最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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2巻

2-1


 どこまでも真っ白な空間。その空間には黄金おうごんの装飾がほどこされた玉座ぎょくざがある――のだが、そこに腰掛ける者はいなかった。
 代わりに、玉座の隣に不自然に設置されたベッドに一人の青年が伏していた。
 青年は全身を包帯でグルグル巻きにされていた。怪我けがでもしたのだろうか?
 よく見れば、玉座の後ろには鋼鉄の拷問具ごうもんぐ『アイアンメイデン』が置かれて……何があった!?

「いや~、痛かったな、もう~」

 唐突に青年が起き上がり、ベッドを降りて全身の包帯をほどいた。
 小麦色の肌、金の髪と金の瞳、そして引き締まった胸筋、腹筋に大腿だいたい筋。
 まあ、全身に包帯を巻いていたのだから、その下が裸なのは当たり前のことなのだが……どうせなら美しい女性であってほしい光景なことは言うまでもない。非常に残念だ。

「よし、完治!」

 青年がパチンと指を鳴らすと、一瞬にして大きな布で体が覆われた。
 彼が玉座にを進めるたびに金属音が鳴り、首元や手足に純金の装飾具があしらわれていく。
 金髪金眼で色黒、着崩した一枚布をまとい、全身に純金の装飾具をつける端整な顔立ちの青年。
 足を組み、肘掛ひじかけに肘をついて玉座にだらしなく腰を下ろす姿は、はたから見ればイケメンのチャラ男であった。――まあ、実際いい加減でチャラいのだが……。
 背もたれに体重を掛けながら、青年は左手を掲げる。その手の中には黒と赤の二つの宝石があった。青年はそれらをいじりながら楽しそうに微笑む。

「まさか完治に二ヶ月も掛かるとはね。魔神ちゃんも、お仕置きとはいえもう少し手加減してくれてもいいのになぁ。ま、おかげで埋め合わせに良い物がもらえた。まさか魔神ちゃんの分だけでなく、医神ちゃんの分まで用意してくれるとは……」

 青年は笑みを浮かべたまま二つの宝石を握る手に力を込め――宝石を砕いた。
 手を開くと宝石の欠片かけらがボロボロとこぼれ落ちる。欠片は地面に届くことなく、光となって溶けていった。「上手うまくいった」と、青年は口角を上げて喜ぶ。

「――これで、あの子の生存率は更に上がった。中身も素晴らしい。奮発してくれたじゃないか二人とも……さて、二ヶ月も放置しちゃったからね。そろそろ様子を確認しないと」

 手透てすきになった左手で空中を撫ぜる。その先にあるのは、鏡面が真っ黒な大きな鏡。
 触れたわけでもないのに、漆黒しっこくの鏡面に波紋が生まれ、次第に何かを映し出す。

「……暗くてよく見えないな。暗がりにいるのかな? ――あ、いたいた。よし、通信開始! いや~ごめんね~。しばらく療養しててさ。やっと戻ってこれたよ! …………あれ? なんかヤバイ状況じゃない!? どしたのコレ!?」

 青年は目を見開いた。鏡には、青年がずっと見守っていた少年――真名部まなべ響生ひびきが、今にも死にそうな青い顔をして暗がりにうずくまっている姿が映し出されていた。


       ◆ ◆ ◆


 その女性は、闇夜を照らす月のように美しい人だった。
 深夜の草原にたたずむ彼女は、彼に背を向けて満月を見上げていた。銀の装飾が施された漆黒のローブを纏い、腰よりも長い白金の髪が風になびいている。
 ――素直に美しいと思った。
 わ――わた……し――かれが彼女の名を呼ぶと、ようやく気がついたのかゆっくりとこちらに振り返る。
 真夏の空のように深く濃い紺碧こんぺき双眸そうぼう。月夜にくっきりと浮かぶ白くつやのある肌。ほんのり薄桃色に彩られたくちびるは、気を抜くと吸い寄せられそうだ。
 これほど美しいエルフに、かれ――わた……わたしは出会ったことなどなかった。
 彼女は私を認めると、その整いすぎた美しい相貌そうぼうほころばせ、私の名を呼んだ。
 ……別に恋人というわけではない。だが、ずっとそばにいた。
 幼い頃からずっとそばにいたのだ。たくさんのことを教わった。ともに戦い、ともに泣き、ともに笑った。これからもずっとそうなのだと、あの瞬間が来るまで、私は信じていた……。
 それなのに、なぜ……。なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ、なぜなんだ……!!


『なぜ裏切った! アナスタシア!』


「ヒビキ様!」
「――はっ!?」

 唐突に意識が覚醒かくせいした。いつの間に眠っていたのだ? よく思い出せない……。
 頭上から声が掛かり視線を上げると、そこには――。

「……『私』?」

 なぜか『私』が『私』を見下ろしていた。どういうことだ?

「――っ!? ヒビキ様! あなたは私ではありません! ご自分の名前を思い出してください!」
「……『私』の名前? 『私』の名前はク――ん?」
「あなたは私の主、ヒビキ様です! あなたはご自分のことを『私』などと言いません!」
「ヒビキ? いや『私』は……ん? あれ、『私』? 俺――の名前は――真名部、響生だ」
「そうです、ヒビキ様!」
「……あれ? クロード?」
「よかった! ヒビキ様!」

 琥珀こはくのような金の瞳をうるませながら、獰猛どうもうな狼のこうべが俺を見下ろしていた。
 狼の頭と大きなしっぽ。二メートルを超える鍛え上げられた巨躯は、黒い体毛に覆われている。
 獣人種、黒狼族……うん、確かに『俺』じゃないね。
 身長百六十六センチしかないただの人間の俺とは大違い。彼は俺の騎士、クロード・アバラスだ。
 なんでクロードのことを自分だと思ったんだろう?

「……えーと、俺達、何してたんだっけ?」

 俺とクロードは両の手を繋ぎながら地べたに座り込んでいた。何か目的があってこうしていたはずなんだけど、記憶が曖昧あいまいで思い出せない……。
 状況が把握できず首をかしげる俺を見て、クロードはギョッと目を見開いた。

「ま、まさかまだ意識の混濁こんだくが!? 私達は『魔力循環じゅんかん』の訓練をしていたのですよ!?」
「『魔力循環』? えーと……ああ、思い出した」

 ここはローウェルの街の南にある小さな林――を、東に抜けた平原だ。すぐ後ろに林、眼前には平原が広がっている。
 街道から外れたここは魔物が少ないうえに人通りもほぼない。隠れていろいろするには大変都合がよかった。
 ――そうだ。クロード達の装備を整えて冒険者登録も済ませた俺達は、ここで魔法の制御能力を向上させるための訓練『魔力循環』に取り組んでいたんだった。
 元勇者のクロードはともかく、俺は冒険者をやっていくうえで基礎きそが足りない。冒険者として仕事を始める前に、ひと通り訓練をしようということになったんだ。
 魔法の発動に不可欠な要素のひとつに『魔力制御』というものがある。魔法のみなもととなる力『魔力』を上手く操れない限り魔法を発動させることはできない。

「もしかして、『魔力循環』に失敗したのかな? 途中で気を失ったみたいだし。でもどうして俺、さっき自分のことをクロードだと思い込んだんだろう?」

『魔力循環』は手を繋いだ二人の人間が魔力を流し合うことで、体内、体外の魔力の流れを知覚し、その操作方法を覚える訓練だ。
 でも俺は魔力を流す方法が分からなかったので、今回は一方的にクロードから魔力を流してもらったはずなんだけど、どうもそのあたりの記憶が無い。

「申し訳ございません、ヒビキ様。おそらく魔力を流し過ぎたのでしょう。魔力は人間の意思のかたまりのようなものです。私の魔力を一度に多く受け取り過ぎたことで、ヒビキ様の自意識や自我に深く干渉してしまったのでしょう」

 耳を垂らし、しっぽを丸め、クロードは深々と頭を下げた。まるで悪戯いたずらをしてしかられたワンコのようだ。俺の脳内ワンコは今日も大変愛くるしい……ドデカイけど。

「もう大丈夫だからあんまり気にしなくていいよ?」
「派手に失敗したみたいにゃねぇ、ご主人さま。クロード、ご主人さまは魔法を知らない世界の住人にゃ。他者の魔力に対する耐性が低いことは教えておいたはずだにゃ。気をつけるにゃ」
面目めんぼくございません……」

 クロードが足下に向けて謝った。そこには透き通った水色の瞳を持つ、真っ白な子ネコが一匹。

「ヴェネくん」

 世界を管理する十一人の神の一人――魔神様に仕える聖獣のヴェネくんである。技能スキル『魔導書グリモワール』を通して神域からやってきたヴェネくんは、俺の、いや俺達の魔法の師匠だ。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「リリアン? うん、大丈夫だよ」

 いつの間にか俺の隣に十歳くらいの少女がいた。肩までふわりと伸びた、茶色の髪が印象的な彼女の名はリリアンという。
 今にも涙がこぼれ落ちそうなほどに、彼女の碧色あおいろの瞳はプルプルと揺れていた。
 心配させてしまったみたいだ、悪いことしたな。リリアンもヴェネくんから魔法を教わっている。
 もちろん、俺とリリアンは本当の兄妹ではない。
 クロードとリリアンは元々俺が購入した奴隷だ。今はもうその身分から解放され、クロードは俺の従者に、リリアンは俺の妹的存在に落ち着いた。
 狼人間にしゃべるネコ、そして俺を『お兄ちゃん』と呼ぶ可憐な少女――。
 お察しの通りここは俺の故郷、日本ではない。
 日本には狼人間や魔法など実在しないし、ネコがしゃべるはずもない。まして血の繋がらない少女から兄呼ばわりされることなどあるはずが無いのだ!
 ここは『異世界』と呼ぶべき全くの別天地。
 高校二年の俺は、夏休みを翌日に控えた終業式の朝、教室に入ろうとして――気がついたらたった一人で異世界にいた。
 目が覚めたら澄んだ青空と果てしない草原だなんて、本当に笑えない。草原を抜けた先でエルフの美しいお姉さん、エマリアさんに出会えていなかったらどうなっていたことやら……。
 残念ながらエマリアさんとは、案内されたローウェルの街で別れることになってしまったけど、半年くらいで戻ってくると言っていたから、また会えるといいなぁ。

「ご主人さま、記憶に齟齬そごはないにゃ?」

 ちょっと過去を振り返ってボーッとしてしまった。ヴェネくんは首を傾げ俺の様子をうかがっていた。
 いやはや、大変可愛らしい仕草だ。クロードやヴェネくんといると、イヌとネコを同時に飼う人の気持ちがよく分かる。

「うん、もう大丈夫」
「ヴェネ様、ヒビキ様に後遺症こういしょうなどはないのでしょうか?」

 クロードがしょげたワンコ状態のまま、ヴェネくんに尋ねる。
 客観的に見れば、自分を他人だと思い込むなんて尋常じんじょうではない。俺自身もちょっと不安だ。
 だが俺達の心配を他所よそに、ヴェネくんは平然と質問に答えた。

「あれは一時的なものだから心配ないにゃ。一度『魔力循環』を行えば最低限の魔力耐性ができるはずだから、次からは問題ないはずにゃ」
「そうですか……それはよかった」

 垂れていた耳をピンと立たせ、クロードは体中の空気がなくなりそうなほど大きく息をいた。

「よかったの、お兄ちゃん」
「うん、心配してくれてありがとう」
「ところでご主人さま?」
「わっ! な、何、ヴェネくん?」

 突然ヴェネくんが俺の肩に飛び乗った。そして何やら悪戯っぽく俺の耳元で囁いた。

「自分のことをクロードだと思い込んだってことは、クロードの記憶をいろいろのぞいたはずだにゃ。何か面白い記憶はなかったにゃ? クロードをいじれるようなのがあったら教えてにゃ」

 その囁き声は隣にいるリリアンには聞こえていなかったようだが、俺に向かい合うクロードには聞こえていたらしい。さすが獣人。耳をピクピク震わせ、心なしか俺と繋いでいる手が強張こわばった。
 まあ、自分の記憶を他人に覗かれるなんて、恥ずかしいことこの上ないだろう。
 俺は確かに見た。でも――。

「うーん、何かとても綺麗きれいなものを見たような気はするんだけど、よく覚えてないんだよね」
「にゃーんだ。面白い話が聞けるかと思って期待したのににゃ~」

 ヴェネくんはガッカリした顔をして、リリアンの方へ飛び降りていった。
 クロードはほっとしたのか小さなため息をついて、表情をやわらげる。

「クロード、そろそろ昼食にしようか?」
「え? あ、はい、承知いたしました。では火の準備をして参ります」

 繋いでいた手を放し、クロードは立ち上がり歩いていった。
 俺はクロードの背中を見送る。いつもと変わらない背中――だと思う。
 クロードの記憶……とても綺麗なものだった。覚えているのは闇夜に浮かぶ美しい満月と、華やいだ誰かの笑顔、そして――。
 怒りと悲しみ、憎しみや絶望が織り交ざった、悲痛な叫びが頭に残っていた。

「……誰かの名前を呼んでいた気がするんだけど……ダメだな、思い出せないや」

 そしてしばらくすると、俺の中にあったクロードの記憶は、夢のように全て消えてしまった。


       ◆ ◆ ◆


(ヒビキ様、私の声が聞こえますか……?)

 ……うん、聞こえる。全方位から頭に響く。いや、頭じゃなくて全身に――かな? とにかく、クロードの声が聞こえた。

(よかった。私もヒビキ様のお声が、わずかですが聞き取れます。上手くいったようです)

 えーと、何が?

(とりあえず、この辺にしておきましょう。『魔力循環』を終了します。ヒビキ様も魔力を抑えてください)

 眠りから覚めるときのようにゆっくりとまぶたが上がる。見上げると、落ち着いた様子のクロードが俺を優しく見つめていた。

「おめでとうございます、ヒビキ様。ようやく正しく『魔力循環』を行うことができました」
「……ああ、そっか。『魔力循環』をしてたんだっけ」
「ご気分は如何いかがですか?」
「うん。大丈夫……じゃないや。うっぷ!」
「ヒビキ様!?」

 繋いでいた手を放し、俺は仰向あおむけに倒れ込んだ。車酔いのように頭がくらくらして視界がゆがむ。
 最初の頃に比べれば吐き気は随分と軽くなったけれど、それでもやはり戻しそうになる。
 またしばらく起き上がれそうにないな、これは……。

「十五回目にしてようやく『魔力循環』ができたにゃね、ご主人さま」
「……ヴェネくん。上に乗らないで……吐く」

 寝転がる俺の胸の上に、ニヤニヤ顔のヴェネくんが乗っかってきた。くそ、遊ばれている……!

「というか、今のが正しい『魔力循環』なの?」
「そうにゃ。魔力は意思の塊のようなもの。正しく魔力を流し合うことができれば、心の声を交わすことが可能になるのにゃ。そして、体内、体外に流れる自分の魔力を知覚し、操作できるようにする訓練が『魔力循環』なのにゃ」
「それが、十五回目にしてようやくできたってことか……俺、才能ないなぁ」
「ご主人さまに才能がないことは最初に言っておいたはずにゃ。それに、できたと言っても扉のドアノブにようやく手を掛けた段階にゃ。早く扉を開けて前に進んでほしいにゃ」

 魔法の才能は『職業』で決まる。この場合の職業とは冒険者のことではなく、神様から与えられる『職業』のことだ。
 この世界には神様が実在し、十五歳になると戦士や魔導士といった『職業』を与えてくれる。現実世界での職業ではなく素質や気質を顕現けんげんしたようなもので、その職業を元に『技能スキル』や『魔法スキル』を習得することが可能になる。
 教員免許を持つ芸能人みたいな感覚? 教師のスキルを習得して、それを活用して芸能人としてクイズ王を目指すみたいな……? 逆に分かりにくいかな?
 それはともかく、俺の職業は『鑑定士(仮)』……仮ってなんだ!? という質問は受け付けない。俺だってよく分からないのだから。
 とはいえ一応は鑑定士だ。実際、技能スキル『鑑定』を持っているしね。
 鑑定士は主に技能スキルを習得して人物や魔物、物品なんかの鑑定や分析をする職業であり、魔法スキルの習得には向いていない。
 ヴェネくんによれば、魔法に向いていない者が『魔力循環』を習得するには何度も挑戦するしかないそうだ。

「そうは言っても、十五回目でようやくとは、よっぽど才能がないにゃね。努力するにゃ」
「……努力するよ。うっぷ……ごめん、そろそろ本当にどいて……マジで吐きそう」

 やれやれといった様子で、ヴェネくんはリリアンの方へ戻っていった。

「申し訳ございません、ヒビキ様。私がもっと上手くできていれば……」
「いや、これはクロードのせいじゃないよ。魔力に慣れていない俺のせいだって、ヴェネくんが言っていたでしょ? 慣れるしかないんだよね……頑張らないと」

 この世界に来てそろそろ一ヶ月半といったところか。日本では既に夏休みが終わり、新学期が始まる頃だ。
 この世界の時間の流れは、一日が二十四時間、七日で一週間らしい。ただ一ヶ月は一律三十日で、十二ヶ月で一年になるから一年は三百六十日。日本のこよみより少し少ない。
 四季のタイミングも三ヶ月ほどずれているようで、今は初夏の陽気だ。このあたりの気候は日本よりも乾燥しているのでさっぱりとして清々すがすがしく、風が気持ちいい。
 寝転がったまま澄み切った青空を眺め、やはりここは違う世界なのだと実感した。
 どうにか起き上がった俺は、クロードに頼んで『魔力循環』の訓練を再開する。
 日が暮れるまで訓練についやし、俺は二十六回目にしてようやくまともに『魔力循環』を行えるようになった。
 一日中車酔い気分を味わっていた俺に、当然夕食を食べる気力は残っていなかった……。
 ちなみに、リリアンは一回目でしっかり『魔力循環』をマスターしていた。くっ、泣かないぞ!


       ◆ ◆ ◆


「さて、ちょっと復習にゃ。ご主人さま、魔法とは一体何にゃ?」
「えーと、確か……奇跡きせきの一種……だったかな?」
「その通りにゃ。魔法とは、精霊を介して魔神様と契約し、世界に干渉する極小の奇跡なのにゃ! ではリリアンちゃん、回復魔法は誰と契約して発動させる魔法にゃ?」
「えっと……医神……さま?」
「ベリーグッドにゃ、リリアンちゃん! 一部の魔法は『魔導の原初』たる魔神様以外の神様と契約して発動しているにゃ。よく覚えていたにゃね!」
「えへへ」

 冒険者基礎訓練が開始されて早一週間。
 訓練初日こそまるまる魔法訓練に費やした俺だが、翌日以降は午前を魔法の、午後を戦闘の訓練にあてている。一方で、リリアンはずっと魔法の訓練をしていた。
 リリアンの職業は希少な神選職『賢者』だ。ただ神様から職業を与えられるのは十五歳からで、リリアンはまだ十歳。正確には賢者候補ということになる。
 それでも未来の賢者たるリリアンには多大な魔法の才能がある。加えて十歳の少女に戦闘訓練をさせたところで成果など期待できないため、全てを魔法訓練に費やすそうだ。
 午前中は俺とリリアンが一緒にヴェネくんによる魔法座学と魔力循環訓練を受ける。
 リリアンは午後から実践的な魔法の習得訓練に入るが、俺は魔力循環より先の訓練を行っていない。なぜなら俺には魔法を習得するための『魔法スキル』がないからだ。
 魔法を発動させるには三つの要素が必要になる。
 ひとつは『MP』。魔法を発動させるための対価、つまりは魔法の燃料だ。
 もうひとつは『魔力制御』。魔法を効率よく発動させるための技術力と言える。魔力はMPや魔法攻撃力、魔法防御力などの元となる力。制御力が足りなければ同じ魔法でも威力や精度に違いが生じるうえ、魔法によっては発動しない場合もあるらしい。
 最後が『魔法スキル』。これこそが魔法を使ううえで最も必要な要素だ。
 人間が魔法を行使するには、絶対に神々との契約が必要になる。『魔法スキル』とは神様に魔法の使用許可をもらったあかしなのだ。『魔法スキル』がない限りいくら練習したところで魔法を習得することはできないのである。

「技能スキル『鑑定』発動」

【技能スキル『鑑定レベル3』を行使します】

【 名 前 】真名部響生
【 性 別 】男
【 年 齢 】16
【 種 族 】ヒト種
【 職 業 】鑑定士(仮)(レベル5)
【 レベル 】4
【 H P 】102/131
【 M P 】56/56
【 S P 】114/131
【物理攻撃力】51
【物理防御力】27
【魔法攻撃力】36
【魔法防御力】32
【 俊敏性 】82
【 知 力 】71
【 精神力 】104
【  運  】65
【固有スキル】『識者の眼レベル1(オフライン)』『チュートリアルレベル2(オフライン)』
【技能スキル】『鑑定レベル3』『辞書ディクショナリーレベル2』『世界地図ワールドマップレベル2』『翻訳レベル2』
       『魔導書グリモワールレベル1』『宝箱レベル0』『契約コントラクトレベル2』『医学書メディカルブックレベル1』
       『救済措置レベル1』『暗号解読レベル1』
【魔法スキル】なし
【 称 号 】『異世界の漂流者』『メイズイーターからの生還者』『年上キラー』『一攫千金いっかくせんきん


「うーん、やっぱりまだ習得していないなぁ」
「ヒビキ様、その……出来ました……一応」
「あ、ありがとう、クロード。じゃあそこに置いとい……て?」

 午前の訓練を終えた俺達は昼食の準備をしていた。
 午後の戦闘訓練までクロードはいつも周囲の警戒を行っているんだけど、元々ここに現れる魔物は少ない。大して気を張る必要もなかったため昼食作りを手伝ってもらおうと、鶏肉と野菜のカットをお願いしたんだが……。

「クロードって、剣や槍の扱いは完璧だけど……包丁ほうちょうの扱いはレベル1……いや、0だね」
「め、面目ございません……料理は、したことがなくて……」

 あーあ、またしてもしょげたワンコになってしまったよ。でもまさか、元勇者にして元Sランク冒険者のクロードが、料理をしたことがなかったとは。
 肉も野菜もゴロゴロのガタガタだ。大きさもバラバラで、人参やじゃがいもなんて結構皮が残っている。まるで初めて包丁を使う子供が切ったような出来栄え……なぜだ!?

「冒険者って魔物の解体とかもやるんだよね?」
「魔物の解体であれば、毛皮から骨の一本まで綺麗にぎ取れます。ですが、包丁はどうも勝手が違うようでして……思うように扱えません」
「何だろう……これも呪いのせいかな?」

 クロードにはある呪いが掛けられている。その名も『不動の鎖』。
 これは対象者のあらゆる行動を制限する呪いで、制限するためなら、対象者が手足を失うよう仕向けたり、ステータスの低減や職業の格下げをしたりなど、何でもござれのはた迷惑な呪いだ。
 実際、初めて出会った時のクロードは両手と左足を失っていたし、元々は神選職の『勇者』だったのに『騎士』に格下げされていた。そのせいで、勇者の頃に使えたスキルや魔法を使用できなかった。
 誰がこの呪いを掛けたのかクロードも知らないらしい。その話になるとクロードは苦々しい顔つきになり雰囲気が悪くなるので、俺も詳しくは聞いていない。
 それにしても、魔物の解体はできるのに包丁の扱いはダメだなんて、本当に呪いが……?

「……き、きっとそうに違いありません。の、呪いが解ければ、もう少しお役に立てるかと……」

 ――あ、目を逸らした。
 俺にはクロードに掛けられた呪いを解除するためのスキル『救済措置』がある。
 理不尽な理由で受けた状態異常などから対象者を救済するスキルで、スキルレベルが上がっていけば、いつか全ての呪いを解除できる日も来るだろう。
 ……だが、どうやら全ての呪いを解いても料理の役には立たないらしい。

「ソノヒガタノシミダネ」

 つい棒読みになってしまった俺は絶対に悪くないと思う!


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