俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

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第2章『新たな召喚獣、新たな世界/ファイントの章』

第68話 ファイントは悪に誘われ(1)

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「目は、覚めましたか? ファイントさん?」
「-----!!」

 ファイントが目を覚ますと、そこには彼女を連れ去った少女がゆっくりとコーヒーをすすっていた。
 キョロキョロと素早く辺りを見渡して、情報を確認する。

 木目の床、縞模様の壁紙、整理整頓できていない机、そして空中を漂う魔力……。
 どうやらここは、ダンジョンの中にある、とある部屋らしい。

「(なら、スキルを使って----って、あれれ??)」

 すぐさまスキルを使ってファイントは脱出しようとするも、何故かスキルが発動しない。 
 それどころか声も出せないし、身体も上手く動かせない。
 恐らく、強制的に首に装備させられた、この変な首輪のせいだろう。

「逃げ出そうとしても無駄だよ? 君の首輪は君の行動を制限してるし、ここはわたくし、佐鳥愛理の生み出した仮想ダンジョンの中だから、冒険者がうっかり立ち寄ることもない」
「----!! -----!!」
「……って、あぁー、喋れないのね。じゃあ、そこだけは【解除】で」

 【解除】と言ったとたん、ファイントの喉に力が戻る。
 「あ、あ……」と、発声練習代わりの声も出ているようだった。

「君、意外と凄い召喚獣なんですね。さっき、【召喚登録】を試してみたけど、登録できませんでしたし。
 このスキルは魔力消費が激しいとは言え、わたくしの実力ならレベルⅦまでなら登録できるのに、君の本来のレベルとやらはどれだけ高いのか……」

 じろっと、佐鳥愛理はファイントを見つめる。
 声は出せても、スキルも身体も上手く使えないので、ファイントはちょっとずつ後ろに下がって、警戒の姿勢を見せる。

「警戒されちゃってますね。まぁ、しょうがないけど。
 安心したまえ、ファイントちゃん。わたくしは無意味に殺しはしない、そういう女冒険者だから。
 君が良い子で、わたくしの質問にちゃんと答える限りは殺しはしない」
「そうですか……」

 佐鳥愛理は笑顔でそう言うが、それはつまり「無意味じゃなければ殺すし。適当だったり、ちゃんと答えなくても殺す」という死刑宣告だ。
 今さっき、ただの言葉1つで自分の喉を戻した彼女を見て、ファイントは震えていた。


「では、私を殺してください☆」


 ----だから、それを利用することにした。


「無残に殺してください♪ 無意味に殺してください♪ 無価値に殺してください♪
 私は全然いい子じゃありませんし、むしろ悪事だとか、悪行三昧大好きっ子です♪ なので、もう思う存分、やっちゃってくださいな♪」


 別にファイントはとち狂った訳ではない。
 その証拠に、佐鳥愛理が「しまったぁ~」と、あからさまに凹んでいたからだ。

「君は召喚獣だったね……そうか、召喚獣にとって死はどうでも良いか。
 むしろ、殺されておけば、召喚獣として再召喚できるか。なるほど、召喚獣は人質には向かないね」

 納得した佐鳥愛理は、「それなら……」と方針を変える事にした。

「じゃあ、わたくしと話をしようじゃないか。君は嘘を吐いても良いし、黙秘したって良い。
 ただ2つだけ言っておく。わたくしは君を殺さないし、そしてこの話は君が興味を持つ話だよ」

 そう言って、佐鳥愛理はファイントにコーヒーを差し出してくる。
 飲めと言わんばかりの申し出に、おずおずとファイントはそのカップを手に取った。

「----君の正体についての話だ」
「~~~~っ?!」

 びっくりしたあまり、手がカップから離れてしまう。
 落とされたカップは、そのまま床へ落ちて、破片となるくらいに割れて、コーヒーを床にぶちまけた。

「君の正体、君を召喚した彼は分からなかったみたいだけど、わたくしクラスの冒険者ともなれば、【鑑定】結果から、だいたいの察しはつく」
「ほ、ほぉ……それは凄い……」

 ファイントの震えは、先程よりも大きくなっていた。
 これは彼女に対する怯えじゃない、もっと前の----そう、召喚獣として召喚される前の記憶のような物。


『お前は我々の仲間じゃない!!』
『汚らわしい! 天使の恥さらしめ!』
『悪魔め! 悪魔め! 悪魔め! 悪魔め!』

 同胞からの、悪意に満ち溢れた言葉。

『お前が我々の仲間だとぉ? 天使のくせにかぁ?』
『冗談にしても笑えんなぁ。なぁ、皆の衆?』
『なら、死ねよ。お前の居場所はここにはないぞ?』

 そして、助けを求めた先で聞かされる、悪意に満ち溢れた言葉。

「(あぁ、ダメだ----)」


 ----不快だ・・・吐き気がする・・・・・・


「君の正体、それは"悪の天使"だろう?」

 佐鳥愛理の言葉に、ファイントの意識とは関係なく、身体から力が沸き上がってくる。


 ===== ===== =====
 【《悪の天使》ファイント】 レベル;Ⅲ(本来のレベルより低い状態で召喚されております)
 "敵"を意味するクラスの者で、真名は不明。攻撃対象への好感度が低ければ低いほど、戦闘能力が上昇する
 その者は悪を憎む天使でありながら、悪を司る天使として誕生した。天使からは蔑まれ、悪魔からは罵られ、かの天使に居場所など存在はしない
 ===== ===== =====


「真名看破……!!」

 真名看破とは、ファイントのように真名----本当の名前を隠している召喚獣や魔物に対する祝福である。

 一般的に、召喚獣や魔物に関して言えば、名前がない個体よりも、名前がある個体の方が強くなる。
 何色にも染まっていない召喚獣や魔物の魂が、名前をつけられることによって、新たな色へと染まり、今までにない力を得たり、進化系としか思えない存在になったり。
 
 そして、それとは逆に名前が隠されることで、力や強さが弱くなったりするというパターンがある。
 その隠された名前を暴くことで、本来の力を取り戻す----それこそが、真名看破なのである。

 しかしながら、ファイントはこの真名看破を行おうとは思ってなかった。
 真名を忘れていたかったのではない、忘れたかったのだ。
 何故なら、真名看破されるということは、自分が隠しておきたかった秘密を暴露されるのと同義だからだ。

 ----自分が故郷から見捨てられた存在であるという、自分で忘れておきたい秘密を。

「あぁ、やはりあなたの真名はそれでしたか。しかし、真名ではなく、ただ《悪の天使》であると見抜くだけでレベルが2段階も上がるとは……本来のあなたは、どれだけ高いレベルなんですかねぇ?」

 ファイントは頭を抱えてるのに、佐鳥愛理は真名看破によってレベルを2段階上がった事が、彼女の正体を突き止めたことがよっぽど嬉しかったのか、さらに軽やかに話を続ける。


「そもそも、ファイントちゃんって、本当に面白い存在だよね。
 天使とはそもそも秩序と正義を重んじる存在。世界を正しい道へ導くために、中級以上の天使は1つの属性を守護している。
 《炎》の天使は《炎》を操って正義を為し、《雷》の天使は《雷》を武器として秩序を為す。それこそが、天使という存在なのに」

 天使とはすなわち、正義と秩序を正すために、自らが守護する属性の力を使う者。
 正しい事のために行き、世界を正しくするために戦う者達。

 その敵は勿論、悪。
 自由と混乱を、世界に病気のように蔓延まんえんさせるモノ。

「しかしながら、あなたは----そんな悪を司る天使として生まれてしまった」

 正義と秩序を正すための天使なのに、悪を罰して滅するための天使なのに。
 ----そんな悪を司る者として生まれた天使。

「悪を断罪しようとする天使達からは疎まれ、かといって自由奔放に悪の道を進む悪魔達からも蔑まれる。
 あなたには居場所なんてない。どこにも、生まれた時から、最初から」


 ----だから、わたくしがあなたの居場所となりましょう。


 そう言って、佐鳥愛理はファイントに手を差し伸べる。

「もし、あなたに居場所があるとしたら、それは純然たる悪であるわたくしの共犯者なかまとしての居場所だけ。
 ----ファイントちゃん、このわたくしの悪の計画に協力してもらえないかな?」
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