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2巻
2-12
「何かご不明な点でもございますか?」
「どうしたヒビキ? 足りないのか? 足りないんだな!? よし、ジュエル! あと金貨千枚追加して――ひっ!」
以前の凍結お仕置き級の冷笑がバルス兄貴に向けられている……いや、当然だけどね?
「むしろ、どうしてこんな高額の報酬をもらえるの? というか、依頼は受けてないよ?」
「適正額ですわ、ヒビキ様。シルバーダイヤモンドウルフなど、バルス様でさえ厳しい相手ですのに、それを討伐してくださったのですもの。もしも奴が街に現れていたらどうなっていたことか。それを考えればその報酬額は当然です。今回は事後報告の緊急依頼扱いにしてありますわ」
「クロードに聞いたぞ、ヒビキ。死戦だったんだってな。全員を癒すのに『パーフェクトヒール』を連発してぶっ倒れたんだろ? まさかシルバールビーウルフの討伐中にあんな大物に出くわすなんてな。最初からかなりの重症だったとはいえ、お前達のレベルでよく倒せたもんだ。あれは技量だけでどうにかなる相手じゃないからな。よく頑張ったな、ヒビキ」
ふむ、どうやらクロードが上手いこと説明してくれたらしい。俺のスキルやクロードの過去も上手く隠したうえで辻褄合わせをしてくれたようだ。嘘でごめんなさい、二人とも……。
具体的な説明を求められたらどうしようかと思ったけど、どうやら報酬を渡すために呼ばれただけらしい。
なお、この報酬には奴の魔石の売却代金も含まれている。物凄く貴重品だそう。
「ついでにお前とクロードの昇格が決まった。今日からお前達はCランクだ」
……Cランク? Eランクの次はDランクのはずでは? 聞き間違いかと思い首を傾げると、そんな俺の反応が予想通りだったのか、ジュエルさんが苦笑しつつ教えてくれた。
「ヒビキ様方はシルバーダイヤモンドウルフ以外にも、シルバールビーウルフを多数討伐しております。その数五十以上。EやDランクにしておけるレベルではありませんわ」
「その通り! よってギルドマスター権限で飛び級を許可する! Cランクだ!」
なぜか自信満々で胸を張るバルス兄貴に頷くことしかできなかった。
ちなみにリリアンは仮登録なのでやはり昇格できない。まあ、本人は全く気にしていないようなので別にいいんだが……。
なんか目立ちそうでいやだなぁと若干困る俺に対し、クロードはニヤニヤと嬉しそうだ。
「手間が省けましたね、ヒビキ様」
「そ、そうだね……」
まあ、そう思うことにしよう。確かに手間は省けた。Dランクを飛び越えてCランクになったのだから、クロードのスパルタなデスマーチを受ける必要もない!
「報酬はいつも通りギルド銀行に預けておきますわ。何かご不明な点などはございますか?」
ふむ……あ、だったら聞いてみようかな?
「俺達、これから北のダンジョンへ行く予定なんですけど――」
「確かにCランクになったことだしいいんじゃないか? 東の森よりは稼げると思うぞ」
「それで、いろいろ準備をしようと思いまして」
「ダンジョンへ向かわれるのでしたら、しっかりした準備が必要ですわね」
「道具とか食料とか、あと装備もできれば新調したくて。どこで準備するといいですか? せっかく資金もだくさん手に入ったので、できれば質の良いものを買いたいんですけど……」
森と街の往復しかしてこなかったせいで、最初に利用した店くらいしか知らない。
ギルマス、副ギルマスならいい店を知っているだろうと思って尋ねると、二人は迷うことなく同じ店名を答えてくれた。
「デビィ商会に頼むのが一番だ」
「デビィ商会に頼むのが一番ですわ」
……そういえば、俺から金運の香りがするって言ってたな、あの変態紳士さん。
◆ ◆ ◆
「おっひょひょ、おっひょひょ、おっひょっひょ~!」
「アジャラタン様、今日は一段ときもちわ……いえ、ご機嫌ですね。紅茶をお持ちしました」
私の名前はラリア。今年二十四歳。残念ながら独身です。
五年前からメイドとしてアジャラタン様のお世話を任されています。アジャラタンさんは今日も奇声を上げながら仕事に励んでいます。
「おや、ラリア君。いつもありがとう。君の淹れてくれる紅茶は美味しいですからねぇ。くふふふふふ!」
「ありがとうございます。……それで、何か良い事でもありましたか?」
「ほほほほ、ええ、そうなのですよ! 今日は朝からずっと芳しいお金の香りがプンプン匂っているのですよ! ああ、堪らない! 一体どんな儲け話が来るのでしょうか!」
この方は初めてお会いした時からお金の虜です。
そんなだから四十八歳にもなってまだ独身なんです。金目当てで近づく女性はたくさんいましたが、そんな彼女達ですら、色目を使う前に早々に退散するほどの異常っぷり。
ホント、面倒な方を好きになってしまったものだわ……。
「おやおや、どうしました、ラリア君? ため息などついて。悩みがあるなら相談に乗りますよ?」
「いいえ、結構です。この問題は私自身で解決するしかないので」
「そうですか? まあ、君の相談ならいつでも聞きますから言いたくなったらどうぞ」
お金が絡まないとイケメン中年紳士なのよね。ホントもったいない。でもライバルがいないという意味では、逆に良かったのかしら?
すると私の後ろから執務室の扉を叩く音が聞こえました。
「失礼します、商会長」
「ほほほほ、クリス君ですか。どうしました?」
彼は商会長第一秘書のクリスさん。三十二歳。可愛い妻子持ちです。金髪イケメンですね。
まあ、アジャラタン様ほどじゃないですが……私も毒されたものです。
「受付から、『金運リスト』に登録されているお客様からの入館申請があったと連絡が入りました」
「おひょひょひょひょひょ!? どなたですかな!?」
決まりですね。『金運リスト』とは、今後も当商会へ大金を運んでくれるだろう金運の持ち主をアジャラタン様がリストアップしたものです。これがびっくりするくらい当たります。
「ヒビキ・マナベ様という方ですね」
「ほほほほほほほほほほっ! ヒビキ様ですと!? あの方は、ここ最近では最も芳しい金運の香りを運んで来られた私の天使ですぞ! ああ、これはいけない、すぐにお出迎えしなくては! クリス君、すぐに応接室へお連れして! ラリア君はお茶とお菓子を。あの方はうちで出したお茶とお菓子を大層お気に召していました。君の淹れたお茶ならベストです! 私もすぐに準備して向かいますから頼みましたよ!」
「「畏まりました」」
深々とお辞儀をすると私とクリスさんは執務室を出ました。
ヒビキ様……。確か二ヶ月くらい前にいらっしゃったお客様だったかしら? 奴隷を購入されたお客様のはず。お茶をお出ししたらとても可愛らしい笑顔で「美味しいです、ありがとう」なんて言われたのよね。私ったらつい紅潮してしまって。
……あんな短い時間しか接していないのによく覚えていたものね。
でも、確かに可愛らしい笑顔だった。あれだけ可愛かったら嫁ぎ先も選り取り見取りでしょうね……って、違うわ。あの子は男の子だもの。何考えてるのかしら、私。
「ラリアさん、大丈夫ですか? ボーっとしてますけど……」
「え? あら嫌だ、ごめんなさい。大丈夫です。じゃあ、私は厨房に行ってきますので、クリスさんはお客様のご案内をお願いしますね」
「ええ、お任せください。商会長があれだけ張り切っているのです。きっと今日は良い商談になるでしょう」
どうかしら? この前は結局安い奴隷を買っただけだと思うけど。
でも、まあいいわ。アジャラタン様が楽しそうにしているし、私はそれに従うだけよ。
「さて、私も美味しい紅茶の準備をするとしますか!」
◆ ◆ ◆
デビィ商会は大陸東方面を中心に活躍している大商会だ。
俺達がいるハバラスティア王国では文句なしの国内ナンバーワンの売り上げを誇っている。以前、俺が奴隷だったクロードとリリアンを購入したのもこの店だ。
その商会のトップ、商会長の名をアジャラタン・デビィさんと言う。
「ほほほほ、いらっしゃいませ、ヒビキ様。お久しぶりですねぇ」
「お、お久しぶりです、アジャラタンさん……」
ギルドを後にした俺達は、その足でデビィ商会を訪ねた。
以前同様に入館手続きを済ませ応接室で待つこと数分。やはりと言うべきか、俺の担当に現れたのはアジャラタンさんだった。
ピシッとスーツを着込んだロマンスグレーの美中年紳士。丁寧な口調と優雅な物腰。
見た目だけなら、流し目で妙齢の女性陣をドキリとさせること間違いなしってくらいのイケメンだ。
「おひょひょひょひょ、本日も何とも芳しい金運の香りを漂わせていらっしゃる! くふふふふ、一体どのようなご用件か楽しみですなぁ。ああっ、鼻腔がと・ろ・け・る~!」
……ホント、見た目だけならね。
アジャラタンさんはとにかくお金が大好きな変態さんだ。
守銭奴というよりは純粋にお金が好きというか……固有スキル『金運の嗅覚』で、お金儲けの対象を嗅ぎ分けることができ、利益をもたらす人間から物凄くいい匂いがするそうだ。
金運の香りを嗅ぎつけたアジャラタンさんは発作のように笑い、おかしな言動をする。いい人なんだけど、正直ちょっと苦手だ……。
「えーと、とりあえず話を始めていいですか?」
「ほほほほ? おやおや、失礼いたしました。では早速お願いして――おや? おやおや?」
突然アジャラタンさんが不思議そうな顔をして俺――じゃなくてクロードとリリアンを……あ!
「……私に何か? 商会長殿?」
そうだった! クロードの手足と奴隷の証のことをすっかり忘れてた! アジャラタンさんが見たら不思議がるに決まってるじゃないか!
だがクロードは特に動じることなく堂々とソファーに腰掛けていた。今のクロードは奴隷ではないけど、元々クロードを奴隷として扱っていたアジャラタンさんはどう思うだろう? それにクロード達だって……。
だがアジャラタンさんは、変わらない笑顔で答えた。
「おひょひょひょひょ、まさか、まさか! ジロジロと失礼しました。お詫びいたします」
それどころか深々と頭まで下げた。……気にならないのだろうか?
そんな俺の心情などお見通しなのか、アジャラタンさんはニコリと微笑み俺に説明してくれた。
「くふふふふ、ご心配は不要でございますよ、ヒビキ様。私どもデキる商人はお客様の事情を無遠慮に詮索などいたしません。それに、不正があれば魔神様から間違いなくお咎めがあるはずです。ですから、私に思うところなど何ひとつございませんとも。ほほほほ……」
アジャラタンさんは立ち上がり礼儀正しく一礼した。
「改めまして、ようこそデビィ商会へお越しくださいました。ヒビキ様、クロード様、リリアン様。当館はお客様方のご来館を心より歓迎いたします」
「よろしくお願いします、商会長殿」
「よろしく、お願いし、ます」
クロードやリリアンとの間にわだかまりは無いらしい。変な人だけど、アジャラタンさんが紳士でよかった。
二人の返答を聞いたアジャラタンさんは再びソファーに腰を下ろすと、商談を再開した。
「おひょひょひょひょ、それではご来館の目的を聞かせていただきましょう」
◆ ◆ ◆
「似合うかな、みんな」
「とてもよくお似合いです、ヒビキ様」
「カッコいいの、お兄ちゃん」
「ほほほほ、本当によくお似合いでございますよ、ヒビキ様」
「にゃ~!」
「えへへ、なんだか照れちゃうなぁ」
新しい装備の試着をした俺は、みんなに褒められて割とその気になっていた。
若草色のフード付きチュニック『空膜のチュニック』だ。
袖口や裾には銀糸の刺繍が施され、明るい色の服でありながら落ち着いた雰囲気も備えている。うん、俺好み!
風魔法『空防膜』が付与されており、薄い空気の層が攻撃を緩和し回避を補助してくれるらしい。
ミスリルという魔法銀の糸が織り込まれた生地で作られているので、革の胸当てよりも余程防御力に優れている。軽くて丈夫。素敵な響きだ――。
「じゃあ、俺の上着はこれにします」
「おひょひょひょひょ、お買い上げありがとうございます! 武器はどういたしましょうか?」
「武器はいいです。今持っている物で十分なので」
「おやおや、それは残念でございますなぁ」
神様からもらった武器があるからね。あれよりいい武器はここにはないなぁ。
今俺達が何をしているかというと、見たまんま、新装備の試着である。
クロード達とアジャラタンさんが挨拶を終えた後、クロード主導で交渉が行われた。
ダンジョン攻略に何がどれだけ必要になるのかなんて、俺には分からない。
どんな仕事も適材適所だ。元勇者にして元Sランク冒険者のクロードに任せておけば不備はないのである。というわけで、道具や食料、馬車の手配なんかもサクサクっと終えた俺達は、最後に新しい装備を見繕うことにした。
お金は十分にある。ここで気にすべきは俺達の身の安全なので、より良い物を欲しいと思った。
魔法やスキルが付与されている高価な武器でも防具でも、必要な物は全部購入しよう。
きちんと選びたかったので、現在商会で扱っている全ての武具を大広間に並べてもらった。
その中から良さそうなものを目利きしようということになり、現在に至る――と。
俺もリリアンも全身再コーディネートだ。
『空膜のチュニック』を筆頭に、仕立てのいいズボンにブーツ、ベルト。矢筒を背負うための肩帯と手首を守るためのリストバンド。全て新調だ。
新しい服って、女子じゃなくてもテンション上がるよね。鏡の前に立ち、クルリとひと回り。
――て、それはやりすぎかな? でも、以前の装備屋で購入した物とは段違いの着心地だ。
「お兄ちゃん、よく似合ってるの」
「ありがとう。リリアンもよく似合っているよ。凄く可愛い」
「そう? えへへ、じゃあ、わたしもこれに、する」
顔を赤らめつつも、リリアンは嬉しそうな笑顔のまま俺の前でふわりと一回転して見せた。
薄桃色の膝丈ワンピースの上には清楚な純白のローブ。足下には丈夫そうだが可愛いロングブーツと、右腕には銀のブレスレット、そして胸元には真っ赤なブローチが飾られていた。
前の装備よりも更に女の子らしい格好になったと思う。
リリアンの場合は見た目だけでなく防御面にも相当こだわった。いくら神選職の賢者とはいえ、リリアン自身のステータスは完全に魔法特化。物理的な耐久度は極めて低かった。
純白のローブの名は『守護者のローブ』。
MPを消費することで一定時間極めて高い防御力を発現できる、強化魔法『鉄壁防御』が付与されている。
俺のチュニック同様、ミスリルの銀糸が編み込まれているのでローブそのものの防御力も高い。
薄桃色のワンピースの名は『身かわしワンピース』。
技能スキル『自動回避』がリリアンの回避行動を補助してくれる優れ物だ。魔法で編んだシルク生地が衝撃を吸収する効果もある。
そして、胸元にある真っ赤なブローチは『毒消しブローチ』だ。
リリアンが毒を摂取した場合、自動的に回復魔法『キュア』が発動する。ダンジョンには毒の罠があるらしいので念のため。
ついでにリリアンの腕にあるブレスレットもただの飾りじゃない。あれは『魔蓄のブレスレット』といって、MPを蓄えることができる便利アイテムだ。
素材は魔力をよく通す純ミスリル製。身に着けるだけで、少しずつブレスレットの中央にある魔石に魔力が流れ、MPを一定量蓄えてくれる。
この前のシルバーダイヤモンドウルフ戦でもそうだったが、リリアンにとってMPは生命線だ。いざという時、こういうバックアップは絶対役に立つはず。
「本当によく似合っているぞ、リリアン」
「ありがとう、クロさん」
「にゃ~」
「ヴェネちゃんも、ありがとう」
「くふふふふ、本当にお似合いですぞ、リリアン様。お選びいただいた新しい杖のデザインともよく合っております」
「えへへ、ありがとう」
腰に差してあった新しい杖を取り出すと、リリアンはそれを指揮棒のように軽く振った。
緑を基調とした杖の柄には葉っぱの模様があしらわれ、先端には花の蕾のような装飾がある。
杖の名は『ブロッサムワンド』。
少女にも持てる小ぶりな杖で、軽くて丈夫。リリアンにも軽々と振り回すことができる。見た目から察せられる通り、これは女性向けの杖だ。
特徴は魔導士の最も不得意とする分野『物理攻撃力』をフォローできる点にある。
付与されているのは技能スキル『アタックブースト』。MPを消費することで物理攻撃力の能力値を一時的に補正できる。なんと発動中は杖の蕾が花開くというエフェクト付き!
魔法一択のリリアンの攻撃手段を補完するのにちょうどいい。ダンジョンには魔法が効かない魔物もいるらしいので、いざという時の物理的な攻撃手段が欲しかったんだ。
「ではでは、お二人の装備は以上でよろしいですかな?」
「はい、これでお願いします」
「ほほほほほほほほほほ! 畏まりました、畏まりましたとも! おひょひょひょひょひょ!」
アジャラタンさんの笑いが止まらない。もしかして相当高い……?
「あの、おいくらで?」
「締めて金貨千二百枚ですな! お買い上げありがとうございます! くふふふふふふふふふ!」
…………きんかせんにひゃくまい……何語!? いや、エクトラルト語だけどさ……マジか!
開いた口が塞がらないよ。リリアンなんて何を言われたのか分からなくて首を傾げてるし。
まあ、必要だから買うんだけどね……。
「金貨千二百枚とは……」
金額を聞いたクロードも目を見張る。俺と同様に、あまりの高額に驚いているようだ。
「なんと良心的な価格なのだ」
「安いの!?」
「何を仰るのです、ヒビキ様! これだけの品、他で買おうとすれば金貨千五百枚は下りません。金貨三百枚もお得なのですよ?」
「おひょひょひょひょ、お褒めにあずかり光栄ですなぁ。うちは高品質でリーズナブルな品をお客様にご提供することをモットーとしております故、王国一の優良店を自負しておりますとも!」
「全くだ。私はこの商会を誤解していたようだ。許してほしい」
「ほほほほ、とんでもございません。ご理解いただければ十分でございますとも!」
なんかあっちの二人が仲良くなってる! 冒険者稼業に関してはクロードって結構フランクだ。気がついたらジュエルさんやバルス兄貴とも仲良くなってるし……ちょっとジェラシー。
「ところでクロードの装備は決まった?」
「はい。武器も防具も良い物がありました。こちらになります」
そう言ってクロードは身に着けた防具を見せてくれた。それは前に使っていた鎧とよく似た、胸元を守るだけのコンパクトな金属鎧だった。気に入らなくて俺は眉をひそめる。
「――? ヒビキ様?」
「クロード、この前魔物に腹を食い破られたこと、忘れちゃったの?」
ほんの数日前に、クロードはシルバーダイヤモンドウルフに腹部を食い破られているのだ。その点を慮れば、クロードには腹部も守れる防具を身に着けてほしいのに!
「ご心配ありがとうございます。ですがご安心ください。この防具はその問題を解決できます」
「――? どういうこと?」
「くふふふふ、ヒビキ様。こちらの鎧の名は『疾駆の軽鎧』というのですよ」
二人によると、この鎧には強化魔法『全身防御』が付与されており、装備するだけで全身鎧を身に着けているような高い防御力を得ることができるそうだ。MPを消費すれば更に防御力も上がるらしい。
「私のように『瞬脚』を多用して戦う者のために作られた鎧ですね。重量を軽くしつつ必要なところを全て守れるようになっています。見た目は変わりませんが、今度は全身を守ってくれますよ」
鑑定してみた結果、確かにクロード達の説明通りだった。
形は今の物とそう変わらないが、表面の銀コーティングにミスリルが混じっており、今の鎧よりも銀色が鮮やかなうえ、防御力も高い。
描かれている青色の模様も繊細でなかなか美しい。籠手と脛当てにも、鎧と同じ模様が描かれている。統一感があって格好いいかもしれない。
「そういうことなら、まあいいかな?」
「はい。もう魔物に後れを取るようなヘマはいたしません」
「分かった。それで、武器はどれにするの?」
「この魔法の三節槍『マグネティカ』にいたします」
クロードが見せてくれたのは、見た目は普通の槍だった。黒を基調とした槍の柄には蔓のような黄金の装飾が施されている。
槍を三等分する位置に二個、穂先の付け根に一個、紫色の魔石が埋め込まれており、よく見ると柄の端にも小さな魔石が一個装飾されているようだ。
この槍には雷魔法『磁力制御』が付与されており、魔石が埋め込まれている部分を起点に槍を分離させられるらしい。磁力を操ることで槍の射程を延長したり、穂先を飛び道具として発射できるそうだ。
「ダンジョンでは狭い場所もありますから、この槍なら短槍としても使用できます」
なんとも汎用性の高い槍だな。ちょっと鑑定してみようかな?
【技能スキル『鑑定レベル5』を行使します】
【 名 前 】三節槍『マグネティカ』
【付与魔法 】『磁力制御』
【物理攻撃力】+150
【 機 能 】射程拡大――最大150センチ延長。穂先高速射出――柄の磁力で回収可能。
磁力帯電――指定対象に磁力を帯電可能。(例)敵に剣の雨を降らせるなど。
【 備 考 】柄の端に補助の指輪あり。指輪に魔力を込めれば槍から外すことが可能。
指輪の磁力と槍の磁力を反発させることで高速投擲が可能になる。
また、指輪の磁力により槍の回収も可能。
指輪単体の活用も可能。(例)磁力による反発を利用して剣撃を弾くなど。
「なんか、クロードの説明以上にこの槍、凄いよ……?」
「おひょひょひょひょ? どういう意味ですかな? ヒビキ様」
俺は『鑑定』で確認した内容を、そのままアジャラタンさんに教えてあげた。なぜか驚かれた。
「ほほほほ!? うちの鑑定士にはそこまで分かりませんでしたぞ! なぜ……まさか! ヒビキ様の『鑑定』のスキルレベルはいくつなのですか?」
「レ、レベル5だけど……?」
「レベル5ですと!?」
「な、何? どうしたの? アジャラタンさん」
「本当にレベル5なのですか!? いや、今の話を聞けば疑う余地はないですな。……それにしても信じられない。レベル5の『鑑定』をお持ちの方にお目に掛かれるとは……」
「どうしたヒビキ? 足りないのか? 足りないんだな!? よし、ジュエル! あと金貨千枚追加して――ひっ!」
以前の凍結お仕置き級の冷笑がバルス兄貴に向けられている……いや、当然だけどね?
「むしろ、どうしてこんな高額の報酬をもらえるの? というか、依頼は受けてないよ?」
「適正額ですわ、ヒビキ様。シルバーダイヤモンドウルフなど、バルス様でさえ厳しい相手ですのに、それを討伐してくださったのですもの。もしも奴が街に現れていたらどうなっていたことか。それを考えればその報酬額は当然です。今回は事後報告の緊急依頼扱いにしてありますわ」
「クロードに聞いたぞ、ヒビキ。死戦だったんだってな。全員を癒すのに『パーフェクトヒール』を連発してぶっ倒れたんだろ? まさかシルバールビーウルフの討伐中にあんな大物に出くわすなんてな。最初からかなりの重症だったとはいえ、お前達のレベルでよく倒せたもんだ。あれは技量だけでどうにかなる相手じゃないからな。よく頑張ったな、ヒビキ」
ふむ、どうやらクロードが上手いこと説明してくれたらしい。俺のスキルやクロードの過去も上手く隠したうえで辻褄合わせをしてくれたようだ。嘘でごめんなさい、二人とも……。
具体的な説明を求められたらどうしようかと思ったけど、どうやら報酬を渡すために呼ばれただけらしい。
なお、この報酬には奴の魔石の売却代金も含まれている。物凄く貴重品だそう。
「ついでにお前とクロードの昇格が決まった。今日からお前達はCランクだ」
……Cランク? Eランクの次はDランクのはずでは? 聞き間違いかと思い首を傾げると、そんな俺の反応が予想通りだったのか、ジュエルさんが苦笑しつつ教えてくれた。
「ヒビキ様方はシルバーダイヤモンドウルフ以外にも、シルバールビーウルフを多数討伐しております。その数五十以上。EやDランクにしておけるレベルではありませんわ」
「その通り! よってギルドマスター権限で飛び級を許可する! Cランクだ!」
なぜか自信満々で胸を張るバルス兄貴に頷くことしかできなかった。
ちなみにリリアンは仮登録なのでやはり昇格できない。まあ、本人は全く気にしていないようなので別にいいんだが……。
なんか目立ちそうでいやだなぁと若干困る俺に対し、クロードはニヤニヤと嬉しそうだ。
「手間が省けましたね、ヒビキ様」
「そ、そうだね……」
まあ、そう思うことにしよう。確かに手間は省けた。Dランクを飛び越えてCランクになったのだから、クロードのスパルタなデスマーチを受ける必要もない!
「報酬はいつも通りギルド銀行に預けておきますわ。何かご不明な点などはございますか?」
ふむ……あ、だったら聞いてみようかな?
「俺達、これから北のダンジョンへ行く予定なんですけど――」
「確かにCランクになったことだしいいんじゃないか? 東の森よりは稼げると思うぞ」
「それで、いろいろ準備をしようと思いまして」
「ダンジョンへ向かわれるのでしたら、しっかりした準備が必要ですわね」
「道具とか食料とか、あと装備もできれば新調したくて。どこで準備するといいですか? せっかく資金もだくさん手に入ったので、できれば質の良いものを買いたいんですけど……」
森と街の往復しかしてこなかったせいで、最初に利用した店くらいしか知らない。
ギルマス、副ギルマスならいい店を知っているだろうと思って尋ねると、二人は迷うことなく同じ店名を答えてくれた。
「デビィ商会に頼むのが一番だ」
「デビィ商会に頼むのが一番ですわ」
……そういえば、俺から金運の香りがするって言ってたな、あの変態紳士さん。
◆ ◆ ◆
「おっひょひょ、おっひょひょ、おっひょっひょ~!」
「アジャラタン様、今日は一段ときもちわ……いえ、ご機嫌ですね。紅茶をお持ちしました」
私の名前はラリア。今年二十四歳。残念ながら独身です。
五年前からメイドとしてアジャラタン様のお世話を任されています。アジャラタンさんは今日も奇声を上げながら仕事に励んでいます。
「おや、ラリア君。いつもありがとう。君の淹れてくれる紅茶は美味しいですからねぇ。くふふふふふ!」
「ありがとうございます。……それで、何か良い事でもありましたか?」
「ほほほほ、ええ、そうなのですよ! 今日は朝からずっと芳しいお金の香りがプンプン匂っているのですよ! ああ、堪らない! 一体どんな儲け話が来るのでしょうか!」
この方は初めてお会いした時からお金の虜です。
そんなだから四十八歳にもなってまだ独身なんです。金目当てで近づく女性はたくさんいましたが、そんな彼女達ですら、色目を使う前に早々に退散するほどの異常っぷり。
ホント、面倒な方を好きになってしまったものだわ……。
「おやおや、どうしました、ラリア君? ため息などついて。悩みがあるなら相談に乗りますよ?」
「いいえ、結構です。この問題は私自身で解決するしかないので」
「そうですか? まあ、君の相談ならいつでも聞きますから言いたくなったらどうぞ」
お金が絡まないとイケメン中年紳士なのよね。ホントもったいない。でもライバルがいないという意味では、逆に良かったのかしら?
すると私の後ろから執務室の扉を叩く音が聞こえました。
「失礼します、商会長」
「ほほほほ、クリス君ですか。どうしました?」
彼は商会長第一秘書のクリスさん。三十二歳。可愛い妻子持ちです。金髪イケメンですね。
まあ、アジャラタン様ほどじゃないですが……私も毒されたものです。
「受付から、『金運リスト』に登録されているお客様からの入館申請があったと連絡が入りました」
「おひょひょひょひょひょ!? どなたですかな!?」
決まりですね。『金運リスト』とは、今後も当商会へ大金を運んでくれるだろう金運の持ち主をアジャラタン様がリストアップしたものです。これがびっくりするくらい当たります。
「ヒビキ・マナベ様という方ですね」
「ほほほほほほほほほほっ! ヒビキ様ですと!? あの方は、ここ最近では最も芳しい金運の香りを運んで来られた私の天使ですぞ! ああ、これはいけない、すぐにお出迎えしなくては! クリス君、すぐに応接室へお連れして! ラリア君はお茶とお菓子を。あの方はうちで出したお茶とお菓子を大層お気に召していました。君の淹れたお茶ならベストです! 私もすぐに準備して向かいますから頼みましたよ!」
「「畏まりました」」
深々とお辞儀をすると私とクリスさんは執務室を出ました。
ヒビキ様……。確か二ヶ月くらい前にいらっしゃったお客様だったかしら? 奴隷を購入されたお客様のはず。お茶をお出ししたらとても可愛らしい笑顔で「美味しいです、ありがとう」なんて言われたのよね。私ったらつい紅潮してしまって。
……あんな短い時間しか接していないのによく覚えていたものね。
でも、確かに可愛らしい笑顔だった。あれだけ可愛かったら嫁ぎ先も選り取り見取りでしょうね……って、違うわ。あの子は男の子だもの。何考えてるのかしら、私。
「ラリアさん、大丈夫ですか? ボーっとしてますけど……」
「え? あら嫌だ、ごめんなさい。大丈夫です。じゃあ、私は厨房に行ってきますので、クリスさんはお客様のご案内をお願いしますね」
「ええ、お任せください。商会長があれだけ張り切っているのです。きっと今日は良い商談になるでしょう」
どうかしら? この前は結局安い奴隷を買っただけだと思うけど。
でも、まあいいわ。アジャラタン様が楽しそうにしているし、私はそれに従うだけよ。
「さて、私も美味しい紅茶の準備をするとしますか!」
◆ ◆ ◆
デビィ商会は大陸東方面を中心に活躍している大商会だ。
俺達がいるハバラスティア王国では文句なしの国内ナンバーワンの売り上げを誇っている。以前、俺が奴隷だったクロードとリリアンを購入したのもこの店だ。
その商会のトップ、商会長の名をアジャラタン・デビィさんと言う。
「ほほほほ、いらっしゃいませ、ヒビキ様。お久しぶりですねぇ」
「お、お久しぶりです、アジャラタンさん……」
ギルドを後にした俺達は、その足でデビィ商会を訪ねた。
以前同様に入館手続きを済ませ応接室で待つこと数分。やはりと言うべきか、俺の担当に現れたのはアジャラタンさんだった。
ピシッとスーツを着込んだロマンスグレーの美中年紳士。丁寧な口調と優雅な物腰。
見た目だけなら、流し目で妙齢の女性陣をドキリとさせること間違いなしってくらいのイケメンだ。
「おひょひょひょひょ、本日も何とも芳しい金運の香りを漂わせていらっしゃる! くふふふふ、一体どのようなご用件か楽しみですなぁ。ああっ、鼻腔がと・ろ・け・る~!」
……ホント、見た目だけならね。
アジャラタンさんはとにかくお金が大好きな変態さんだ。
守銭奴というよりは純粋にお金が好きというか……固有スキル『金運の嗅覚』で、お金儲けの対象を嗅ぎ分けることができ、利益をもたらす人間から物凄くいい匂いがするそうだ。
金運の香りを嗅ぎつけたアジャラタンさんは発作のように笑い、おかしな言動をする。いい人なんだけど、正直ちょっと苦手だ……。
「えーと、とりあえず話を始めていいですか?」
「ほほほほ? おやおや、失礼いたしました。では早速お願いして――おや? おやおや?」
突然アジャラタンさんが不思議そうな顔をして俺――じゃなくてクロードとリリアンを……あ!
「……私に何か? 商会長殿?」
そうだった! クロードの手足と奴隷の証のことをすっかり忘れてた! アジャラタンさんが見たら不思議がるに決まってるじゃないか!
だがクロードは特に動じることなく堂々とソファーに腰掛けていた。今のクロードは奴隷ではないけど、元々クロードを奴隷として扱っていたアジャラタンさんはどう思うだろう? それにクロード達だって……。
だがアジャラタンさんは、変わらない笑顔で答えた。
「おひょひょひょひょ、まさか、まさか! ジロジロと失礼しました。お詫びいたします」
それどころか深々と頭まで下げた。……気にならないのだろうか?
そんな俺の心情などお見通しなのか、アジャラタンさんはニコリと微笑み俺に説明してくれた。
「くふふふふ、ご心配は不要でございますよ、ヒビキ様。私どもデキる商人はお客様の事情を無遠慮に詮索などいたしません。それに、不正があれば魔神様から間違いなくお咎めがあるはずです。ですから、私に思うところなど何ひとつございませんとも。ほほほほ……」
アジャラタンさんは立ち上がり礼儀正しく一礼した。
「改めまして、ようこそデビィ商会へお越しくださいました。ヒビキ様、クロード様、リリアン様。当館はお客様方のご来館を心より歓迎いたします」
「よろしくお願いします、商会長殿」
「よろしく、お願いし、ます」
クロードやリリアンとの間にわだかまりは無いらしい。変な人だけど、アジャラタンさんが紳士でよかった。
二人の返答を聞いたアジャラタンさんは再びソファーに腰を下ろすと、商談を再開した。
「おひょひょひょひょ、それではご来館の目的を聞かせていただきましょう」
◆ ◆ ◆
「似合うかな、みんな」
「とてもよくお似合いです、ヒビキ様」
「カッコいいの、お兄ちゃん」
「ほほほほ、本当によくお似合いでございますよ、ヒビキ様」
「にゃ~!」
「えへへ、なんだか照れちゃうなぁ」
新しい装備の試着をした俺は、みんなに褒められて割とその気になっていた。
若草色のフード付きチュニック『空膜のチュニック』だ。
袖口や裾には銀糸の刺繍が施され、明るい色の服でありながら落ち着いた雰囲気も備えている。うん、俺好み!
風魔法『空防膜』が付与されており、薄い空気の層が攻撃を緩和し回避を補助してくれるらしい。
ミスリルという魔法銀の糸が織り込まれた生地で作られているので、革の胸当てよりも余程防御力に優れている。軽くて丈夫。素敵な響きだ――。
「じゃあ、俺の上着はこれにします」
「おひょひょひょひょ、お買い上げありがとうございます! 武器はどういたしましょうか?」
「武器はいいです。今持っている物で十分なので」
「おやおや、それは残念でございますなぁ」
神様からもらった武器があるからね。あれよりいい武器はここにはないなぁ。
今俺達が何をしているかというと、見たまんま、新装備の試着である。
クロード達とアジャラタンさんが挨拶を終えた後、クロード主導で交渉が行われた。
ダンジョン攻略に何がどれだけ必要になるのかなんて、俺には分からない。
どんな仕事も適材適所だ。元勇者にして元Sランク冒険者のクロードに任せておけば不備はないのである。というわけで、道具や食料、馬車の手配なんかもサクサクっと終えた俺達は、最後に新しい装備を見繕うことにした。
お金は十分にある。ここで気にすべきは俺達の身の安全なので、より良い物を欲しいと思った。
魔法やスキルが付与されている高価な武器でも防具でも、必要な物は全部購入しよう。
きちんと選びたかったので、現在商会で扱っている全ての武具を大広間に並べてもらった。
その中から良さそうなものを目利きしようということになり、現在に至る――と。
俺もリリアンも全身再コーディネートだ。
『空膜のチュニック』を筆頭に、仕立てのいいズボンにブーツ、ベルト。矢筒を背負うための肩帯と手首を守るためのリストバンド。全て新調だ。
新しい服って、女子じゃなくてもテンション上がるよね。鏡の前に立ち、クルリとひと回り。
――て、それはやりすぎかな? でも、以前の装備屋で購入した物とは段違いの着心地だ。
「お兄ちゃん、よく似合ってるの」
「ありがとう。リリアンもよく似合っているよ。凄く可愛い」
「そう? えへへ、じゃあ、わたしもこれに、する」
顔を赤らめつつも、リリアンは嬉しそうな笑顔のまま俺の前でふわりと一回転して見せた。
薄桃色の膝丈ワンピースの上には清楚な純白のローブ。足下には丈夫そうだが可愛いロングブーツと、右腕には銀のブレスレット、そして胸元には真っ赤なブローチが飾られていた。
前の装備よりも更に女の子らしい格好になったと思う。
リリアンの場合は見た目だけでなく防御面にも相当こだわった。いくら神選職の賢者とはいえ、リリアン自身のステータスは完全に魔法特化。物理的な耐久度は極めて低かった。
純白のローブの名は『守護者のローブ』。
MPを消費することで一定時間極めて高い防御力を発現できる、強化魔法『鉄壁防御』が付与されている。
俺のチュニック同様、ミスリルの銀糸が編み込まれているのでローブそのものの防御力も高い。
薄桃色のワンピースの名は『身かわしワンピース』。
技能スキル『自動回避』がリリアンの回避行動を補助してくれる優れ物だ。魔法で編んだシルク生地が衝撃を吸収する効果もある。
そして、胸元にある真っ赤なブローチは『毒消しブローチ』だ。
リリアンが毒を摂取した場合、自動的に回復魔法『キュア』が発動する。ダンジョンには毒の罠があるらしいので念のため。
ついでにリリアンの腕にあるブレスレットもただの飾りじゃない。あれは『魔蓄のブレスレット』といって、MPを蓄えることができる便利アイテムだ。
素材は魔力をよく通す純ミスリル製。身に着けるだけで、少しずつブレスレットの中央にある魔石に魔力が流れ、MPを一定量蓄えてくれる。
この前のシルバーダイヤモンドウルフ戦でもそうだったが、リリアンにとってMPは生命線だ。いざという時、こういうバックアップは絶対役に立つはず。
「本当によく似合っているぞ、リリアン」
「ありがとう、クロさん」
「にゃ~」
「ヴェネちゃんも、ありがとう」
「くふふふふ、本当にお似合いですぞ、リリアン様。お選びいただいた新しい杖のデザインともよく合っております」
「えへへ、ありがとう」
腰に差してあった新しい杖を取り出すと、リリアンはそれを指揮棒のように軽く振った。
緑を基調とした杖の柄には葉っぱの模様があしらわれ、先端には花の蕾のような装飾がある。
杖の名は『ブロッサムワンド』。
少女にも持てる小ぶりな杖で、軽くて丈夫。リリアンにも軽々と振り回すことができる。見た目から察せられる通り、これは女性向けの杖だ。
特徴は魔導士の最も不得意とする分野『物理攻撃力』をフォローできる点にある。
付与されているのは技能スキル『アタックブースト』。MPを消費することで物理攻撃力の能力値を一時的に補正できる。なんと発動中は杖の蕾が花開くというエフェクト付き!
魔法一択のリリアンの攻撃手段を補完するのにちょうどいい。ダンジョンには魔法が効かない魔物もいるらしいので、いざという時の物理的な攻撃手段が欲しかったんだ。
「ではでは、お二人の装備は以上でよろしいですかな?」
「はい、これでお願いします」
「ほほほほほほほほほほ! 畏まりました、畏まりましたとも! おひょひょひょひょひょ!」
アジャラタンさんの笑いが止まらない。もしかして相当高い……?
「あの、おいくらで?」
「締めて金貨千二百枚ですな! お買い上げありがとうございます! くふふふふふふふふふ!」
…………きんかせんにひゃくまい……何語!? いや、エクトラルト語だけどさ……マジか!
開いた口が塞がらないよ。リリアンなんて何を言われたのか分からなくて首を傾げてるし。
まあ、必要だから買うんだけどね……。
「金貨千二百枚とは……」
金額を聞いたクロードも目を見張る。俺と同様に、あまりの高額に驚いているようだ。
「なんと良心的な価格なのだ」
「安いの!?」
「何を仰るのです、ヒビキ様! これだけの品、他で買おうとすれば金貨千五百枚は下りません。金貨三百枚もお得なのですよ?」
「おひょひょひょひょ、お褒めにあずかり光栄ですなぁ。うちは高品質でリーズナブルな品をお客様にご提供することをモットーとしております故、王国一の優良店を自負しておりますとも!」
「全くだ。私はこの商会を誤解していたようだ。許してほしい」
「ほほほほ、とんでもございません。ご理解いただければ十分でございますとも!」
なんかあっちの二人が仲良くなってる! 冒険者稼業に関してはクロードって結構フランクだ。気がついたらジュエルさんやバルス兄貴とも仲良くなってるし……ちょっとジェラシー。
「ところでクロードの装備は決まった?」
「はい。武器も防具も良い物がありました。こちらになります」
そう言ってクロードは身に着けた防具を見せてくれた。それは前に使っていた鎧とよく似た、胸元を守るだけのコンパクトな金属鎧だった。気に入らなくて俺は眉をひそめる。
「――? ヒビキ様?」
「クロード、この前魔物に腹を食い破られたこと、忘れちゃったの?」
ほんの数日前に、クロードはシルバーダイヤモンドウルフに腹部を食い破られているのだ。その点を慮れば、クロードには腹部も守れる防具を身に着けてほしいのに!
「ご心配ありがとうございます。ですがご安心ください。この防具はその問題を解決できます」
「――? どういうこと?」
「くふふふふ、ヒビキ様。こちらの鎧の名は『疾駆の軽鎧』というのですよ」
二人によると、この鎧には強化魔法『全身防御』が付与されており、装備するだけで全身鎧を身に着けているような高い防御力を得ることができるそうだ。MPを消費すれば更に防御力も上がるらしい。
「私のように『瞬脚』を多用して戦う者のために作られた鎧ですね。重量を軽くしつつ必要なところを全て守れるようになっています。見た目は変わりませんが、今度は全身を守ってくれますよ」
鑑定してみた結果、確かにクロード達の説明通りだった。
形は今の物とそう変わらないが、表面の銀コーティングにミスリルが混じっており、今の鎧よりも銀色が鮮やかなうえ、防御力も高い。
描かれている青色の模様も繊細でなかなか美しい。籠手と脛当てにも、鎧と同じ模様が描かれている。統一感があって格好いいかもしれない。
「そういうことなら、まあいいかな?」
「はい。もう魔物に後れを取るようなヘマはいたしません」
「分かった。それで、武器はどれにするの?」
「この魔法の三節槍『マグネティカ』にいたします」
クロードが見せてくれたのは、見た目は普通の槍だった。黒を基調とした槍の柄には蔓のような黄金の装飾が施されている。
槍を三等分する位置に二個、穂先の付け根に一個、紫色の魔石が埋め込まれており、よく見ると柄の端にも小さな魔石が一個装飾されているようだ。
この槍には雷魔法『磁力制御』が付与されており、魔石が埋め込まれている部分を起点に槍を分離させられるらしい。磁力を操ることで槍の射程を延長したり、穂先を飛び道具として発射できるそうだ。
「ダンジョンでは狭い場所もありますから、この槍なら短槍としても使用できます」
なんとも汎用性の高い槍だな。ちょっと鑑定してみようかな?
【技能スキル『鑑定レベル5』を行使します】
【 名 前 】三節槍『マグネティカ』
【付与魔法 】『磁力制御』
【物理攻撃力】+150
【 機 能 】射程拡大――最大150センチ延長。穂先高速射出――柄の磁力で回収可能。
磁力帯電――指定対象に磁力を帯電可能。(例)敵に剣の雨を降らせるなど。
【 備 考 】柄の端に補助の指輪あり。指輪に魔力を込めれば槍から外すことが可能。
指輪の磁力と槍の磁力を反発させることで高速投擲が可能になる。
また、指輪の磁力により槍の回収も可能。
指輪単体の活用も可能。(例)磁力による反発を利用して剣撃を弾くなど。
「なんか、クロードの説明以上にこの槍、凄いよ……?」
「おひょひょひょひょ? どういう意味ですかな? ヒビキ様」
俺は『鑑定』で確認した内容を、そのままアジャラタンさんに教えてあげた。なぜか驚かれた。
「ほほほほ!? うちの鑑定士にはそこまで分かりませんでしたぞ! なぜ……まさか! ヒビキ様の『鑑定』のスキルレベルはいくつなのですか?」
「レ、レベル5だけど……?」
「レベル5ですと!?」
「な、何? どうしたの? アジャラタンさん」
「本当にレベル5なのですか!? いや、今の話を聞けば疑う余地はないですな。……それにしても信じられない。レベル5の『鑑定』をお持ちの方にお目に掛かれるとは……」
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