最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

文字の大きさ
46 / 152
3巻

3-14

 真ん中でハーフミスリルアーマードベアと戦っているジェイドさんはどうだろうか?

【技能スキル】『鑑定レベル6』を行使します。
【 名 前 】ジェイド・フラン
【 性 別 】男
【 年 齢 】19
【 種 族 】ヒト種
【 状 態 】健康
【 職 業 】剣闘士(レベル44)
【 レベル 】49
【 H P 】855/1138
【 M P 】163/163
【 S P 】441/769
【物理攻撃力】507(+95)
【物理防御力】448(+99)
【魔法攻撃力】202
【魔法防御力】398
【 俊敏性 】468
【 知 力 】269
【 精神力 】465
【  運  】50
【固有スキル】なし
【技能スキル】『剣闘技レベル7』『剣技レベル7』『体術レベル6』『体幹制御レベル6』
       『豪腕レベル5』『気配察知レベル5』『危機察知レベル4』
【魔法スキル】なし
【 称 号 】『挑戦者』『生還者』『礼儀知らずで恩知らずだよ! コイツ!』

 最後の称号がおかしなことに。こんな称号のつけ方する人(神)、一人しか知らないんだけど。

『サポちゃんより報告。確実に主神様と推測できます。サポちゃんより以上』

「何やってんの、あの人!」
「ど、どうしたの、ヒビキ君!?」
「あ、何でもないです、ごめんなさいヘカーテさん」

 思わずツッコんでしまったじゃないか。ホント、称号で遊ばないで主神様……。
 総合的に見て、ハーフミスリルアーマードベアの方がジェイドさんよりステータスが上だ。両端の二人の援護は必須。彼らが来るまでジェイドさんが持ち堪えられるように支援しなくちゃ。
 左手に持つ神弓『グローイングボウ』を握る手に力が籠った。
 カーネイルさんとヘルムさんは、拮抗しつつもやや優勢のようだ。
 大剣を膂力で大胆に振り回すカーネイルさんの攻撃は、豪快のひと言に尽きる。
 大剣を振り回しているとは思えない手数の多さで、防御力で上回るアイアンアーマードベアの鎧を次々に破壊していった。
 対してヘルムさんの戦い方は精密という表現が合っていると思う。
 細身の剣で鎧の隙間に刃を突き立てる。必殺の一撃はないものの、確実に敵にダメージを積み重ねていく光景はまさに圧巻。魔導戦士は魔法も使えるため、魔法で牽制しつつ剣の攻撃を繰り出していた。

「カーネイルさんもヘルムさんも凄い! これなら勝てるかも!」
「二人はね! ジェイド!」

 戦況を確認しているつもりでジェイドさんを見逃してしまった! ヘカーテさんが援護のための魔法の準備に入る。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ジェイドさん!?」

 やはりハーフミスリルアーマードベアの動きは尋常ではない。クマの体格に合わせた合理的な体術が繰り広げられていた。固有スキル『クマ格闘術』は飾りではないということか。
 体術を駆使するクマとなんて戦った経験がないのだろう。ジェイドさんは防戦一方だった。
 カーネイルさん達がまだ来られない以上、ヘカーテさんの支援が重要にな――。

「雷魔法『ライトニングスピ――」

『サポちゃんより報告。鎧に反射される可能性『大』です。サポちゃんより以上』

「ちょっと、待ってヘカーテさん! その魔法じゃ反射される!」
「ええ!?」
「それ以前に、全身鎧を着込んだ相手に雷魔法は効果がないよ!」
「で、でも、金属は雷をよく通すって聞いたことがあるわよ?」
「そうさ、金属は雷をよく通す。だから体に届かず鎧から地面に流れてしまうんだ! 今必要なのは奴にダメージを与える魔法じゃない。ジェイドさんを助ける魔法だ!」
「――っ! そうか、そうよね! 奴の動きを止められれば! 土魔法『アースアームズ』!」

 ハーフミスリルアーマードベアの足元に、大地の腕が無数に生えた。一本一本は大した力を有していないが、執拗に足を掴まれれば多少は動きが鈍り、隙が生まれる。

「はああああああ! 『剣闘技』の妙技『骨砕打こつさいだ』!」

 斬るのではなく、袈裟懸けさがけに剣を叩きつける攻撃が敵の肩に直撃した。クリティカルヒットしたのか、ミスリルコーティングされた鎧にビキキと亀裂が走り、巨大なクマが悲鳴を上げる。

「グギ、ガガアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 だが敵も反射的に腕を振り回し、鋭い爪がジェイドさんの左腕を抉った。

「ぐああああああああああああああ!」
「ジェイド!」

 左腕は深く抉られ、とても使い物にならない。片腕で持ちこたえられるほどやわな相手じゃない。すぐに回復させないと!

「くっ! ヒビキ君、私が奴の気を引くからあなたはその隙に――て、何をしているの!?」

 ヘカーテさんは驚愕の表情を浮かべた。
 そりゃそうだ、何せ俺は――ジェイドさんに向けて弓を引いているのだから。

「何のつもりヒビキ君! なぜジェイドに矢を向けているの! その光る矢は何!?」
「もちろん、彼を治すためさ! 魔法付与『ハイヒール』! 届け『癒しの矢』!」
「待って! ――えっ!?」
「――うっ! これは……!?」

 ヘカーテさんの驚愕は続く。陽光のような輝く矢がジェイドさんを射抜いたかと思うと、彼の体が白銀の光に包まれたのだ。

「あれは、回復魔法の光?」
「あれが俺のとっておきの支援技。回復魔法と『精霊弓術』を組み合わせた、光速で飛ぶ回復魔法『癒しの矢』さ!」

 この技、『精霊弓術』がレベル2になった時点で何よりも最初に思いついた技だ。しかし、その時の俺はソロだったので使う機会が一切なかった。役に立って本当によかったよ。

「遠距離に飛ばせる回復魔法なんて、反則だわ……というか、鑑定士の領分じゃないわよね……」

 突然の回復に戸惑ったジェイドさんだったが、左腕が動くことに気が付くと、すぐさま猛攻を仕掛け、ハーフミスリルアーマードベアを押し負かした。
 そして何やら複雑そうな顔して俺の方を向いた。どうしたんだろ?

「そ、その! …………助かった……気が、しないでもない」

 それだけ言うと、ジェイドさんは再びハーフミスリルアーマードベアへと向き直るのであった。

「ごめんね、ヒビキ君。ジェイド、素直じゃなくて……」
「いや、十分だよ。さあ、まだまだ頑張らないとね!」

 ジェイドさんが俺を認めてくれた――そういうことでいいんだよね?


       ◆ ◆ ◆


「届け『癒しの矢』!」

 肩を爪で切り裂かれたカーネイルさんに回復魔法を射る。数秒後、カーネイルさんは元気よく戦線に復帰し、ハーフミスリルアーマードベアとの戦闘を再開させた。
 既に二体のアイアンアーマードベアは倒され、ハーフミスリルアーマードベアを残すのみとなった。
 三対一、俺とヘカーテさんも加えれば五対一での戦闘になるが、戦況としては若干こちらが押している程度。まだまだどちらが勝つかは予断を許さなかった。
 現在の俺達五人の役割は――。
 まず、ジェイドさんが正面からハーフミスリルアーマードベアに相対する。カーネイルさんでは奴の速度についていけないし、ヘルムさんでは奴の膂力を受けきれない。この役目はジェイドさんにしかできないものだった。
 カーネイルさんとヘルムさんはジェイドさんの援護。主に敵の側面や背後に陣取り、ほんの少しでも隙ができればそこを襲撃するのだ。
 ヘカーテさんの役目は牽制と遊撃だ。戦闘中に生まれた味方の隙をカバーする。飛ぶ回復魔法『癒しの矢』を放つ俺がいるため、彼女はそっちに集中できる。つまり俺の役目は回復役ということだ。

『サポちゃんより報告。ヒビキ様、そろそろMPが心配です。サポちゃんより以上』

 ――え? ……ああ、ホントだ。教えてくれてありがとう、サポちゃん。

「ヘカーテさん、MPは大丈夫?」
「回復をしないで済んでいるからまだ残ってるけど、正直きついわね」
「俺も結構ヤバイ。これをあげるよ、飲んで」

 ショルダーバッグから二本の瓶を取り出し、片方をヘカーテさんに渡した。

「これは?」
「マジックポーション。MP回復魔法薬だよ」
「マジックポーション!? MPを回復させる魔法薬なんて聞いたことないわ!」
「俺の秘蔵の逸品。とにかく飲んでお互いMPを回復しよう」
「でも、こんな貴重な品を……」
「ここで負ければ死ぬだけだ。そうしたらそれは、ただのごみクズになる」
「――っ! そ、そうね。ありがとう、いただくわ」

 マジックポーションは蜂蜜水のような甘い味がした。体内でMPが湧き出す感覚が生じる。

「凄い、本当にMPが回復してる。これならまだやれるわ! 土魔法『マッドマット』!」

 ヘカーテさんが敵の足元を泥の大地に作り変えた。
 危うく敵に殴り飛ばされそうになっていたカーネイルさんは、ハーフミスリルアーマードベアが体勢を崩したことでピンチを脱した。

「いける、いけるわ! 隙は私が作る! 植物魔法『蔓の鎖チェインバインズ』!」

 なぜかヘカーテさんのテンションが高い。纏わりつくように生い茂る植物の鎖が、ハーフミスリルアーマードベアの動きを止める。
 生まれたのは数瞬の空白。だが、そのチャンスを前衛三人は見逃さなかった。三人の攻撃は見事に決まり、巨躯のクマが悲鳴を上げた。

「グオオオオオオオオオオオオオオ!」

 だが奴もやられっぱなしではない。最も近くにいたヘルムさんを、よろけた反動を利用して裏拳で吹き飛ばした。

「届け『癒しの矢』!」
「雷魔法『ブラインドスパーク』!」

 俺が回復魔法を放ち、ヘカーテさんは放電による目くらましの魔法で敵を牽制し、時間を稼いだ。
 ヘルムさんは息を整えるとすぐに持ち場に戻る。
 接近戦闘に特化したスキル構成のハーフミスリルアーマードベアには、範囲攻撃の手段がない。
 一人が傷つけられても誰かがフォローすれば、回復してすぐに戦線復帰が可能だ。
 奴のHPも既に三分の一を切っている。あともう少し頑張れば――はっ!

『サポちゃんより報告。『気配察知』が極めて鋭い殺気を感知しました。サポちゃんより以上』

 今、一瞬だけ、ハーフミスリルアーマードベアと――目が合った。タラリと冷や汗が流れる。
 気のせい……じゃない。俺だけでなくサポちゃんも感じていたんだから。
 でも、どういうつもりなのか疑問に思っても仕方がない。もう少し、もう少しでこの戦いも終わる。それまで集中しないと。
 それからほどなくして、とうとう奴のHPが二割を切った。

「もう少しだ! あと少しで奴を倒せる!」
「「「おう!」」」

 俺の掛け声にジェイドさんを含めた前衛三人が一斉に応じ、剣を振るう。

「私のMPもそろそろ本当に限界ね。みんな、次で決めるわよ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!」」」

 さすがヘカーテさん。俺の時とは男性陣の気迫が違う。

「土魔法『大地陥没フォールダウン』!」

 ザッと三人が敵から引いた瞬間を見計らって、ヘカーテさんが敵の足元を深く陥没させた。ハーフミスリルアーマードベアはグラリと体勢を崩し、踏ん張るように動きを止める。

「今よ!」
「「「そこだあああああああああああああああ!」」」

 この好機を絶対に逃さない。そんな表情で敵を囲い込み、剣を振り上げた三人。
 これが決まれば、間違いなくハーフミスリルアーマードベアを倒せる!
 そう確信した瞬間、再び……奴と俺の――目が合った。

「――っ!?」
「グゴ、グゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「「「「「――――なっ!?」」」」」

 全身を揺さぶる大気の振動――恐怖を伝播させる轟音の咆哮が、俺達の心臓を鷲掴みにして完全に拘束した。
 動かなければならないと分かっているのに、姿勢を崩すこともできず、その場で固まっている。
 使い方を忘れてしまったかのように、声帯さえも自由が利かない。
 俺達は、突如ハーフミスリルアーマードベアが発した絶叫に、為すすべなく囚われてしまった。
 くぼんだ地面から、亀裂だらけの鎧を着込む獰猛なクマが這い上がってくる。
 一番近くにいた三人の男達を無視して、猛獣の瞳はずっと――俺を見据えて動かなかった。

『サポちゃんより報告。相手を怖気おじけづかせるための技能スキル『雄叫び』『威嚇』『威圧』を併用されているため効果は絶大です。ヒビキ様、早急に復旧を。サポちゃんより以上』

 分かってる、分かってるんだけど、どうしても体が動かないんだ。ジェイドさん達を素通りして、ハーフミスリルアーマードベアは俺に歩み寄る。

『サポちゃんより報告。敵は回復役のヒビキ様を脅威認定したようです。早急な退避を推奨します。サポちゃんより以上』

 何度『動け』と命じても、俺の体は見えない縄で縛られたように動かない……鎧クマの不快な嗤笑ししょうが聞こえるようだ。
 結局、ハーフミスリルアーマードベアが爪を振り下ろす瞬間まで、一切身動きできなかった。

『サポちゃんより報告。緊急事態と判断。『ステータスサポート』完全稼働します』

 ……サポちゃん?

『――全ステータスを掌握。全スキルは現時刻をもって「ステータスサポート」の指揮下に入り、常時完全開放状態にて支援処置に入ります』

 何が、起きて――。

『技能スキル『気配察知』の妙技『心眼』を強制行使。『瞬脚』『流脚』の複合妙技『飛天脚』を強制行使。……跳びます』

 次の瞬間、突然視界が変化した。ほんの数瞬前まで正面から見上げていたはずなのに、気が付くと俺は、ハーフミスリルアーマードベアの後頭部を見下ろしていた。

「――はへ?」
「グオオッ!?」

 俺は、いつの間にか奴の背後に跳躍していたのだ。でも、どうやって――。

「グガアアアアアアア!」

『――複合妙技『浮天連脚ふてんれんきゃく』を強制行使』

 背後の気配に気づいたハーフミスリルアーマードベアが高速の裏拳を放つ。
 またしても俺は難なくかわした。なんと空中でステップを踏み、方向転換して避けたのである。
 だが、永遠に空中ステップが踏めるわけでもなかったようで、着地する。
 その瞬間を狙い、巨大な爪が襲い掛かった。
 だがそれを、俺はか細い右腕だけで受け止めた。
 当然のように腕は切り裂かれ、骨の近くまで深く抉られる。だが、痛みを感じる前に――。

『技能スキル「医学書」より回復魔法「ヒール」抽出。右腕部に効果を集中』

 白銀の光が右腕を包み込み、気付けば傷跡も痛みも全くない、すこやかな右腕があるのみであった。
 ……ここまで来ればさすがの俺も理解できる。今、この体を動かしているのは俺じゃない。サポちゃんだ。
 これまでもサポちゃんは『気配察知』などの感知スキルを、俺の代わりに発動する場面があった。今は全てのスキルを駆使して、俺をハーフミスリルアーマードベアから守ってくれているんだ。
 俺の体はまたしても空中を駆け巡り、奴の眼前へと飛び込んだ。

『技能スキル「魔導書」より、風魔法『暴風弾丸ストームバレット』を抽出。強制習得』

 ハーフミスリルアーマードベアの胸に足を乗せ、左腕は奴の肩に、そして奴の顔面に右のてのひらを突き出し――。

「風魔法『暴風弾丸』!」

 奴の顔面にゼロ距離から風の弾丸を放つ。凝縮された暴風の弾丸をまともにくらった鎧クマは全身をらせ、勢いよく地面に叩きつけられた。
 仰向けに倒れたハーフミスリルアーマードベアはしばらく沈黙していたが、サポちゃんの支援を受けた現時点での俺の最大威力の攻撃を受けたにもかかわらず――。

「グゴ、グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 寝そべりながら、怒り任せの咆哮を上げた。……まさかダメージが、ないのか!?

『ミスリルコーティングの鎧の魔法耐性が想定以上です。ダメージは軽微』

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ひっ!」

 再び恐怖心が舞い戻ってくる。サポちゃんのあれだけのサポートを受けても倒せないなんて、もう少しでHPがなくなるのに、何て強さと執念深さなんだ!

『敗北は必至と判断。最優先課題を「戦線離脱」と決定。複合妙技「韋駄天脚」を強制行使』

 ジェイドさん達には突然俺が消えたように見えたかもしれない。少なくとも俺の視界はそんな感じだった。敵から離れるべく、信じられない移動速度を実現していた。
 気が付けばさっきまでとは風景の違う、ゴロゴロとした岩石群の荒れ地まで来ていた。俺はその中のひとつに身を隠し、息を切らしながら岩肌に寄り掛かった。

『サポちゃんより報告。「ステータスサポート」稼働限界です。サポちゃんより以上』

「そう、なの……? 一体俺、どこまで来て――っ! ぐうう、ぐあああああああああああ!」
 稼働限界と告げるサポちゃんの言葉の直後、全身が激痛に襲われた。
 痛みに耐えきれず、地面にうずくまるが、痛みは一向に治まらない。痛い、痛すぎるううううううう!

『サポちゃんより報告。「ステータスサポート」完全稼働の反動です。緊急事態とはいえ、負担をお掛けした点、深く謝罪します。サポちゃんより以上』

 ぐうう、要するに超ハイレベルな筋肉痛みたいなものか。スキルを、全てのステータスを常時限界状態で発動させ続けた反動が今来ている、と。
 やばい……痛みと強張こわばりで体の自由が利かない。しばらく休まないと、とても動けそうにない……みんなは大丈夫かな?

『サポちゃんより報告。奴は怒りからヒビキ様だけを敵として猛追中です。逆にヒビキ様を屠るまで皆様は無事と推測できます。約三分後には『診療所』を開設できるだけのSPが……回復できます。それまで……この場に身を隠すことを推奨……します。サポちゃんより以上』

「……分かった」
イタタ、こんな状態じゃ、サポちゃんの言う通りにするしか方法はなさそうだ。

『サポちゃん……より報……告』

「サポちゃん? 声が何だか――」

『「ステータスサポート」の……完全稼働の反動……により、機能が……著しく……低下中です。間もなく……私も……一時、休止状……態となり……ます』

「サポちゃん!?」

『……どうか、お気をつけ、ください……。サポちゃん……より以……じょう――』

 それきり、サポちゃんの声は聞こえなくなった。あれはサポちゃん自身にも負担になる能力だったのか……助けてくれてありがとう、サポちゃん。
 でも、残り三分、サポちゃんがいない状況で待たなければならないのか。
 ……三分なんて、普段ならあっという間に過ぎてしまうのに、今は物凄く長く感じる。
 それに、さっきの反動で全てのスキルが機能していないみたいだ。『気配察知』も使えないからハーフミスリルアーマードベアが近くにいるかどうかは、元々の五感に頼るしかない。
 もし奴が今俺の目の前に現れたら……抵抗なんてできずに死ぬんだろうか。
 いや、抵抗だけはしなければならない。生き残るためにサポちゃんだって頑張ってくれたんだ。
 グローイングボウは持ってこられなかった。まあ、あったところで弓を引く力なんて残ってやしない。使えるとしたら、この腰に差した短剣くらいか。
 役には立たないかもしれないが、一応手に持っておこう。
 ……長い。一分一秒が非常に長く感じる。あれから一分は経過したけど、二時間は待った気分だ。
 今のところ奴が来る気配はない。
 ハーフミスリルアーマードベアを倒す方法は、あるにはある。『従者召喚』でクロードを呼べばいいんだ。瀕死の奴くらいクロード一人で余裕で倒せる。
 でも実際にそんなことはできない。『主従繋糸』もないリリアンはどうするって言うんだ。馬鹿らしい。
 俺が助かるために、今度はリリアンとヴェネくんをダンジョンに置き去りにしようってか?
 ありえない。クロードを呼ぶという選択肢は、できるようで、実はできないのだ。
 ポジティブ、ポジティブだ! ……よし、奴に見つかった場合の対策を考えてみよう!
 今、俺の足は全く動きそうにない。もし奴に見つかった場合、この場で時間を稼がなければならない。どうやって時間を稼ぐ?
 短剣で目を狙えばどうかな? 目を潰せれば時間稼ぎになるはず……いや、そもそも手が届かないんじゃないだろうか? 立ち上がるのもつらいし……。
 この際武器に頼らず、砂で目潰しでもすればどうだろう。
 いや、それも上手くいかないか。運良く目潰しができたとしても、闇雲に攻撃されてやられそうだ。
 足が動かないっていうのはネックだよな。良策が浮かばない……二分経った。
 やはり、最悪の場合はクロードを召喚するしか手がないのかも……いや、ダメだ。たとえ命が助かっても、リリアンを危険にさらすなんて自分自身を許せない。
 それならどうやって奴から身を守る?
 今の俺は一人だ。俺のそばには誰一人、仲間がいない……。

(……つまりそれは、今ヒビキのことを見ている者は誰もいないということよね?)

「……え? 今のは……?」

感想 1,024

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。