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第207話 エマリアさんは空気が読めない
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「せっかく響生と再会したばかりなのに、どうしてとんぼ返りしないといけないんだ!」
「いやー、俺も会って早々別れ話なんてしたくないけどさ、あんなこと聞かされるとなぁ」
「大樹、何かあったの?」
「……ここに転移する直前にダンジョンマスターが言ってたんだよ。ついさっき、クリューヌのダンジョンが攻略されたって」
クリューヌ王国のダンジョンが攻略された? 状況的に考えれば――。
「本命は羽鳥達のパーティーだろうな。でも……」
大樹が言い淀み、その視線がパトリシアさんへ向けられる。彼女は悲しげに首を左右に振った。
「知っての通り、転移してきたのはあなた達だけよ」
「サポちゃんより報告。テラダイナスに対し『害意あり』を意味します。サポちゃんより以上」
いつの間にか、サポちゃんが俺の膝の上に腰掛けていた。全員が瞠目する。
転移の間で一度実体化したサポちゃんだったが、すぐに俺の中に戻っていた。実体化はそれなりに消耗するらしく、聖獣としてまだ不完全な彼女は俺の中にいる方が楽らしい。
「サポちゃんより報告。以下はダンジョンマスターの同期情報です。攻略されたのはクリューヌ王国南東、第十二ダンジョン。攻略者は六名。サポちゃんより以上」
第十二ダンジョンとはつまり、姉さんが十二番目に創造したダンジョンということらしい。
製造番号五十番以下のダンジョンは、初期に作られたこともあり攻略難度は低いそうだ。
「あんまり簡単に攻略されても面白くないわよね♪」
――という姉さんの粋な(?)計らいで、ダンジョンが地上で発見され始める前に、該当の入り口はしっかりきっちり凍結封印されたらしい、のだが……。
「姉さんが死んだことで入り口の凍結が解除された?」
「サポちゃんより報告。回答は是。山や森などに隠匿されていましたが、一部が発見され始めています。ヒビキ様が攻略していたダンジョンも、第十八ダンジョンです。サポちゃんより以上」
ダンジョンの平均階層数は五十から八十であるのに対し、俺達が挑んだダンジョンは全三十階層と、平均よりも随分少ない。といっても、全然楽ではなかったけどね!
まあ、前から少し疑問だったから、その答えが分かっただけでもよしとしよう。
「サポちゃんより報告。第十二ダンジョンの攻略者六名のうち『害意なし』、精神状態が正常であると判断できた者は一名のみ。心神喪失状態の者が四名、残り一名はダンジョンマスターその3の心理探査では状態を把握不能。不確定要素過多のため、ダンジョンマスターは彼らを不合格とし『試しの間』からの強制排除を実行。ダンジョン入り口へ転移させました。サポちゃんより以上」
サポちゃんは言うだけ言うと、再び俺の中へと帰っていった。
えーと……これがクラスのみんなだとすると……まずいのでは? 心神喪失って……。
思考が顔に出ていたのか、俺の顔を見た大樹が苦笑いを浮かべていた。
「な、どう考えても放置できそうにないだろ? だから、俺達はクリューヌに戻ろう、先生」
「俺からもお願い、候兄ちゃん。俺は大丈夫だから」
「ぐぬぬぬ……響生に頼まれては、仕方が、ない、が……ぐぬぬぬぬぬ!」
候兄ちゃんは渋々……ものすごーく渋々、クリューヌ帰還に同意してくれた。
俺だって再会したばかりのみんなとすぐに離れるなんて嫌だし、できることならみんなと一緒にクリューヌに向かいたいとすら思う。でも、俺には聖獣探しという役目がある。
以前、パトリシアさんと話し合った際、異世界召喚には神が関わっている可能性が高いと言われた。それが本当なら、何かを企んでいるらしい第二王女と神はグルかもしれない。
それに対抗するためにも、『理神』である姉さんの復活は急務だ。聖獣復活が俺にしかできない以上、クラスのみんなは大樹達に任せるほかない。
といっても、今日明日ですぐに出発するというわけではない。
約四ヶ月におよぶ大陸横断の旅に加えて、一ヶ月のダンジョン攻略。計五ヶ月間、大樹達はほとんど休みなしの強行軍だ。旅の準備も含めて、ある程度の休息が必要だった。
「うーん、このダンジョン攻略の報酬で転移できればすぐなんだけどなー」
大樹の手にあるのは瑠璃色の宝石『ポータルストーン』だ。しっかりきっちり最下層までダンジョンを踏破した大樹達は、ダンジョンマスターから報酬の魔法道具を手に入れていた。
もらった宝石は、クリスタルホーンラビットのシアを含めて九個。従魔にもあげるとか、ダンジョンマスターは太っ腹である……俺達にもおまけしてくれていたらもっと太っ腹だったのに。
ちなみに、現在シアはクロードの頭上にて彼の毛並みを堪能中だ。クロードは苦笑しつつも、なんだかんだで彼女(シアはメスらしい)を受け入れていた。
……澄んだ瞳が大変美しく魅力的なんだとか――意外とご執心である。
まあ、その話は置いといて。『ポータルストーン』は一個につき転移先を一箇所指定でき、使用者は元いた場所と指定座標を往復できる。
回数制限は一日三回まで。これは時刻が二十四時になった時点でリセットされるそうだ。
仲間同士の宝石を同期させて、自分以外が指定した座標へも転移可能。
座標登録をするには、宝石を該当地点へ運ぶ必要があるため、残念ながら大樹達がこれでクリューヌへ転移することはできない。
同期させた宝石の数だけ、随伴転移も可能。例えば九個の宝石を同期させれば、エマリアさんが転移する際に、最大八名まで一緒に転移できる。嬉しいことに、宝石を持たない俺達も対象だ。
ただし、許可を得ていない者の迷宮都市への転移は不可能らしい。
「宝石のままでは携帯しづらいでしょう。滞在中に指輪やネックレスに加工してはどうかしら。テラダイナスには腕のいい細工師もたくさんいるわよ」
パトリシアさんの勧めで後日、大樹達は細工師のところへ訪問することとなった。
クレアンナさんの見立てでは、九人分の宝石の加工には二週間くらい掛かるだろうとのこと。話し合いの結果、とりあえずその二週間を大樹達の休息と旅の準備期間としてテラダイナスに滞在することが決まった。状況次第で予定は変更するそうだ。
俺達も大樹達と合わせて地上に戻ることにした。どのみち地上に戻ったら全員ローウェルに向かうので、一緒の方が互いに安心で安全だという結論に至ったわけだ。
大樹達も滞在中はパトリシアさんのお屋敷でお世話になるらしい。ずっとそうしてくれてもいいそうだが、希望するなら今後は滞在用の物件を買うなり借りるなり好きにしていいとも言われた。
「さて、今日はこのくらいにしておきましょうか」
パトリシアさんの言葉で窓に目をやると、既に空は赤く染まっていた。いつの間に……。
言われてみればお腹がすいたな。みんなも同じだったようで、会議はお開きになっ――。
「ちょっといいですか?」
なぜかエマリアさんが真剣な面持ちで手を上げた。まだ会議は終わらないらしい。
「実は、ずっと気になっていたことがあるんです」
「まあ、一体何かしら?」
パトリシアさんも思い浮かばないのか、きょとんとした顔で首を傾げるばかり。この世界のこととか確かに疑問がたくさんあるが、彼女の疑問が何なのか、俺にも心当たりは浮かばなかった。
そしてエマリアさんは――俺の方を向いた。
「エマリアさん?」
それから数秒の沈黙……そして、彼女は口を開いた。
「ヒビキ。あなた、女性になってしまったとはいえ……どうして服まで女物を着ているの?」
「「「あー、言っちゃった……」」」
エマリアさんの問い掛けに、俺は口をパクパクさせるばかりで、答えることができなかった。
あれです。パトリシアさんと交わした約束『お屋敷では女性服』のせいです……ぐふっ!
お屋敷に戻ったら、メイドさん達にあれよあれよと純白のワンピースを着せられたのですよ!
大樹達は……バルス兄貴達ですら、何かを察したようにそっと目を逸らして何も言わなかった(言わないでいてくれた)のに、この人は!
エマリアさんは本当に空気が読めない。天然のディスりっ子め! 男の名誉が重症です!
「まさか、体だけでなく心まで女になってしまっていたなんて! 私はどうすれば!?」
「違うから! 全然全く違うから!」
「あら、よく似合っているわよ、ヒビキ君」
「だからパトリシアさん! それ、嬉しくないんだってばあああああああああ!」
会議室に悲しい絶叫が木霊した……サポちゃん、ヘルプ! 早く元に戻してえええええ!
『サポちゃんより報告。要請を受諾。対応を開始します。サポちゃんより以上』
お願いしますううう! ……とりあえず、エマリアさんの誤解はきっちり解いておいた。
「いやー、俺も会って早々別れ話なんてしたくないけどさ、あんなこと聞かされるとなぁ」
「大樹、何かあったの?」
「……ここに転移する直前にダンジョンマスターが言ってたんだよ。ついさっき、クリューヌのダンジョンが攻略されたって」
クリューヌ王国のダンジョンが攻略された? 状況的に考えれば――。
「本命は羽鳥達のパーティーだろうな。でも……」
大樹が言い淀み、その視線がパトリシアさんへ向けられる。彼女は悲しげに首を左右に振った。
「知っての通り、転移してきたのはあなた達だけよ」
「サポちゃんより報告。テラダイナスに対し『害意あり』を意味します。サポちゃんより以上」
いつの間にか、サポちゃんが俺の膝の上に腰掛けていた。全員が瞠目する。
転移の間で一度実体化したサポちゃんだったが、すぐに俺の中に戻っていた。実体化はそれなりに消耗するらしく、聖獣としてまだ不完全な彼女は俺の中にいる方が楽らしい。
「サポちゃんより報告。以下はダンジョンマスターの同期情報です。攻略されたのはクリューヌ王国南東、第十二ダンジョン。攻略者は六名。サポちゃんより以上」
第十二ダンジョンとはつまり、姉さんが十二番目に創造したダンジョンということらしい。
製造番号五十番以下のダンジョンは、初期に作られたこともあり攻略難度は低いそうだ。
「あんまり簡単に攻略されても面白くないわよね♪」
――という姉さんの粋な(?)計らいで、ダンジョンが地上で発見され始める前に、該当の入り口はしっかりきっちり凍結封印されたらしい、のだが……。
「姉さんが死んだことで入り口の凍結が解除された?」
「サポちゃんより報告。回答は是。山や森などに隠匿されていましたが、一部が発見され始めています。ヒビキ様が攻略していたダンジョンも、第十八ダンジョンです。サポちゃんより以上」
ダンジョンの平均階層数は五十から八十であるのに対し、俺達が挑んだダンジョンは全三十階層と、平均よりも随分少ない。といっても、全然楽ではなかったけどね!
まあ、前から少し疑問だったから、その答えが分かっただけでもよしとしよう。
「サポちゃんより報告。第十二ダンジョンの攻略者六名のうち『害意なし』、精神状態が正常であると判断できた者は一名のみ。心神喪失状態の者が四名、残り一名はダンジョンマスターその3の心理探査では状態を把握不能。不確定要素過多のため、ダンジョンマスターは彼らを不合格とし『試しの間』からの強制排除を実行。ダンジョン入り口へ転移させました。サポちゃんより以上」
サポちゃんは言うだけ言うと、再び俺の中へと帰っていった。
えーと……これがクラスのみんなだとすると……まずいのでは? 心神喪失って……。
思考が顔に出ていたのか、俺の顔を見た大樹が苦笑いを浮かべていた。
「な、どう考えても放置できそうにないだろ? だから、俺達はクリューヌに戻ろう、先生」
「俺からもお願い、候兄ちゃん。俺は大丈夫だから」
「ぐぬぬぬ……響生に頼まれては、仕方が、ない、が……ぐぬぬぬぬぬ!」
候兄ちゃんは渋々……ものすごーく渋々、クリューヌ帰還に同意してくれた。
俺だって再会したばかりのみんなとすぐに離れるなんて嫌だし、できることならみんなと一緒にクリューヌに向かいたいとすら思う。でも、俺には聖獣探しという役目がある。
以前、パトリシアさんと話し合った際、異世界召喚には神が関わっている可能性が高いと言われた。それが本当なら、何かを企んでいるらしい第二王女と神はグルかもしれない。
それに対抗するためにも、『理神』である姉さんの復活は急務だ。聖獣復活が俺にしかできない以上、クラスのみんなは大樹達に任せるほかない。
といっても、今日明日ですぐに出発するというわけではない。
約四ヶ月におよぶ大陸横断の旅に加えて、一ヶ月のダンジョン攻略。計五ヶ月間、大樹達はほとんど休みなしの強行軍だ。旅の準備も含めて、ある程度の休息が必要だった。
「うーん、このダンジョン攻略の報酬で転移できればすぐなんだけどなー」
大樹の手にあるのは瑠璃色の宝石『ポータルストーン』だ。しっかりきっちり最下層までダンジョンを踏破した大樹達は、ダンジョンマスターから報酬の魔法道具を手に入れていた。
もらった宝石は、クリスタルホーンラビットのシアを含めて九個。従魔にもあげるとか、ダンジョンマスターは太っ腹である……俺達にもおまけしてくれていたらもっと太っ腹だったのに。
ちなみに、現在シアはクロードの頭上にて彼の毛並みを堪能中だ。クロードは苦笑しつつも、なんだかんだで彼女(シアはメスらしい)を受け入れていた。
……澄んだ瞳が大変美しく魅力的なんだとか――意外とご執心である。
まあ、その話は置いといて。『ポータルストーン』は一個につき転移先を一箇所指定でき、使用者は元いた場所と指定座標を往復できる。
回数制限は一日三回まで。これは時刻が二十四時になった時点でリセットされるそうだ。
仲間同士の宝石を同期させて、自分以外が指定した座標へも転移可能。
座標登録をするには、宝石を該当地点へ運ぶ必要があるため、残念ながら大樹達がこれでクリューヌへ転移することはできない。
同期させた宝石の数だけ、随伴転移も可能。例えば九個の宝石を同期させれば、エマリアさんが転移する際に、最大八名まで一緒に転移できる。嬉しいことに、宝石を持たない俺達も対象だ。
ただし、許可を得ていない者の迷宮都市への転移は不可能らしい。
「宝石のままでは携帯しづらいでしょう。滞在中に指輪やネックレスに加工してはどうかしら。テラダイナスには腕のいい細工師もたくさんいるわよ」
パトリシアさんの勧めで後日、大樹達は細工師のところへ訪問することとなった。
クレアンナさんの見立てでは、九人分の宝石の加工には二週間くらい掛かるだろうとのこと。話し合いの結果、とりあえずその二週間を大樹達の休息と旅の準備期間としてテラダイナスに滞在することが決まった。状況次第で予定は変更するそうだ。
俺達も大樹達と合わせて地上に戻ることにした。どのみち地上に戻ったら全員ローウェルに向かうので、一緒の方が互いに安心で安全だという結論に至ったわけだ。
大樹達も滞在中はパトリシアさんのお屋敷でお世話になるらしい。ずっとそうしてくれてもいいそうだが、希望するなら今後は滞在用の物件を買うなり借りるなり好きにしていいとも言われた。
「さて、今日はこのくらいにしておきましょうか」
パトリシアさんの言葉で窓に目をやると、既に空は赤く染まっていた。いつの間に……。
言われてみればお腹がすいたな。みんなも同じだったようで、会議はお開きになっ――。
「ちょっといいですか?」
なぜかエマリアさんが真剣な面持ちで手を上げた。まだ会議は終わらないらしい。
「実は、ずっと気になっていたことがあるんです」
「まあ、一体何かしら?」
パトリシアさんも思い浮かばないのか、きょとんとした顔で首を傾げるばかり。この世界のこととか確かに疑問がたくさんあるが、彼女の疑問が何なのか、俺にも心当たりは浮かばなかった。
そしてエマリアさんは――俺の方を向いた。
「エマリアさん?」
それから数秒の沈黙……そして、彼女は口を開いた。
「ヒビキ。あなた、女性になってしまったとはいえ……どうして服まで女物を着ているの?」
「「「あー、言っちゃった……」」」
エマリアさんの問い掛けに、俺は口をパクパクさせるばかりで、答えることができなかった。
あれです。パトリシアさんと交わした約束『お屋敷では女性服』のせいです……ぐふっ!
お屋敷に戻ったら、メイドさん達にあれよあれよと純白のワンピースを着せられたのですよ!
大樹達は……バルス兄貴達ですら、何かを察したようにそっと目を逸らして何も言わなかった(言わないでいてくれた)のに、この人は!
エマリアさんは本当に空気が読めない。天然のディスりっ子め! 男の名誉が重症です!
「まさか、体だけでなく心まで女になってしまっていたなんて! 私はどうすれば!?」
「違うから! 全然全く違うから!」
「あら、よく似合っているわよ、ヒビキ君」
「だからパトリシアさん! それ、嬉しくないんだってばあああああああああ!」
会議室に悲しい絶叫が木霊した……サポちゃん、ヘルプ! 早く元に戻してえええええ!
『サポちゃんより報告。要請を受諾。対応を開始します。サポちゃんより以上』
お願いしますううう! ……とりあえず、エマリアさんの誤解はきっちり解いておいた。
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