最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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2巻

2-5

 そして早速クロードに休みの話をする。

「休みですか? 一人前扱いのDランクに昇格するまで一気に駆け上がるつもりでしたが……お体の調子でも悪いのですか?」
「気持ちの問題かな? ここ一ヶ月、街と森の往復しかしてないからリフレッシュしたい」
「――ふむ」

 あごに手を当て、クロードは何やら考え込んだ。
 クロードによるスパルタ冒険者稼業は精神的に疲れるものではあったが、嬉しいこともあった。
 資金の増加と冒険者ランクの昇格はもちろんのこと、その最たる恩恵はやはり短期間でのレベルアップだ。
 この一ヶ月で俺はレベル10になった。こればっかりはクロードのおかげだ。
 レベルアップはパーティーの中では俺しかしていない。呪いを受けているクロードはレベルアップができない状態だし、リリアンもレベル1のままだ。
 この世界では、レベルアップや職業取得は成人してからするものらしい。それまではレベル1の範囲内でステータスが向上するそうだ。
 ちなみに主神様との連絡が途絶えて以来、俺の職業レベルやスキルレベルに変化はない。レベルアップしたのは生活魔法くらいだ。
 随分レベルは上がったはずなのに新しいスキルも習得できていないし、もしかして主神様が復活しない限り、その辺は変わらないままなんだろうか?
 ……サポちゃん、主神様はまだ戻ってこないの?


『サポちゃんより報告。現在、二つの固有スキルはオフラインです。サポちゃんより以上』

 もうあれから一ヶ月はつのに、未だに復活していないのか……。
 まさか本当に魔神様のお仕置きでおっちんで……いや、いくらなんでもさすがにそれは……な、ないよね? 魔神様……。
 いろいろ考えているうちに、俺の休もうという意見に賛同する声が上がった。

「クロード、ヴェネもお休みがほしいにゃ。地上に降りてから全然ゴロゴロしてないにゃ。日向ひなたぼっこしてぐっすりお昼寝したいのにゃ~」
「クロさん、私も……」

 おお、ヴェネくんとリリアンからの援護射撃が。二人は瞳を潤ませてクロードを見つめていた。
 そんな俺達の様子を見下ろすクロードは、見覚えのあるあきらめの顔つきで小さく息をくと――。

「以前にも申しましたが、そんなに恐る恐る聞かないでください。確かにずっと働き通しでしたからね。たまには休んだ方がいいでしょう。肉体的疲労がないので私も失念していました」

 ――休みを許可してくれた!

「じゃあ、明日は休みにしていいの?」
「明日と言わず、二、三日くらい休んでも支障はありませんよ?」
「やった! じゃあ、明日はみんなで街を歩こうよ! みんなの新しい服を見たり、美味しいお菓子の店を探したりさ! 新しい調味料を見るのもいいね! 昼食のレパートリーが増えるよ」
「ヴェネは一日中、お日様の下でぐっすり眠りたいにゃ~」
「ヴェネちゃん、それは明後日にしたら? わたしも、お買い物一緒に、したいよ?」
「まあ、それでもいいけどにゃ~」
「では、明日はみんなで街に出て買い物を。明後日は自由行動にでもしましょうか」
「決まりだね! じゃあ、今日は宿に帰って明日に備え――」


「――キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


「え!?」
「何ですか、今の大声は!?」
「地響きみたいに野太くて低い声にゃ。まさか……」
「――魔物?」

 ギルドに一番近い西門方面から、荒々しい怒鳴り声のような、叫び声のような大音量が響いた。
 俺達だけでなく、誰もが驚き一斉に同じ方角へ顔を向ける。
 ドドドドドドッ! と地響きが鳴り、遠くに砂煙が立つ。
 何かがこちらに突進してきているのか? まさか、リリアンの言う通り本当に魔物が!?
 ぞわりと悪寒おかんが走った! まだ遠いはずなのに巨大な存在感がこちらに迫っているのが分かる。
 砂煙のぬしが近づく音はどんどん大きくなっていった。
 クロードは槍を構え、俺も弓を持つ。周囲の冒険者達もそれぞれに緊張しながら武器を構え、迫り来る魔物に備え――あれ?


「ヒビキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


「………………ん? この声は……」

 砂煙が晴れ、次第にこちらへ迫る魔物の姿がはっきりしてきた。
 二メートルを超える巨躯。ツーブロックの赤色の短髪に無精ぶしょうひげ。血走った黄金の瞳は大きく見開かれ、なぜか俺を一心に見つめて……いや、睨みつけて? いた。……とにかく俺を見ていた。
 クロードにも劣らぬ鍛え上げられた筋骨隆々の肉体。タンクトップにズボンという軽装で、腰に双剣を差し、背中に大きな荷物を背負った、まるで野盗のような……じゃなかった!


「ヒビキイイイイイイイイ! 今、帰ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ギルドマスターのバルス兄貴が、物凄い重量を伴って俺に衝突しようとしていた。

「バ、バルス兄貴!?」

 確か王都に出張中だったんじゃ……帰ってきたのか!?
 バルス兄貴は怖いくらいに満面の笑みを浮かべていた。人間が軽く二、三人入りそうな大荷物を背負っているのに、地面が揺れてしまうほどの轟音を立てて俺に向かって爆走している。
 止まる気がないのか、バルス兄貴は俺を視認するなり更に加速した。まるで標的を見つけたワイルドラッシュボアのよう……もしくは赤信号を無視して突っ込んでくる大型トラックのようだ。
 ――ぶつかる!?
 思わず目を閉じ衝撃に備える! ……が、バルス兄貴が俺に激突することはなく、代わりに甲高かんだかい金属音が近くで鳴り響いた。これは……剣戟けんげき音!?
 ハッとして目を開くと、目の前は真っ黒で……俺とバルス兄貴の間にクロードが立っていた。
 その体から、今までに無いほどの殺気がほとばしっている……ク、クロード?

「何だテメエ! 槍なんぞ向けてどういうつもりだ!」

 背中越しで見えないけど、どうやらクロードがバルス兄貴に槍を突き立て、兄貴がそれを剣で防いだようだ。クロードは両手に槍を持ち、バルス兄貴と相対していた。
 バルス兄貴からも、ありえないほどの殺気が放出される。

「「「ヒ、ヒイイイイイイイイ!?」」」

 周囲の冒険者達が二人の殺気に当てられ、その手に持っていた武器を次々に落とした。
 当然、戦い慣れない一般人達は立っていることもできずへたり込んでしまう。まだ余裕のあった冒険者達は身動きのとれなくなった人達を引きって、建物の中へと避難していった。
 バルス兄貴の喧嘩腰けんかごしの問いに、クロードが答える。その声はかつてないほどに低く、重い。

「我が主に近づく不埒者ふらちものめ。その邪念に満ちた目を主に向けるなど――万死、いや垓死がいしあたいする」

 あ、億・兆・けいを飛ばした……て、そうじゃないでしょ! クロード、どうしたんだ!?
 クロードの殺気が更に膨れ上がり、臨戦態勢に入る。今までも見た、獲物を狩る前の後ろ姿だ。

「ああ? やろうってのか!」

 不快感を隠さないバルス兄貴の挑発。さっき俺の名を呼んだ時の快活な印象は完全に消失し、クロードと同じ重低音が響く。
 周囲に緊張感が走る。まるで猛獣同士の睨み合いだ。少しでも動けば逆にこちらが狙われかねない――そんな緊迫感が周囲を埋め尽くしていった。
 数秒の沈黙……放出していた二人の殺気が弱まったような気がした。いや、違う。
 二人の殺気は、殺すべき相手だけに向けられ、収束し――。

「「――死ね」」

 周囲の建物を突き破るような、耳鳴りのする金属音と衝撃波を皮切りに、金の瞳を持つ二人の男の死闘が、今まさに始まってしまったのであった……なんでだ!?

「いつまでボーっとしてるにゃ、ご主人さま! リリアンちゃん!」
「――はっ! ヴェネくん!?」

 気がつくと俺とリリアンは元いた場所に尻もちをついて倒れていた。戦闘の衝撃波で倒れたらしい。ヴェネくんの声で俺達は我に返り、ギルド前に避難して戦う二人に目をやった。
 クロードとバルス兄貴は目にも留まらぬ速さで死闘を繰り広げていた。クロードが穂先を突き立てれば、バルス兄貴は双剣で槍を受け流し、その動きを利用して反撃する。
 それを見越していたのか、クロードは迷いなくバルス兄貴の攻撃をいなし、再び槍を振るった。
 二人が剣を、槍を振り回すたびに衝撃波が生まれ周囲の建物をぐらつかせる。ギルド前を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け回りながら戦う二人……あっ! 向かいの酒場の柵が壊れた!

「ふ、二人ともやめてよ! クロード! バルス兄貴!」

 声を大にして叫ぶが、戦いに夢中になっている二人に俺の声は届かないようだ。周りが見えていないようで、近くの建物を次々と傷つけていく。

「おおおおおおおおおお!」
「はあああああああああ!」

 二人の雄たけびが周囲を圧倒する。空気が震え、見ている人達を震え上がらせた。

「なんでギルマスがあんなに本気で戦ってんだよ!?」
「あの人は元Sランク冒険者。その中でも指折りの実力者だった人だぞ! このままじゃこの辺一帯が粉微塵こなみじんになるぞ!」
「つーか、ギルマスと対等に戦ってるあいつ、何者だ!?」

 そんな声がギルド前の冒険者達から聞こえてくる。強いだろうとは思っていたけど、バルス兄貴が元Sランク冒険者だって!? 勇者当時のクロードと同じ冒険者ランクだ!

「おりゃああああああああああ!」
「――ぐぅ!」

 クロードがバルス兄貴の剣撃に押されてる! 呪いを受けているクロードではが悪いんだ!
 今のクロードのステータスは――。


【技能スキル『鑑定レベル3』を行使します】

【 名 前 】クロード・アバラス
【 性 別 】男
【 年 齢 】26
【 種 族 】獣人種(黒狼族)
【 状 態 】忠誠(真正主従契約ロイヤリティー)・呪縛(不動の七鎖)
【 職 業 】騎士(レベル25)←勇者(レベル95)
【 レベル 】25(95)
【 H P 】470/617(4257)
【 M P 】198/198(3066)
【 S P 】331/559(4115)
【物理攻撃力】355(2211)
【物理防御力】277(1979)
【魔法攻撃力】180(1752)
【魔法防御力】114(1546)
【 俊敏性 】370(2142)
【 知 力 】150(718)
【 精神力 】262(2082)
【  運  】50(50)
【固有スキル】『地帝の聖剣(レベル10)使用不可』『精霊の豪剣 使用不可』
【技能スキル】『剣技レベル2(10)』『槍技レベル2(10)』『盾技レベル2(10)』
       『槌技レベル2(9)』『斧技レベル2(9)』『体術レベル2(10)』
       『瞬脚レベル2(10)』『流脚レベル2(10)』『豪腕レベル2(10)』
       『体幹制御レベル2(10)』『威圧レベル2(8)』
       『統率レベル2(9)』『気配察知レベル2(10)』
       『危機察知レベル2(10)』『威嚇レベル2(9)』
【魔法スキル】『大地魔法レベル10 使用不可』『水魔法レベル9 使用不可』
       『光魔法レベル10 使用不可』『嵐魔法レベル6 使用不可』
【 称 号 】『救われし者』『○○の剣』『デスマーチ・コマンダー』
【以下非表示】『救世主』『獣国の英雄』『守護者』『地帝の愛し子』


 俺達と一緒にずっと魔物の討伐をしていたのに、一ヶ月前のステータスと何も変わっていない。『救済措置』をレベルアップさせて呪いを解かない限り、これ以上クロードは強くなれない。
 ……ところで『デスマーチ・コマンダー』って称号は……いや、深く考えちゃダメだ。考えたら負けな気がする……そう、今はそれどころじゃなかった!
 単純な腕力や速度はバルス兄貴の方が明らかに上。クロードは元勇者、元Sランク冒険者としての経験と勘、つちかってきた技量を武器にバルス兄貴と対等な戦いをしているんだ。
 バルス兄貴のステータスって一体――。


【技能スキル『鑑定レベル3』を行使します】

【 名 前 】バルス・デリアード
【 性 別 】男
【 年 齢 】43
【 種 族 】ヒト種
【 状 態 】混乱(年上キラー)
【 職 業 】聖騎士(レベル79)
【 レベル 】75
【 H P 】2203/2666
【 M P 】1300/1535
【 S P 】1702/2168
【物理攻撃力】1175
【物理防御力】992
【魔法攻撃力】776
【魔法防御力】847
【 俊敏性 】1254
【 知 力 】2344
【 精神力 】810
【  運  】40
【固有スキル】なし
【技能スキル】『双剣技レベル9』『聖剣技レベル8』『槍技レベル7』『短剣技レベル6』
       『斧技レベル6』『棍棒技レベル6』『瞬脚レベル8』『流脚レベル8』
       『体幹制御レベル8』『体術レベル7』『威圧レベル5』『統率レベル6』
       『気配察知レベル6』
【魔法スキル】『回復魔法レベル8』
【 称 号 】『屈強なる者』『一攫千金』『ダンジョンウォーカー』『ギルドマスター』


 レベル75って!? 攻撃力や防御力なんてクロードの三倍以上の数値だ!
 こんなのいつクロードがやられてもおかしくない! むしろよく今持ちこたえていられるな!

「『双剣技』の妙技『武双連牙ぶそうれんが』!」
「――っ!? があああああああああ!」
「クロード!」

 双剣の連続攻撃がクロードを襲った。
 辛うじて防いだものの、今の彼に踏ん張り切れる威力でなく、クロードは衝撃で吹き飛ばされてしまった。空中でクルリと回転し、後ずさりながらもどうにか着地する。
 ふらつくクロードをバルス兄貴は見逃さなかった。瞬間的な高速移動を可能にする技能スキル『瞬脚』を使って一気に間合いを詰めると即座に剣を振るう。
 だが、クロードは予期していたのかバルス兄貴の剣を回避しながら反撃した。

「『槍技』の妙技『乱流突き』!」
「――っ!? ――ちっ!」
「バルス兄貴!」

 突然、槍の穂先が想定外の不規則な軌道を描いた。どうやら体を柔らかく扱うことで槍の動きをむちのように自在にしならせる妙技らしい。
 それに気がつきすぐに後退したバルス兄貴だったが、穂先はしっかりと兄貴の頬を舐めていたようだ。目の下に赤い線が引かれ、タラリと血が垂れる。
 バルス兄貴は不快感いっぱいの顔で大きく舌打ちをした。
 クロードはそんなバルス兄貴の姿を見てニヤリと笑う。
 バルス兄貴は更に鋭い眼光をクロードへ送って――ってこの二人、本気で殺し合ってない!?
 睨み合っていたのも束の間、すぐに剣戟は再開された。
 俺は何度も二人を呼ぶがちっとも聞いてくれない。二人が刃を交えるたびに地面がえぐれ、建物が傷つき破壊されていく。
 周囲への迷惑を全くかえりみない彼らに、心配というか、若干怒りも湧き始めていた。
 でもどうすれば……。

「ヒビキ様!」
「ジュエルさん!」

 ギルドの奥からジュエルさんが来てくれた。助かった!

「一体何がありましたの!?」
「俺にも分からないよ。ただ、バルス兄貴が俺の方へ突っ込んできたと思ったら、クロードが殺気丸出しで俺の前に立って……そしたらバルス兄貴も……。気づいたら二人が戦い始めていたんだ! 訳が分からな――あれ? ジュエルさん?」

 なぜかジュエルさんは眉間を指で摘むと、それはそれは大きな息を吐いて首を左右に振っていた。この仕草、以前誰かがしていた気がする……誰だっけ?

「ジュエルさん?」
「……酷い。なんて酷い理由で戦っていますの、あの二人。まさに同族嫌悪けんお……なんて無駄な」
「おおおおお!? 俺の酒場があああああああ!」
「うちの食堂の扉があああああああああああ!」

 ギルドの向かいにある酒場と食堂……特に酒場の被害が大きい。現在進行形で破壊行動が行われているからだ。俺のそばで店主達が悲痛な叫び声を上げていた。

「ジュエルさん、どうにか止められない!?」
「……とても無理ですわ。本気のバルス様が相手では、いくら私でも割って入るのは至難のわざです。せめて少しの間だけでも止まってくれれば……」
「それならいい方法があるにゃよ!」
「ヴェネくん! 本当!?」
「間違いなくこの方法ならあのバカバカしい二人を止められるにゃ!」

 リリアンに抱えられていたヴェネくんが俺の肩に飛び乗ってきた。名案があるらしい。

「どうやるの!? 教えて!」
「そこのネコミミ娘にも手伝ってもらうにゃよ」
「ジュエルさん! ヴェネくんがいい方法を教えてくれるって! ……ジュエルさん?」

 ジュエルさんは俺の話に反応せず、ヴェネくんを凝視していた。――あ、忘れてた。

「……ネコが、しゃべっていますわね」
「いや、それは……」

 うっかり人前でヴェネくんと会話してしまった。ジュエルさんが目を点にしている。

「今はそんな場合じゃないと思うがにゃ? ネコミミ娘」

 目を細め、真剣な眼差しを向けるヴェネくん。
 ジュエルさんもすぐに落ち着きを取り戻し、「ヒビキ様の仲間ですものね……」と何やらよく分からない納得の仕方をしていた。

「それで、私に何をお望みですの? と、その前に『ネコミミ娘』はやめていただきたいですわ。普通にジュエルとお呼びくださいませ」
「分かったにゃ。おみゃあ、氷魔法を使えるにゃね? 水と氷の匂いが漂っているにゃ」
「なぜそれを……まあいいですわ、使えます。得意魔法ですから。それで、何をすれば?」
「リリアンちゃんにも手伝ってほしいにゃ」
「わたしも?」

 俺の肩にいたヴェネくんは再びリリアンに飛び移ると、ジュエルさんとリリアンを手招きして小声で話を始めた。なぜ内緒話にする必要が? 俺にも教えてよ!
 話を聞いた二人は、なぜか同時に目を見開き俺の方を見た。な、何……?

「――というわけにゃ。どうにゃ?」
「確かにその方法なら確実にあの二人を止められますわね」
「そう、なの?」
「ええ、リリアンちゃん。間違いなく、あの二人は止まりますわ。そうしたら私とあなたで――」
「うん、任せて!」
「頑張るにゃよ、二人とも!」

 意気込む二人と一匹……おーい、誰か忘れてませんか~?

「みんなだけで納得しないでよ! 俺にできることはないの!?」
「もちろんあるにゃ! ご主人さまにはここに立ってほしいにゃ」

 どうやら俺にも役目はあるらしい。……なら、どうして俺には内緒にするんだ?
 とにかく言われた通りの場所に立つ。ちょうど、戦う二人の真正面に位置する場所だ。

「これなら二人にご主人さまがよく見えるにゃ」
「でもヴェネくん、今の二人は俺のことなんて、全然見えてないよ?」
「そう、今は戦いに夢中で全然目に入っていないにゃ。でも、絶対に奴らはこっちを向くにゃ」

 リリアンの肩に乗るヴェネくんは……あまり嬉しくない不敵な笑みを俺に向けていた。

「支援魔法『感度良好ハイパーセンス』触覚重視!」

 リリアンが俺に魔法を使った。体がビクリと震える。
 支援魔法『感度良好』――五感の感度を高める魔法だ。今回はなぜか俺の触覚の感度を重点的に向上させたらしい。でも、なぜ……?
 というか、向上させすぎじゃない? 服の感触ですら、全身がぞくぞくして気持ち悪い!

「ヴェネくん、なんでこんな魔法を……」
「氷魔法『氷の欠片アイスビット』」

 俺の背後でジュエルさんが氷魔法を使った。確か、小石程度の小さな氷を生成する魔法だ。
 でも、それで一体何を――と、思っていると突然、襟首えりくびを引っ張られた。

「えっ!? な、何!?」

 俺を引っ張ったのはジュエルさんだった。なぜか若干楽しそうな笑みを浮かべている気がするんですけど……。左手で俺の襟首を引っ張り、右手には先ほど魔法で作った氷の欠片が……まさか!

「――さあ、ヒビキ様。お二人を見事お止めくださいませ。……あなたの悲鳴で」

 ジュエルさんは引っ張った襟首の隙間から、右手に持つ氷の欠片を俺の背中に――。

「ひっ! ひゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 感度二百パーセントの俺の背中に、冷たーい氷が侵入した。ジュエルさんは自分で生成した氷を操れるらしく、小さな氷が俺の背中を縦横無尽に駆け回っていく! や、やめてえええええ!

「ふふふふ、ほーら、ほーら!」
「ひいいいいっ! や、やめてええええ! ジュエルさんんんんんっ! ひゃあああああああ!」
「ほほほほ、そーれ、こっちにも!」
「ひひいいいいいいいい! お腹はダメ! ヘソはダメだってええええええええええ!」
「うふふふふふ……あともう少し――あら? もう溶けてしまいましたわ、残念……」

 全身を貫くような冷気とこそばゆい感覚に、俺は地面を転げ回り、何度も悲鳴を上げた。
 氷が溶けるまで約三十秒……ジュエルさんによる氷の蹂躙じゅうりんを受けた俺は、四つんいになってハアハアと息を荒らげながら体がしずまるのを待った。
 クロード達へ目をやると――なぜか二人は鍔迫つばぜり合いの体勢で俺を凝視して、ピタリとフリーズしていた。いや、停止しているのは二人だけじゃない。
 周りを見れば……物陰から様子を窺っていた全員が、俺を見つめたまま硬直していた。
 ぜ、全員の前で醜態を晒した……!! 確かめるまでもなく、今俺の顔は真っ赤に違いない!
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