最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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2巻

2-10

 ――満足? ……ありえない。ありえないありえないありえない! 私は、生涯、いえ、とこしえにお守りすると誓ったのです!
 仲間を守れなかった。自分自身すら守れず、助けていただいた! だから私は誓った。お守りすると! だというのに、その身も、その心も、何もお守りできていない! こんな人生に満足しているわけがない! 私は、悔しくて、悔しくて堪らないのです!

『だったらしゃんとなさい! オマエ、目の前の主の声が聞こえていないの?』

 ――ヒビキ様の、声……?

「……クロード。俺のこと……守ってくれるって、言ったじゃないか。…………たす、けて。俺達のこと、助けてよ……クロード」

 ……ヒビキ様が私に、助けを?
 ヒビキ様の従者になってからずっと、お守りしようと私なりに励んだつもりだ。
 周囲の悪意に気を配り、必要とあらば牽制、粛清し、ご自身でも身を守れるように戦いや冒険の指南もした。
 ヒビキ様は私の教えに素直に従ってくださった。だが、ついぞ『助け』を求められはしなかった。
 危ない時は何度もあった。自力で対処できそうにないことには何度も手を貸した。
 だが、「助けてくれ」「守ってくれ」と求められることは一度もなかった。
 そんなヒビキ様が、私に助けを求めている?

『オマエの主は今、オマエを頼っているのよ? そのままそこで寝そべって無視するつもり?』

 ――!? 嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 応えたい! ヒビキ様をお助けしたい!

『だったらいつまで寝てるの! さっさと起きなさい! お膳立てはオマエの主がしてくれたわ。戦いなさい、勇者クロード・アバラス!』

 唐突に、私の視界がクリアになった。眼前にあるのは涙を流す我が主と、今まさに我が主に食らいつこうとしている汚らわしい愚かな狼の姿。誰が、させるものか!
 気がつけば私は立ち上がり、シルバーダイヤモンドウルフの顔に全力で拳を突き出していた。

『……それでいいのよ。悲しくてもつらくても、運命にあらがい続けなさい。可愛いワタシの愛し子』


       ◆ ◆ ◆


 突然、頭の中にたくさんの情報が入ってきた。

【『識者の眼』が虚偽情報を修正します】
【 状 態 】忠誠(真正主従契約)・呪縛(不動の七鎖)
        ↓
【 状 態 】忠誠(真正主従契約)

【『識者の眼』が虚偽情報を修正します】
【 職 業 】騎士(レベル25)
        ↓
【 職 業 】勇者(レベル95)

 クロードの全てのステータスが、『勇者』のものに書き換えられていく!?

「『豪腕』の妙技『金剛破砕拳ダイヤモンドブレイク』!」

 俺の背後で何枚ものガラスが粉々に砕け散ったような音と、獣の絶叫が響いた。
 ……あれ? 今クロードの声が……あれ!? 目の前に転がっていたクロードがいない!?
 振り返ると、クロードが拳を突き出した体勢で立っていた。拳の延長線上には、明らかにダメージを受けた様子のシルバーダイヤモンドウルフが転がっている。
 まさか、クロードが殴り飛ばした? 奴の『金剛障壁』をグーパンで打ち破って?
 今のクロードは……勇者なのか? これが『識者の眼』開眼モードの能力?
 でも今までのクロードとは明らかに存在感が違う。圧倒的安心感というか信頼感というか……。

「クロード?」
「はい、ヒビキ様」

 なんか、クロードの眼がいつも以上に優しい。余裕があるというか、なんか嬉しそうというか。
 だがその優しげな目も一瞬で鋭く切り替わる。クロードは突然振り返ると右腕を振り上げ一気に下に叩きつけた。

「グギャアアアアアアアアア!?」

 絶叫とともに地面が揺れた。シルバーダイヤモンドウルフだ。
 クロードが俺に目を向けた隙を狙って背後を取ろうとしたんだ。だが、クロードは余裕で反撃した。
 クロードを苦しめたはずの狼が、地面に顔を埋めて……これが、クロードの本当の力。

「ヒビキ様、失礼します――」
「ほへ? ――わっ!」

 クロードは両手に俺とリリアンを担ぎ上げ、ヴェネくんにいたっては口にくわえ、退避させた。
 木陰に運ばれた俺はリリアン達を診察する。特に大きな怪我はないみたいで安心した。

「すぐに終わらせます。こちらで少々お待ちください」

 それだけ告げると、クロードは再びシルバーダイヤモンドウルフに向き直った。奴ももう復活し、それはそれは憎々しげにクロードを睨みつけている。
 今のクロードは無手だ。槍も剣もすでに破壊されてしまった。いくらなんでも武器なしで戦えるとは思えない。

「ク、クロード! 俺のダガーでよければ、これを!」

 腰から抜いたダガーを見せる。だが、クロードは優しい瞳を向けて俺の申し出を断った。

「ご配慮ありがとうございます、ヒビキ様。ですがご安心ください。武器なら持っております」

 武器を持ってる? 一体どういう……?

「シルバーダイヤモンドウルフ……いや、心霊魔導士アナスタシア! そいつの中にいることは分かっている! 大方お前の固有スキル『魂魄分与』で、魂の一部をそいつに宿らせたのだろう。私を狙い、帰る場所を奪い、それだけでは飽き足らず、我が主の命まで狙ったお前の罪は重い!」

 クロードの言葉を聞いたシルバーダイヤモンドウルフが、不機嫌そうな雄たけびを上げた。

「……これで仕舞いにする。精霊よ、勇者に相応しき霊剣を今ここに! 『精霊の豪剣』!」
「――な!? あれは一体……」

 森中から光の粒が集まり始めた。赤、緑、白、黄など何十色もの光の粒が、天高く掲げられたクロードの右手に凝集していく。これは、いろんな属性の魔法の光……?
 やがて、光の粒は一振りの槍へと姿を変えた……精霊の豪、剣?
 槍を構えるクロード。相対するシルバーダイヤモンドウルフは、毛を逆立さかだて唸りながら威嚇している。ゴクリと俺の喉が鳴った。

「さっさと終わらせる。地帝様、力をお貸しください――『地帝の聖剣』!」

 槍の穂先に眩い光が宿る。ただの光じゃないことだけは俺にも分かった。
 でも、『精霊の豪剣』とか『地帝の聖剣』とか、一体何なのさ! 教えて『辞書』さん!


【技能スキル『辞書』を行使します】

 固有スキル『精霊の豪剣』希少ランクSSS
 勇者になる者へ精霊が与える加護スキル。他に『精霊の守護膜』『精霊の守護盾』『精霊の天馬』がある。周囲にいる全ての精霊の恩恵によって最強の霊剣を生成する。
 刃物であれば剣である必要は無い。その強度、攻撃力は世界最強クラス。

 固有スキル『地帝の聖剣』希少ランクSSS
 精霊達の長、四帝精霊の一人『地帝』の力を武器に宿らせるスキル。刃物であれば剣である必要は無い。スキルレベル10になると『地帝』自身が武器に宿る。
 攻撃力が跳ね上がるだけでなく、大地の加護によりどんな無茶な攻撃をしても絶対に壊れないよう武器を強化するため、勇者の持てる全ての力を注ぎ込むことができる。『四帝の聖剣』スキルの中で最も攻撃力が高い。


 えーと、つまり勇者クロードは最強の攻撃スキルと、その力に耐えられる最強の武器を生成するスキルを有していると……? それって、本当に最強なんじゃ……?

『その通りよ! クロードはワタシが選んだ歴代勇者の中でも、最強クラスの貫通力を有するんだから! 防御不能よ! 任せておきなさい!』

「――っ!?」

 俺の前に美少女が現れた! 艶やかな白い髪と白い肌。真っ赤な瞳に真っ赤な唇。
 リリアンと同じ年くらいに見えるのに、雰囲気は今のクロードよりもおごそかで神秘的だ。
 ……まさかこの子が精霊の長、地帝!? こんなに可愛い子が精霊達の頂点だなんて!
 地帝はニンマリと笑みを浮かべると、クロードの槍の中へ吸い込まれるように消えていく。
 穂先の光が収まり、淡い光に変わった。シルバーダイヤモンドウルフは槍の動きに警戒して――。
 …………気がつくとクロードが俺達の前から姿を消していた。

「――へ?」
「――ガウ?」

 何が起きたのか分からず、俺達は思わず声を重ねた。だが、クロードの行方はすぐに分かった。上空からとてつもない殺気が放たれたからだ。
 見上げた先に見えるのは満天の星。既に日が暮れている。それでも俺の視界が暗く感じないのは『識者の眼』のおかげだろうか? もしかして視力まで上げてくれるのだろうか?
 上空の一点から地上に向けて殺気が――いや、殺気が消えた……?
 ハッとしてシルバーダイヤモンドウルフに目をやる。奴は何かに怯え空を凝視したまま硬直していた。
 そして、夜空の星は…………流星となって大地を穿うがった。


       ◆ ◆ ◆


「『瞬脚』『流脚』の複合妙技『昇天跳脚』!」

 音もなく、溜めもなく、私は天上へと舞い上がる。滞空し身を翻して地上を見下ろす。
 目算で百メートルほど跳んだだろうか。穂先を大地に向けて持ち直し、槍に魔力を込めた。
 奴は私が跳んだことに気づいていない……確実に仕留める。
 ……失敗した。殺気が溢れ出したか。ヒビキ様にまで殺気が届いてしまった。

「『威圧』『威嚇』複合妙技、『指向性殺意マーダラスポイント』」

 溢れる殺気はお前にだけくれてやる、アナスタシア。
 私の殺意にはりつけにされ、回避はおろか身動きひとつ取れまい。この一撃でほうむり去る!
『槍技』完全開放! 『豪腕』完全開放! 『体幹制御』完全開放!

「大地魔法『指向性引力ポインティンググラビテーション』! 対象はこの槍と、アナスタシアだ!」

 引力の鎖で繋がれた以上、回避も無意味。我が槍は必ずお前の元へ向かう。
 ……『金剛障壁』を展開しても無駄だ。全力の私の槍に、そのような壁など紙切れ同然!

「回避不能、防御不能の我が槍を以て、汝を大地に還す!」

 全身に力を込める。全ての力よ穂先に宿れ! ヒビキ様、この力であなたをお守りいたします。

「『地帝の聖剣』の妙技『貫く会心の一撃クリティカルピアス』!」

 私は聖なる槍の一撃を大地へ投下した。



       ◆ ◆ ◆


『識者の眼』のおかげだろう。俺は天から落ちる流星がクロードの槍であることに気がついた。

【『識者の眼』が速度を計測……秒速およそ十五万キロ】

 えーと、光の速度が確か秒速三十万キロくらいだから、あの槍の速度は光の矢の半分ってことか。なーんだ、俺の矢の半分の速度か~。なら別に大丈夫かな?
 ……んなわけあるか! 三十万だろうが十五万だろうが、どっちも『一瞬』だ!
 当然避難する時間などあるわけも無く、クロードの槍はシルバーダイヤモンドウルフに直撃した。『金剛障壁』はまるで障子のように、易々と突き破られた。
 槍は奴の首を穿ち、そのまま大地へと貫通していく。

「うわああああああああああ!」

 光の半分の速さで大地に衝突した物体から衝撃が出ないわけもなく、物凄い衝撃波と突風、閃光が発生した。幸い離れた木の裏にいたリリアンとヴェネくんはギリギリ射程外だったが、俺は衝撃波に吹き飛ばされゴロゴロと転がってしまった。
 よろよろと起き上がり、シルバーダイヤモンドウルフの様子を窺う。


【技能スキル『鑑定レベル4』を行使します】

【 名 前 】シルバーダイヤモンドウルフの頭部(死体)
【 備 考 】猛毒があるため食用不可。魔石純度特優良。
       憑依ひょういしていた穢れた魂はようやく解放されたようだ。


 ……確かに死んでる。それにもうアナスタシアさんって人の魂は宿っていないようだ。
 ただ、この言い回しはちょっと気になる。『ようやく解放された』ってどういう意味? クロードの言い方からすると、アナスタシアさんって人がシルバーダイヤモンドウルフを操って俺達を襲ったはず。
 でもこれじゃ、操られていたのはアナスタシアさんのようにも……。

『……よかった。これ以上罪を重ねずに済んで。あなたのおかげよ、ありがとう』

「――え?」

 誰かの声が聞こえた気がした。だが、振り返ってもそこには誰もいなかった。一瞬、美しい白金の髪が木陰に消えたような気がしたけど……気のせいだったんだろうか?

「ヒビキ様、ご無事ですか?」
「クロード!」

 クロードが地上に降りていた。着地音もさせないとは、どうなってるんだ、勇者って。
 強敵は倒され、クロードを含め全員が無事だ。思わず安堵の息をつく。

「そろそろ時間のようですね」
「――時間?」

【制限時間百二十秒が経過しました】
【固有スキル『識者の眼レベル2』が『開眼モード』を終了します】

 また頭の中にたくさんの情報が……クロードのステータスが『騎士』の状態に戻っていった。

「クロード、『騎士』に戻っちゃったね」
「はい……。ヒビキ様、此度の件、全ては私の責任です。どんな罰でもお受けいたします」

 そう言ってクロードは俺の前にひざまずき、深々と頭を下げた。

「うーん、結局どういうことなの?」
「あのシルバーダイヤモンドウルフには、かつて私が勇者であった頃の仲間、アナスタシア・フェーレンの魂の一部が宿っておりました。心霊魔導士アナスタシアは、自身の魂を分割して憑依させることで、魔物を支配することができたのです。まさか彼女の死後もそのまま支配が続いていたとは不覚でした。彼女は一年前に私を裏切り、例の呪いを与えた一味の一人です」
「じゃあ、その人がクロードに呪いを?」
「いいえ。ですが彼女の裏切りがなければ、私は呪われなかったかもしれません」
「じゃあシルバーダイヤモンドウルフに襲われたのは……」
「私を狙ってのことでしょう」

 クロードは沈痛な面持ちで説明した。したんだけど……。

「その話のどこに、クロードに非があるのか分からないんだけど?」
「――は?」

 俺もクロードも互いに不思議そうな顔をして見つめ合った。

「だって、そのアナスタシアさんが勝手にクロードを敵視して、勝手に襲ってきただけでしょ? クロードは巻き込まれただけじゃない。どこに非があるの?」

 俺の問いにクロードは心底理解できないという顔だ。

「で、ですが、私がそばにいなければ、ヒビキ様はあのような危険に晒されることもございませんでした。やはり私のせいで……」
「いや、どう考えても悪いのは襲ってきたアナスタシアでしょ? リリアン達が起きたら聞いてみなよ? 二人とも絶対俺と同じ意見だと思うよ?」
「…………」
「クロードは被害者なんだよ? 裏切られて、呪いを掛けられて、手足まで奪われて。そんな目にったクロードのどこが悪いのさ。何度でも言うよ。クロードは悪くない。そんなことで罪悪感を抱く必要なんてないよ!」
「ヒビキ様……」

 クロードは瞳を潤ませて、今にも泣きそうな顔で俺を見つめた。そして改めて頭を深々と下げて自分の気持ちを俺に告げた。

「ヒビキ様、私、クロード・アバラスは改めて誓います。ヒビキ様が元の世界にお帰りになるその時まで、誠心誠意お仕えし、お守りいたします。たとえ今生こんじょうの別れとなり、この身をおそばに置けずとも、せめてこの誓いは、私の想いだけはどうぞヒビキ様のおそばに置かせてください」
「うん、分かっ――え?」

 今生の別れ……。今生の………別れ? 想いだけそばに……。想いだけ……?

「ヒビキ様?」

 ……いや……いやだよ。

「どうかされましたか? ヒビキ様……」

 今生の別れなんていやだ。会えなくなるなんていやだよ。

「あの…………ヒビキ様?」

 ああ、何で今朝はこんなことで悩んだりしたんだ。答えなんてもう決まっていたのに。

「クロード、今の誓いは認めない」
「――っ!?」

 クロードは絶望の表情を浮かべた。だってそれじゃ俺は満たされない。
 日本に帰りたい。でも、クロード達と別れたくない。……じゃあ、どうする?

「……クロード、ずっとそばにいてよ俺を守ってよ。そう、誓ったよね?」

 どっちかなんて選ばない。両方とも選べばいいんだ!
 日本に帰るし、みんなとも別れない! 方法なんて分からないけど、そう決めた!

「――!? はい! ずっと生涯、いえ! とこしえにおそばにてお守りいたします!」

 クロードは俺の欲しい言葉を返してくれた。よかった。そばにいてくれるんだ。

「うん! じゃあ、そろそろリリアン達のところへ戻ろうか?」
「はい、承知いたしました」
「今の話を二人にも聞いてもら――あれ?」

 答えが決まって意気揚々と歩きだそうとしたけど、急に膝に力が入らなくなり倒れそうになった。幸いクロードが支えてくれたから事なきを得た。

「ヒビキ様、大丈夫ですか!?」
「あれ? なんか急に……」

(うーん、やっぱり今のレベルで『開眼モード』はきつかったみたいだね。しばらく休むといいよ。おやすみ~)

 ……仕方がない。話は目が覚めてからしよう。目を開けていられず全身の力が抜けていく。

「ヒ、ヒビキ様!? だ、大丈夫なんですか、これ! ヒビキ様!?」

 必死の形相ぎょうそうで俺を呼ぶクロードの顔を見ながら、俺は意識を手放した。

『おやすみなさい、良い夢を。クロード、あなたの悪夢も今日で終わりにしましょう。ごめんなさい。私を裁いてくれてありがとう。私は、その時が来るまで……この森で……眠り……ま……す』

 ……それ、クロードに聞こえてないんじゃない? ま、いいか。おやすみなさい、ぐぅ。


       ◆ ◆ ◆


 どこまでも真っ白な空間。そこには黄金の装飾が施された玉座に座る青年が一人。
『神々の頂点 主神』である。鏡に映る少年の姿を見て、主神は安堵の息をついた。

「は~、とりあえず上手くいってよかった~」
「本当にギリギリだったわね」

 主神の後方に突然、妙齢の美女が現れた。『魔導の原初 魔神』である。
 傷ひとつ無いキメこまやかな白い肌。膝までの長い艶やかな漆黒のストレートヘア。髪色と同じ切れ長の黒い瞳は、彼女の容貌を誇り高き女帝のように演出していた。
 オフショルダーの黒いロングドレスに身を包み、純白のショールを肩に羽織はおっている。ショールからちらりと見える鎖骨さこつがなんともなまめかしい、魅力的な女性であった。

「あ、魔神ちゃん。ギリギリになった原因のひとつは魔神ちゃんでしょ? 全治二か月だよ?」
「元はと言えば、あなたが無断で私のスキルを持ち出したからでしょう?」

 魔神は主神の声を無視して素知らぬ顔をしていたが、主神の格好を見て不快感を露わにした。

「そんなことより、その格好どうにかしなさいよ。もうほとんど裸じゃないの!」

 主神はニヤニヤしながら魔神を見上げる。

「魔神ちゃんのえっち~! そんなにお兄さんの体が気になる? 見てよ、この程よく鍛え上げられた腹筋。ちゃんと割れてるでしょ? 誰に見せても恥ずかしくない細マッチョだよ?」
「生まれてから体型なんて変わったことないでしょうが! 世界最高齢のじじいの裸なんて見せられても嬉しくないわよ! あなたもそう思うでしょ? 冥神ちゃん」
「え!? 私は、その……」

 魔神の後方には更にもう一人、女性が佇んでいた。まだ少女と言ってもいいかもしれない。
『魂の管理者 冥神』である。
 思春期の少女らしい瑞々みずみずしい肌に、ウェーブの掛かった灰色の髪は滑らかに腰まで伸びている。髪色と同じ灰色のつぶらな瞳と、赤らめた頬が大変愛らしい。
 薄桃色のしとやかなドレスを身に纏い、後頭部には真っ赤なリボンが結び付けられている。
 まさにフランス人形のように可憐で愛らしい美少女であった。

「冥神ちゃん、ガツンと言ってやりなさい!」

 魔神にそう言われるも、冥神は恥ずかしいのか、主神をチラ見しては顔を赤くするばかりだった。

「冥神ちゃ~ん、いくらでも見ていいんだよ? なんなら触っても――ギャッ!」
「いい加減にしなさい!」
「痛い! 痛いよ、魔神ちゃん! 今度は頭蓋骨ずがいこつが割れちゃうよ!?」

 主神の頭頂を掴んだ魔神は、その細腕からは想像できないほどの握力で圧迫し始めた。

「ごめん、ごめんなさい! ちょっと調子に乗っちゃいました! 許してえええええええ!」
「服、ちゃんと着るわね?」
「着ますうううううううううう!」


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