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わがまま令嬢
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妖精のカフェオレをふ化させた次の日、アルブレンド・コビーは学園にカフェオレを連れてきていた。
さすがに妖精は珍しいが、学園に武器を持ち込んでいる生徒は多い。それなのでコビーが申請しといたら、あっさりとその申請は通った。
武器を持ち込めるのはこの学園の教育方針が、《実践でも戦える冒険者を目指す》だからである。魔力が高いという点を重視している以上、その中にはちゃんとした教育を受けていない平民や、貴族の家を継げないだろう貴族の次男やら三男やらも受ける。そういった者達の卒業後の進路は、冒険者----ダンジョンなどに潜って稼ぐ労働者、という選択になるらしく、それ故にいつでも戦う心構えを身に着けよう、という訳で常に武器の携帯が許されているのである。
コビーもまた、そういった事情を加味して、と言うよりも利用して妖精を学園の中に入れるようにしてもらった訳である。勿論、受け入れられた理由の中には彼が、王子であるという事も理由の1つかも知れないが。
"キュイ! キューキュー!"
「うわぁ、可愛らしい」
「これって、あれか? 妖精飼育とかを謳ってるあの?」
「こんなかわいいのが生まれるんだ~。良いなぁ、お父さんに頼んでお金送ってもらえないかなぁ?」
カフェオレは大人気である。特に女子生徒などに。
まぁ、可愛らしい見た目もあって、女子受けするのは目に見えていたから予想内の反応である。
「‐‐‐‐おいおい、どうしたんだよ? コビー? いきなり、あーんな可愛らしい妖精を連れてくるだなんて、びっくりだぜ」
「そうそう、ろくに趣味なんてなかったのによぉ」
「いっつも、つまらなさそうにしてたのに」
ただ、こっちも色々と絡まれていた。
と言うか、そんなにつまらなさそうにしてたか? 俺?
コビーはそんな風に思われたことにがっかりして、顔を手で触って自分の顔を確かめている。
"キュイっ!"
「あっ、ちょっと!?」
「あぁん、逃げられちゃった♡」
「隠れちゃって可愛い♪」
もみくちゃにされていたのが嫌だったらしく、カフェオレが慌ててコビーの後ろに隠れる。
頭を撫でてあげると、カフェオレは嬉しそうに身を委ねていた。
「あら、可愛い」
「俺も、妖精の卵を買ってみようかなぁ」
「ヨウセイカワイイ,ヨウセイカワイイ,ヨウセイカワイイ」
……なんか、やけに視線を集めてしまった。
あらかじめ思っていた以上の反応である。
コビーは自分の認識が甘かった。
学生連中はちょっと珍しい武器くらいではしゃぐ連中である。
普段から勉強、勉強、勉強。恋や青春なども勿論あるが、コビーほどではないが彼らは話題に飢えている。
そんな彼らにとっては、妖精のカフェオレなんかを見せたらこうなることは分かりきっていたことだというのに。
「はいはい、みんな。静かにしておいてね。授業、始めようか」
そんな事を考えていると、担任である教師が入ってきて、皆は席につく。
コビーもまた席に着き、邪魔にならないようにカフェオレもテーブルの端の方に座っていた。
「おっ、コビー。それが今日申請した妖精、ってやつか。なんだよ、鉱山国コールフィールドも面白そうなもんを隠し持ってやがったんだな」
「あっ、はい。授業の邪魔になったら、羽根をちぎるんで大丈夫です」
"モキュッ?!"
ちなみに、コビーはマジで言っている。
ただの暇つぶしで育てている妖精なので、そこまで愛着はないからだ。
可愛いと言えば可愛い、だけれども授業の妨害をして教師に目をつけてまで育てるだけの気概がない、それだけの意味である。
「‐‐‐‐いや、そこまででは言ってないから大丈夫だぞ、コビー。と言うか、言っていることがかなりヤバいんだが」
"キュッ! キューキュー!"
「……大丈夫だ、結構大人しそうだしな。それにあの"じゃじゃ馬"に比べれば可愛いものさ」
「(じゃじゃ馬……?)」
じゃじゃ馬、という言葉に反応したコビーだったが、すぐさま授業が開始されて、意識はそちらに向いていた。
☆
「良い? これが"あ"よ」
"キュ? ア?"
「そうそう! で、"い"に"う"だよ」
"キュ? イ? ウ?"
「あぁ! かっわぁぁぁぁいいいいいいい!」
「ヨウセイカワイイ,オレタベタイ」
授業が終わって、カフェオレはクラスの女子生徒達に再びもみくちゃにされていた。
今は勉強意思が強く見られるカフェオレに、クラスの女子生徒達が文字を教えているところだ。学習意識が非常に高く、先生の授業内容も後の方はなんとなく理解しているような節があった。
「(妖精ってこんなに学習力が高いのか。すごいな、おい)」
そうして感心しているコビーの前に、彼女が現れたのである。
「あなた、アルブレンド・コビーで間違いないわね?」
上から目線な口調にて、彼女はコビーの目の前に現れていた。
厚化粧で、金髪セミロングの美少女。
学園指定の黒いセーラー服の上に血のように赤いドレスを無理やり身にまとい、明らかに規律違反と思われる豪華な金色のネックレスやら銀の腕輪やらを見せびらかすように。
藍色の瞳と、胸元を押し上げんばかりの大きな乳房が特徴の、気が強そうなその美少女は、コビーの前に堂々と立っていた。
いや、大きな胸を強調するように凛と立ちながら、コビーと言うよりかは、その隣の妖精のカフェオレに目線を向けていた。
「早速で悪いけど、あなたの妖精。
私に譲ってもらえないかしら? 拒否権はないわよ、だって高貴で、ゴージャスで、エレガントな、こうやって頼んでるのだから」
赤いドレスを無理やり翻して、彼女は妖精のカフェオレを渡すように取引を命令したのであった。
「いきなり、なにを言ってるんだ? そもそもお前は誰だ?」
「あなた、ばっかじゃないの? この私を、コールフィールド国子爵令嬢たる【タタン・トルテッタ】を知らないだなんて、ほんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉに、ばぁかじゃないの?!」
「いや、知らないし」
「なんで生きてられるの!? おかっしいでしょ、貴族よ? 私はきっ、ぞっ、くっ! 選ばれし貴族なのよ!」
それを言うのならば、辺境の田舎の国とは言えども一国の王子であるコビーのことを知らない彼女こそ、バカ者であると、なんで生きているんだと、言い返せるのだが、そうやって言い返しても意味がないんだろうなという事くらい、コビーには分かっていた。
「なんでも良いが、妖精の引き渡し?」
「えぇ、そうよ。という訳で、まずはこれをご覧なさい。そして私の凄さを見なさい」
トルテッタがぱちんっと指を鳴らすと共に、彼女の後ろに4体の妖精が現れる。
全身が炎で出来ている大きな鳥のような単獣型の妖精、水を纏った硬い盾を持った騎士の人型の妖精、ぶよっとした雷の黄色い不定形の妖精、同じようにぶよっとした茶色い土の不定形の妖精……【火】、【水】、【雷】、【土】の四属性をカバーしたような妖精達であった。
「これは鉱山国コールフィールドの特産物である妖精の卵からふ化させた、【火】の鳥型妖精の【ヤキプリン】、【水】の騎士型妖精の【アイスティー】、【雷】のスライム型妖精の【モンブラン】、同じく【土】のスライム型妖精の【カレー】の4匹よ」
「ひどい名前、だな」
"キュキュー!"
自分の名づけも似たような感じじゃないですか、と抗議するカフェオレ。
そんな可愛らしい妖精からの苦情を無視して、トルテッタはコビーに向かって話しかけていた。
「私はね、すべてにおいて完璧を求めているのよ。本来であれば、あなたのような格下で、弱者で、三下なモノを相手になんかしないのよ。
今でも思うわ、あなたなんかを相手するということ自体が汚らわしいわ」
なら、相手しなければいいのに。
「けれども、あなたが持っている【氷】の妖精の噂を聞いたからには、是非とも揃えたくなってしまったのよ。なんでもかんでも、揃えたくなる。1つでも穴があると埋めたくなる性分なのよ」
「収集家魂という奴か、それに関しては別に良いのだが……他人の妖精を別の人に渡す、それはアリなのか?」
「一般的にはなし、よね」
あっさりと、トルテッタはそれを否定する。
「‐‐‐‐でも、私は許されるのよ!」
理論なんてない、謎の屁理屈がそこにはあった。
そして、担任が言っていた"じゃじゃ馬"という言葉が、彼女とマッチしていた。恐らくだが、担任もまた彼女のことを指し示して言っていたに違いない。
「妖精と言えども、結局は魔物。野生の世界では強者こそが絶対的なルール。なら、強者が全部総取りするのが筋って、ものよね?」
「いや、知らないが」
「ちなみにこの4匹も戦利品よ! 使い勝手はそこそこでも、見栄えが良いからこうして見せつけてるわ」
最低である、本当に最低な女である。
「"強者が総取り"って事は、戦いでどちらのモノにするかを決めるってことか?」
「話が早くて助かるわ、お金のやり取りでも良いんだけれどもその方が分かりやすい物ね。さて、戦う方法についてなんだけど----」
コビーは一度も了承した覚えがない。
けれども、話はどんどん先先へと進んで、コビーには止められなかった。と言うよりも、トルテッタが強引すぎた。
「場所は体育館裏、時間は今日の放課後。対戦方式はベーシックな魔法使いの決闘形式の1対1で----」
「いや、俺の方は一切受けた覚えはないんだけど」
「魔法使いの決闘方式って分かるかしら? お互いに魔法を打ち合うとかではなく、魔バルーン草を用いたヤツ、ね」
「……あのー」
「決闘には魔バルーン草を使いましょう。私はその草をいっぱい持っているから、それを使うわね。負けたら互いに1匹ずつ妖精を、あなたの場合はそのカフェオレを貰うわ」
「じゃあ、放課後にまた会いましょう」と、4匹の妖精を連れて、こっちが了承したものだと勝手に判断した様子で、トルテッタは部屋から出て行った。
「まるで、台風のような奴だったなぁ……」
しっかし、これ。戦わなくちゃいけないんだよなぁ、うん。
魔バルーン草を使った、戦い方。魔法使いでの実践形式の決闘では良く使われている方法である。
彼女が言っていた通り、魔バルーン草は魔力によって破裂するという性質を持つ植物である。
破裂すると目には見えない小さな種子と、紫色の果汁が飛び出るのだが、これで勝敗を決めるという手法である。魔法使い達が、魔法を使うモノ同士の戦いでは良く使われる手法である。
あるのだが……まさか、自分がそれで戦うとは思ってもみなかった。
"キュィ?"
「……ん? あぁ、大丈夫だ。問題はない」
トルテッタが帰った後、無事になったのを確認してカフェオレがコビーのもとへやって来る。
心配しているようで、何度も、何度も、彼の身体の周りをうろうろと飛び回っている。
「(正直、ウザいなぁ)」
自分のことを心配してくれている気持ちは、コビーには痛いほど伝わっていた。
だが同時に、彼女が背中の羽根でうろうろと飛び回るごとに、それを見ていたクラスメイト達が騒ぎ出す。
「かっわぁぁぁぁいいいいいいい!」
「健気だなぁ。素敵だなぁ」
「オレサマ,クイナシ」
正直、それが非常にうざい。それがコビーの神経をイラつかせていた。
しかし、それを指摘したところで騒ぎ出すことは明白なため、ただ飛び回っているカフェオレの頭に手をゆっくりと乗せる。
「大丈夫だ。あいつがどういう手段で来るかは分からないが、これでも魔法の成績は良い方だ。
‐‐‐‐だから、心配するな」
心配されると、後ろの人達がものすっごぉく、うるさく騒ぎ立てるから。
そういう気持ちで言ったら、カフェオレは少しホッとした、けれどもまだ心配したままであった。
"ガ……"
「ん……?」
小さな声で、なにかを言おうとしているカフェオレ。
それに対して、コビーはその言葉の続きを待っていた。
"ガンバってネ"
つたないながらも、明確な意思を持って伝えられたカフェオレの応援メッセージ。
その言葉はきちんとコビーの元へと届けられ、そして----
「「「かっわぁぁぁぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」
クラスメイト達の絶叫へと変わっていた。
「うるせっ(ぼそっ」
小さくそう呟くと、まさしくその通りだとカフェオレもまた頷いていた。
ペットは飼い主に似るというが、妖精であるカフェオレもまたコビーと同じように淡泊さを持ち合わせつつあった。
さすがに妖精は珍しいが、学園に武器を持ち込んでいる生徒は多い。それなのでコビーが申請しといたら、あっさりとその申請は通った。
武器を持ち込めるのはこの学園の教育方針が、《実践でも戦える冒険者を目指す》だからである。魔力が高いという点を重視している以上、その中にはちゃんとした教育を受けていない平民や、貴族の家を継げないだろう貴族の次男やら三男やらも受ける。そういった者達の卒業後の進路は、冒険者----ダンジョンなどに潜って稼ぐ労働者、という選択になるらしく、それ故にいつでも戦う心構えを身に着けよう、という訳で常に武器の携帯が許されているのである。
コビーもまた、そういった事情を加味して、と言うよりも利用して妖精を学園の中に入れるようにしてもらった訳である。勿論、受け入れられた理由の中には彼が、王子であるという事も理由の1つかも知れないが。
"キュイ! キューキュー!"
「うわぁ、可愛らしい」
「これって、あれか? 妖精飼育とかを謳ってるあの?」
「こんなかわいいのが生まれるんだ~。良いなぁ、お父さんに頼んでお金送ってもらえないかなぁ?」
カフェオレは大人気である。特に女子生徒などに。
まぁ、可愛らしい見た目もあって、女子受けするのは目に見えていたから予想内の反応である。
「‐‐‐‐おいおい、どうしたんだよ? コビー? いきなり、あーんな可愛らしい妖精を連れてくるだなんて、びっくりだぜ」
「そうそう、ろくに趣味なんてなかったのによぉ」
「いっつも、つまらなさそうにしてたのに」
ただ、こっちも色々と絡まれていた。
と言うか、そんなにつまらなさそうにしてたか? 俺?
コビーはそんな風に思われたことにがっかりして、顔を手で触って自分の顔を確かめている。
"キュイっ!"
「あっ、ちょっと!?」
「あぁん、逃げられちゃった♡」
「隠れちゃって可愛い♪」
もみくちゃにされていたのが嫌だったらしく、カフェオレが慌ててコビーの後ろに隠れる。
頭を撫でてあげると、カフェオレは嬉しそうに身を委ねていた。
「あら、可愛い」
「俺も、妖精の卵を買ってみようかなぁ」
「ヨウセイカワイイ,ヨウセイカワイイ,ヨウセイカワイイ」
……なんか、やけに視線を集めてしまった。
あらかじめ思っていた以上の反応である。
コビーは自分の認識が甘かった。
学生連中はちょっと珍しい武器くらいではしゃぐ連中である。
普段から勉強、勉強、勉強。恋や青春なども勿論あるが、コビーほどではないが彼らは話題に飢えている。
そんな彼らにとっては、妖精のカフェオレなんかを見せたらこうなることは分かりきっていたことだというのに。
「はいはい、みんな。静かにしておいてね。授業、始めようか」
そんな事を考えていると、担任である教師が入ってきて、皆は席につく。
コビーもまた席に着き、邪魔にならないようにカフェオレもテーブルの端の方に座っていた。
「おっ、コビー。それが今日申請した妖精、ってやつか。なんだよ、鉱山国コールフィールドも面白そうなもんを隠し持ってやがったんだな」
「あっ、はい。授業の邪魔になったら、羽根をちぎるんで大丈夫です」
"モキュッ?!"
ちなみに、コビーはマジで言っている。
ただの暇つぶしで育てている妖精なので、そこまで愛着はないからだ。
可愛いと言えば可愛い、だけれども授業の妨害をして教師に目をつけてまで育てるだけの気概がない、それだけの意味である。
「‐‐‐‐いや、そこまででは言ってないから大丈夫だぞ、コビー。と言うか、言っていることがかなりヤバいんだが」
"キュッ! キューキュー!"
「……大丈夫だ、結構大人しそうだしな。それにあの"じゃじゃ馬"に比べれば可愛いものさ」
「(じゃじゃ馬……?)」
じゃじゃ馬、という言葉に反応したコビーだったが、すぐさま授業が開始されて、意識はそちらに向いていた。
☆
「良い? これが"あ"よ」
"キュ? ア?"
「そうそう! で、"い"に"う"だよ」
"キュ? イ? ウ?"
「あぁ! かっわぁぁぁぁいいいいいいい!」
「ヨウセイカワイイ,オレタベタイ」
授業が終わって、カフェオレはクラスの女子生徒達に再びもみくちゃにされていた。
今は勉強意思が強く見られるカフェオレに、クラスの女子生徒達が文字を教えているところだ。学習意識が非常に高く、先生の授業内容も後の方はなんとなく理解しているような節があった。
「(妖精ってこんなに学習力が高いのか。すごいな、おい)」
そうして感心しているコビーの前に、彼女が現れたのである。
「あなた、アルブレンド・コビーで間違いないわね?」
上から目線な口調にて、彼女はコビーの目の前に現れていた。
厚化粧で、金髪セミロングの美少女。
学園指定の黒いセーラー服の上に血のように赤いドレスを無理やり身にまとい、明らかに規律違反と思われる豪華な金色のネックレスやら銀の腕輪やらを見せびらかすように。
藍色の瞳と、胸元を押し上げんばかりの大きな乳房が特徴の、気が強そうなその美少女は、コビーの前に堂々と立っていた。
いや、大きな胸を強調するように凛と立ちながら、コビーと言うよりかは、その隣の妖精のカフェオレに目線を向けていた。
「早速で悪いけど、あなたの妖精。
私に譲ってもらえないかしら? 拒否権はないわよ、だって高貴で、ゴージャスで、エレガントな、こうやって頼んでるのだから」
赤いドレスを無理やり翻して、彼女は妖精のカフェオレを渡すように取引を命令したのであった。
「いきなり、なにを言ってるんだ? そもそもお前は誰だ?」
「あなた、ばっかじゃないの? この私を、コールフィールド国子爵令嬢たる【タタン・トルテッタ】を知らないだなんて、ほんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉに、ばぁかじゃないの?!」
「いや、知らないし」
「なんで生きてられるの!? おかっしいでしょ、貴族よ? 私はきっ、ぞっ、くっ! 選ばれし貴族なのよ!」
それを言うのならば、辺境の田舎の国とは言えども一国の王子であるコビーのことを知らない彼女こそ、バカ者であると、なんで生きているんだと、言い返せるのだが、そうやって言い返しても意味がないんだろうなという事くらい、コビーには分かっていた。
「なんでも良いが、妖精の引き渡し?」
「えぇ、そうよ。という訳で、まずはこれをご覧なさい。そして私の凄さを見なさい」
トルテッタがぱちんっと指を鳴らすと共に、彼女の後ろに4体の妖精が現れる。
全身が炎で出来ている大きな鳥のような単獣型の妖精、水を纏った硬い盾を持った騎士の人型の妖精、ぶよっとした雷の黄色い不定形の妖精、同じようにぶよっとした茶色い土の不定形の妖精……【火】、【水】、【雷】、【土】の四属性をカバーしたような妖精達であった。
「これは鉱山国コールフィールドの特産物である妖精の卵からふ化させた、【火】の鳥型妖精の【ヤキプリン】、【水】の騎士型妖精の【アイスティー】、【雷】のスライム型妖精の【モンブラン】、同じく【土】のスライム型妖精の【カレー】の4匹よ」
「ひどい名前、だな」
"キュキュー!"
自分の名づけも似たような感じじゃないですか、と抗議するカフェオレ。
そんな可愛らしい妖精からの苦情を無視して、トルテッタはコビーに向かって話しかけていた。
「私はね、すべてにおいて完璧を求めているのよ。本来であれば、あなたのような格下で、弱者で、三下なモノを相手になんかしないのよ。
今でも思うわ、あなたなんかを相手するということ自体が汚らわしいわ」
なら、相手しなければいいのに。
「けれども、あなたが持っている【氷】の妖精の噂を聞いたからには、是非とも揃えたくなってしまったのよ。なんでもかんでも、揃えたくなる。1つでも穴があると埋めたくなる性分なのよ」
「収集家魂という奴か、それに関しては別に良いのだが……他人の妖精を別の人に渡す、それはアリなのか?」
「一般的にはなし、よね」
あっさりと、トルテッタはそれを否定する。
「‐‐‐‐でも、私は許されるのよ!」
理論なんてない、謎の屁理屈がそこにはあった。
そして、担任が言っていた"じゃじゃ馬"という言葉が、彼女とマッチしていた。恐らくだが、担任もまた彼女のことを指し示して言っていたに違いない。
「妖精と言えども、結局は魔物。野生の世界では強者こそが絶対的なルール。なら、強者が全部総取りするのが筋って、ものよね?」
「いや、知らないが」
「ちなみにこの4匹も戦利品よ! 使い勝手はそこそこでも、見栄えが良いからこうして見せつけてるわ」
最低である、本当に最低な女である。
「"強者が総取り"って事は、戦いでどちらのモノにするかを決めるってことか?」
「話が早くて助かるわ、お金のやり取りでも良いんだけれどもその方が分かりやすい物ね。さて、戦う方法についてなんだけど----」
コビーは一度も了承した覚えがない。
けれども、話はどんどん先先へと進んで、コビーには止められなかった。と言うよりも、トルテッタが強引すぎた。
「場所は体育館裏、時間は今日の放課後。対戦方式はベーシックな魔法使いの決闘形式の1対1で----」
「いや、俺の方は一切受けた覚えはないんだけど」
「魔法使いの決闘方式って分かるかしら? お互いに魔法を打ち合うとかではなく、魔バルーン草を用いたヤツ、ね」
「……あのー」
「決闘には魔バルーン草を使いましょう。私はその草をいっぱい持っているから、それを使うわね。負けたら互いに1匹ずつ妖精を、あなたの場合はそのカフェオレを貰うわ」
「じゃあ、放課後にまた会いましょう」と、4匹の妖精を連れて、こっちが了承したものだと勝手に判断した様子で、トルテッタは部屋から出て行った。
「まるで、台風のような奴だったなぁ……」
しっかし、これ。戦わなくちゃいけないんだよなぁ、うん。
魔バルーン草を使った、戦い方。魔法使いでの実践形式の決闘では良く使われている方法である。
彼女が言っていた通り、魔バルーン草は魔力によって破裂するという性質を持つ植物である。
破裂すると目には見えない小さな種子と、紫色の果汁が飛び出るのだが、これで勝敗を決めるという手法である。魔法使い達が、魔法を使うモノ同士の戦いでは良く使われる手法である。
あるのだが……まさか、自分がそれで戦うとは思ってもみなかった。
"キュィ?"
「……ん? あぁ、大丈夫だ。問題はない」
トルテッタが帰った後、無事になったのを確認してカフェオレがコビーのもとへやって来る。
心配しているようで、何度も、何度も、彼の身体の周りをうろうろと飛び回っている。
「(正直、ウザいなぁ)」
自分のことを心配してくれている気持ちは、コビーには痛いほど伝わっていた。
だが同時に、彼女が背中の羽根でうろうろと飛び回るごとに、それを見ていたクラスメイト達が騒ぎ出す。
「かっわぁぁぁぁいいいいいいい!」
「健気だなぁ。素敵だなぁ」
「オレサマ,クイナシ」
正直、それが非常にうざい。それがコビーの神経をイラつかせていた。
しかし、それを指摘したところで騒ぎ出すことは明白なため、ただ飛び回っているカフェオレの頭に手をゆっくりと乗せる。
「大丈夫だ。あいつがどういう手段で来るかは分からないが、これでも魔法の成績は良い方だ。
‐‐‐‐だから、心配するな」
心配されると、後ろの人達がものすっごぉく、うるさく騒ぎ立てるから。
そういう気持ちで言ったら、カフェオレは少しホッとした、けれどもまだ心配したままであった。
"ガ……"
「ん……?」
小さな声で、なにかを言おうとしているカフェオレ。
それに対して、コビーはその言葉の続きを待っていた。
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つたないながらも、明確な意思を持って伝えられたカフェオレの応援メッセージ。
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「「「かっわぁぁぁぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」
クラスメイト達の絶叫へと変わっていた。
「うるせっ(ぼそっ」
小さくそう呟くと、まさしくその通りだとカフェオレもまた頷いていた。
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