最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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3巻

3-12

「鑑定してみれば、何か分かるかな……?」

 弓を持ち、光の矢を番えると、俺は矢に対して『鑑定』を使った。

【 名 前 】光の矢
【魔法攻撃力】176(+160)
【 備 考 】技能スキル『精霊弓術』によって形成された光の精霊の力を宿す魔法の矢。
       攻撃用にその在り方が変化しているが、一部光の特性を保持している。

「光の特性を保持している? ……あ、そうか。つまり光の矢が甲羅に反射したのか!」

 光の特性――光の矢は光速(秒速約三十万メートル)で射出される。それに、曲射はできず直線にしか飛ばない。
 よく考えてみれば、光が光沢のある甲羅に反射するのは当然の自然現象だった。異世界ファンタジーな攻撃手段のせいで当たり前の物理法則を忘れていたよ。
 ……矢としての形態を維持する光の矢に、物理法則も何もないという意見はこの際忘れよう。
 試しに水から鏡を作り出す生活魔法『アクアミラー』に向けて、光の矢を放ってみた。
 実験結果は予想通り。まさか、防御力皆無の水の鏡で、光の矢が反射してしまうとは。

「これってつまり、光を反射しやすいところに矢を射ると跳ね返るってことだよね? 怖っ!」

 い、今のうちに分かって本当によかった。さっきは反射角が壁に向いていたからよかったものの、運が悪ければ俺自身に跳ね返っていたかもしれないってことなんだから。
 だが、どうしたものか。光の矢が使えないとなると、残るは実体を伴う火の矢しかない。習得した火魔法による『精霊弓術』だ。
 といっても、実体の矢の先にポンと火を灯す程度の軽い攻撃で、普通の火矢と何も変わらない。
 そして『複製転写』がない今、残りの矢は十本……乱発できるものでもなかった。

「気を引き締め直さないと危ないぞ……ん? でもこれ、利用できないかな?」

 鏡に反射する光の矢……何か、いい案が浮かびそうだった。

 それから二日後。俺は再びハイドロビッグタートルと接敵していた。正確には待ち伏せだ。
 既に奴を倒す準備はできている。実はこの通路、至る所に『アクアミラー』が設置してある。
 この二日間で何度も鏡の角度を調整して、どの鏡を射ればどこに光の矢が届くのか、把握済みだ。
 おかげで実践まで二日も時間を要してしまったが、ここで奴を倒せば全てチャラだ!
 まずは奴の十八番『ハイドロジェット』を使わせる!
 前回と同じく奴の背後、通路の角から矢を射た。その矢が『アクアミラー』を反射して都合四度、ハイドロビッグタートルの周囲を掠めていった。
 残念ながら一回もヒットしなかったが、今はそれでいい。後ろから敵対者が攻撃をしていると理解させればいいだけなのだから。
 小さな鏡に、こちらに首を伸ばすカメの頭が映し出されると、俺は全力で後方へ退避した。
 問題ない、元々前回よりも離れた位置から攻撃しているんだ。『瞬脚』と『流脚』を使えば十分回避可能だ。
 案の定、奴は『ハイドロジェット』を使って攻撃を仕掛けてきた。
 壁を貫通したが俺は無傷だ。全ての水が出尽くし、攻撃がやんだところでカメの待つ通路へと飛び出した。
 視界に映るのは『ハイドロジェット』を行使して息を荒らげるカメの後ろ姿。
 そして、周囲に散乱する大量の水、水、水! 材料はこれで十分!

「生活魔法『アクアミラー』!」

 地面に溜まっている水を利用して、俺の正面に巨大な水鏡――矢を射るための小さな穴だけ用意した、俺の全身を覆い尽くす光の矢専用の水の盾――を生み出す。これでMPの消耗を抑えられた。
 そこから、あらかじめハイドロビッグタートルの向こう側に用意しておいた巨大な『アクアミラー』に向かって、光の矢を撃ちまくってやった。
 背後から放たれた光の矢は、正面の鏡によってハイドロビッグタートルの顔面目掛けて反射した。
 たまに俺に向かってくる時もあるが、そこは俺の目の前に展開されている水の盾が、ハイドロビッグタートルへと反射してくれる寸法だ。
 こっちだって反射角の確認はしているのだ。手あたり次第に矢を射ているのは間違いないけど、命中率はこの二日間で上がっているはずだ。
 それに何度か観察して分かったが、『ハイドロジェット』を使った直後は疲れているのか、頭を甲羅に戻すことができないようだ。今も奴の頭部に俺の矢が面白いように何度も直撃している。

「グゲエ! グギュッ! ヴォオオオオ!?」

 少しずつ、着実に奴のHPが削られていく。奴が首を甲羅に仕舞う前に片を付けられるかが、勝負の分かれ目だ。

「ピギイイイイイイイイイッ!?」

 けたたましい叫び声がして、何事かと正面の鏡を注視すると、ハイドロビッグタートルの目に俺の矢が突き刺さっていた。これは、チャンスだ! 『瞬脚』『流脚』全速力!
 怖い、怖いさ! まだ『ハイドロジェット』が使えないとはいえ、巨大なカメの正面に立つなんて、怖くて仕方がない。でも、ここで逃げたらきっと、俺はみんなと再会できない!
 ダメージらしいダメージを受けたことがないのだろう。ハイドロビッグタートルは今も大口を開けて絶叫していた。奴の甲羅はどこもかしこも強固だ。俺の矢では射抜けない。

「でも、体の中まではそんなに硬くないんでしょ!」

 狙うは奴の口の中! 光の矢、乱れ撃ち!
 痛みに耐えかねたハイドロビッグタートルは叫びながら後退していく。でも!

「逃がさない! 逃がすもんか! ここでお前を倒して、俺はみんなのところへ行くんだ!」
「グヴォオオオオオオオオオオ! ――っヴァア! …………っ! ……アァ……」

 ハイドロビッグタートルが、怒気と苦痛をい交ぜにして絶叫したかと思うと、痙攣し、瞳の色を失ってその場に沈み込んだ。

「……動きが、止まった」

 ちゃんと見えた。俺の矢が、奴の口内を撃ち抜いた……。
 どうやら上手いこと矢が脳に達したらしい。『鑑定』――HPは、ゼロ。

「やった、やったよ……やったああああああああああ!」

 喜びのあまり周囲の警戒も忘れて、大はしゃぎでカメの周りを走り回った。何度鑑定しても目の前のカメのHPはゼロ。俺は、とうとうハイドロビッグタートルを倒したのだ。一人で!
 正直、効率はかなり悪い。奴の出した水を利用していなかったら、先に俺の方がMP切れで撤退を余儀よぎなくされていただろうし、光の矢が奴の急所をついたのも偶然だ。
 この勝利に運任せなところが多分にあることは否定しない。
 でも、勝利は勝利だ! 俺単独で強者に勝てたのはこれが初めてなんだよ!
 この後、定期的にクロードから伸びる『主従繋糸』に俺の喜びを伝えまくった。
 ちなみに、ハイドロビッグタートルの肉はスッポンの味だった。確保確保――と。


       ◆ ◆ ◆


 ハイドロビッグタートルに勝利した俺は一気にレベルアップした。かなり強敵だったので、レベル32から35になった。
 今日でこの階層に来て一週間になる。その間に何度もクロードとのやり取りを交わして『主従繋糸』も随分太くなった気がする。ようやく縫い糸くらいといったところか。
 まだ会話はできそうにないが、少しずつ彼らとの距離が縮まっていることだけは感じられた。
 俺の方は同じ階層に留まっている。つまりクロード達の攻略が順調ということだ。
 嬉しい反面、未だにひとつ上の階層にすら行けない自分に歯がゆさを感じる。
 やはり『世界地図』がないのは痛い。明確な目的地が分からないため、どうしても探索に無駄が多い。普通の冒険者はいつもこんな気持ちでダンジョンを歩き回っているんだろうな。

「ここを曲がったら階段が! ……ないなぁ。というか行き止まりだし……んん?」

 通路の角を曲がった先はただの行き止まりだった。だが、その奥に見覚えのある四角い影が。

「まさか……宝箱? ダンジョンでは初めて見た」

 これを初めて見たのは第十階層のボス戦の報酬としてだ。まあ、報酬じゃなくて転移罠という厄災やくさいが入ってたんだけどね。だからだろうか、あまりよい印象を持てない。

「一応鑑定してみよ……うわ、ミミックだし」

【 名 前 】ミミック
【 レベル 】20
【固有スキル】『圧縮空間』
【技能スキル】『偽装レベル4』『噛みつきレベル3』
【 備 考 】宝箱の振りをして冒険者を襲うダンジョン特有の魔物。ゴーレムに近い存在。
       一度取り込んだ物は大切に保管する習性を持つ。

 ステータスは大したことないので割愛するとして、固有スキルや技能スキルは少々気になる。
 固有スキルの名前からして、外見の体積よりももっとたくさん詰め込めるってことなんだろうな。
 ……うん、事前に聞いていた通りだな。宝箱の振りをして、蓋を開けたら噛みつくわけだ。

「興味深いけど、得るものは何もないから戦う必要はないな」

 ミミックを放置し、俺は背を向けた。だけど、すぐにまた急旋回することとなった。

『――ザザッ……ポちゃん……告。――キ様、能スキル「宝箱」……――行……ザザッ――上』

「――え?」

 今、声が――。

『サポ――ザザッ……報――ザザッ――……ミックと戦っ――……開け――ポちゃんより以上』

「サポちゃん!?」

 間違いない、飛び飛びだけど、この声は間違いなく――サポちゃんだ!
 どこから聞こえる? どこから……ミミックの、中!?

『――ちゃんよ……告。ヒビ――……キル「宝箱」を行――……ザザッ――……』

「よく聞き取れないけど、もしかして……技能スキル『宝箱』?」

 この世界に来てからずっとレベル0で、何の役に立つのかよく分からなかったあのスキル?
 ……まさか、今使えるのか? か、『鑑定』!
 ――つ、使える。『宝箱レベル1』に、なってる……。これを使えば、何かが――。

「何かが変わるんだね、サポちゃん! 技能スキル『宝箱』発動!」

 詳しい使い方など知らないが、自然と右手をミミックにかざしていた。するとミミックを淡い光が包み込み……しばらくすると――。

「ギギャギャギャギャギャギャアアアアアア!」
「――わっ!」

 下卑げびた笑い声を伴って、ミミックが突進してきた。

『サポちゃんより報告。ミミックと戦い討伐してください。サポちゃんより以上』

「サポちゃん!」

 ミミックの口(蓋)が開くと、サポちゃんの声がはっきり耳に届くようになった。
 宝箱の振りをしていたミミックの口にはふちいっぱいに鋭い牙が生えており、足もないのに軽快に跳躍して襲い掛かってくる。
 反射的に『瞬脚』で攻撃を回避する。ミミックはそのまま地面をバクバクとかじり、自身の体積以上の土をたいらげた。

「あれが『圧縮空間』か! くそ、喰らえ! 光の矢!」

 バクリ!

「なっ! 光の矢を食べた!?」

 まさか攻撃まで食べて防ぐなんて! 正面からぶつかってもダメだ、回り込まないと!
 何度か奴の攻撃を避けると行動パターンが読めてきた。というか、ミミックの戦い方は所謂『猪突猛進』だ。正面から俺に齧りつこうと飛び掛かってくる。
 俺はそれを『瞬脚』『流脚』で回避して回り込み、奴の背後に光の矢を放った。

「グギャアアアアアアア!」

 ミミックが不快な絶叫を響かせる。ミミックは光の矢が刺さっても行動パターンを変えない。
 俺は同じようにそれをかわし、ミミックの背後に光の矢を撃った。
 繰り返すこと十回。奴のHPはそろそろ限界だ。実際、既に身動きが取れないようでガタガタと振動するだけとなった。思ったより楽な戦いだったことに安堵の息をつく。
 これならとどめは弓でなくてもいいんじゃないかな? 攻撃魔法の練習にもなるし。

「とどめだ。火魔法『ファイヤ』!」

 俺が唯一使える攻撃魔法『ファイヤ』をミミックに浴びせた。

「ギギ、ギイイイイイイイイイイイイイイ!」

 断末魔の叫び声が行き止まりの通路に木霊する。そして、ミミックはただの焼け焦げた木の残骸ざんがいとなってしまった。
 ここまでやってふと気づく。燃やしてしまってよかったのだろうか?

「サ、サポちゃん? これでよかった――んだよね? ……サポちゃん?」

 ……返事がない。え? あれ? まさか、やり過ぎたの!? どうしよう――て、ミミックが!
 動揺する俺の前でミミックの残骸に光が灯る。光を放ちながら、時間が巻き戻るようにミミックの姿が新品同様に元に戻っていった。
 完璧に修復されたミミック。復活した宝箱の蓋がゆっくり開き――。

『サポちゃんより報告。技能スキル『宝箱レベル1』により『ステータスサポート』が復旧しました。サポちゃんより以上』

 サポちゃんの声は今もミミックの中から聞こえる。復旧ということは俺の元に帰ってきてくれたということなんだろうけど、まさかあの宝箱の中に復活したんだろうか?
 あんな大きな箱、とてもじゃないが持ち歩けないぞ? などと不安に思っていると、どういうわけかミミックがみるみるうちに手乗りサイズまで小さくなり、ピョンと俺の元へ跳んだ。

「おっと!」

 どうにかキャッチすると、ミミックは俺の体内に沈み込むように消えてしまった。

「……何これ? 痛いわけじゃないけど、気持ち悪い。どうなってるの?」

【技能スキル『宝箱』のレベルが上がりました。レベル1→レベル2】

 これは、いつものレベルアップの声! ……まさか!

『サポちゃんより報告。『ステータスサポート』通常モードで稼働中です。サポちゃんより以上』

 サポちゃんの声が、いつも通り頭の中に響いてくる! まさか『チュートリアル』が元に戻ったのか!? ……違う。ステータスを確認したけど、固有スキルはどれも戻っていない。

『サポちゃんより報告。『ステータスサポート』は現在、技能スキル『宝箱』に帰属する形で復旧しています。故に『チュートリアル』は復旧していません。サポちゃんより以上』

 技能スキル『宝箱』。希少ランクSSSの超反則スキルだったらしい。
 その能力は『宝物』の取得と保管。ダンジョンに入り、ミミックに遭遇することで初めて発動条件を満たす不思議スキルだ。
 ミミックに対し『宝箱』を発動させ、ミミックを討伐すると報酬として『宝物』を取得することができる。対象は『所有者の定まっていない、生物以外の、実在する何か』。
 誰かの持ち物や、生き物は取得できず、実際に存在しない空想の産物も対象外というわけだ。
 だが実在している物であれば、それは有形無形を問わない。
 つまり、今回発動した『宝箱』で得た『宝物』というのが――サポちゃんなのだ。
 ……おそらく、今までで一番無茶苦茶な反則スキルだと思う。でも、今はもうグッジョブとしか言いようがない。サポちゃんが帰って来たのに、文句なんて言えるはずがないよ!
 どうやら主神様が、サポちゃんが最初の『宝物』になるようあらかじめ設定しておいてくれたらしい。
 これに関しては感謝しかない。
 転移罠にはめられる直前、主神様の焦った声を聞いた気がする。今は大変かもしれないのに、俺にサポちゃんを戻してくれるなんて、本当にありがとうございます、主神様!
 ……いつもならここで主神様のコメントがあるんだが、やはり今回はなかった。残念だ。
 そしてもうひとつの能力は宝物の保管だ。要するにミミックの『圧縮空間』を使うことができるってことだ。
 さっき俺の体内に取り込まれた宝箱は、俺の意思で出し入れ自由なうえに、中に収納した物は時間経過による劣化の影響を受けない。つまり作り立ての料理を収納すれば、ずっとその状態を維持できるのだ。ちなみに生物は保管できないらしい。
 今のところ容量は学校の体育館くらい。スキルレベルが上がれば容量も増えるとか。

「……あれ? もしかしてこの『宝箱』ってスキルがあれば……」

『サポちゃんより報告。ヒビキ様が望むなら、失ったスキルを『宝箱』で復活させることも可能です。サポちゃんより以上』

 やっぱり! 行ける! 『宝箱』でスキルを復活できれば、みんなの元に戻れるよ!
 最大スキルレベルは10らしいから、残り9個、スキルの復活枠があるわけだ。

「教えてくれてありがとう、サポちゃん! やっぱり俺にはサポちゃんが必要だよ!」

『サポちゃんより報告。謝意を受諾。ヒビキ様のご健闘をお祈りします。サポちゃんより以上』

 微かに届く絆の糸に慰められていた俺。さらにサポちゃんの存在が俺の孤独感を癒してくれる。
 目標ができた。ただ上層を目指すんじゃない。失ったスキルを取り戻す。
 まずは『世界地図』だ!

【魔法スキル『火魔法レベル1』の熟練度が上がりました】
【これにより技能スキル『魔導書レベル2』に登録されている『ファイヤボール』の習得基準を満たしました。火魔法『ファイヤボール』を習得しますか?】

 ――します! おおおおおお! とうとう俺にも『ファイヤボール』が!
 サポちゃんが復活し、念願の遠距離攻撃魔法を習得! 幸先のいいリスタートとなったようだ。


       ◆ ◆ ◆


 こんばんは、真名部響生です……誰か助けてください。もうヘトヘトです。

『サポちゃんより報告。『気配察知』が魔物の接近を感知しました。サポちゃんより以上』

 ぐうう、またかあああああああ! サポちゃんに数秒遅れて俺自身も魔物の気配に気が付く。
 ショルダーバッグから『医学書』で調合したポーションを取り出し一気に飲み干すと、俺は再びダンジョンの中を全力疾走するのであった。
 懐中時計が指し示す時刻は深夜三時。目の下に隈ができるってーの!
 サポちゃんが復活して早三日。この階層に来てから既に十日が経過していた。
 クロードとの『主従繋糸』は、相変わらず会話こそできないものの順調に強度が増している。糸の持続時間は毎日少しずつ延びているし、糸を伸ばしてからクロードと繋がるまでの時間も短くなった気がする。
 まあ、それは置いといて、目下の問題は新しいエリアに入ってから遭遇した『ミッドナイトハウンド』だ。
 獰猛な犬型の魔物で、厄介なことに、昼も夜も臭いを嗅ぎつけて襲い掛かってくる。
 俺の数少ないアドバンテージは多少なりとも数値の高い俊敏性と、クロードから複製した『瞬脚』『流脚』による回避術だというのに、ミッドナイトハウンドの得意分野も『速度』なのだ。
 必死になって駆け回っても、ようやく一時的に逃げ切ることができるレベル。
 一時間もすればすぐに居場所を嗅ぎつけられて逃げ回るのを繰り返すこと三日。俺の疲労はそろそろ限界に近い。ポーションで騙し騙し頑張っているが、いつまでもつか……。

 ……新エリア逃亡生活五日目。一応、ミッドナイトハウンドの対処法を見つけた。
 やはり犬には――アンモニア水である。
 以前クロードのお仕置きに使用したアンモニア水……は、ちょっと危険なので、普通のアンモニア水を使う。犬らしく嗅覚に優れる奴らにこれをぶちまけてやると、以前のクロードよろしくのたうち回り、俺を追いかけるどころではなくなるのだ。その隙に矢を射れば倒せないこともない。
 とは言え、戦えるようになったというだけで、睡眠妨害されるという状況は変わっていない。
 ヘトヘトになって通路を進んでいたある時、サポちゃんが不思議な提案をしてきた。

『サポちゃんより報告。『医学書レベル2』の更新処置を推奨します。サポちゃんより以上』

 ……ん? 『医学書』の更新? 何のことかな、サポちゃん?

『サポちゃんより報告。技能スキル『医学書』はレベル1のまま更新されていません。『医学書』をレベル2に更新し『診療所』の開設を推奨します。サポちゃんより以上』

 ……診療、所? 何のことだろ? まあ、サポちゃんが言うならやってみた方がいいのかも。

【技能スキル『医学書レベル1』を行使します】

 ……あれ? 今まで気が付かなかったけど、『医学書レベル1』って言ってる。『鑑定』でステータスを見る限り、間違いなくレベル2のはずなのに。……そうか、それで『更新』なのか。

【技能スキル『医学書レベル1』を更新しますか? 消費SP400】

 うわ、ごっそり持ってかれるな。いいの? サポちゃん、大丈夫?

『サポちゃんより報告。即時更新を推奨します。サポちゃんより以上』

 ……そう、分かった。じゃあ、『更新』してみよう。

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