルゥ?!"
割れたことによって大量の紫色の液体がコビー、そしてカフェオレの2人にかかる。
「‐‐‐‐2回戦、よ。1回戦の勝利はあなたにくれてあげるし、後で報酬の妖精1匹もあげる。けれども、2回戦が終わってから、ね。
2回戦、戦いの勝負は"妖精の優劣"。あなたの妖精と、私の妖精。妖精のみの力で、どちらかが相手を地に伏させた方が勝ち、よっ!」
----バンッ!
今度はトルテッタは大きく口を開けていない。
しかし、トルテッタの方からさっきと同じ衝撃が放たれ、コビーとカフェオレは吹っ飛ばされる。
"キュリ?"
「あぁ……いってぇ。痛みは小さいが、確かに痛いわ」
"キュイイイイ!"
カフェオレの身体は----地面には倒れこんでいなかった。
一緒に吹き飛ばされたコビーの身体の上に乗せられるように倒れこむことで、敗北とはなっていなかった。
「ちっ! 無様に這いつくばって、負けを回避とか……足搔きが過ぎるわよっ!」
----バンッ!
またしても、だ。
"先ほどから攻撃が見えない"。
自分に、コビーに当たる前に、カフェオレは身を守る盾を氷によって作り出す。
作り出した氷の盾は一瞬で粉々になるものの、見えない衝撃波から2人を守っていた。
"キュィー"
「安心してるばかりじゃいけないぞ、カフェオレ。今は、お前の対決なんだから」
"キュイ!"
了解とばかりに、安どから一転。相手をしっかりと見て、戦いに集中する。
「アルブレンド・コビー。時間をあげるわ。そこから退きなさい、さもないと妖精ともども、吹っ飛ばされて、けがするわよ?」
「ご忠告どうも、けれども目当ての妖精を傷つけていいのか?」
「ご心配なく。こう見えて私、治癒が得意な【光】属性が得意なの」
「(光……そういえば、さっきからの攻撃も光の球だった)」
魔術にはそれぞれ得意、不得意がある。
コビーは【氷】、それを形成する【水】と【風】。一方でトルテッタは【光】が得意のようだ。
不得意と言えども一応は2人とも扱えるだろうが、扱いづらい物をこんな決闘で使うはずもなく。結果として、相手の得意属性がすぐに分かる結果となった。
「一つ、いいこと教えてあげるわ。妖精ってのは主人の得意な属性の魔力を吸って生まれるの。だからその属性の妖精しか生まれない。あなたの得意属性が【氷】だったみたいで【氷】の妖精が生まれたように、私は【光】が得意なの」
「‐‐‐‐だから、妖精も【光】ってか?」
「えぇ、そうよ。そして私の妖精は、今この場にいるこの娘だけ。何が言いたいかって? 自慢ですわっ!」
高笑いを浮かべるトルテッタに対し、コビーは思考を巡らせる。
妖精同士の対決、さっきから攻撃が見えないのは恐らく【光】の特性が関係している。
それぞれ魔術の属性には特性が、いわゆるその属性でしか出来ないことがある。【光】ならば確か----
「(そう、か。そういう事か)」
不自然に、最初の一撃だけ大きく口を開けたこと。
そして攻撃が見えないこと。
その2つからして、恐らく彼女の妖精とは----
「助言はなし、よ。アルブレンド・コビー」
「良いさ、その方が面白そうだ」
やっと面白くなってきたところなのだ、こんなところで自分から水を差すわけにはいかなかった。
コビーはこの戦いに、ようやくわくわくを感じ始めていた。
☆
カフェオレは言葉を上手く喋れない。それは彼女が言葉を喋れる機能を持っていないのではなく、ただ単にまだ言葉を覚えていないだけなのだ。
生まれてまだ1日かそこいらでここまで喋れるという方が、逆にすごいのだが。
それだけ知能が高いカフェオレは、その頭脳でトルテッタの妖精について考えをまとめていた。
----相手の女は先ほどから【光】の属性の攻撃を行っている
----彼女の妖精もまた【光】の属性の妖精だと考えられる
----攻撃はなにかを放っている
----放っているが確認できない
----相手が大きく口を開いた時から攻撃が開始されている
----その後は口を開けていないのに、攻撃している
短い時間の中で、端的に情報をまとめるカフェオレ。
それはまだ断片的な情報でしかなかったが、必要な情報のみを取捨選択し、その上で推理すべき場所なども合わせて----彼女は1つの結論を導き出していた。
結論が出たら、後はそれが正しいか。それを"実践するのみ"。
「ふふっ、さぁ止めよっ! いきなさいっ、私の妖精!」
彼女が命じると共に、彼女の妖精が"動く"。
"イた!"
その瞬間、カフェオレは小さな氷の刃を作り出して放つ。
小さくしたのは出来る限り見えにくくするため、そして刃状にしたのは"単なる嫌がらせ"である。
「‐‐‐‐きゃっ?!」
"ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇ!"
彼女の胸元から、ポロリと"それ"が落ちる。
彼女の胸元の上から落ちたそれは、全身が真っ白いキツネ。彼女の首に巻くマフラーくらいの大きさの、小柄な2本の尻尾を持つキツネであり、光に当たる具合によってキツネの身体が透明になっていた。
仕掛けの種としては単純。この【光】属性のキツネの妖精は、全身を光で覆うことによってその姿をカモフラージュしていたのだ。
彼女の、トルテッタの口に潜み、口を大きく開けた際に出てきて、それ以降は光で見えないようにしながら攻撃をしていたのだ。
真っ白なキツネの妖精は、氷の刃を受けてそのまま地面へと倒れる。
思った通り、口の中でずっと機会をうかがっていたという事は、そうした方が良いほど耐久力が低いと思っていたが、どうやらその通りだったようだ。
「~~~~っ!!」
そして、落ちたのはキツネの妖精だけじゃなかった。
キツネの妖精がころんだったのに対して、それを表すとすれば----"ぽろん"。
彼女の胸元から落ちて、豊かだった彼女の乳房は見る影もなくなっていた。
「偽乳ね……」
ご主人の、なんとなく気まずい口調と共に、カフェオレは《見栄っ張り》な令嬢との勝負に勝利したのであった。
彼にしてみればこの戦いを受け入れる理由はなにひとつなく、だからと言ってあそこまで言われて引き下がる気合はなかった。クラスメイト達からの執拗な行け行けコールも受けていたので、行かなかった場合にどう言われるのも鑑みてだが。
「逃げずに良く来たわね」
「(出来れば放っておきたかったのだが)そうも行かなくてな」
「ふっ……それでこそ、レア妖精を手に入れた者ね」
なにをどう納得したのか。
コビーには全然理解できなかったが、どうやら相手の方----先に来て、優雅に紅茶を飲んでいたトルテッタはそれを勝手に理解していた。勝手に納得していた。
こうなるとコビーの方からは何も言えなかった。
「ルールを確認しましょうか、後でとやかく文句を言わないように」
どちらかと言えばそれを言いそうなのは、トルテッタの方だったが、ここで文句を言うとややこしくなるのは目に見えていたので、コビーは黙って頷いた。
紅茶を置いて、彼女はテーブルの上の花瓶に飾ってあった2本の紫色の花を手に取る。
「これが決闘の決着を見極めるのに使う、魔バルーン草よ。これを身体の前側のどこかに着けるのよ」
"キュキュ? マえ?"
「……学習力が高い妖精ね。さらに欲しくなったわ。前につける理由は簡単よ、その方が決着が分かりやすいからよ。後、防御魔法をやめさせる理由もあるわ。決闘なのに、防御魔法を使われるとシラケますし」
決闘の際に重要となってくるのは、"どこで勝利と敗北を見極めるか"。
魔力を与えると紫色の果汁を辺りに飛び散らせる特殊な花を用いているのだ。その果汁が"ついた"と言うのが分かりやすくないと、わざわざ使った意味がない。
それなので、これが分かるように"前につける"のだ。前で割れれば、すぐに分かるから。
防御魔法が使えないのは、魔バルーン草が魔力に反応するからだ。
防御魔法は魔法で盾を生み出す魔法だが、それは身体に近ければ近いほど効果が高くなる。そのため、防御魔法は身体に接着して発動される。その発動の魔力に反応して、魔バルーン草が破裂してしまう。
この魔バルーン草を決闘で使う目的としては、防御魔法を使われないようにするという意図もあるのである。
「魔バルーン草をつけたら、後は魔法の打ち合い。決闘の始まりよ」
「1対1、それで負けたら妖精1匹ずつを差し出す。その条件に相違ないな?」
「えぇ、そうよ。ちなみに横入れは禁止。これは鉱山国コールフィールドの貴族として当然、それを今確約するわ」
本当かどうかは分からない、むしろこの女の性格ならば横入れもあり得るだろう。
けれどもここで指摘するのかは、微妙である。それなので、分かったと了承する。
そしてコビーは右のわき腹、トルテッタはお腹の辺りに魔バルーン草を付けて決闘開始を待っていた。
「では、早速----先手必勝!」
トルテッタは距離を取ると共に、いきなり複数の光の球を作り出す。
数は20で、大きさはバラバラ。精度としては微妙なところだが、この決闘という面で見れば十分だろう。
「私はこうやって決闘に勝ってきた! この光の球体を複数生み出す、私の必勝コンボ!
破れるモノなら、破ってみせなさいっ!」
トルテッタが腕を振るい、それに誘われるように光の球体達はそのままコビーに向かって放たれていた。
大量の光がコビーに向かって降り注ぎ、コビーの姿は光の球体で生まれた土煙で消え去っていた。
"キュウゥ?!"
「あははっ! どうやら氷の妖精さんは主のことが心配でしょうがないみたいねっ! けれどもその心配は、もうしない方が良いわよ? だってこれで私の勝利、という訳であなたが心配するのはこの私っ! 誇り高い貴族である、タタン・トルテッタ様----」
「……やっぱり、こういう手か」
土煙の中、コビーがそういう心あきれた声を言うと共に、煙の中からコビーが現れた。
魔バルーン草も割れておらず、まったく傷を負っていない状態であった。
"キュッ?!"
「……?! まさか!?」
コビーが現れたことで、必勝コンボが決まっていないことに気付いたトルテッタが、慌てて同じように光の球を作り出す。
今度は40、大きさはさらにバラバラ。今度は当てるだけ、どうやって防いだのかを知る目的のために作りあげる。
「防御魔法、使ってないわよね? だって、魔バルーン草が割れてないもの。
それだったらどうやってあの数を防いだのか、興味深い! わねっ!」
先ほどと同じように、さっきよりも正確にコビーに向かって当たるようにトルテッタは光の球を放っていた。放たれた大量の光の球は、コビーへと----
「……何度やっても、一緒だぞ。トルテッタ」
‐‐‐‐轟っ、いきなり強烈な風が荒れ狂う。
荒れ狂う風は嵐のように、その風が光の球全てを吹き飛ばしていた。
「なるほど、【氷】は【水】と----【風】の複合属性。その風で、私の光の球を吹き飛ばしたという訳。姑息な真似をしてくれるわね、忌々しいっ!」
「どっちが姑息だよ……」
自分の身体から出す風を止め、今度は水で剣を作り出す。
「同じように球を連射だと芸がないからね、こっちは直接そのバルーンを割りに行くさ」
片手には水で出来た剣を構え、もう片方の手は地面の方に向けて大量の水を放つ。放たれた大量の水はコビーの身体を物理的に押し流し、そのまま勢いよくトルテッタの元へと流れていく。
「速っ----」
「終わり」
そうして、水に流されるようにして----高速で動いたコビーの身体、その手に持った水の剣はトルテッタの魔バルーン草を割る。
ぱんっ、という勢い良い音と共に、彼女の身体に大量の紫色の果汁がぶっかかっていた。
「ふぅー、はい。終わり、終わり」
"キュゥゥゥ!"
心配で、心配で、しょうがなかった。
そんな感じいっぱいで決闘が終わると共に、抱き着いてきたカフェオレを適度に相手にしつつ、コビーは相手が相当な"バカ"であったことにホッとしていた。
魔法使いにとって、一撃目はただのけん制。二撃目以降、その先の方が重要だ。
もし仮に一撃で勝負をつけるんだったら、そんなのは最大火力の魔法の撃ち合いをすれば良い。わざわざこの決闘を選んだ理由がなくなる。
この決闘で重要なのは、いかに的確に、相手の魔バルーン草を魔力で叩くか。その一点のみ。
それなのに自分ですら相手が負けたかどうか分からない大量の光の球で押しつぶしたり、防がれたことに驚いて油断したり----呆気ないにも程がある。
「(こんなので勝ちまくって来たとか、この学園の魔法学習は相当遅れてるなぁ)」
つまらない。
退屈。
相手にならない。
むしろ哀れ。
コビーが感じた感情は、ただそれだけだった。
勝利の喜びも。
血が沸くような情熱も。
激しい感動も。
窮地を制した安心も。
そのどれもがないのだから。
‐‐‐‐やはり、世界は退屈でしかたがない。彼はそう結論付けた。
"キュッ!"
てぃっ、と暇でしょうがない彼の頬を、小さく叩く存在があった。
「あぁ、そうだったな」
今は暇つぶしが居るんだ。
コビーはそれを思い出し、若干笑顔になる。退屈な日常にも、まだ退屈しないことが残っているのだと。
「まだっ、よっ!」
‐‐‐‐しかし、そこにあきらめの悪い女が居た。
トルテッタは自分が初めに提案した色と言う明確な敗北条件を無視し、それでもなおコビーへと鋭い視線を向ける。
「あなたに敗ける訳にはいかないの! ここで即座に敗北を認めてしまえば、私と言う高貴な存在に傷がつく! 私は勝ち続ける、それが私の意義!」
「勝ち続ける……だったか。今回の戦いはどちらかの敗北の意思表示ではなく、どちらかの攻撃が当たったのが明確になった状態だったはず。君がいくら吠えたところで、それは変わらんが?」
コビーにしてみれば、もう帰りたかった。
だが、その呆気なさそうに対応する態度が、さらにトルテッタをイラつかせる。
「~~~~っ! いいえ、まだよっ! あなたとの勝負、ここであなたの魔バルーン草を割って、引き分けまで持ち込むわっ! たとえ、"これ"を使ってもねっ!」
彼女はそう言って口を大きく開ける。
‐‐‐‐その瞬間だった。
コビーの、魔バルーン草が割れる。
「……っ?! 攻撃?!」
"キュルゥ?!"
割れたことによって大量の紫色の液体がコビー、そしてカフェオレの2人にかかる。
「‐‐‐‐2回戦、よ。1回戦の勝利はあなたにくれてあげるし、後で報酬の妖精1匹もあげる。けれども、2回戦が終わってから、ね。
2回戦、戦いの勝負は"妖精の優劣"。あなたの妖精と、私の妖精。妖精のみの力で、どちらかが相手を地に伏させた方が勝ち、よっ!」
----バンッ!
今度はトルテッタは大きく口を開けていない。
しかし、トルテッタの方からさっきと同じ衝撃が放たれ、コビーとカフェオレは吹っ飛ばされる。
"キュリ?"
「あぁ……いってぇ。痛みは小さいが、確かに痛いわ」
"キュイイイイ!"
カフェオレの身体は----地面には倒れこんでいなかった。
一緒に吹き飛ばされたコビーの身体の上に乗せられるように倒れこむことで、敗北とはなっていなかった。
「ちっ! 無様に這いつくばって、負けを回避とか……足搔きが過ぎるわよっ!」
----バンッ!
またしても、だ。
"先ほどから攻撃が見えない"。
自分に、コビーに当たる前に、カフェオレは身を守る盾を氷によって作り出す。
作り出した氷の盾は一瞬で粉々になるものの、見えない衝撃波から2人を守っていた。
"キュィー"
「安心してるばかりじゃいけないぞ、カフェオレ。今は、お前の対決なんだから」
"キュイ!"
了解とばかりに、安どから一転。相手をしっかりと見て、戦いに集中する。
「アルブレンド・コビー。時間をあげるわ。そこから退きなさい、さもないと妖精ともども、吹っ飛ばされて、けがするわよ?」
「ご忠告どうも、けれども目当ての妖精を傷つけていいのか?」
「ご心配なく。こう見えて私、治癒が得意な【光】属性が得意なの」
「(光……そういえば、さっきからの攻撃も光の球だった)」
魔術にはそれぞれ得意、不得意がある。
コビーは【氷】、それを形成する【水】と【風】。一方でトルテッタは【光】が得意のようだ。
不得意と言えども一応は2人とも扱えるだろうが、扱いづらい物をこんな決闘で使うはずもなく。結果として、相手の得意属性がすぐに分かる結果となった。
「一つ、いいこと教えてあげるわ。妖精ってのは主人の得意な属性の魔力を吸って生まれるの。だからその属性の妖精しか生まれない。あなたの得意属性が【氷】だったみたいで【氷】の妖精が生まれたように、私は【光】が得意なの」
「‐‐‐‐だから、妖精も【光】ってか?」
「えぇ、そうよ。そして私の妖精は、今この場にいるこの娘だけ。何が言いたいかって? 自慢ですわっ!」
高笑いを浮かべるトルテッタに対し、コビーは思考を巡らせる。
妖精同士の対決、さっきから攻撃が見えないのは恐らく【光】の特性が関係している。
それぞれ魔術の属性には特性が、いわゆるその属性でしか出来ないことがある。【光】ならば確か----
「(そう、か。そういう事か)」
不自然に、最初の一撃だけ大きく口を開けたこと。
そして攻撃が見えないこと。
その2つからして、恐らく彼女の妖精とは----
「助言はなし、よ。アルブレンド・コビー」
「良いさ、その方が面白そうだ」
やっと面白くなってきたところなのだ、こんなところで自分から水を差すわけにはいかなかった。
コビーはこの戦いに、ようやくわくわくを感じ始めていた。
☆
カフェオレは言葉を上手く喋れない。それは彼女が言葉を喋れる機能を持っていないのではなく、ただ単にまだ言葉を覚えていないだけなのだ。
生まれてまだ1日かそこいらでここまで喋れるという方が、逆にすごいのだが。
それだけ知能が高いカフェオレは、その頭脳でトルテッタの妖精について考えをまとめていた。
----相手の女は先ほどから【光】の属性の攻撃を行っている
----彼女の妖精もまた【光】の属性の妖精だと考えられる
----攻撃はなにかを放っている
----放っているが確認できない
----相手が大きく口を開いた時から攻撃が開始されている
----その後は口を開けていないのに、攻撃している
短い時間の中で、端的に情報をまとめるカフェオレ。
それはまだ断片的な情報でしかなかったが、必要な情報のみを取捨選択し、その上で推理すべき場所なども合わせて----彼女は1つの結論を導き出していた。
結論が出たら、後はそれが正しいか。それを"実践するのみ"。
「ふふっ、さぁ止めよっ! いきなさいっ、私の妖精!」
彼女が命じると共に、彼女の妖精が"動く"。
"イた!"
その瞬間、カフェオレは小さな氷の刃を作り出して放つ。
小さくしたのは出来る限り見えにくくするため、そして刃状にしたのは"単なる嫌がらせ"である。
「‐‐‐‐きゃっ?!」
"ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇ!"
彼女の胸元から、ポロリと"それ"が落ちる。
彼女の胸元の上から落ちたそれは、全身が真っ白いキツネ。彼女の首に巻くマフラーくらいの大きさの、小柄な2本の尻尾を持つキツネであり、光に当たる具合によってキツネの身体が透明になっていた。
仕掛けの種としては単純。この【光】属性のキツネの妖精は、全身を光で覆うことによってその姿をカモフラージュしていたのだ。
彼女の、トルテッタの口に潜み、口を大きく開けた際に出てきて、それ以降は光で見えないようにしながら攻撃をしていたのだ。
真っ白なキツネの妖精は、氷の刃を受けてそのまま地面へと倒れる。
思った通り、口の中でずっと機会をうかがっていたという事は、そうした方が良いほど耐久力が低いと思っていたが、どうやらその通りだったようだ。
「~~~~っ!!」
そして、落ちたのはキツネの妖精だけじゃなかった。
キツネの妖精がころんだったのに対して、それを表すとすれば----"ぽろん"。
彼女の胸元から落ちて、豊かだった彼女の乳房は見る影もなくなっていた。
「偽乳ね……」
ご主人の、なんとなく気まずい口調と共に、カフェオレは《見栄っ張り》な令嬢との勝負に勝利したのであった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる