最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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8巻

8-1





 地球で言えば十二月に入った頃。
 王都の王城にあつらえられたとある一室に、カーテンの隙間から朝日が差し込んだ。

「……んっ」

 直接光が当たったわけではないが、室内が明るくなったことをまぶたの奥の瞳が敏感に感じ取り、ベッドに眠る幼い少女の意識を覚醒に導こうとする。

「んん……むにゃむにゃ」

 しかし、少女の怠惰な心がそんな生理反応を無視し、再び微睡みの深淵へ堕ちようとして――。

「起きてください、ステファニー様!」
「きゃあああっ!」

 ――有無を言わさぬ暴挙によって、少女は目を覚ました。無理矢理布団を引っぺがされては眠るに眠れない。酷い起こし方である。

「……おはよ、マシェカさん」
「おはようございます、ステファニー様。さあ、すぐに御髪を整えましょう。今朝も凄まじい寝癖ですよ」
「……おねがいします」

 まだ半分眠そうな顔のまま、ステファニーと呼ばれた少女は、手を引かれて鏡台の前に腰掛けた。鏡に映るのは、せっかくの艶やかな水色の髪を大爆発させた哀れな少女。
 その名はステファニー・ランクドール。
 勇者や賢者に次ぐ希少職『聖女』を与えられた希有けうなる存在……なのだが、寝起きの彼女はどこにでもいるただの女の子だった。髪を整えながらコクリコクリと頭を揺らして眠気と戦っている。
 寝癖を直し、顔を洗い、改めて髪型を整えてもらう。その頃にはさすがのステファニーもしっかりと目を覚まし、身だしなみを整え終えた頃にはまさに聖女らしい高貴な少女がそこにいた。

「終わりました、ステファニー様」
「ありがとう、マシェカさん」
「我ながら惚れ惚れする出来映えです。大変お美しいですわ、ステファニー様」

 侍女のマシェカはうっとりした表情で鏡に映るステファニーを眺める。毎朝飽きないわねと苦笑しながら、ステファニーも自分の姿を見つめた。
 マシェカの手入れのおかげで艶やかな水色の長い髪はツーサイドアップにまとめられ、幼くも整った顔立ちのステファニーによく似合っている。
 純白のドレスローブに身を包んだ姿はまさに聖職者を体現したように神秘的で、この姿を毎日目にしているマシェカも毎度うっとりしてしまう美しさだ。
 そう思うのはマシェカだけではない。ステファニー自身でさえ、そう思えるほどだった。

(……年相応の見た目をしていたらって条件がつくけどね)

 ステファニーの年齢は十八歳。だというのに鏡に映る彼女の見た目は十歳前後。どんなに大きく見積もっても十二歳がせいぜいだろう。
 思わず零しそうになるため息を我慢し、ステファニーはマシェカへ話しかける。

「今日の予定は何だったかしら?」
「午前中は教会でお祈りを。午後からは家庭教師がいらっしゃる予定です」
「そう、分かったわ。では早速、朝食にしましょう。行くわよ、マシェカさん」
「畏まりました。ですがステファニー様、私のことはどうぞマシェカとお呼びください」
「もう、いつも言ってるでしょう。二人きりのときくらい好きに呼ばせてちょうだい。堅苦しいのは嫌いなのよ」

 ステファニー・ランクドール。今でこそ聖女として王城で暮らしている彼女だが、元々は王都の貧民街に暮らす孤児であった。
 また、前世の名前を清水真理子しみずまりこという。彼女は元日本人の転生者だ。身分制度のない社会で暮らした記憶のある彼女にとって、王城での生活は三年経った今でもなかなか慣れないものだった。


       ◆ ◆ ◆


 午前中に教会でお祈りを済ませ、昼食を終えると家庭教師が来るまでの短い時間がステファニーの自由時間だった。
 一人になりたいからと、マシェカにも部屋から退出してもらうとステファニーはスカートのポケットに隠し持っていたコンパクトミラーを開いた。
 小さな鏡を覗き込む。しかし、そこにステファニーの顔は映っていない。

『ごきげんよう、ステファニー』

 鏡に映る少女から鈴の音のような愛らしい声が響く。ストロベリーブロンドの髪をなびかせる神秘的な美しさを持つ幼い少女だ。

「ごきげんよう、美神びしん

 その名は美神。この世界を創造せし十一の神の一人……が作り出した美神の複製体である。
 神々は地上で直接活動することはできない。美神はステファニーとコンタクトを取るため、自身の複製体をこのコンパクトミラーの中に生み出したのだ。

「もうすぐ家庭教師が来るから、そのタイミングで入れ替わりましょう」
『よろしくてよ。では、わたくしが与えた力を使うとよろしいわんぺ』
「そのつもりよ。独立スキル『ミラードミラージュ』発動」

 ステファニーがそう呟くと、コンパクトの鏡から光が溢れ出した。光はステファニーを包み込み、その姿を変貌させていく。
 やがて光が収まると、そこにはステファニーと、見たことのない少女の姿があった。
 年齢はステファニーと同じくらいだろうか。ロングヘアのステファニーとは対照的に露草色つゆくさいろの髪は肩に届かないくらい短い。しかし、瞳の色はステファニーと同じ金色に輝いている。
 彼女は一体何者なのか。露草色の髪の少女の手には先程までステファニーが手にしていたはずのコンパクトミラーが収まっていた。

「うん、問題なさそうね。そっちはどう、美神」
「ええ、よろしくてよ。あなたの代わりに見事家庭教師をぎゃふんと言わせてみせるわ」

 美神と呼ばれ、当たり前のように答えたのはステファニーの姿をした少女だった。どうやら、独立スキルの力によって美神はステファニーの姿に変身して鏡から飛び出したらしい。

「一応言っとくけど、私の成績より良くも悪くもならないでね。後が困るんだから」
「承知しているわ。美とは偽ることに通じている。心配しなくともわたくしはきっちりステファニーを演じて差し上げるわ。ふふふ、あなたに変身していると語尾が崩れなくて素敵ね」

 優雅に微笑むステファニーに化けた美神は、本物の自分よりも美少女に見えてちょっと悔しいと思ってしまうステファニーだ。

「まあ、いいわ。私はあなたに頼まれた仕事をこなしてくるから、後はお願いね。もう一回『ミラードミラージュ』!」

 コンパクトの鏡から再び光が溢れ、露草色の髪の少女に変身したステファニーを光が包み込んでいく。光が触れたところから、ステファニーの姿が見えなくなり、最後には彼女の姿は完全に景色に溶け込んでしまった。

「透明になれるのは便利よね。普通のスキルじゃ看破かんぱできないんでしょ?」
「独立スキルは神々の権能けんのうそのもの。たとえ固有スキルであってもそう簡単に見抜くことはできないわ。安心して行ってらっしゃい、ステファニー」
「この姿の時はステラって呼んでちょうだい。じゃあ、行ってくるわね」
「よろしくお願いしますね、ステラ。あなたと私の目的を叶えましょう。そう――」
「「全ては美しくあるために」」

 ステファニーに変身した美神は、誰もいないはずの方向に向かって「行ってらっしゃい」と小さく手を振るのだった。


       ◆ ◆ ◆


「ヒビキ、大丈夫?」
「うん。エマリアさんは冒険者ギルドをお願い」

 心配そうにこちらを見つめるエマリアさんに俺、真名部まなべ響生ひびきは笑顔を返し、頷いた。


 姉さんこと理神りしん聖獣せいじゅうを捜すため訪れた、ハバラスティア王国の王都バスティオン。王都で家を借りた翌日、神様に引っ越しの挨拶あいさつをするという王都の慣習に従い、エルフの冒険者エマリアさん、魔族の荷運ポーターびユーリ、獣人の勇者クロードを連れて美神びしん教会を訪問した。そこでまさかの美神と思われる少女と遭遇した。
 俺の技能スキル『世界地図ワールドマップ』にもその存在は表示されず、本人の可能性が高い。しかし、神々はその強大な力ゆえに、地上に降り立てば多大な影響を与えるため、原則神域しんいきから出ることは許されないはずなんだけど……彼女は本当に美神なのだろうか。
 サポちゃん、どう思う? 美神教会を出て道を歩きながら、俺の中にいる理神の聖獣、サポちゃんに尋ねた。


『サポちゃんより報告。理論上はありえません。しかし、この世に絶対は存在しません。サポちゃんより以上』


 それって、結局分からないってこと?


『サポちゃんより報告。回答は。現状、確認手段がありません。サポちゃんより以上』


 うーん、そっか。だったら、考えても無駄かなぁ。

「やっぱり私とユーリも護衛としてついていった方がいいんじゃない?」

 心配そうな顔でエマリアさんが提案した。俺は首を横に振って答える。

「何かするつもりなら、遭遇した時に襲い掛かってきているはずだよ。彼女が何者か分からないけど、今すぐ何かされるってことはないと思う。それに、あんまり敵って感じがしなかったし」
「うーん、ヒビキの勘を当てにして大丈夫かしら?」

 エマリアさんは腕を組んで悩み出した。信用ないなぁ……。

「大丈夫だよ、エマリアさん。俺だってダンジョンの中で結構レベルアップして多少は強くなったんだからね。それに、クロードが護衛してくれるから大丈夫さ。ね、クロード?」
「ウォンッ!」

 大柄で目立つ獣人のクロードは現在、正体を隠すために魔法道具『変装リング』で黒いおおかみの姿に変身している。変身中は人間の言葉が話せないので、吠えることで返事をしていた。

『お任せください、ヒビキ様。何が来ようと必ずお守りいたします!』

 俺の脳裏のうりにクロードの声が響く。右の前足から伸びる『主従繋糸リレイションパス』の糸が、俺の右手の甲に繋がったのだ。『主従繋糸』の糸は他の人には見えない。クロードが狼に変身していても、これのおかげで俺とクロードはこっそり言葉を交わすことができた。
 姉さん成分を取り込んだせいで女性化してしまった俺だが、神様の力のおかげか『主従繋糸』の接続がかなり安定するようになった。近距離での交信ならほとんど制限を感じない。
 男に戻ってもこの状態が続いてくれるとありがたいんだけど。


『サポちゃんより報告。ヒビキ様が男性に戻っても理神様の力は残るので問題ありません。サポちゃんより以上』


 そっか。教えてくれてありがとう、サポちゃん!


『サポちゃんより報告。謝意を受諾。サポちゃんより以上』


「それじゃあ、ユーリ、エマリアさんを頼むね」
「はい、任せてください。さあ、行きましょう、エマリアさん」
「ええ、分かったわ、ユーリ。じゃあ、行ってくるわね、ヒビキ」
「行ってらっしゃい」

 エマリアさんとユーリは冒険者ギルドで活動し、冒険者の視点から聖獣捜しの情報収集を手伝ってくれる予定だ。まだ心配そうにしているけど、ユーリに手を引かれてエマリアさんは冒険者ギルドへ向かった。
 手を振って二人を見送る。姿が見えなくなると、俺は隣に立つクロードへ声を掛けた。

「俺達も行こうか、商業ギルドへ」
「ウォンッ!」

 多分「はい!」と答えたのだろう。快活に吠えるクロードとともに、俺は商業ギルドへ向かう。ギルドで鑑定士として働きながら情報収集をするためだ。
 ……ちなみに、クロードの背に乗るのはやめました。だって恥ずかしいんだもん!


       ◆ ◆ ◆


「いらっしゃいませ、商業ギルド王都東方支部へようこそ」
「こんにちは、イエンナさん」
「はい、こんにちは。ヒビカ様。クロちゃんもこんにちは」
「ウォン!」

 王都では「ヒビカ」という偽名で活動する俺に、ニコリと微笑ほほえむ商業ギルドの受付嬢、イエンナさん。深緑色の長いストレートヘアが今日も美しい。

「今日は如何いかがなさいました?」
「仕事の確認に来ました。鑑定士の仕事はありますか?」
「まあ、早速仕事を受けていただけるのですか。もちろんございますよ。お受けになりますか?」

 ポンと手を合わせて嬉しそうに微笑むイエンナさん。しとやかな笑顔が大変美しい。

「はい、お願いします」
「ではすぐに準備をいたしますので、作業部屋へ案内いたしますわ。少々お待ちください」

 イエンナさんは受付の奥へ向かい、他の従業員と話をした。相手が頷くとこちらへ戻ってくる。どうやら受付を交代してもらったようだ。カウンターから外に出て、俺を案内してくれるらしい。

「お待たせしました。では、参りましょう」
「クロも一緒で大丈夫ですか?」
「クロちゃんもですか。えっと……」

 動物が同伴する機会が少ないのか、イエンナさんは少し悩んだ。
 そして周囲へ視線を向けると……商人達が勢いよく首を左右に振っている姿が目に映った。交代で入った受付嬢も同じ仕草をしている。
 まあ、そうだよね。普通の狼でも怖いのに、クロは一般的な狼より二回りは大きな体格をしている。主人である俺から離れて放置されては困るだろう。
 イエンナさんもそれを理解したのか、眉尻を下げて微笑み、コクリと頷く。

「クロちゃんもご一緒にお願いします」
「分かりました。行こう、クロ」
「ウォン!」

 クロードが嬉しそうに吠えた。ついさっき美神教会でも置き去りにされたところなので、そうならなくて安心したようだ。
 俺とクロードはイエンナさんに案内されて、玄関ホールの奥にある階段から二階へ向かった。


「こちらにお掛けください」

 案内されたのは、応接室のようなちょっと高級そうな部屋だった。商談用の個室だろうか。
 言われるままにソファーに腰掛け、クロードは俺の隣にちょこんと座った。
 ローテーブルを挟んだ向かいのソファーにイエンナさんが座り、バインダーに挟まれた用紙とペンが俺の前に置かれた。

「これは?」
「商業ギルドで採用している公式の鑑定書の用紙です。こちらに鑑定結果をご記入いただきます」
「じゃあ、私が書いたこの用紙が依頼主に渡されるんですか?」
「人によりますね。匿名とくめいをご希望の場合は、この用紙の内容をもとに商業ギルドの名で代筆することも可能です。ヒビカ様のスキルレベルは鑑定判別機で確認済みですから問題ありません」
「それでお願いします」

 ヒビカは偽名だからね。あまり不特定多数に名前が広がるのはよくないだろう。

「では、品物をお持ちしますね」

 イエンナさんはそう言うと、安心したようにホッと息をついた。

「それにしてもヒビカ様が来てくださって本当に助かりました。現在、王都にダニエル様がいらっしゃらないので、未鑑定の品がどんどん増えていまして」
「どんどん増えて? どれくらいあるんですか? 五十個くらい?」
「先週、百を超えました」
「ひゃく!?」

 まさかの三けたに驚いてしまう。イエンナさんも遠い目をしていた。

「スキルレベル1や2で鑑定できない品ってそんなに多いんですか?」

 今まで『鑑定』スキルを使ってきて鑑定できなかった物なんてあっただろうか。俺が疑問を感じながら首を傾げると、イエンナさんは頬にそっと手を添えて困ったような表情を浮かべた。

「そういった品もあるにはあるのですが、どちらかというとスキルレベル3以上の『鑑定』スキルで鑑定してもらったという結果がほしいようなんです」

 どうやら溜まっている品々の多くは、スキルレベル1や2で十分鑑定できる物らしい。鑑定品をギルドに預けているのは多くが商人で、内訳は骨董品こっとうひんやダンジョン産の魔法道具など。
 販売するにあたって鑑定書があった方が当然信用されやすく、彼らの理想としては王国最高の鑑定士ダニエル・カーターが書いた鑑定書を添え、商品に立派なはくを付けたいのだそうだ。

「そんな面倒な。お断りできないんですか」
「困ったことに、そういうところに限って大商会からの依頼だったり、商人の取引相手が貴族で、高レベルの鑑定書をお求めになったりするものですから、なかなか断りづらいのです。ダニエル様は割と気軽に鑑定してくださるので、私達もつい甘えてしまって……気が付いたら」
「百個以上も溜まっちゃったんですね」

 イエンナさんは小さくため息をつくとコクリと頷いた。

「でも、私の鑑定で大丈夫なんでしょうか。ダニエル様じゃないんですけど」
「問題ありません。先方には『スキルレベル3以上の『鑑定』スキルによる鑑定書』というかたちで依頼を受注していますので。一代限りの準男爵じゅんだんしゃくとはいえ、ダニエル様は正式な王国貴族です。一介の商人がダニエル様を指名して依頼することなど許されませんから」

 とはいえ、本当にダニエルさんでないとダメな品も一部あるそうだ。取引相手の貴族の爵位が高いとそういうこともあるらしい。だけど、大半は俺が鑑定しても問題ない品のようだ。

「分かりました。でも、一度にたくさんはやりたくないので少しずつでもいいですか?」
「ええ、もちろんです。そうですね、一回につき五品ずつで如何でしょう」

 イエンナさんの説明によると、鑑定して結果を記入して、もろもろ確認等の手続きをやったら、大体二、三時間くらいはかかるそうだ。
 王都に来た目的は理神の聖獣を捜すことだから、一日中商業ギルドに拘束されるのは避けたい。この街を見て回ったりもしなきゃいけないし。お金に困っているわけでもないので、鑑定の仕事はそれくらいが妥当じゃないだろうか。
 俺はイエンナさんの提案を了承した。

「ありがとうございます、では早速鑑定品をご用意しますね」

 そう言って、イエンナさんはこの部屋の脇にある扉に向かった。
 後で説明されたけど、この部屋の隣が商人達から預かった鑑定待ちの品々を保管する部屋になっているそうだ。確かに、鑑定を必要とする品々をいちいち遠くから運んでいたのでは安全面が心配になる。その点、隣の部屋を行き来するだけなら安心だ。
 これらの品々を鑑定するのがダニエルさんであることが多いので、ここは貴族向けに用意された部屋らしい。

「では、私はそちらの机で仕事をしておりますので、鑑定が終わったらお知らせください」

 俺の鑑定が終わるまでイエンナさんもこの部屋に同席するそうだ。高価な品を扱っているのだから当然だろう。俺は了承すると早速鑑定に取り掛かった。


       ◆ ◆ ◆


【技能スキル『鑑定レベル3』を行使します】
【 名 前 】アユタヤ姫の彫像ちょうぞう
【 大きさ 】体高百センチメートル
【 素 材 】銀製(ミスリル含有率がんゆうりつ十二パーセント)
【 基準額 】金貨八百八十枚
【 備 考 】百四十七年前に創られた彫像。百二十年前に滅んだルオルエン王国最後の王女、アユタヤ姫の十五歳の誕生日を記念して国王が贈った品。
 百年以上経過しても黒ずみが発生していないことから純ミスリル製と勘違いされることもあるが、ミスリルが十パーセント以上含有されている銀は酸化しないため、美しい銀色の光沢こうたくを維持することができる。
 素材が純ミスリルであった場合の基準額は金貨三千枚。


【技能スキル『鑑定レベル3』を行使します】
【 名 前 】圧縮袋
【 大きさ 】体積五リットル
【 素 材 】麻布のような生地(詳細不明)
【 基準額 】金貨五百枚
【 備 考 】ダンジョン産の魔法道具。実際の体積より十倍の収納が可能な魔法の袋。
 収納品の重量を百分の一に軽減する。時間停止機能なし。
 普通の麻布よりは丈夫だが、破壊できないわけではない。袋が破損した場合、中身を取り出せなくなる点に注意が必要。


「ふぅ、こんな感じかな」

 イエンナさんが用意した品々を鑑定し、鑑定書に詳細を記入していく。
 美術品やら魔法道具やら色々あり、今書いた二つはかなりの高額品だ。残りの三つは金貨百枚未満ってところ。
 今さらになって『鑑定』スキルについて少しだけ分かったことがある。どう鑑定したいかで内容に若干の差異が出るところだ。
 今まで物品の鑑定は『これは何だろう?』と思って鑑定していたけど、今回は『これはいくらぐらいする物だろう?』というイメージで鑑定した。すると、それに合わせた鑑定結果を得ることができた。今まで『基準額』とか出たことないもんね。
 一応、正面からだけじゃなくて他の角度からも鑑定してみたりもした。見る場所が変われば鑑定結果にも変化が生じるかもしれないからだ。今回は特に問題ないようだ。

「よし、終わり!」
『お疲れ様です、ヒビキ様』

 ずっと隣で俺を見守っていたクロードがねぎらいの言葉を掛けてくれた。正直に言えば、五品くらい鑑定した程度で疲れたりはしないけど、まあ、様式美ってやつだね。
 しっかり丁寧にやったからか、たった五品の鑑定に一時間近くかかってしまった。鑑定書に綺麗きれいな字で書かなくちゃいけないから、そっちに時間が取られた方が大きいけど。

「終わりましたか。拝見いたします」

 俺の様子に気付いたイエンナさんがやってきて、鑑定書の内容を確認していく。一枚一枚丁寧に内容を読み込み、ゆっくりと頷きながら五枚の鑑定書を読み終えた。

「ありがとうございます、ヒビカ様。こちらは今から代筆処理しますので少々お待ちください。その前にお茶をおれしますね」

 お茶を淹れてくれると、イエンナさんは俺の鑑定結果を書き写し始めた。二度手間ではあるけど、匿名手続きをするので俺の鑑定書をそのまま使うわけにはいかないそうだ。
 しばらくして、作業を終えたイエンナさんが鑑定書を俺の前に差し出した。

「お待たせしました。こちら、内容に不備がないかご確認ください」

 どうやら鑑定士として代筆内容に間違いがないか毎回確認しなければならないらしい。確かに、この時間を考えると一回の鑑定で五品くらいに抑えておいた方がいいだろう。あまり多いとイエンナさんの負担が大きいし、俺の待ち時間も長くなる。
 内容に問題がないことを確認すると、俺は代筆鑑定書をイエンナさんに返した。

「ありがとうございます。では、本日の鑑定は以上となります。何か質問はございますか」
「これからも商業ギルドに来たらイエンナさんに声を掛ければいいんでしょうか?」
「基本的には私にお声掛けください。もちろん、私が不在の場合はその限りではありませんが」
「毎日は無理ですけど、来る時は午前中で大丈夫ですか?」
「それであれば大方私がご対応できるかと」
「では、それでお願いします」
「承知しました。これからよろしくお願いいたします、ヒビカ様」
「こちらこそよろしくお願いします、イエンナさん」

 イエンナさんと握手を交わし、俺とクロードは商業ギルドを後にした。
 ちなみに、一品あたりの鑑定代は金貨五枚らしい。日本円で五万円くらいかな? それが高いのか安いのか判断が難しいけど……あと一回鑑定の仕事を受ければ今月の家賃代がチャラになるね。
 金貨五十枚って大金のはずなんだけど……。

「この世界に来てから、金銭感覚がおかしくなっちゃいそう。日本に戻ってから大丈夫かなぁ?」
『どうかされましたか、ヒビキ様?』
「ううん、何でもない。それじゃあ、クロード、お昼は屋台で買い食いをして、午後から王都を散歩しようか。聖獣を捜さないとね」
かしこまりました、ヒビキ様。歩き疲れた際は私の背にお乗りください』
「できれば避けたいところだけど……その時はお願いします」

 その場合、肉体的疲労のうえに羞恥しゅうちという精神的疲労も重なるので、できれば回避したいところである。頑張れ、俺!


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