2 / 9
第2話 蜥蜴の尻尾切りⅡ
しおりを挟む
そうして、3人は私の前から姿を消した。
『蜥蜴の尻尾切り』のように、あっけなく消えていったのだ。
私と、お腹の子を見捨てて。
それから、私は高校には進学せずにお腹の子を育てる決意をした。「私の幸福は私が決める」と豪語した私は、両親には勘当された。強姦されて身籠った子供を産むなんて、どうかしていると。
けれど、私はこの身体に宿った子の命を身勝手に奪ってしまう事の方がどうかしていると思った。だって、私に宿ったこの子は何も悪くないのだから。
そうして私はお腹の子を15歳で産んだ。女の子だったから『蘭』と名付けた。産んでからも出産を後悔するようなことは一度も無かった。なぜなら、蘭は他の子と同じように笑うし、泣く。望まれて生まれてきた他の子たちと何の差も無いのだ。だから、私は何とかアルバイトや非正規雇用で食いつなぎながら、蘭を10歳まで育てた。
だが、ある日。蘭が不思議そうな様子で私に尋ねて来たのだ。
「お母さん、どうしてうちにはパパがいないの?」
私は答えられなかった。私が母と父の2人分の愛情をもって育てれば、蘭も寂しい思いをせずに済む……そんなものは私の思い込みだった。
周りが持っていて、自分が持っていない物……そのギャップに蘭も気付き始めていたのだ。
「パパと蘭はね、会わないほうがお互いに幸せなの。だから、ママは10年間、蘭を一生懸命育ててきたの」
「どうして?」
「蘭のパパはね、人の痛みも分からないようなすっごく悪い人なの。だから、蘭のパパには相応しくない悪人なの」
実の父が強姦魔の内の1人だなんて、蘭には絶対に知らせたくなかった。蘭が傷つくのは明白だし、何より私と蘭の世界に、あの悪魔たちを踏み入らせたくなんてない。
「……でも、それって、ママがそう思い込んでるだけなんでしょ?」
けれど、蘭の答えは私とは違った。
「私とパパの幸福は、私たちにしか分からない。それなのに、ママが幸福かどうかを勝手に決めるなんておかしいよ」
10歳の少女とは思えない程の口調で蘭は言った。蘭は、私の知らないところでとっくに大人になっていた。
けれど、それは蘭が新雑の残酷さを知らないから言える事なのだ。知ってしまえば、そこには後悔しかない。
「蘭……けれどね」
「私の幸福は、私が決めるよ。ママがそうだったみたいに」
かつて、私が両親に反対されながらも蘭を生んだとき、同じことを口にした。
今の私は、あの頃の自分を否定しているのと同じだった。あの時、自分の幸福を信じ、押し通したから今こうして蘭と暮らしている。
それが、両親たちの言っていた不幸なの? 断じて違う。私は、幸福だ。
「全く……蘭はママ似だね」
こうして私は娘・蘭のためにもう一度、あの悪魔たちと対峙する事を決意したのだ。
あの日、『蜥蜴の尻尾切り』のように私と蘭を見捨てて逃げたあの3人を探し出し……蘭の本当の父親を探し出すこと。
蘭が望むのなら、『蜥蜴の尻尾切り』なんて許さない。
『蜥蜴の尻尾切り』のように、あっけなく消えていったのだ。
私と、お腹の子を見捨てて。
それから、私は高校には進学せずにお腹の子を育てる決意をした。「私の幸福は私が決める」と豪語した私は、両親には勘当された。強姦されて身籠った子供を産むなんて、どうかしていると。
けれど、私はこの身体に宿った子の命を身勝手に奪ってしまう事の方がどうかしていると思った。だって、私に宿ったこの子は何も悪くないのだから。
そうして私はお腹の子を15歳で産んだ。女の子だったから『蘭』と名付けた。産んでからも出産を後悔するようなことは一度も無かった。なぜなら、蘭は他の子と同じように笑うし、泣く。望まれて生まれてきた他の子たちと何の差も無いのだ。だから、私は何とかアルバイトや非正規雇用で食いつなぎながら、蘭を10歳まで育てた。
だが、ある日。蘭が不思議そうな様子で私に尋ねて来たのだ。
「お母さん、どうしてうちにはパパがいないの?」
私は答えられなかった。私が母と父の2人分の愛情をもって育てれば、蘭も寂しい思いをせずに済む……そんなものは私の思い込みだった。
周りが持っていて、自分が持っていない物……そのギャップに蘭も気付き始めていたのだ。
「パパと蘭はね、会わないほうがお互いに幸せなの。だから、ママは10年間、蘭を一生懸命育ててきたの」
「どうして?」
「蘭のパパはね、人の痛みも分からないようなすっごく悪い人なの。だから、蘭のパパには相応しくない悪人なの」
実の父が強姦魔の内の1人だなんて、蘭には絶対に知らせたくなかった。蘭が傷つくのは明白だし、何より私と蘭の世界に、あの悪魔たちを踏み入らせたくなんてない。
「……でも、それって、ママがそう思い込んでるだけなんでしょ?」
けれど、蘭の答えは私とは違った。
「私とパパの幸福は、私たちにしか分からない。それなのに、ママが幸福かどうかを勝手に決めるなんておかしいよ」
10歳の少女とは思えない程の口調で蘭は言った。蘭は、私の知らないところでとっくに大人になっていた。
けれど、それは蘭が新雑の残酷さを知らないから言える事なのだ。知ってしまえば、そこには後悔しかない。
「蘭……けれどね」
「私の幸福は、私が決めるよ。ママがそうだったみたいに」
かつて、私が両親に反対されながらも蘭を生んだとき、同じことを口にした。
今の私は、あの頃の自分を否定しているのと同じだった。あの時、自分の幸福を信じ、押し通したから今こうして蘭と暮らしている。
それが、両親たちの言っていた不幸なの? 断じて違う。私は、幸福だ。
「全く……蘭はママ似だね」
こうして私は娘・蘭のためにもう一度、あの悪魔たちと対峙する事を決意したのだ。
あの日、『蜥蜴の尻尾切り』のように私と蘭を見捨てて逃げたあの3人を探し出し……蘭の本当の父親を探し出すこと。
蘭が望むのなら、『蜥蜴の尻尾切り』なんて許さない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる