最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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3巻

3-5

「さて、そろそろ休んで明日に備えましょうか」
「そうにゃね~、ヴェネはもう眠くて眠くて」
「ヴェネちゃん、お昼はずっと、わたしのフードの中で、寝てなかった?」

 リリアンに消臭と遮音の魔法を掛けてもらい、最後に警戒の魔法『警告の風壁エアアラーム』を設置してもらって、全員で就寝した。
 次第に眠気に襲われ、意識が暗闇の底に落ちていく……。
 こういう時って普段は考えないような、図々しいというか、都合のいい願望を考えたりしない? 俺は、それをしてしまった。
 ……ああ、クロードに借りたスキルを、『複製転写』でコピーできたらいいのに……。

【技能スキル『複製転写レベル4』を行使します】

「――……――…………ん?」

【複製対象を指定。――技能スキル『体幹制御』及び『気配察知』】

「んん……?」

【構造情報の複製が完了しました。スキルの転写処置を開始します】

「――……――……今、何て……」

【転写処置完了しました】
【技能スキル『体幹制御レベル1』を取得しました】
【技能スキル『気配察知レベル1』を取得しました】
【技能スキル『技能貸借レベル2』は既得スキルを借りることはできません】
【技能スキル『体幹制御』及び『気配察知』を貸し主に返却しました】

 ガバリッと豪快な衣擦きぬずれ音が部屋に響く。俺とクロードはほぼ同時に起き上がっていた。

「うるさいにゃ~、急にどうしたにゃ?」
「……クロさん? お兄ちゃん?」

 眠たげな様子のヴェネくんとリリアンを他所に、驚いた様子のクロードと目が合う。

「ヒビキ様、今突然、私がお貸ししたスキルが戻って来たような気がしたのですが……」
「……うん、そうみたい」
「な、なぜですか? 返却にはまだ十分な時間があるはずです」
「…………うん……複製、できちゃったみたいで」
「複製?」
「……その、スキルを……」
「スキルを? …………まさか」
「……『複製転写』が、クロードから借りたスキルを……複製して、『体幹制御』と『気配察知』を習得しちゃった……みたいな?」

 自分の笑顔が引きつっているのを感じた。
 ああ、こんな風に呆然というか、唖然として口をポカンと開きっぱなしにする彼らの姿を見るのは一体何度目だろうか?
 ――よかったね、これでスキルを複製できるよ!
『複製転写』のスキルレベルが上がった時、主神様はこう告げていたのかもしれない。

『サポちゃんより報告。『複製転写』は生物以外のものなら大抵複製可能。サポちゃんより以上』

 うん、確かにそう『辞書』にも表記されていたけど……物には限度というものがね。
 今夜は寝付くのに少々時間が掛かりそうです……あ、ヴェネくんもう寝てる。

 どうやらスキルの複製は『複製転写』と『技能貸借』による複合妙技のようなものらしい。それにある程度スキルを使い込まないと、複製するだけの下地もできないようだ。
 目的は違うが、体に覚えさせようと必死に頑張った結果が出たということかな?
 まあそんな条件があったところで、反則スキルであることに変わりはないけどね!
 ……それは置いといて、問題はその後。
 スキルを複製できると知ったクロードが、驚くほどこれを利用しようと躍起やっきになった。
 特にクロードが俺に習得させたがったのは『瞬脚』と『流脚』だ。
 攻撃力も防御力も劣る俺の場合、『剣技』や『槍技』などよりも、回避に優れたスキルを習得させた方が生存率が上がるという目算だ。
 それ自体は俺も賛成だ。俺の貧弱な攻撃では『剣技』を覚えたくらいでは役に立たないだろう。
 まあ、その二つのスキルを習得できたら『剣技』も護身用に習得させるつもりみたいだけど……問題はそこではなくて。

「くくく、久しぶりに訓練のし甲斐があるというものです」

 称号『デスマーチ・コマンダー』を持つ、訓練の鬼による新たなデスマーチが始まろうとしていた。
 …………結論だけ言おう。
 明くる四日目は朝から怒濤どとうの勢いだった。とにかく下の階層へ行こうと、禁止していた『世界地図』まで使用させられ、魔物も何もほっぽって第八階層まで突き進んだ。
 そしてスキル複製の訓練と称して、この階層の魔物との戦闘をいられたのだ……俺一人で。
 段階を踏まずに進んだがために、相対した魔物は急激に強くなっていた。逃げに逃げ、かわしに躱し、本当に危なくなるまでは俺一人での対処が続く。
 日暮れ頃になり、それでもスキルの複製条件を満たさない俺にごうを煮やしたクロードは、とうとう自分で攻撃を仕掛けてきた。

「すべてはヒビキ様が生き残るためなのです!」

 一体、どこでスイッチが入ったのか、面白そうに俺に槍を突き立てる鬼軍曹殿。俺の回避能力限界をギリギリ上回る速度の攻撃を執拗しつように繰り返してくるため、常に全力回避が求められた。
 俺の過保護な騎士様は、俺が生き残るためなら時々、手段を選んでくれないのである……。
 二つのスキルの複製に成功した直後、一日で終わって本当によかったと思いながら、俺はその場で意識を手放した。
 もちろん翌日、ようやく熱の冷めたクロードを三人で叱りつけたのは言うまでもない。
 いや、ホントに死んじゃうからね! 『デスマーチ・コマンダー』の称号、なくなってくれないかなぁ……。

(あははははは……無理!)

 ……なんでこれだけはっきり聞こえるの、主神様!


       ◆ ◆ ◆


 ダンジョン攻略五日目。
 前日の疲労など『医学書』によって完全回復しましたとも、精神以外。
 既に一週間の行程の半分を過ぎているが、俺達はとうとう第九階層に到達していた。
 到着したっていうか、無理やり来たっていうか、とにかく着いた。
 行きと違って帰りは最短ルートで戻るだけだから、ペースアップして進めば十分期間内に地上へ出られる計算らしい。
 ……いや、行きも随分なスパート掛けてたからね!?
 今日の目標は第十階層への階段を見つけることだ。だが、そこにいるボスに挑むつもりは毛頭ない。あくまで入り口を把握して、次回の攻略をスムーズに進める準備をするだけ。
 そしてその場所は、思いのほか早く見つかった。

「ここが第十階層への階段か。随分と近くに設定されているんだね」
「二つの階段は必ずしも離れた場所にあるわけではありませんから。拍子抜けするほどすぐに、次の階層への入り口が見つかることも少なくありません」

 第十階層への階段が見つかったのは、俺達が第九階層に入って一時間ほど歩いた頃だった。
 地図の位置関係から考えて、おそらく第九階層の中央部あたり。第八階層の階段は互いが対角線上に設定されており見つけるのに随分と時間が掛かったが、今回はすんなり見つかった。

「その分、第十階層のボス攻略が困難ってことかもしれないにゃね~。『さっさと来てみろ、ここから先は通さんぞ!』みたいにゃ?」

 ヴェネくんの横では、リリアンがぐっと拳を握る。

「エメラルド……負けないの」
「うーん、クロード、どうしようか? 場所も分かったし、第九階層の未踏破区域の探索をする? それともこのまま地上に戻る?」
「……いえ、とりあえず階段を下りてみましょう」
「えっ!? ボス戦はしないんじゃ……」
「ご安心を。この階段を下りた先には扉が設置されているそうです。そして、扉を開けない限りはボス部屋にも繋がらないし、ボス戦も始まらない。先日受付の際に、フラニカ殿から教えていただきました……聞いていなかったのですね、ヒビキ様」
「……ごめん、攻略予定表の記入に集中していたから何も聞いてないや」
「ダメにゃねえ、ご主人さま。今後は一度に複数のことをできるようにならないとダメにゃよ?」
面目めんぼくない……」

 というわけで、クロードの提案に従い階段を下りてみると、そこは結構な広さの部屋となっており、正面には重厚で大きな扉が待ち構えていた。
 昔の王城にあるイメージの巨大で重厚な扉で、高さは五メートルくらいある。

「この先には森が広がっているそうです」
「森? えーと、それってどういう意味?」
「森です。ダンジョンは階層によって、今までの如何にも迷路といった空間とは全く異なる構造の領域を形成することがあります。おそらくボス部屋はその類なのでしょう。この扉の先には、ボスであるシルバーエメラルドウルフにとって最も有利な、緑豊かな森が広がっているのです」

 ……森。正直、言葉を聞いただけではよく理解できない。要するに植林されているってことだろうか? ……ちょっと、見てみたいなぁ。

「クロード、扉をちょっとだけ開けちゃダメかな? 中の様子を見てみたいな~なんて」
「扉をですか? しかし――」
「クロさん、わたしも、見てみたい!」
「中に入らないで、ちらっと見るだけなら大丈夫じゃないかにゃ? 扉の目の前にボスがいるわけでもあるまいし」
「……まあ、森の様子を少し見る程度なら大丈夫でしょう。ですが、絶対に足を踏み入れてはいけません。全員、いいですね?」
「分かった」

 ……意外、許可がもらえたよ。
 さすがに俺一人では開けられそうにないので、クロードと一緒に扉を押して――引いて――。

「……開かないね、この扉。なんで?」

 びくともしないとはまさにこのことで、俺達は扉を開けることができなかった。

「これは……既にボス戦に挑んでいる冒険者がいるようですね」
「え? 今まさに戦っているってこと?」
「一度ボス部屋に何者かが足を踏み入れ扉が閉まると、中にいる者が出てくるまで、外からは扉を開けられない仕組みになっているのでしょう。そういうダンジョンはよくありますので……」
「見てみたかったの……」
「仕方ないにゃ、リリアンちゃん。次はボス戦をするんだから、その時見れるにゃ」
「それでは第九階層をもう少し探索したら、その足で第八階層へ。そのまま地上に戻りましょう」
「……うん――え?」
「どうしたの、リリア――扉が!」

 驚いた様子のリリアンにつられて振り返ると、さっきまで微動だにしなかったボス部屋の扉がゆっくりと、大きな音を立てて開き――中から、傷だらけの四人の冒険者が倒れ込むように飛び出してきた。開いたままの扉の前で、四人は力尽きたように崩れ落ちピクリとも動かない。

「いけない!」

 叫んだクロードが全力で駆け出した。

「本当だ! すぐに手当てしなくちゃ!」
「違うにゃご主人さま! まずいのは扉にゃ! きっとあいつらは敗退者にゃ! 扉を開けっぱなしにしておいたら、中のボスが出てきちゃうにゃ!」

 ヴェネくんの言葉に、俺とリリアンは思わず視線を扉の先へ向けた。
 視界を埋め尽くすのは一面の緑。あれが、ダンジョンの中? ……東の森じゃなくて?
 クロードに聞かされた時は、どんなものか全く想像できなかったけど、これほどとは……。

「――て、そんな場合じゃなかった。俺もクロードを手伝ってく――あれはっ!?」
「くそっ! 『槍技』の妙技『六点突き』!」

 クロードの槍が一瞬で六撃の刺突を放つ。瞬間、突如扉の向こうから現れた触手のような得体の知れない物体がぜる。あれは――。

「木の、根っこ?」
「植物魔法『樹木鞭ウッドウィップ』にゃ! そいつらを引きずり戻すつもりにゃ! リリアンちゃん、すぐに火魔法の準備にゃ! クロードと植物魔法じゃ相性が悪いにゃ!」
「でもヴェネくん、出てきた触手は今クロードが破壊して――え?」
「ちいっ!」

 一度はクロードの槍を受けて先端から破壊された木の根の触手。だが、それらは先ほどの攻撃などなかったかのように、先端を破壊された状態で再びうねうねと動き始めた。
 迫り来る触手の鞭をクロードの槍が巧みにさばく。だが、数が増えれば持たないかもしれない。

「植物魔法の厄介なところは、あれ自体をちょっと破壊したところで意味がないところにゃ。魔法の使い手を倒さない限り、先っぽが爆ぜたくらいじゃ動きを止められないのにゃ!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』

 全員が一瞬、ビクリと体を震わせた。殺意に満ちた咆哮が扉の遥か向こうから聞こえたのだ。

「まさか、あれが第十階層のボス『シルバーエメラルドウルフ』!?」

 思わずつばを呑み込んだ。恐ろしいほどの殺気がこちらに向けて――いや、向かってくる!

「ヒビキ様、扉を!」
「う……うん!」

 開いた扉は片方だけ。俺があれを閉めれば、ボスが出てくることはない。
 クロードが触手を抑えてくれている間にどうにかしなくちゃ!

「んぐっ! うおおおおおおおおおお!」

 全力で扉を押した。俺一人ではかなり厳しい。が、それでも少しずつ閉まり始める。

「クロード! 離れるにゃ!」
「火魔法『ファイヤショットガン』!」

 クロードが横跳びした瞬間、倒れ込む冒険者達の頭上を通り抜け、『ファイヤボール』の散弾が扉の向こうへ放り込まれた。
 扉越しに聞こえるのは爆音の嵐。神選職『賢者』リリアン・ルージュの魔法は効果絶大だった。
 扉の奥からは焼け焦げた木の臭いが立ち込め、触手のうごめく音も聞こえない。リリアンの魔法が周辺の木々を焼き払ったようだ。

「ヒビキ様、今のうちに!」
「うん!」

 クロードが扉を閉めるのに邪魔になっていた四人の冒険者達を担ぎ、移動させていた。
 俺の方もあと半分くらいだ。ボスがやってくる前に閉めなくちゃ!

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!』
「――っ!?」

 さっきより明らかに声量が大きくなっていた。間違いない、ボスがこっちに迫ってるんだ!

「こな、くそおおおおおおおお!」

 全力で扉を押す。もうちょっと、あと四分の一……もう、少し――はっ!
 あとほんの一押しというところで、扉の隙間から白い影が見えた。
 以前、東の森で見た個体よりも二回りは大きい、額に翡翠の魔石を輝かせた狼。

「……っ、シルバーエメラルドウルフ!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 ――目が合った。シルバーエメラルドウルフの怒気が、殺気が増し、俺をすくみ上がらせる。あと少し、あと少しで閉められるのに、それができない。

「ご主人さま! 早くするにゃ! また『樹木鞭』にゃ!?」

 扉の狭い隙間を抜けて再び木の鞭が一本、俺の顔面目掛けて飛んできた。
 どうにか反射的に回避したものの、触手が邪魔で扉が閉められな――。

「ふんんんんんんんっ!」

 バタンッ! ――ブチバキバキッ!

「うわっとととと! ……あれ? 閉まった?」

 止まっていた扉が急に動き出し、咄嗟のことで足がもつれた。見れば扉は完全に閉まり、地面には引きちぎられた木の根の残骸が転がっていた。

「お怪我はありませんか!? ヒビキ様!」
「え? クロード? いつの間に俺の後ろに……」

 クロードが俺の背後に回り、扉を押してくれたようだ。でもあの触手が千切れるなんて……。

「力尽くで扉を閉めたの……?」
「はい、ヒビキ様を害そうとするなど不届きにもほどがあります! できればこの場で成敗してやりたいところですが、状況が状況ですので扉を閉じることにしました」


「そ、そう……よ、よかった~~」

 俺は思わずへたり込む。危なかった……あの殺気立った目はどう考えても危なかったよ。

「はあ、とりあえず危機は脱して――て、あの人達大丈夫なの!?」

 まだ休むわけにはいかない。気絶したままの四人の容態を確認しないと。

「ひどい怪我なの」
「ズダボロにゃね、よく逃げ帰れたものにゃ」

 確かに容態はよくない。全員に『エクストラヒール』が必要だ。でもMPにそんな余裕はなかった。

「しょうがない、とっておきのスキルで回復させよう。せっかくだからみんなも集まって」

 四人の冒険者の中心に立ち、クロード達にもなるべくそばに立ってもらう。

「よし、この範囲なら全員入るね。『医神の杖』発動!」

 俺を中心に魔法陣が展開され、金と銀の不思議な色合いの光に包まれる。
 技能スキル『医神の杖』。希少ランクSSの超反則スキルだ。
 再発動までの待機時間が長いという制約はあるが、一切SPを消費せずに有効範囲内にいる者のどんな傷も、病気も完全に回復する。
 全ての光が消えると、彼らは怪我ひとつなくスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

「もう大丈夫みたいだね」
「一時はどうなることかと思ったにゃ。ま、ヴェネにかかればこんなもんにゃ」
「ヴェネちゃん、何もしてないよね?」
「正直、今のスキルはヒビキ様にもしものことがあった時のために取って置きたかったですが、仕方がないですね。とりあえずもう大丈夫でしょうし、彼らが目覚めるまで待ちましょうか」
「そうだね……正直、殺されるかと思った」
「……お任せください。私の槍で蜂の巣――いえ、この前のシルバーダイヤモンドウルフの時のように、端微塵ぱみじんにしてやります」
「いや、そこまでしなくても……。でも、植物魔法の恐ろしさが事前に分かってよかったかな。ボスが近くにいなくても攻撃されるっていうのは確かに危け……ん?」

 クロードと話しながら俺は、先ほど扉を閉じた際に引き千切られた触手の残骸に視線を向けていた。そしてそれは――ウネウネと蠢き……ヒュッと、その場から姿を消した。

「ヒビキ様? どうかされ――っ!」

 ……驚くほどに、全ての動きがスローモーションに見えた。まさか、本体から離れた触手が動くなんて、想像もしていなかったんだ。
 槍のように鋭くとがった触手の先端が、俺の顔面に迫ってくる。
 ……これは、左目を貫通する――刹那せつなに思い浮かんだのは感情も何もないただの予想。
 クロードは気付くのが遅れた。俺をかばおうと手を伸ばしてくるが、あれは――間に合わない。
 ――俺は死ぬ。それが、導き出された答えだった。

『サポちゃんより報告。緊急事態と判断しました。サポちゃんより以上』

【自動制御。技能スキル『緊急退避エスケープ』を行使します】
【指定範囲を設定。対象退避者、計八名。転移先は最寄りの危険ランクDエリアにランダム】
【『緊急退避』を開始します】

 一瞬、テレビの電源を消した時のように、視界が暗転した。
 そして、突然の浮遊感に襲われて――。

「わっ!」

 せいぜい十センチくらいの、低いながらも唐突な落下に対応できず、俺は尻もちをついた。

「いたた……急に何? ……あれ? 触手は!? ……というか、ここ、どこ?」

 そこは先ほどまでいたボス部屋の前ではなく、ダンジョン内のどこかの通路だった。
 脳裏に聞こえたサポちゃんの声。
 これが技能スキル『緊急退避』か。内容は知ってたけど、体験してみるとやっぱり凄い……。
 俺自身では対処不能な危機に直面した時、自動的に空間転移が発動してその場から退避させてくれるスキルだ。
 消費SPは最低100以上で、その時残っている全てのSPを消費する。最寄りの危険ランクD以下の地点にランダムで転移するのだ。
 だからここがどこなのか、俺には分からない。

「ここはどこにゃ? 何が起きたのにゃ?」
「扉がないの」
「ダンジョンのどこかのようですが、一体何が――はっ! ヒビキ様、お怪我はないですか!?」
「う、うん、俺は大丈夫……」

 とりあえず、みんなに何が起きたのか説明した。
 一応教えてはあったんだが、いざ発動してみると、俺同様に唖然とするというか……。

「規格外にもほどがあるにゃね。主神様は何を考えているにゃ。というか、こんなスキルどうやって作ったのかも理解できないにゃ」
「……ちょっと浮いた感じが、少しだけ面白かったの」
「正直、本当に肝を冷やしました。このスキルをヒビキ様がお持ちでよかった」

 三者三様とはこのことで、みんなそれぞれに感想を漏らしていた。俺達だけでなく、例の四人も一緒に転移したみたいで安心した。
 少し休憩して『世界地図』を使える分だけSPが回復すると、即座に現在位置を確認する。
 ……なんとここは第一階層だった。まあ、なんて好都合。
 四人のうちの一番軽い少女(多分魔導士だろう)を俺が、他三人をクロードが担ぎ、一時間くらいでダンジョンを出ることができた。
 とりあえずギルドの職員に彼らを預け、分かる範囲で彼らの状況を説明すると、俺達は一旦宿に戻ることに。
 一週間のダンジョン探索の予定が想定外の事態によって、気が付けば五日で終わってしまった。

「だったら、お休みは一日じゃなくて、三日くらいとってもいいにゃよね?」
「わたし、この町の中、見てみたい!」
「それいいね、リリアン。せっかく北の町に来たんだ。ダンジョン以外も楽しみたいよね!」

 宿の一室で俺達がじっとクロードを見つめると、彼は呆れたような目をし、ため息をつく。

「はいはい、分かりました。ですので、そんな懇願するように私を見つめないでください!」

 三人でハイタッチ! もちろんこの後クロードともハイタッチ!
 とりあえず、明日から三日間は北の町でしばしお休みです。


       ◆ ◆ ◆


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