8 / 152
1巻
1-8
「え? そりゃもちろん。ずっとエマリアさんと一緒だったし、決める時間なんてなかったよ」
「だったら、今私が泊まっている宿をそのまま借りればいいわ」
「え、いいの?」
「あと三日分宿泊費は払ってあるから、そのまま泊まって大丈夫よ。宿屋の荷物を回収したら旅支度をして、すぐに出発するわ」
「本当に急だね」
「なるべく早く出発しないと。行くだけでも二ヶ月くらいは掛かるから」
エマリアさんの故郷はかなり遠くにあるみたいだ。自動車とか飛行機がないこの世界では、徒歩か馬車くらいしか移動手段がないらしい。本当に大変だ。
「ありがとう。それじゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」
「いいのよ。それじゃあ私達はこの辺で失礼するわね、ジュエル」
「あらあら、畏まりましたわ。ではすぐに受注書を発行しますわね」
「ジュエルさん、バルス兄貴。今日はありがとうございました!」
「ふふふ、これからもよろしくお願いいたしますわ」
「ヒビキ! またギルドに来たら会いに来いよ? 待ってるからな!」
「はい、兄貴! もっと筋トレの話をしましょう!」
「おうよ! 一緒に酒飲むのも忘れんなよ?」
バルス兄貴が顔を真っ赤にして喜んでくれている!
そんなに筋トレの話をするのが楽しみなのか。よーし、次回は現代日本の筋トレ知識を存分に披露するぞ!
「……ジュエル、本当にお願いね」
「大丈夫ですわ。アレもまだ無自覚のようですし、お任せくださいな」
エマリアさんとジュエルさんが何やら真剣に話していた。一体何の話だろうか?
ギルドを後にした俺達は、エマリアさんが泊まっている宿屋『微笑の女神亭』へ向かった。
エマリアさんによると、値段もお手頃なうえに料理も美味いらしい。
だが何より俺が注目したのは、宿屋に入ってすぐのカウンターに佇むお姉さんだった。
エマリアさんに負けず劣らずの金髪をポニーテールにしている。エマリアさんが綺麗系美人とするなら、この人は癒し系美人って感じだ。
年齢は二十五歳くらいかな? まさに微笑の女神!
「いらっしゃいませ、微笑の女神亭へようこそ。って、エマリアじゃない」
「ただいまターニャ」
「おかえりなさい。あれ? 隣の子は?」
「紹介するわね、ヒビキよ。冒険者なの」
「こんにちは、ヒビキです。よろしくお願いします、美しすぎるお姉さん!」
「よろしくね。でも駄目よ、君。彼女の前で他の女を褒めるなんて、彼氏失格だぞ」
「彼氏? 彼女?」
「ち、違うわよ! からかわないでよ、ターニャ!」
「違うの? 随分可愛い彼氏ができたなって思ったのに~」
性格は癒し系ってわけじゃないのかな? でも可愛いことに変わりはない。
「それより、受付をしてちょうだい!」
「はいはい」
そんなわけで事情を説明して、エマリアさんの部屋にそのまま泊まれるようにしてもらえた。ついでに七日分ほど追加で宿泊費を払っておいた。
その後のエマリアさんは本当に迅速だった。あっという間に旅支度を終え、いま俺達は宿屋の前に立っている。
「それじゃあ、もう行くわね。これから頑張ってね、ヒビキ」
「うん、ありがとうエマリアさん」
ああダメだ。今にも泣きそうだ。この世界で初めて出会い、助けてくれたエマリアさん。
一緒にいたのはせいぜい二日くらいだっていうのに、別れるのが寂しい。
「そんな泣きそうな顔しないで。今生の別れじゃないんだから」
「依頼が終わったらこっちに戻ってくるの?」
「そうね、早くて半年くらいは掛かるだろうけど、終わったらこっちに戻ろうかな。でもヒビキ、私が戻るのを待つ必要はないわ。故郷への帰り方を探すんでしょ?」
「……うん」
「だったら、それを優先させなさい。大丈夫よ、縁があればまた会えるわ」
エマリアさんは俺を安心させるような優しい笑顔を見せてくれた。
「この街を出るときはギルドに伝言でも残しておいてくれれば十分よ」
「……うん、分かった。その時はジュエルさんに伝えるね」
「ええ、そうしてちょうだい」
「俺、たくさん依頼を受けてエマリアさんと一緒に旅ができるくらい強くなるよ!」
「ふふ、その時を待っているわね」
そうして、異世界に流れ着いた俺を助けてくれた恩人、エマリアさんは俺の元を去っていった。
◆ ◆ ◆
エマリアさんがローウェルの街を去って今日で三日が経った。
現在、俺が何をしているかというと……宿屋でだらだらしてます。
で、これは神様のせい(おかげ)だったりする。
現在の俺の所持金はおよそ金貨三百五十枚。日本円にして約三百五十万円だ。
この世界での食費は、一日当たりおよそ銅貨五枚(五百円)で、宿屋の宿泊費が銀貨五枚(五千円)だから、一日当たり銀貨五枚と銅貨五枚(五千五百円)あれば十分に足りる。
つまり、最低でも一年半くらいのんびり暮らしてもおつりがくる計算だ。
もちろん外食したり遊んだりすればお金の減りは早くなるけど、それでも数日だらだらする分には特に問題なかった。
それもこれも、『チュートリアル』で生活資金を確保するための運命を用意してくれた神様のおかげです! ありがとう神様! もちろんエマリアさんもありがとう!
それに『辞書』で『チュートリアル』を検索した時の神様の言葉が本当にありがたかった。
やはり俺以外にも、クラスのみんながこの世界に来ているらしい。
神様によると、俺達は誰かに召喚されたようだ。
俺以外のみんなはその召喚者のところにいるから命の危険はないそうで、心底安心した。というか、どうして俺はみんなとはぐれたんだろう?
そんなわけで、自分の身の安全と生活基盤の確保、クラスのみんなの安否が確認できたものだから、俺の緊張の糸はぷつんと切れてしまったというわけだ。
一日目はずっと爆睡していた。ご飯も食べずにひたすら眠っていた。
二日目はローウェルの街を散策した。屋台で食べ歩きツアーだ。串肉美味い!
そして今日が三日目。午前中はベッドに寝転がってだらだらしていたんだが、そろそろ飽きてきたので状況を整理することにした。
「まずは所持品の確認でもしようかな」
俺はリュックの中身をベッドの上にばらまけた。
「えーと、スマホにタオル、空のペットボトルが二本にノートが一冊と筆箱……」
まずはスマホかな。電源ボタンをポチッとな!
うん、予想通り電源が入りません。きっとギルドに着いた頃には電池が切れてたんだろうな。
覚悟していたけど日本との繋がりが断たれてしまったようでやっぱり寂しい。
タオルは……洗濯しなくちゃ。汗くさい。
風呂に入りたいなぁ。この世界では風呂を用意するのに結構お金が掛かるらしくて、貴族とか大商人みたいな金持ちしか持ってないんだと。
この宿も風呂は無く、湯桶と手ぬぐいを貸し出すだけらしい。シャワーでもいいんだけどな。
と、話が逸れた。
ペットボトルは旅に出る前に水を入れておこうっと。この世界では珍しいもんな、完全に密閉できる水筒なんて。
ノートと筆箱はどうしよう。日記でも書くか? ……無理!
役に立ちそうなのはタオルとペットボトルくらいかな? 無いよりマシだけど、物資は買い揃えないと駄目だな。
「次はステータスの確認かな」
【技能スキル『鑑定レベル2』を行使します】
【 名 前 】真名部響生
【 性 別 】男
【 年 齢 】16
【 種 族 】ヒト種
【 職 業 】鑑定士(仮)(レベル2)
【 レベル 】4
【 H P 】131/131
【 M P 】56/56
【 S P 】123/131
【物理攻撃力】51
【物理防御力】27
【魔法攻撃力】36
【魔法防御力】32
【 俊敏性 】82
【 知 力 】71
【 精神力 】104
【 運 】65
【固有スキル】『識者の眼レベル1』『チュートリアルレベル2』
【技能スキル】『鑑定レベル2』『辞書レベル2』『世界地図レベル2』『翻訳レベル2』『魔導書レベル0』『宝箱レベル0』『契約レベル1』『医学書レベル1』
【魔法スキル】なし
【 称 号 】『異世界の漂流者』『メイズイーターからの生還者』『年上キラー』『一攫千金』
ステータスは相変わらずしょぼいなぁ。非戦闘職だからだろうけど。
でも、SPが多めなのは助かる。魔法が使えないからスキルに頼るしかないし。
『魔導書』と『宝箱』はレベル0のままか。レベルアップの達成条件が分かるといいんだけど。
新しいスキル『契約』と『医学書』はステータスの確認が終わったら試してみようかな。
そして称号が増えている。『一攫千金』は何となく分かる。多分クリスタルホーンラビットの角を手に入れて大金が入ったからだろう。ステータス補正があるのかは不明だけど。
……で何、『年上キラー』って? ……俺、誰も殺してないよ?
正直、称号はよく分からない。これ、必要なんだろうか?
そうだ! 『辞書』で調べたら分かるかも!
【対象言語は『辞書レベル2』に登録されていません】
やっぱりだめか。多分カテゴリーに「称号検索」とかがないと分からないんだろうな。レベル3くらいになったら分かるかな?
仕方ない。称号に関しては保留で。
それじゃあ新スキルの確認をしようかな。『契約』発動!
【技能スキル『契約レベル1』を行使します】
【契約対象者がいないため行使できません。レベル1対象者『人間』】
契約対象者? 人間? どういう意味かな? 『辞書』さん、教えて!
【技能スキル『辞書』を行使します】
『人間』
ヒト種、獣人種、半獣人種、妖精種などの知性を持つ霊長類。他にも竜人種、鬼人種、巨人種、小人種などさまざまな種族が存在するが、それらを総称して『人間』と呼称する。
つまりこのスキルは俺だけで使うスキルではなくて、相手がいて初めて機能するスキルってことかな……あ、『辞書』で確認すればいいのか?
【『辞書』より『契約』をスキル検索します】
技能スキル『契約』希少ランクB
スキル使用者と契約対象者が、双方合意のもとで交わされた約束を必ず実行させるスキル。契約方法は口頭、書面にかかわらず、双方が合意した段階で受理される。
ただし、あまりにもどちらかが不利益を被る契約は成立しない場合がある。また、このスキルで他者の命を奪うことはできない。レベルが上がると、高位の存在と契約できるようになる。
『契約』は約束を守るスキルってことだろうけど、どういう風に使うのかな? 『辞書』の説明では使い方までは分からない。今度、誰かにお願いして試した方がいいかもしれない。
さて、次は『医学書』だな。
ふふふ、俺だって学習しました。スキルを発動させる前に『辞書』で調べた方が混乱なくできるということを! というわけで、教えてください『辞書』さん!
【技能スキル『辞書』を行使します】
技能スキル『医学書』希少ランクAA
この世界のあらゆる医学知識・技術を習得可能にするスキル。レベルが上がるごとにより広く深い知識・技術を得ることができる。現代では失われた高度な知識・技術すらも習得が可能。習得した分の知識・技術を利用することで『診察』『治療』『施術』『調合』が可能になる。
おお! なんか良さそうなスキルじゃない? このスキルがあれば、怪我をしても自分で治せるってことだよね!?
「ではさっそく、『医学書』発動!」
【技能スキル『医学書レベル1』を行使します】
【『医学書』は現在習熟度0パーセントのため医療活動を実行できません】
【『医学書』を閲覧しますか? 消費SP1/10頁(全四万ページ)】
「四万ページ!? 十ページにつきSPを1消費するってこと? それを読破しないとスキルが使えないってことなのか?」
あまりのページ数に大声を出してしまったが、さらに驚きの事態が起こった。
『スキルサポートより報告。『医学書』は読破しなくても閲覧し習得し終えた分の知識・技術から医療活動が実行可能です。しかし、より正確に精密に医療活動を実行したいとお考えの場合、全ページを閲覧、習得することを推奨します。スキルサポートより以上』
な、何かまた新しい声が聞こえたんですけど!?
スキルサポート? そういえば、『チュートリアル』のレベルが上がったときにスキルサポートが起動するとか言ってたけど。
「ス、スキルサポートさん?」
……お返事なし、と。もしかしてスキルを使う時しか反応がないのかもしれない。
【『医学書』を閲覧しますか? 消費SP1/10頁(全四万ページ)】
そういえば『医学書』を放置してた。
よく分からないけど、スキルサポートは全ページ読破した方がいいって言っていたな。現在の俺だと、毎日全部のSPを『医学書』につぎ込んでも早くて一ヶ月くらい掛かる。
どうしようかな?
……なんてね。どうするかなんて決まってますとも! 読破しますよ『医学書』!
これから危険な冒険者の仕事や旅をしようっていうんだ。怪我や病気に対応できるに越したことはないもんね。
特に俺は非戦闘職で、体力も攻撃力も最弱なんだから、せめて回復手段は欲しい。
というわけで、宿屋でだらだら生活をしばらくすることにした。
◆ ◆ ◆
『医学書』の閲覧を始めてどれくらい時間が経っただろうか? 窓を見ると、綺麗な夕日が浮かんでいた。今日の分のSPを使い切ったようだ。
びっくりした。『医学書』の閲覧を選択したら、目の前に重厚で古めかしい本が現れたのだ。
本はぷかぷかと浮いていたが、そっとページを開くと無数の文字が飛び出して、頭の中に強制的に入って来た。
俺は意識があるんだか無いんだかよく分からない半覚醒状態で、ぼーっとしたまま『医学書』の知識と技術を習得していった。
これで千三百ページ分くらいの知識を習得したってことでいいのかな?
特に何かを得た感じはないけどなぁ。
『スキルサポートより報告。「医学書」の知識・技術はスキル使用時のみ利用可能となります。スキルサポートより以上』
……だそうです。スキルに関して不明な点はスキルサポートさんが教えてくれるってことですか、神様? 確認したいけど、もうSPは使い切ったから確認はできないな。
なら今日の残り時間はどうしようか……そういえば、こっちに来てからちゃんと筋トレしてなかったな。よし、筋トレしよう!
バルス兄貴の助言に従って、広背筋トレーニングを中心にやってみよう!
「よーし、いち、に、さん、よん……」
その頃、冒険者ギルドでは……。
「今日は来たか、ジュエル!」
「今日もいらっしゃっておりませんわ、バルス様」
「なんで来てくれないんだ、ヒビキ!」
「ヒビキ様にはヒビキ様の事情がおありなのですから仕方がないですわ」
「会いに来るって言ってたじゃないか!? 酒の約束は!?」
「知りませんわ! いつ、とは仰られておりませんでしたでしょ?」
「なぜなんだ、ヒビキイイイイッ!」
「公衆の面前でギルマスが大泣きしないでくださいませ!」
「ヒビキイイイイイイイイッ!」
「……予想以上ですわ。どうしましょう、コレ」
「よんじゅう、よんじゅういち、よんじゅうに……ブルル! ……何か寒気が……なに?」
唐突な寒気に襲われたが、結局原因は分からなかった。風邪、ではないしな?
◆ ◆ ◆
『医学書』の閲覧を始めてから一ヶ月、とうとう全ページの閲覧が完了した。
長かった、本当に長かったよ……。
朝目が覚めて朝食を取ったら部屋で閲覧開始。気が付くと夕暮れ時になっているという、本当は無駄にしていないんだけど、時間を無駄にしたような気がする一ヶ月!
でもそのおかげで『医学書』の知識・技術を習得できた。今はSPが0だから、明日になったら試してみようっと。
翌日、俺は冒険者の準備のためにいろいろな店を回ることにした。よく考えたら今の俺は健康なので、『医学書』を使う理由がないんだよね。
まずは服装をどうにかしよう。未だに制服を着ているんだが、流石に冒険者の仕事にこの格好は相応しくない。
宿屋の美しすぎる受付嬢ターニャさんに聞いたら、東通りに初心者冒険者向けの装備屋があるらしく、そこで服、武器、防具を揃えられるんだとか。まあ、便利。
というわけで、二十分くらい歩いたところにあるらしい初心者向け装備屋に向かった。
東通りは、店舗だけでなく屋台や露店もあってとても賑わっていた。
でも今日の目的は違うので、まっすぐ装備屋に向かっていると、初老の露店商が声を掛けてきた。
「あんちゃん、ちょっとコレどうよ?」
「え、俺ですか?」
「おう、あんた冒険者だろう? それも初心者の」
おや、何で分かったんだろう? 今の俺の格好はとても冒険者とは言えない。制服の上に外套を着ているだけだ。
ちなみにこれは、以前エマリアさんから借りた外套をそのままもらい受けたものだ。
「どうして俺が初心者冒険者だって分かったんですか?」
おじさんはニヤッとして俺の質問に答えた。
「東通りに来て、露店も見ずに奥に行く奴の目的地は装備屋ぐらいだからだよ」
なるほど、東通りの奥には例の装備屋しかないのかな?
「それで、俺に何か用ですか?」
「初心者冒険者ならコレ買ってかないか? ポーションだ」
「ポーション?」
【技能スキル『鑑定レベル2』を行使します】
【 名 前 】下級ポーション
【 備 考 】HPを少量回復することができる魔法薬。
「確かにポーションですね」
「もちろんだ。偽物なんて売りつけないさ。銀貨十枚でどうだ?」
銀貨十枚、だいたい一万円くらいか。ちょっと高いなぁ。というか金貨一枚と言うべきでは?
確かに下級ポーションでも俺のHPを全回復できるわけだし持っていても困らない。
『医学書』だってどこまで有用か分からないし、SPが切れた時用の回復手段は欲しいところだ。
まあ命に値段はつけられないし、買っておこうかな?
「じゃあ、これくださ……」
『スキルサポートより報告。技能スキル「契約」の発動を推奨します。契約内容は「今回の売買取引について双方に不利益が生じないよう適正価格にて取引を行うものとする」です。口頭にて「お互いに不利益がないように取引しよう」と持ち掛け、契約対象者がそれに合意した場合、契約は受理されます。スキルサポートより以上』
スキルサポートさん、お久しぶりです。一ヶ月ぶりですね。
突然のスキルサポートからの『契約』リクエスト。えーと、つまりはそういうことなのかな?
「どうした、あんちゃん?」
おじさんが不思議そうに俺の顔を見ている。うーん、駄目ですよおじさん。
ぼったくりは認めませんよ?
俺は笑顔になって告げる。
【技能スキル『契約レベル1』を行使します】
「おじさん、俺ポーション欲しいな。お互いに損がないようにしようね?」
「お? おう! そうだな」
【契約が受理されました】
「おじさん、そのポーションいくら?」
「このポーションは銀貨じゅ……五枚だ」
「分かった、銀貨五枚だね」
俺は笑顔のまま銀貨五枚を支払って、おじさんからポーションを一本もらった。
「ありがとう、おじさん。じゃあね」
「お、おう。ありがとな、あんちゃん……あれ?」
俺は礼を言うとすぐにその場を立ち去った。
『契約』さん、あなたなんて便利スキルなんですか!? これがあれば買い物で騙される可能性がぐんと減るね! これから重宝していこう。
そしてスキルサポートさん、とってもありがとう! 君がいなかったら俺は銀貨五枚をドブに捨てるところだったよ。
『スキルサポートより報告。謝意を受諾。スキルサポートより以上』
おお! 初めて返事してくれた! 嬉しい!
でも名前が長いな。そうだ、これからは『サポちゃん』と呼ぼう。よろしくね、サポちゃん!
『サポちゃんより報告。提案を受諾。サポちゃんより以上』
サポちゃん呼びを気に入ってくれたようだ。よかった、よかった。
無事装備屋に着くと、店主夫婦が服、武器、防具を選んでくれた。
体力も攻撃力も低いのであまり重い武器、防具は装備できないことを告げると、防具は素材の軽い革製の胸当て、籠手、脛当てを用意してくれた。
武器に関しては、経験がほぼなく戦闘が苦手なことを告げたら、クロスボウを薦めてくれた。
でも思ったよりも重かったので、今回は店で一番軽いロングソードと解体にも使えるダガーを一本ずつ購入した。
武器の使い方なんて今の時点ではよく分からない。ゆっくり自分に合う武器を探そう。今回のは護身用ってことで。
「うちの向かいに道具屋があるから、そこでも必要な物を買った方がいいぞ」
「分かりました、ありがとうございます」
「だったら、今私が泊まっている宿をそのまま借りればいいわ」
「え、いいの?」
「あと三日分宿泊費は払ってあるから、そのまま泊まって大丈夫よ。宿屋の荷物を回収したら旅支度をして、すぐに出発するわ」
「本当に急だね」
「なるべく早く出発しないと。行くだけでも二ヶ月くらいは掛かるから」
エマリアさんの故郷はかなり遠くにあるみたいだ。自動車とか飛行機がないこの世界では、徒歩か馬車くらいしか移動手段がないらしい。本当に大変だ。
「ありがとう。それじゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」
「いいのよ。それじゃあ私達はこの辺で失礼するわね、ジュエル」
「あらあら、畏まりましたわ。ではすぐに受注書を発行しますわね」
「ジュエルさん、バルス兄貴。今日はありがとうございました!」
「ふふふ、これからもよろしくお願いいたしますわ」
「ヒビキ! またギルドに来たら会いに来いよ? 待ってるからな!」
「はい、兄貴! もっと筋トレの話をしましょう!」
「おうよ! 一緒に酒飲むのも忘れんなよ?」
バルス兄貴が顔を真っ赤にして喜んでくれている!
そんなに筋トレの話をするのが楽しみなのか。よーし、次回は現代日本の筋トレ知識を存分に披露するぞ!
「……ジュエル、本当にお願いね」
「大丈夫ですわ。アレもまだ無自覚のようですし、お任せくださいな」
エマリアさんとジュエルさんが何やら真剣に話していた。一体何の話だろうか?
ギルドを後にした俺達は、エマリアさんが泊まっている宿屋『微笑の女神亭』へ向かった。
エマリアさんによると、値段もお手頃なうえに料理も美味いらしい。
だが何より俺が注目したのは、宿屋に入ってすぐのカウンターに佇むお姉さんだった。
エマリアさんに負けず劣らずの金髪をポニーテールにしている。エマリアさんが綺麗系美人とするなら、この人は癒し系美人って感じだ。
年齢は二十五歳くらいかな? まさに微笑の女神!
「いらっしゃいませ、微笑の女神亭へようこそ。って、エマリアじゃない」
「ただいまターニャ」
「おかえりなさい。あれ? 隣の子は?」
「紹介するわね、ヒビキよ。冒険者なの」
「こんにちは、ヒビキです。よろしくお願いします、美しすぎるお姉さん!」
「よろしくね。でも駄目よ、君。彼女の前で他の女を褒めるなんて、彼氏失格だぞ」
「彼氏? 彼女?」
「ち、違うわよ! からかわないでよ、ターニャ!」
「違うの? 随分可愛い彼氏ができたなって思ったのに~」
性格は癒し系ってわけじゃないのかな? でも可愛いことに変わりはない。
「それより、受付をしてちょうだい!」
「はいはい」
そんなわけで事情を説明して、エマリアさんの部屋にそのまま泊まれるようにしてもらえた。ついでに七日分ほど追加で宿泊費を払っておいた。
その後のエマリアさんは本当に迅速だった。あっという間に旅支度を終え、いま俺達は宿屋の前に立っている。
「それじゃあ、もう行くわね。これから頑張ってね、ヒビキ」
「うん、ありがとうエマリアさん」
ああダメだ。今にも泣きそうだ。この世界で初めて出会い、助けてくれたエマリアさん。
一緒にいたのはせいぜい二日くらいだっていうのに、別れるのが寂しい。
「そんな泣きそうな顔しないで。今生の別れじゃないんだから」
「依頼が終わったらこっちに戻ってくるの?」
「そうね、早くて半年くらいは掛かるだろうけど、終わったらこっちに戻ろうかな。でもヒビキ、私が戻るのを待つ必要はないわ。故郷への帰り方を探すんでしょ?」
「……うん」
「だったら、それを優先させなさい。大丈夫よ、縁があればまた会えるわ」
エマリアさんは俺を安心させるような優しい笑顔を見せてくれた。
「この街を出るときはギルドに伝言でも残しておいてくれれば十分よ」
「……うん、分かった。その時はジュエルさんに伝えるね」
「ええ、そうしてちょうだい」
「俺、たくさん依頼を受けてエマリアさんと一緒に旅ができるくらい強くなるよ!」
「ふふ、その時を待っているわね」
そうして、異世界に流れ着いた俺を助けてくれた恩人、エマリアさんは俺の元を去っていった。
◆ ◆ ◆
エマリアさんがローウェルの街を去って今日で三日が経った。
現在、俺が何をしているかというと……宿屋でだらだらしてます。
で、これは神様のせい(おかげ)だったりする。
現在の俺の所持金はおよそ金貨三百五十枚。日本円にして約三百五十万円だ。
この世界での食費は、一日当たりおよそ銅貨五枚(五百円)で、宿屋の宿泊費が銀貨五枚(五千円)だから、一日当たり銀貨五枚と銅貨五枚(五千五百円)あれば十分に足りる。
つまり、最低でも一年半くらいのんびり暮らしてもおつりがくる計算だ。
もちろん外食したり遊んだりすればお金の減りは早くなるけど、それでも数日だらだらする分には特に問題なかった。
それもこれも、『チュートリアル』で生活資金を確保するための運命を用意してくれた神様のおかげです! ありがとう神様! もちろんエマリアさんもありがとう!
それに『辞書』で『チュートリアル』を検索した時の神様の言葉が本当にありがたかった。
やはり俺以外にも、クラスのみんながこの世界に来ているらしい。
神様によると、俺達は誰かに召喚されたようだ。
俺以外のみんなはその召喚者のところにいるから命の危険はないそうで、心底安心した。というか、どうして俺はみんなとはぐれたんだろう?
そんなわけで、自分の身の安全と生活基盤の確保、クラスのみんなの安否が確認できたものだから、俺の緊張の糸はぷつんと切れてしまったというわけだ。
一日目はずっと爆睡していた。ご飯も食べずにひたすら眠っていた。
二日目はローウェルの街を散策した。屋台で食べ歩きツアーだ。串肉美味い!
そして今日が三日目。午前中はベッドに寝転がってだらだらしていたんだが、そろそろ飽きてきたので状況を整理することにした。
「まずは所持品の確認でもしようかな」
俺はリュックの中身をベッドの上にばらまけた。
「えーと、スマホにタオル、空のペットボトルが二本にノートが一冊と筆箱……」
まずはスマホかな。電源ボタンをポチッとな!
うん、予想通り電源が入りません。きっとギルドに着いた頃には電池が切れてたんだろうな。
覚悟していたけど日本との繋がりが断たれてしまったようでやっぱり寂しい。
タオルは……洗濯しなくちゃ。汗くさい。
風呂に入りたいなぁ。この世界では風呂を用意するのに結構お金が掛かるらしくて、貴族とか大商人みたいな金持ちしか持ってないんだと。
この宿も風呂は無く、湯桶と手ぬぐいを貸し出すだけらしい。シャワーでもいいんだけどな。
と、話が逸れた。
ペットボトルは旅に出る前に水を入れておこうっと。この世界では珍しいもんな、完全に密閉できる水筒なんて。
ノートと筆箱はどうしよう。日記でも書くか? ……無理!
役に立ちそうなのはタオルとペットボトルくらいかな? 無いよりマシだけど、物資は買い揃えないと駄目だな。
「次はステータスの確認かな」
【技能スキル『鑑定レベル2』を行使します】
【 名 前 】真名部響生
【 性 別 】男
【 年 齢 】16
【 種 族 】ヒト種
【 職 業 】鑑定士(仮)(レベル2)
【 レベル 】4
【 H P 】131/131
【 M P 】56/56
【 S P 】123/131
【物理攻撃力】51
【物理防御力】27
【魔法攻撃力】36
【魔法防御力】32
【 俊敏性 】82
【 知 力 】71
【 精神力 】104
【 運 】65
【固有スキル】『識者の眼レベル1』『チュートリアルレベル2』
【技能スキル】『鑑定レベル2』『辞書レベル2』『世界地図レベル2』『翻訳レベル2』『魔導書レベル0』『宝箱レベル0』『契約レベル1』『医学書レベル1』
【魔法スキル】なし
【 称 号 】『異世界の漂流者』『メイズイーターからの生還者』『年上キラー』『一攫千金』
ステータスは相変わらずしょぼいなぁ。非戦闘職だからだろうけど。
でも、SPが多めなのは助かる。魔法が使えないからスキルに頼るしかないし。
『魔導書』と『宝箱』はレベル0のままか。レベルアップの達成条件が分かるといいんだけど。
新しいスキル『契約』と『医学書』はステータスの確認が終わったら試してみようかな。
そして称号が増えている。『一攫千金』は何となく分かる。多分クリスタルホーンラビットの角を手に入れて大金が入ったからだろう。ステータス補正があるのかは不明だけど。
……で何、『年上キラー』って? ……俺、誰も殺してないよ?
正直、称号はよく分からない。これ、必要なんだろうか?
そうだ! 『辞書』で調べたら分かるかも!
【対象言語は『辞書レベル2』に登録されていません】
やっぱりだめか。多分カテゴリーに「称号検索」とかがないと分からないんだろうな。レベル3くらいになったら分かるかな?
仕方ない。称号に関しては保留で。
それじゃあ新スキルの確認をしようかな。『契約』発動!
【技能スキル『契約レベル1』を行使します】
【契約対象者がいないため行使できません。レベル1対象者『人間』】
契約対象者? 人間? どういう意味かな? 『辞書』さん、教えて!
【技能スキル『辞書』を行使します】
『人間』
ヒト種、獣人種、半獣人種、妖精種などの知性を持つ霊長類。他にも竜人種、鬼人種、巨人種、小人種などさまざまな種族が存在するが、それらを総称して『人間』と呼称する。
つまりこのスキルは俺だけで使うスキルではなくて、相手がいて初めて機能するスキルってことかな……あ、『辞書』で確認すればいいのか?
【『辞書』より『契約』をスキル検索します】
技能スキル『契約』希少ランクB
スキル使用者と契約対象者が、双方合意のもとで交わされた約束を必ず実行させるスキル。契約方法は口頭、書面にかかわらず、双方が合意した段階で受理される。
ただし、あまりにもどちらかが不利益を被る契約は成立しない場合がある。また、このスキルで他者の命を奪うことはできない。レベルが上がると、高位の存在と契約できるようになる。
『契約』は約束を守るスキルってことだろうけど、どういう風に使うのかな? 『辞書』の説明では使い方までは分からない。今度、誰かにお願いして試した方がいいかもしれない。
さて、次は『医学書』だな。
ふふふ、俺だって学習しました。スキルを発動させる前に『辞書』で調べた方が混乱なくできるということを! というわけで、教えてください『辞書』さん!
【技能スキル『辞書』を行使します】
技能スキル『医学書』希少ランクAA
この世界のあらゆる医学知識・技術を習得可能にするスキル。レベルが上がるごとにより広く深い知識・技術を得ることができる。現代では失われた高度な知識・技術すらも習得が可能。習得した分の知識・技術を利用することで『診察』『治療』『施術』『調合』が可能になる。
おお! なんか良さそうなスキルじゃない? このスキルがあれば、怪我をしても自分で治せるってことだよね!?
「ではさっそく、『医学書』発動!」
【技能スキル『医学書レベル1』を行使します】
【『医学書』は現在習熟度0パーセントのため医療活動を実行できません】
【『医学書』を閲覧しますか? 消費SP1/10頁(全四万ページ)】
「四万ページ!? 十ページにつきSPを1消費するってこと? それを読破しないとスキルが使えないってことなのか?」
あまりのページ数に大声を出してしまったが、さらに驚きの事態が起こった。
『スキルサポートより報告。『医学書』は読破しなくても閲覧し習得し終えた分の知識・技術から医療活動が実行可能です。しかし、より正確に精密に医療活動を実行したいとお考えの場合、全ページを閲覧、習得することを推奨します。スキルサポートより以上』
な、何かまた新しい声が聞こえたんですけど!?
スキルサポート? そういえば、『チュートリアル』のレベルが上がったときにスキルサポートが起動するとか言ってたけど。
「ス、スキルサポートさん?」
……お返事なし、と。もしかしてスキルを使う時しか反応がないのかもしれない。
【『医学書』を閲覧しますか? 消費SP1/10頁(全四万ページ)】
そういえば『医学書』を放置してた。
よく分からないけど、スキルサポートは全ページ読破した方がいいって言っていたな。現在の俺だと、毎日全部のSPを『医学書』につぎ込んでも早くて一ヶ月くらい掛かる。
どうしようかな?
……なんてね。どうするかなんて決まってますとも! 読破しますよ『医学書』!
これから危険な冒険者の仕事や旅をしようっていうんだ。怪我や病気に対応できるに越したことはないもんね。
特に俺は非戦闘職で、体力も攻撃力も最弱なんだから、せめて回復手段は欲しい。
というわけで、宿屋でだらだら生活をしばらくすることにした。
◆ ◆ ◆
『医学書』の閲覧を始めてどれくらい時間が経っただろうか? 窓を見ると、綺麗な夕日が浮かんでいた。今日の分のSPを使い切ったようだ。
びっくりした。『医学書』の閲覧を選択したら、目の前に重厚で古めかしい本が現れたのだ。
本はぷかぷかと浮いていたが、そっとページを開くと無数の文字が飛び出して、頭の中に強制的に入って来た。
俺は意識があるんだか無いんだかよく分からない半覚醒状態で、ぼーっとしたまま『医学書』の知識と技術を習得していった。
これで千三百ページ分くらいの知識を習得したってことでいいのかな?
特に何かを得た感じはないけどなぁ。
『スキルサポートより報告。「医学書」の知識・技術はスキル使用時のみ利用可能となります。スキルサポートより以上』
……だそうです。スキルに関して不明な点はスキルサポートさんが教えてくれるってことですか、神様? 確認したいけど、もうSPは使い切ったから確認はできないな。
なら今日の残り時間はどうしようか……そういえば、こっちに来てからちゃんと筋トレしてなかったな。よし、筋トレしよう!
バルス兄貴の助言に従って、広背筋トレーニングを中心にやってみよう!
「よーし、いち、に、さん、よん……」
その頃、冒険者ギルドでは……。
「今日は来たか、ジュエル!」
「今日もいらっしゃっておりませんわ、バルス様」
「なんで来てくれないんだ、ヒビキ!」
「ヒビキ様にはヒビキ様の事情がおありなのですから仕方がないですわ」
「会いに来るって言ってたじゃないか!? 酒の約束は!?」
「知りませんわ! いつ、とは仰られておりませんでしたでしょ?」
「なぜなんだ、ヒビキイイイイッ!」
「公衆の面前でギルマスが大泣きしないでくださいませ!」
「ヒビキイイイイイイイイッ!」
「……予想以上ですわ。どうしましょう、コレ」
「よんじゅう、よんじゅういち、よんじゅうに……ブルル! ……何か寒気が……なに?」
唐突な寒気に襲われたが、結局原因は分からなかった。風邪、ではないしな?
◆ ◆ ◆
『医学書』の閲覧を始めてから一ヶ月、とうとう全ページの閲覧が完了した。
長かった、本当に長かったよ……。
朝目が覚めて朝食を取ったら部屋で閲覧開始。気が付くと夕暮れ時になっているという、本当は無駄にしていないんだけど、時間を無駄にしたような気がする一ヶ月!
でもそのおかげで『医学書』の知識・技術を習得できた。今はSPが0だから、明日になったら試してみようっと。
翌日、俺は冒険者の準備のためにいろいろな店を回ることにした。よく考えたら今の俺は健康なので、『医学書』を使う理由がないんだよね。
まずは服装をどうにかしよう。未だに制服を着ているんだが、流石に冒険者の仕事にこの格好は相応しくない。
宿屋の美しすぎる受付嬢ターニャさんに聞いたら、東通りに初心者冒険者向けの装備屋があるらしく、そこで服、武器、防具を揃えられるんだとか。まあ、便利。
というわけで、二十分くらい歩いたところにあるらしい初心者向け装備屋に向かった。
東通りは、店舗だけでなく屋台や露店もあってとても賑わっていた。
でも今日の目的は違うので、まっすぐ装備屋に向かっていると、初老の露店商が声を掛けてきた。
「あんちゃん、ちょっとコレどうよ?」
「え、俺ですか?」
「おう、あんた冒険者だろう? それも初心者の」
おや、何で分かったんだろう? 今の俺の格好はとても冒険者とは言えない。制服の上に外套を着ているだけだ。
ちなみにこれは、以前エマリアさんから借りた外套をそのままもらい受けたものだ。
「どうして俺が初心者冒険者だって分かったんですか?」
おじさんはニヤッとして俺の質問に答えた。
「東通りに来て、露店も見ずに奥に行く奴の目的地は装備屋ぐらいだからだよ」
なるほど、東通りの奥には例の装備屋しかないのかな?
「それで、俺に何か用ですか?」
「初心者冒険者ならコレ買ってかないか? ポーションだ」
「ポーション?」
【技能スキル『鑑定レベル2』を行使します】
【 名 前 】下級ポーション
【 備 考 】HPを少量回復することができる魔法薬。
「確かにポーションですね」
「もちろんだ。偽物なんて売りつけないさ。銀貨十枚でどうだ?」
銀貨十枚、だいたい一万円くらいか。ちょっと高いなぁ。というか金貨一枚と言うべきでは?
確かに下級ポーションでも俺のHPを全回復できるわけだし持っていても困らない。
『医学書』だってどこまで有用か分からないし、SPが切れた時用の回復手段は欲しいところだ。
まあ命に値段はつけられないし、買っておこうかな?
「じゃあ、これくださ……」
『スキルサポートより報告。技能スキル「契約」の発動を推奨します。契約内容は「今回の売買取引について双方に不利益が生じないよう適正価格にて取引を行うものとする」です。口頭にて「お互いに不利益がないように取引しよう」と持ち掛け、契約対象者がそれに合意した場合、契約は受理されます。スキルサポートより以上』
スキルサポートさん、お久しぶりです。一ヶ月ぶりですね。
突然のスキルサポートからの『契約』リクエスト。えーと、つまりはそういうことなのかな?
「どうした、あんちゃん?」
おじさんが不思議そうに俺の顔を見ている。うーん、駄目ですよおじさん。
ぼったくりは認めませんよ?
俺は笑顔になって告げる。
【技能スキル『契約レベル1』を行使します】
「おじさん、俺ポーション欲しいな。お互いに損がないようにしようね?」
「お? おう! そうだな」
【契約が受理されました】
「おじさん、そのポーションいくら?」
「このポーションは銀貨じゅ……五枚だ」
「分かった、銀貨五枚だね」
俺は笑顔のまま銀貨五枚を支払って、おじさんからポーションを一本もらった。
「ありがとう、おじさん。じゃあね」
「お、おう。ありがとな、あんちゃん……あれ?」
俺は礼を言うとすぐにその場を立ち去った。
『契約』さん、あなたなんて便利スキルなんですか!? これがあれば買い物で騙される可能性がぐんと減るね! これから重宝していこう。
そしてスキルサポートさん、とってもありがとう! 君がいなかったら俺は銀貨五枚をドブに捨てるところだったよ。
『スキルサポートより報告。謝意を受諾。スキルサポートより以上』
おお! 初めて返事してくれた! 嬉しい!
でも名前が長いな。そうだ、これからは『サポちゃん』と呼ぼう。よろしくね、サポちゃん!
『サポちゃんより報告。提案を受諾。サポちゃんより以上』
サポちゃん呼びを気に入ってくれたようだ。よかった、よかった。
無事装備屋に着くと、店主夫婦が服、武器、防具を選んでくれた。
体力も攻撃力も低いのであまり重い武器、防具は装備できないことを告げると、防具は素材の軽い革製の胸当て、籠手、脛当てを用意してくれた。
武器に関しては、経験がほぼなく戦闘が苦手なことを告げたら、クロスボウを薦めてくれた。
でも思ったよりも重かったので、今回は店で一番軽いロングソードと解体にも使えるダガーを一本ずつ購入した。
武器の使い方なんて今の時点ではよく分からない。ゆっくり自分に合う武器を探そう。今回のは護身用ってことで。
「うちの向かいに道具屋があるから、そこでも必要な物を買った方がいいぞ」
「分かりました、ありがとうございます」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。