最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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6巻

6-3

「先生……?」
「……俺はここに残ろうと思う。やはり生徒達が心配だ。もし本当に王女が悪だくみを働いているんだとしたら、教師である俺がみんなを守ってやらないと」
「先生、それ本気で言ってるのか?」
「ああ、生徒達が心配なのは本当だ。大したことはできないかもしれない。今となっては羽鳥や一ノ瀬の方が、俺なんかより頼りになるだろう。だが、俺はこのクラスで唯一の大人だ。何かあった時はあいつらを守るのが教師である俺の務めだ」

 教育者のかがみのようなセリフをく先生だが、俺はその後に呟かれた言葉を聞き逃さなかった。

「……どうせ、どこに行ったって響生はいないし」

 あんた、どんだけ響生のこと好きなんだよ!? 響生ロスの影響が計り知れない。
 この世界に来てからの一ヶ月間、先生は終始腑抜ふぬけていた。
 この人は響生がいないだけでここまでダメになってしまうのか。恐るべし、我が親友。
 その言い分はもっともかもしれないが、今の先生をこのまま放置していくのは危険すぎた。
 俺達が去った後、あっさり賢者であることがばれて操られでもしたら、目も当てられない。
 それに、戦力としても先生には俺達に同行してほしいというのが本音だ。
 戦闘のフォーメーションを考えても、俺と恭子ちゃんが前衛、亜麻音と先生が後衛だとバランスがいい。回復魔法を使えるのも俺達の中では先生だけなので、やっぱり抜けてもらっては困る。
 できることなら、先生には納得して俺達についてきてほしい。
 とりあえず、先生を説得できない限り作戦実行は保留だ。何かいい方法を考えなければ。
 三人でのミーティングを終え、解散した俺は自室のベッドに転がると、先生を説得する方法はないか考え……そのまま眠りに就いてしまった。
 意識を失う直前、窓は閉じていたはずなのに、心地よい風が頬を撫でたような気がした。


『ほほほほ、最果ての東風がようやく知らせを届けてきたか。……ふむ、せモノはそこにあるらしいぞ? 逢いに行くかえ、我が愛し子よ? 『賢者』に尋ねるがよいだろう。きっと其方が知らぬことを知っておるぞえ』

 唐突に意識が覚醒かくせいした。気が付けばもう朝。

「今の声は……」

 部屋を見回すが、当然そこには誰もいない。さっきのは、夢……?
 色っぽい大人の女性の声だった。どこかで聞いた覚えがあるような。
 だが、不思議とただの夢ではないという確信があった。これは意味のある大切な夢だ、と。
 確か、夢の女性は俺のことを『我が愛し子』って言っていた。俺はその言葉を知っている。
 なぜなら俺のステータスにはっきりと記されているからだ。
 称号『風帝の愛し子』。
 この世界の勇者は四人。なぜなら勇者は精霊達の頂点に立つ四体の精霊『四帝精霊』によって選ばれるからだ。
 火をつかさどる精霊『火帝』。水を司る精霊『水帝』に、大地を司る精霊『地帝』、そして風を司る精霊『風帝』が、それぞれ一人ずつ勇者を選定し、十一人の神々の頂点『主神』から許可を得られれば、その人間は正式な勇者としての職業を得ることとなる。
 そして俺は『風帝の愛し子』。風を司る精霊に選ばれた風の勇者というわけだ。

「……じゃあ、今の声は『風帝』?」

 風帝が夢で俺に語り掛けてきた? この世界では精霊も神も実在する存在として扱われているから、そんなこともあるんだろうか? でも、一体何のために……?

「……最果ての東風が知らせを届けてきた……失せモノ……賢者に尋ねる? 先生が、俺の知らない何かを知っているって……何のことだ?」

 その後、俺は先生に夢のことを尋ねてみた。だが、先生には心当たりがないらしい。一応亜麻音にも『審美眼』で確認してもらったのだが、やはり先生は何も知らないようだ。
 それじゃあ、昨夜のあれは、風帝は何のためにあんな夢を見せたのか。
 午前の訓練を終え、体も十分に温まってくると、今朝の感覚が随分と薄れてしまったことに気が付く……ただの夢だったんだろうか。
 そう思いながら食堂で昼食を取っていると、友人と一緒に食堂にやってきた一ノ瀬とふいに目が合う。そして彼女は慌てて俺から視線を逸らした。
 そうだ、忘れていた。このクラスにはもう一人……賢者がいたんだ。
 日暮れ時。俺は訓練が終わって無人となった修練場に、こっそり彼女を呼び出した。

「えっと、何の用かな? 新藤君」
「悪いな、こんな時間に来てもらって」

 俺の前に現れた一ノ瀬は、どこかおどおどとして若干おびえているようにも見えた。

「こうやって言葉を交わすのって、終業式の朝以来だったか?」
「そう……だっけ?」

 一ヶ月前の朝、挨拶を交わした彼女は、俺に対してこんなに緊張する子ではなかった。もっと柔らかい雰囲気で、自然な笑顔を向けてくれていたのに、今は目も合わせようとしない。

「……一ノ瀬。俺に何か言うことがあるんじゃないか?」
「えっ!? ど、どうして……そんなこと、聞くの?」

 明らかに動揺している一ノ瀬は、思わずといった調子で一歩俺から後ずさる。追うように俺も一歩前に出た。
 間違いない。風帝が言っていた賢者というのは、やっぱり一ノ瀬のことだ。

「教えてくれ、一ノ瀬。お前が知っているそれは、きっと俺にとってとても大切なことなんだ」

 俺は思い出していた。召喚されたあの日、俺は風帝の声を聞いている。
 俺に技能スキル『能力把握』があることを伝えてくれたのも、確かに風帝だった。
 だったら今朝の夢にも必ず意味がある。わざわざ俺に伝えるということは大事な意味が……。

「あ……えっと……」
「頼む、一ノ瀬。この通りだ。教えてくれ!」
「……し、新藤君」

 深々と頭を下げて、真摯に一ノ瀬に頼み込んだ。頼む、一ノ瀬。わざわざ風帝が夢で語り掛けてくるほどのことだ。俺はそれを知らないでいるわけにはきっといかない。
 そして俺の想いは、彼女に届いてくれたらしい。

「……わ、分かった」

 一ノ瀬は大きく息を吐くと、うつむいたまま俺に衝撃の事実を告白した。

「……ごめんなさい。怖くて言えなかったの。今さら言ったら、みんなに、嫌われちゃうかもと思うと、怖くて言えなくて……」
「みんなに嫌われる? どういうことだ、一ノ瀬?」
「私、教室の廊下側の一番前の席に座っているでしょ? 目が悪いから……」
「うん、そうだな」
「だから、多分……あの時、私しか見てなかったと思う」
「あの時?」

 俺は首を傾げた。一ノ瀬は小さく一度うなずくと「例の光が教室に現れた時」と言った。

「召喚されたあの時か。見たって、何を見たんだ?」

 俺の質問に一ノ瀬はビクリと震えると、しばし沈黙してしまった。

「一ノ瀬?」
「……開いたの、教室の扉が」
「――え?」
「あの時、私達が召喚された瞬間。地面から魔法陣が現れて、白い光が教室中を包み込んで、みんな眩しくて目を閉じちゃったでしょ?」
「あ、ああ」
「私も思わず目を閉じようとしたんだけど……あの時、急にガラッて音がして、反射的に扉の方に目が行ったの」

 ドクン――と、俺の心臓が大きく跳ねた気がした。扉が開いた? だって、教室にはあいつ以外全員が揃っていて……。

「一瞬だったから、見間違いかもしれない。でも……」

 ……止めてくれ、冗談だよな、一ノ瀬。

「いたの……開かれたドアの向こうに……真名部君が」


『失せモノはそこにあるらしいぞ? 逢いに行くかえ?』


『失せモノ』……失せ、者? 『逢いに行く』……つまり……人間?
 俺が失った人間? ここにはいない失くしたもの(者)。
 まさか……響生がこっちにいる? 何もかも不明なこの異世界に…………たった独りで……?

「新藤君!?」

 気が付くと俺はその場にへたり込んでいた。
 ああ、風帝様。そりゃ大事おおごとだわ。俺にとってもみんなにとっても、めちゃくちゃ重要案件だ。
 一ノ瀬の話を聞いて、風帝の言葉を思い出して、俺は理解してしまった。
 俺の親友、真名部響生はこの世界に来ている。それも、俺達とは全く別の場所に召喚されて。
 くっそおおおおおお! ああそうだよ、あいつはそういう奴だった!
 俺の親友はどこまで行っても平凡からはかけ離れた人生を送る運命にあるようだ。


       ◆ ◆ ◆


「つまり、召喚される瞬間に響生が教室に入ろうとしていたってこと?」
「一ノ瀬の話を聞くとそうなる」

 一ノ瀬と別れた後、俺はすぐにみんなを呼んで俺が把握した衝撃的事実のことを話した。
 亜麻音は黙り込んで何やら考えている。恭子ちゃんは今の話を聞いて顔面蒼白だ。先生など心が抜け落ちてしまったかのように今は放心している。無理もない。この世界の常識を教わって、ここが如何いかに危険な世界であるか分かっているのだから。
 街の外に出れば獰猛どうもうな魔物が蔓延はびこり、そうでなくとも野盗なんかがそこら中にいる世界だ。そんな異世界に響生がたった独りでいると思うとゾッとする。
 それに言葉の問題もある。あの時、召喚陣から出た俺達は王女の言葉が理解できなくなった。後で配布された『翻訳』スキルが内蔵されたカフスをもらったから今も会話はできるが、響生がそんな物持っているはずもない。今だって苦労しているはずだ。
 ちなみにカフスは亜麻音に見てもらって特に変な感じはしないということだったので、今もそのまま身に着けている。ステータスにも特に異常はなかったのでほっとしたっけ。
 少しの間静まり返っていた室内に、亜麻音の声が響いた。

「……んで、あんたは夢のお告げを聞いて、響生がこの世界に来ていることを知った、と?」
「ああ、そうだ」
「そう。なら、すぐに探しに行かないと。放っておいたら面倒事しか起こさないわよ、あいつ」

 悪態をついているようにも見えるが亜麻音の奴、随分と楽しそうじゃないか。口元がニヤリと綻んでいることに気付いていないのか? まあ、気持ちは分からないでもないがな。

「何の証拠もないのに信じてくれるんだな、亜麻音」
「はぁ? 何言ってんの、あんた?」
「ふふふ、亜麻音ちゃんの言う通りですよ、新藤君。こんな時に新藤君が、真名部君のことで嘘なんて言うわけないじゃないですか。私も信じます」

 何だよ、亜麻音も恭子ちゃんも。嬉しいじゃんか。ふふふ、妬め親友。
 俺が内心で優越感に浸っていると、ようやく先生が再起動した。

「……『最果ての東風が知らせを届けた』と、精霊は言っていたんだな、新藤?」

 葉渡先生の鋭い視線が俺に向けられる。この感じ……爽やか系イケメン教師の風格が戻ったようだ。響生がこっちにいると知った途端にこれだ。まあ、いいんだけどさ。

「はい、そうです、先生」
「なら、響生は東の最果てにいるということだな」

 先生はどこから持ってきたのか大陸の地図を広げだした。

「俺達がいるクリューヌ王国は地図を見ると西の最果てということになるな」

 先生の言葉に、俺達も揃って首肯しゅこうする。確かにクリューヌは大陸の最西端に位置する国だ。
 そのまま視線が東へ向けられる。先生の指が大陸最東端の国の上で止まった。
 それを見て恭子ちゃんがポツリと呟く。

「東の最果てというと、北の『エドスト公国』と南の『ハバラスティア王国』のどちらかですか」
「……大樹、あんたその辺の詳細は風帝とやらに教えてもらえなかったの?」

 恭子ちゃんに続いて亜麻音が俺に尋ねてきた。

「そういう細かいことは教えてくれなかったな、一応心の中で語り掛けてみているんだが、反応は特にないから気まぐれで教えてくれただけなのかもしれない」
「そう。なら、どっちも行ってみるしかないわね。明日にでも早速出発しましょう」
「タンマ! 準備してから出発するに決まってるだろう!?」
「そうですよ、亜麻音ちゃん。長旅になるからしっかり支度したくしてからでないと危険です」

 亜麻音の奴、思った以上にテンションが高くなっているらしい。なんだかんだいっても幼馴染だもんな。心配だって気持ちは分かる。だが、だからといって急げばいいってもんじゃない。

「どう考えても長旅になるんだからきちんと準備しないとむしろ旅が遅れちまうぞ」
「……わ、分かってるわよ!」

 とりあえず亜麻音も少し冷静になってくれたようだ。そうなると次は出立までの役割分担だな。
 その話について主導権を握ったのは先生だった。

「装備に関しては新調などできないだろうから、今の物をそのまま使おう。資金調達は俺の方で何とかするから心配するな。あと、王女の説得も俺がする。確実に好条件でここを出られるようにしてやるから任せておけ。お前達はそれぞれの荷物をまとめておいて、すぐに出立できるようにしておくように頼む」
「「「はい」」」

 テキパキと俺達に指示を飛ばす姿は、いつもの頼もしい先生にすっかり戻っていた。
 ……もう一度言うが、先生の中で響生はどんだけ心を占めちゃっているわけ?
 響生がこっちにいるって分かった途端にこれだもんな。現金なもんだよ、ホント。
 まあ、こっちの方が先生らしいから俺は好きなんだけどな。
 それに、やっぱり先生や亜麻音の気持ちは俺にも分かる。俺だって最初は響生がこっちに一人でいると知って心配でしょうがなかった。
 その反面、響生とこっちで再会できるかもって思ったら、嬉しいんだ。永遠の別れも覚悟していたから、親友とまた会えると分かって、安心している自分がいる。
 俺も現金だよな、ホント。一日でも早く王女から追放されたいって本気で思ってるんだから。

「それと、新藤」
「何ですか、先生?」
「一ノ瀬をここに連れてきてくれ。三日後でいい。あと山原、お前に手伝ってほしいことがある」
「一ノ瀬を?」
「何よ、手伝いって」
「俺は響生を探すためにここを去る。それは俺の中で最優先事項だ。絶対に譲らない」

 知ってますよ。俺達三人は当然のように頷いた。先生が引くわけがない。

「だが、昨日言った通り生徒達が心配なのも事実だ。危ないと分かっていて放置していくわけにもいかない。とはいえ警告をしたところで、全員が俺達の話を信じるということはまずないだろう」

 もう一度俺達は頷いた。先生の意見は至極まっとうだ。特に羽鳥は無理だろう。
 それに、既にこの世界でのクラスカーストは形成されてしまった。
 最底辺グループにいる俺達の意見をまともに聞く人間が何人いるか、想像すらできない。

「だから一ノ瀬をこちら側に引き込んで王女を監視してもらおう。魔法道具もいくつか渡してな」
「そうだな、俺もそれがいいと思う」
「やっと元に戻ったって感じね。ちゃんと考えてるじゃない」
「先生はやっぱり頼りになります。クラスのみんなも心配ですもんね」

 俺達はホッと安堵の息を吐く。教師らしさも戻ってきたようだ。

「もちろんだ。よく考えてもみろ。もしも響生を見つけて、置いていった生徒達に何かあってみろ。俺が響生に嫌われてしまうじゃないか」
「「「……」」」

 うん、分かってたよ。先生が元に戻るってこういうことだよな……。

「ま、まあいいわ。それでアタシに何を手伝ってほしいのよ?」

 えらいぞ、亜麻音。よくぞ持ち直した!

「山原、お前の魔法スキル『魔導錬金術』は今レベルいくつだ?」
「レベル5よ。アタシのメインスキルだもん。最優先でレベル上げしてるわよ?」

『錬金術』とは魔法スキルの一つだ。必要な材料さえ用意すれば、作りたいものを『製造』の過程を短縮して錬成でき、医薬品作りや、既存の魔法道具を量産したい時なんかには重宝される。
 欠点としては、材料が揃わないと錬成できないことか。
 だが、亜麻音の『魔導錬金術』は『錬金術』の上を行く高位魔法らしく、必ずしも材料を必要としない。材料の不足分については、SPとMPを消費することで補うことができるらしい。
 最悪材料がゼロでも、作りたい物の機能や製造工程さえ正確に把握していれば錬成できるというわけだ。完全に生産系のチートスキルである。妬ましい。
 俺が脳内でひがんでいる間にも、亜麻音と先生の会話は続く。

「何か作ってほしいのね?」
「王女対策としていくつか考えている魔法道具がある。それを作ってほしい」
「簡単に言わないでよね。合理的な機能が必要だし、正確な設計図がいるわ」
「安心しろ。そこは考えてある。今から話を詰めて三日で作るぞ」

 新しい魔法道具を三日で作るとか無理でしょ? それも複数なんて。

「面白そうじゃない。いいわよ、作ろうじゃないの」

 亜麻音はにやりと笑った。相槌を打つように先生も笑う。
 困惑する俺と恭子ちゃんを無視して、二人は早速魔法道具作りを始めてしまうのだった。

「……じゃあ俺、一ノ瀬に話してくるよ」
「は、はい、分かりました。私は旅支度とか始めてきますね」

 と、なんだかなあなあのうちに俺達のミーティングは終了となった。
 いや、というか、とりあえずお前ら、自分達の部屋で作業してくれないかな!?
 ここ、俺の部屋だから!
 それから三日後、俺達のミーティングに一ノ瀬が加わることとなった。
 一ノ瀬は俺達の話に驚愕し、しばらく困惑していたが最終的には信じてくれた。

「今思い返してみると、確かに違和感がします。どうして私、王女様の力になろうなんて……戦争に参加しようだなんて、思って……」

 図書室で調べて分かったことだが、『誘導』スキルというものは、一時的に対象の思考を導くだけでそれをずっと維持させることは難しいようだ。
 相手が冷静さを欠いていればいるほど、このスキルは掛かりやすくなる。
 つまり、召喚されたばかりで混乱していた俺達には効果絶大だったというわけだ……やってくれるじゃねえか、王女様。

「常に冷静でいることがこのスキルに対する最も有効な対策だ。最初から王女に疑いを持っていればそう易々と思考を誘導されることはない」
「……分かりました。先生、教えてくれてありがとうございます」

 その後も、先生は王女への対策として準備した魔法道具を一ノ瀬に渡して説明をした。二人はきっちり時間に間に合わせて作ってきたようだ。
 三日でよくこんなに用意したものだと感心していると、一ノ瀬から驚きの声が上がった。

「えっ!? そんな魔法道具を!? え? ええ? これは……えええ!?」

 どうしたのかと顔を覗かせた俺も絶句した。お前ら……なんてチート魔法道具作ってんだよ!?
 内容? 言えるか! 賢者と魔導錬金術師のタッグがヤバすぎる!

「いざという時は惜しみなく使うんだぞ、一ノ瀬」
「は、はい……私も賢者なのに、この差って……」

 い、一ノ瀬! お前が悪いんじゃない。先生がちょっと異常なだけだから、落ち込まなくてもいいんだぞ! ……て、なんで俺が慰めることになってんの!?
 そうして、俺達が異世界に来て約五週間が経過したある朝のことだった。

「それじゃあ、こっちのことは頼んだぞ。羽鳥、みんなを頼むな」
「はい、先生。みんなも元気で。絶対に戻ってきてくださいね。いつか一緒に戦いましょう」
「ああ、役に立てなくて済まないな。待っていてくれ。みんなも頑張るんだぞ」
「「「「「はい、先生!」」」」」

 復活して数日で人望を取り戻したクラスカースト最底辺のイケメン教師こと葉渡先生のもとに、別れを惜しむ生徒達が集まっていた。やっぱ能力高いわぁ、この人……。
 今日、俺達は王城を去る。理由は『役立たず』だからだ。今の俺達の実力ではとてもではないが魔王との戦いについて行くことはできない。無駄死に必至だ。
 先生はそれを王女へ懇切丁寧に説明し、王城を出て武者修行の旅に出る許可を取り付けた。
 具体的にどう説得したのかを尋ねたが、「子供にはまだ早い」と言って教えてもらえなかった。
 いや、ホントに何をやったんだよ、先生……。
 ついでに支度金として、金貨百五十枚(日本円にしておよそ百五十万円)までせしめてくるという有能っぷりに、俺達一同脱帽ですよ、ホント。
 これから俺達は冒険者と呼ばれる、主に魔物退治を請け負う便利屋のような仕事をしながら旅をすることになる。
 冒険者……最近のファンタジー小説ではお決まりの職業だよな。こう言っちゃなんだが、一人のオタクとしてはちょっと楽しみだ。
 既に冒険者登録は済んでおり、あとは馬車に乗ってこのまま東に向けて旅立つだけである。
 ちなみにこの場に王女はいない。公務が忙しくて見送りに来られないと連絡を受けているが、俺達はその言葉をこれっぽっちも信じてはいない。大方面倒臭いとかそんな理由だろう。
 なにせ俺達は役立たずだ。王女にとっては構う価値もない。作戦は大成功ってことだ。

「あの、新藤君……」
「お、おう。どうした、一ノ瀬?」

 見送りの場。俺の前には心配そうにこちらを窺う一ノ瀬の姿があった。

「えっと、その、頑張ってね」
「ああ、ありがとう。お前も頼むな。何かあればソレで連絡してくれ」

 自分の耳にはめられたカフスを指でトントンとつつく。一ノ瀬はコクリと頷いた。
 俺達と一ノ瀬が耳に装着しているカフスは、外見こそ以前の物と同じだが、実際には全くの別物だ。信用できない王女からの配布物を、いつまでも使うつもりは毛頭なかった。
 これには従来の『翻訳』スキルに加えて、先生と亜麻音が作り上げたチート機能が備わっている。
 名前は『通信カフス』。言葉を翻訳するだけでなく、風帝のお告げをヒントに俺達の言葉を風に乗せて運ぶことができる。つまりは通信機だ。
 声は風の音として暗号化されており、カフスを通してでしか認識できない。盗聴対策は万全だ。
 ただし、距離が離れるほど風を運ぶ距離が長くなるので、通信にタイムラグが生じる。
 理論上は、大陸の端から端まで声を届けるのに三日ほど掛かる計算だが、実際のところは使用してみないと分からないと、先生が言っていた。
 この世界には電話もなければパソコンだってない。遠距離通信といえば手紙くらいで、通信を補助する魔法なども今のところは発見されていないそうだ。
 ……チートだろ? 完全にこの世界の情報戦の上を行く魔法道具だ。

「うん、何かあったら使うね。でも、周りにバレないように気を付けなくちゃいけないから、頻繁には連絡できないかもしれないけど」

 一ノ瀬はこの魔法道具の希少性を、きちんと理解している。特に王女に見つかったりしたらどうなるか分からない。連絡は取りたいが周囲への警戒も忘れないようにしないとな。

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