自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸

文字の大きさ
31 / 75

第30話

しおりを挟む
 「っ!」

 国を潰しかけた、そのライルハート様の言葉に私は強く唇を噛みしめた。
 私は、ライルハート様と長く付き添っていて、何があったかを知っている。

 故に、目の前のライルハート様の浮かべる表情に、私は罪悪感を覚えずにはいられなかった。

 違う。国が潰れかけたのは決してライルハート様のせいではない。
 ライルハート様がきっかけで、事件が起きかけたのは確かではある。
 だが、それはライルハート様ではなく、私達貴族達のせいで起こったようなものだった。
 それを知り、今までその考えを否定しようとしていたからこそ、私はその言葉を看過することは出来なかった。

 「違います!それはライルハート様のせいじゃなくて!」

 感情的に私はそう言い募る。
 が、私の言葉を遮るようにライルハート様は手を上げた。

 「いや、俺の責任だ。何も考えず暴走して、あの状況をまるで考慮していなかった、俺の浅慮が起こしかけた事態だ」

 強い口調でそう言い切ったライルハート様に、私は何も言い返すことができなかった。

 本当に責められるべきはライルハート様でないことを、私は知っている。
 真に責められるべきは、あの時何もできないどころか、状況を悪化させた自分の方なのだから。

 私は、未だライルハート様の考えを変えられなかった自分の力不足を後悔して俯く。

 ──ライルハート様が、今まで纏っていた雰囲気を霧散させたのは、その瞬間だった。

 「と、昔はそう思い込んでいた。でも、今は違う。どこかのお節介な婚約者が、その考えは違うと必死に言い聞かせてくれたからな」

 「………え?」

 思わぬ言葉に、呆然と顔を上げる。
 そこには、柔らかい笑みを浮かべたライルハート様の姿があった。

「あの時、アイリスのお節介があったからこそ今の俺がいる。だが、情けないことに今の俺はまだ、自分のことが、いや、自分の能力に忌避感を覚えている。だから、それを拭うために一つ頼みを聞いてもらっていいか?」

 その意味が、私には分からなかった。
 ただ、どんなことであろうがライルハート様のためなら、私の覚悟は決まっている。

 「はい。分かりました」

 私の了承に、ライルハート様は一瞬躊躇なようなものを浮かべた後、意を決したようになにかを取り出した。
 それは手のひらに乗る程度の大きさ。

 ──次の瞬間、ライルハート様が開いた箱の中に見えたのは、シンプルながら高名な細工師が作ったとわかる一つの指輪だった。
しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...