最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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3巻

3-8

 北西を指差す俺に答え、リリアンが杖を向けた。

「邪魔なの……どいて!」

 リリアンが杖を横に振り切ると、一斉に森の木々が、北西方向への道を開けた。みきを反らしたり、無理やり動いたりして通路を確保する。
 そして今、俺達とシルバーエメラルドウルフとの間に、一切の障害は存在しなかった。

「……『瞬脚』『流脚』複合妙技――『韋駄天脚いだてんきゃく』」

 かつてない速度でクロードが駆け抜ける。
 まさに韋駄天。地球の陸上選手も真っ青な超特急でシルバーエメラルドウルフに肉薄した。

「「――ギャウッ!?」」

 離れた場所から植物魔法で俺達を始末しようとしていたのに、なぜか魔法は働かず、突然道ができ、気が付いたら獰猛な漆黒の狼が目の前にいるのだ。驚くなって方が無理だろう。
 クロードはその一瞬の怯みを逃さず、渾身の力で槍を突き立てる。

「『槍技』の妙技『一点突き』!」
「――ギャインッ!」

 閃光の一撃が翡翠の狼の喉元を突き破る。衝撃で吹き飛ばされた狼は、何度か地面をバウンドすると、そのまま動かなくなった。
 一体目を倒した直後、クロードは二体目に向き直る。しかしさすがに敵もそこまで愚かではないらしく、一体目がやられている隙にクロードから距離を取っていた。
 クロードから逃げるため、奴は森の中へ逃げようと跳んだ――俺がずっと、そいつを捉えているとも気づかずに。そして俺は、光の矢を放った。

「―――キャンッ!?」

 矢は奴の後ろ脚に命中する。くそ、腹を狙ったのに。
 狼は苦痛に顔を歪めながらもどうにか着地した。だが奴は森に飛び込むことはできなかった。
 ――それで十分だ。森に逃げ込めなかった時点で、お前の負けだ。

「……放て、マグネティカ!」

 地面に降り立った瞬間を狙って、クロードは離れた位置から穂先の砲弾を射出した。地球ではありえないほどの斥力を発する穂先の砲弾は、ほぼ一瞬で狼に追いつき、奴の胸を貫通した。

「……――っ!?」

 絶叫すらできず、衝撃によってゴロゴロと転がるシルバーエメラルドウルフ。一体目同様、そのまま動かなくなった。
 HPを『鑑定』で確認する……二体ともHPはゼロだった。

「……ふぅ、終わったみたいだね」

 まだレベルの高い三体目が残っているから気を抜けないけど、それでも最初の戦いは乗り切った。さっきまでの張り詰めた緊張感から解放されて大きく息をつく。

「……三、二、一――『神域の暴流』完全開放、終了にゃ。お疲れ様にゃ、リリアンちゃん」
「……うん」
「まだ三体目が残ってるにゃ、少し休んだらもう一回にゃよ」
「……うん、大丈夫、なの」
「お疲れ様、リリアン。おかげで助かったよ」

 ……思ったより消耗してるかな? リリアンは少し汗ばみ、肩で息をしていた。制御力が上がったといっても、完全制御はまだまだ先の話のようだ。

「ご主人さま、最後の奴はどうにゃ? まだ同じ場所にゃ?」
「そうだね、確認しないと……うん、まだ向こうにいて……いや、移動を始めた。でも――」
「どうかしたにゃ?」
「いや、それが随分と見当違いな方向に移動して――え?」

 三体目は北東地点にいたのに、なぜかさらに東へ移動した。と思ったら、瞬時に俺達の西側一キロ地点に現れたのだ。

「……いや、今は疑問に思っている場合じゃない。クロード、すぐに戻ってきて! 三体目がもうすぐ近くまで来ている!」
「――っ!? 承知しました!」
「リリアン、連続だけどさっきの奴はやれる?」
「うん、大丈夫なの……お兄ちゃん、何か来る!」

 再び魔力へ意識を向け直したリリアン。だが、目を閉じていたリリアンが驚愕の表情で西に視線を向けた。ヴェネくんも同様に驚きを隠せない様子だ。

「魔法にゃ、巨大な魔法の気配が物凄い速度でこっちに向かってるにゃ!」
「ま、魔法!? ――この音は!?」

 俺達の西側から轟音と巨大な黒い影が押し寄せてきていた。さっきの二体が使おうとしていた魔法とは明らかに規模が違う。

「植物魔法『雪崩木ノ葉リーフアバランシュ』にゃああああ! 逃げるにゃああああ!」

 眼前になだれ込んできたのは、大量の木の葉。まさに雪崩なだれのような、あらがいようのない自然の猛威が俺達に襲い掛かろうとしていた。
 反射的に走り出した俺達だったが、迫り来る木の葉の速度は険しい急流のように速く、とても全員が逃げ切れるものではなかった。
 だから俺は……咄嗟にリリアンの背中を強く押した。

「きゃっ!」


 驚きの声を上げて、リリアンは大きく飛び出す。幸い、転んだりはしなかった。
 俺の『識者の眼』が告げていた。そこはギリギリ雪崩の範囲外だ――と。

「うわあああああああああああああああああああああああ!」

 俺は呑み込まれた。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 巻き込まれる瞬間、狼の遠吠えが聞こえた気がした。


       ◆ ◆ ◆


 ……私、クロード・アバラスは呆然とした。
 突如現れた木の葉の奔流がヒビキ様を押し流してしまったのだ。
 なぜあんなものが来る!? シルバーエメラルドウルフか?
 いや、だが奴は北東にいたはず、反対の西側からなぜあのような大魔法が放たれるのだ!?

「リリアン、ヴェネ様! 無事ですか!?」
「あ、あ……クロさん」
「ヴェネ達は何ともないにゃ、でもご主人さまが……」
「ぐうぅ……ヴェネ様、あの魔法は一体……」
「あれは多分三体目の仕業にゃ。どうやってあそこから魔法を放ったかは分からないけど……」

 木の葉の流れた先に目をやると、樹木に阻まれ数本の支流に分かれていた。ヒビキ様がどこに流されたのか分からない。
 それに、近くにはシルバーエメラルドウルフがいるはず……だが、こちらに迫る気配がない。回り道をしてヒビキ様の元へ向かったのか? だったら急がなくては!

「……だが、どこへ流された? ――っ、何だ?」

 突然、右手にピリリと痛みが走った。痛むのは手の、甲か……?
 私の右手が、『真正主従契約』の霊紋がほのかな光を放っていた。まさかと思い、木の葉の支流に向けて手を順に動かしていくと、一か所だけピリリと痛む方角がある。

「……そちらにいるのだな?」

 ――直感が告げている。向こうに、ヒビキ様がいる!

「きゃっ!」
「にゃあっ!?」

 左腕にリリアン達を抱えて私は走り出した。嘆くのも、後悔するのも全て後回しだ!
 今すべきことはただひとつ。
 一刻も早くヒビキ様の元へ向かい、奴を、シルバーエメラルドウルフを倒すこと。
 お待ちを、ヒビキ様! すぐにそちらへ向かいます!


       ◆ ◆ ◆


「――……んん、んぐぐ……ぷはあっ! ケホ、ケホ……ここ、どこだろ?」

 全身に纏わりつく木の葉を掻き分けて、ようやく外へ出ることができた。一体どれくらいの間、意識を失っていたのか分からない。流れに巻き込まれたところでプツリと意識が途絶えてしまった。

「かなりの衝撃だった割には、怪我らしい怪我はないみたいだな……」

『サポちゃんより報告。ヒビキ様は『空膜のチュニック』により、常に空気の層で守られていました。サポちゃんより以上』

 ……そうか、巨大な奔流ではあったけど、一枚一枚は木の葉だったことが幸いしたみたいだ。
 まさか新装備にここまで助けられるとは……デビィ商会で買ってよかった。
 でも、よく途中で木にぶつからなかったな。主神様の『チュートリアル』が効いてるのかな?
 いや、今はそれどころじゃない。とりあえずみんなと敵の位置を把握しないと。

【技能スキル『世界地図レベル3』を行使します】

 意識を失ったせいで消えてしまった『世界地図』を再び発動させる。

「えーと、みんなは……うわ、一キロも流されたのか。でもよかった、まっすぐこっちに向かってる。シルバーエメラルドウルフは……あれ? 今度は北方面へ走ってる……こいつ何を……」

『サポちゃんより報告。技能スキル『罠感知』『魔法解析』がヒビキ様周辺に罠を検知しました。サポちゃんより以上』

 サポちゃん? どういうこと? 罠? ボス部屋にも罠があるの?
 キョロキョロとあたりを見回すが、俺にはそれを見つけ出すことができない。
 というか、『魔法解析』が動くってことは……魔法罠? 第九階層までにも魔法によって起動する罠がいくつかあった。突然火が噴いたり、水が溢れ出したりと大変な目に遭ったっけ。
 まだ見つけていないが、『転移罠』なんていう『緊急退避』のようにどこかへ飛ばされたり、突然何かが現れるなんて罠もあるらし……く……て……。
 シルバーエメラルドウルフは、あまりにも唐突に東から西へ移動した。まさか……。
 慌てて地図に目をやると、奴は北方面に辿り着き――地図から姿を消した。

『サポちゃんより報告。技能スキル『罠感知』『魔法解析』が『転移罠』を検出しました。ヒビキ様の正面です。サポちゃんより以上』

 そこは木の葉が散乱する地面だった。葉の隙間から光が漏れる。これは、魔力の光!

【技能スキル『魔法解析』が『転移罠』の発動を検知しました】
【『転移罠』より何かが転移してきます】

 サポちゃんに遅れて『魔法解析』が伝えてくる。同時に、目の前で光が迸り、衝撃で木の葉が爆発した。光が消え、ゆらゆらと木の葉が空中を舞う。そして――。

「……あ……ああ」

 まさに蛇に睨まれた蛙状態。光とともに出現したシルバーエメラルドウルフに睨まれ、俺は立ち尽くしてしまった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

【技能スキル『鑑定レベル5』を行使します】
【 名 前 】シルバーエメラルドウルフ
【 性 別 】オス
【 状 態 】健康・興奮(殺意五割増し)
【 レベル 】43
【 H P 】1300/1371
【 M P 】830/1055
【 S P 】300/403
【物理攻撃力】268
【物理防御力】544
【魔法攻撃力】585
【魔法防御力】356
【 俊敏性 】603
【 知 力 】123
【 精神力 】299
【  運  】40
【固有スキル】『パーソナルスペース』
【技能スキル】『狼牙レベル5』『瞬脚レベル4』『気配察知レベル5』
       『威圧レベル4』『威嚇レベル4』『狼族支配レベル5』
【魔法スキル】『植物魔法レベル8』
【 備 考 】なぜか異常に殺戮さつりく衝動が刺激されている。相対には十分注意を。

 注意って言われても困るし! 恐怖に震えつつもいつもの癖で鑑定した結果がこれですよ!
 こんなの俺一人でどうにかできるわけないじゃん! ……逆に少し冷静になれた。
 額に翡翠の魔石を持つ巨大な狼、シルバーエメラルドウルフ。シルバーダイヤモンドウルフには多少劣るものの、最初の二体よりも明らかに大きな体躯。
 獰猛な唸り声を上げながら、奴は俺をじっと睨みつけていた。
 ぞわりと悪寒が走り、咄嗟に『瞬脚』で横に跳んだ。あまりにも反射的な行動だったために受け身が取れずゴロゴロと転がってしまう。だが次の瞬間、元の俺が立っていた場所に、槍のように尖った木々の枝が何本も突き立っていた。
 逃げていなかったら、串刺しにされていた……。ぞぞぞと再び悪寒が走る。
 間違いなく、こいつは俺を殺すつもりだ。警戒を怠らずにちらりと『世界地図』に目をやる。
 ……クロード達はもうすぐこっちに到着する。あと少し、あと少し耐えきれれば――。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
「また何をっ!? ……森が!?」

 シルバーエメラルドウルフの咆哮に呼応するように、森の木々が蠢く。
 まさか全方位から攻撃されるのかとおののくが、そうではなく――くねくねと根が動き、不自然に枝が伸び、ある幹は反り返り、ある幹はしな垂れ、俺とシルバーエメラルドウルフを取り囲んでいく。

「まさか、閉じ込められた!?」

【技能スキル『鑑定レベル5』を行使します】
【 魔法名 】フォレストプリズン
【魔法レベル】6
【消費 MP】180
【 行使者 】シルバーエメラルドウルフ
【 備 考 】侵入・脱出が困難な樹木の檻。木々の強度は魔法で強化されている。

 言わば密室の闘技場といったところか。森の木々は俺達を円形に包み込み、高さもあってとても脱出できそうにない。壁も厚く、俺の弓でも魔法でも破壊は困難だ。
 しかもシルバーエメラルドウルフが額の魔石を輝かせ、壁の木々を操り始めた。
 壁からはみるみるうちに枝葉が伸び、狼の全身に巻き付いていく。
 それは樹木の鎧だった。見えるのは奴の目、鼻、翡翠の魔石くらいで、他は全身が覆われている。
 単なる木製鎧とはわけが違う。魔法で材質を強化された鎧だ。あれで突進でもされたら俺なんてひとたまりもない!

「ヒビキ様!」
「――え、クロード!?」

 俺の背後からクロード達の声が聞こえた。そうか、彼らが来てくれたんだ!

「リリアンちゃん、こんな檻、火魔法で吹き飛ばしてやるにゃ!」
「うん、火魔法『爆炎火球フレアボム』!」

 檻の外で大爆発音が響く。衝撃で壁が揺れた――これで! ……て、あれ?

「そんな、傷ひとつ、ついてないの……」
「……『槍技』の妙技『一点突き』! ……バカな、私の槍が刺さりもしないだと!?」

 いくら堅牢な魔法の檻とはいえ、リリアンの魔法もクロードの槍も全く通らないなんて、いくらなんでもそれは……まさか!

【技能スキル『辞書レベル3』を行使します】
 固有スキル『パーソナルスペース』希少ランクA
 自己空間を保持するスキル。一定時間、許可した者以外の物理的な侵入を拒絶する。

 間違いなくこのスキルのせいだ。これじゃみんながここに入って来れない――はっ!
 慌てて右へ跳んだ。『気配察知』のおかげで、突進してきた奴の攻撃をどうにか回避する。
 奴はそのまま壁に激突し、樹木の檻全体が地面ごとグラグラ揺れた。

「ヒビキ様!」
「お兄ちゃん!」

 今の衝撃に驚いたのか、クロードとリリアンが俺を呼ぶ。だが、答える余裕はない。今も受け身を取り損ねて全身打ち身で結構痛いのだ。それに、奴から目を離せない。

「グルルルルルルルルルル……」

 既に二度、俺を仕留め損ねたせいか機嫌の悪そうな唸り声を出している。まずいな、いつまでも避け続けられるものでもないし、また壁の木々を操って攻撃でもされたら、もうどうしようも……。
 その時、ヴェネくんの声が聞こえた。

「ご主人さま、ヴェネを、ヴェネをぶのにゃ!」
「ヴェネくんを喚ぶ? ……そうか『聖獣召喚』!」

 魔神様からもらったスキル『聖獣召喚』。短時間ながらヴェネくんを本来の聖獣に戻し、俺の前に召喚できるあのスキルなら、『パーソナルスペース』を越えてここに来てもらえる!

「分かった、お願いヴェネくん! ……『聖獣召喚』発動!」

 高らかに右手を掲げスキルを発動させた。
 空中に魔法陣が描かれ、真っ白な光が一帯を埋め尽くす。
 あまりのまぶしさに、シルバーエメラルドウルフも顔をそむけ悲鳴を上げた。
 やがて光が途切れると、上空から俺の前に小さな影が降り立つ。

「さあ、来いにゃああああああ! ……うにゃ?」

 俺の背後から、訝しむようなヴェネくんの声が聞こえた。なんで後ろから?
 俺の前に降り立ったのは、真っ白な毛並みの巨大なトラのような猛獣……じゃない!?

「喚ばれて飛び出て、にゃにゃにゃにゃーん! 吾輩の名はケット・シーなの、にゃん♪」
「……なんで、お前が、来るのにゃあああああああああああああああああ!」

 ヴェネくんの絶叫が木霊した。


       ◆ ◆ ◆


「にゃんにゃんにゃん♪ にゃんにゃんにゃん♪」

 俺の目の前でリズミカルなダンスを踊っているのは、魔神様の聖獣ケット・シー。

「えーと、ケット・シー……シーくんでいい?」
「構わないの、にゃん♪」

 二足歩行の黒ネコで、背丈は俺の半分くらい。長靴を履き、真っ赤なハットとマントを身に着けている。ゆらゆらと揺れるしっぽの先だけは白く、はっきり言って大変チャーミングである。
 だがしかし、とても戦闘向きの聖獣って感じじゃない……。

「むむむむ~、ヴェネの代わりにあんなのが喚ばれるなんて! この際仕方がないにゃ、さっさと敵を倒すのにゃ、ケット・シー!!」
「おや~、ヴェネヴェネじゃないのか、にゃん♪ 見ないと思ったら地上にいたのか、にゃん♪」
「むにゃああああ! お前のそのしゃべり方は大嫌いなのにゃあああああ!」
「吾輩は~、ヴェネヴェネの語尾は大好きなの、にゃん♪」
「あの、壁越しで言い合ってる場合じゃないんだけど……」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
「ほら来た!」

 視力を取り戻したシルバーエメラルドウルフが再び突進を仕掛けてきた。シーくんを見て大したことはないと判断したんだろう。だがやはり、シーくんは魔神様の聖獣だった。

「何なの、にゃん。吾輩が久しぶりにヴェネヴェネと歓談してるってのに……無粋ぶすいだ、にゃん♪」
「ウオオオオオオオオ――ヴォオオッ!?」
「……光魔法『百輝光牢シャイニープリズン』にゃん♪」

 シーくんが右手をちょいと振ると、突如現れた無数の光の柱がシルバーエメラルドウルフの周囲を取り囲み、はりつけにしてしまった。光の柱に拘束された奴は全く身動きが取れない。

「……凄い」
「さてさて~、本当はもっとヴェネヴェネとお話を楽しみたいところだったけど、時間もないことだし、サクサクとお役目を果たしてしまうか、にゃん♪ お願いは何なの、にゃん?」

 にゃはっと笑みを浮かべて、あざと可愛い決めポーズを取るシーくん。
 超余裕だ……小さくてあざと可愛くても、やはり神に仕える聖獣なんだ。

「目の前のダンジョンボス、シルバーエメラルドウルフを倒してください!」
「……ダンジョンボス?」

 シーくんはなぜかきょとんとしてシルバーエメラルドウルフを見つめた。
 そして、こんな質問を俺に投げ掛けた。

「こいつ、本当にダンジョンボスなの、にゃん?」
「……え?」

 どういう意味だろう? ボス部屋にいるんだからボス以外考えられないと思うけど……。
 互いに不思議そうな表情を浮かべる俺とシーくん。だが、しばらくしてシーくんはさっきまでのあざと可愛い表情を取り戻した。

「まあ、吾輩もダンジョンに詳しいわけじゃないし、どっちでもいいの、にゃん♪ 要するにこいつを倒せばオーケーということでいいの、にゃん?」
「あ、うん……そうだけど……」
「ふーむ、じゃ、右手を出してちょうだい、にゃん?」
「――右手?」

 シーくんは俺に近寄り、ふむふむと呟きながら俺の右手の甲、『真正主従契約』の霊紋を見た。

「やっぱり、お前さんは『真正主従契約』を全然使いこなしていないの、にゃん♪」
「『真正主従契約』を使いこなす?」

 一体どういう話の展開だ? 俺はシルバーエメラルドウルフを倒してほしいのに。

「ヴェネヴェネもダメだ、にゃん♪ せっかくの『真正主従契約』が宝の持ち腐れだ、にゃん♪ あれを倒すのは簡単だけど、どうせだから今後も役に立つ手助けをしてあげるの、にゃん♪」
「シーくん、一体何を――っ!?」

 シーくんは突然俺の眼前まで飛び上がると、右手を俺の額に当てて言霊ことだまを紡いだ。

「吾輩の名はケットゥルフェルディアラシルフェン・レバンラシー。大いなる魔神様に仕えし『契約』を司る光の聖獣なり。契約魔法『契約書閲覧ペーパーリーディング』!」

 俺の額に触れるシーくんの手からまばゆい光が放たれる。だが、俺は頭の中に入ってくる情報を受け入れるので精一杯だった。
『医学書』の読み取りをしていた時の感覚に似ている。圧倒的な情報量が頭の中に浸透していく感覚……全ての光が収まった頃、俺はシーくんがもたらした魔法の意味を正しく理解していた。
 俺から手を放したシーくんはふわりと地面に降り立つ。

「さてさて、ちゃんと理解できたか、にゃん?」
「……うん、大丈夫」

 俺の言葉にシーくんがニコリと微笑む。

「なら、あの程度の魔物を相手にするのに、吾輩が手を下す必要がないことも分かる、にゃん?」

 俺ははっきり頷いた。大丈夫、あいつに負けたりなんてしない。今なら勝てる!

「にゅふふふ、なら吾輩は帰る、にゃん♪ ヴェネヴェネ~、あとはよろしくなの、にゃん♪ また神域で会おうなの、にゃん♪」
「おみゃあ、まだ敵を倒してないにゃね! 何帰ろうとしてるにゃああああああ!」
「あは~、ヴェネヴェネはいつも面白い奴、にゃん♪ じゃ、頑張ってにゃ~♪」

 それだけ告げると、シーくんはふわりと飛び上がり、空中でクルリと一回転すると光を放ち姿を消した。同時にシルバーエメラルドウルフの拘束も解除される。

「グオ、グオ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 ようやく拘束が解け、雄叫びを上げる狼を無視して、俺は右手を掲げた。
 ……今も俺一人ではあいつに勝つことなんてできない。でも、俺にはこれがある!
 あの時、シルバーダイヤモンドウルフ戦で瀕死を負ったクロードが、突然俺の前に現れたのは偶然でも奇跡でもなかった。俺が……彼を喚んだんだ!

「『真正主従契約』発動! 我はなんじを求めたり! 従者よ、その忠誠の証を示せ。『従者召喚サモンナイト』!」

 掲げた右手が光を放つ。『真正主従契約』の霊紋がその力を発揮した。
 互いがどこにいようとも、『主』の喚ぶ声があれば何時いつでも何処どこでもせ参じる『従者』の忠誠心を具現化する力。クロードを、この場に召喚する力だ!

「ウオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 シルバーエメラルドウルフが怒り任せに突進し、俺を吹き飛ばそうとする。
 ――だがその突撃は、俺には当たらないぞ! 俺と奴の間で光が発生した。

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