自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸

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第68話 (アリミナ目線)

 男を前にして、私の身体は震え始める。
 何とか後ろに逃げようとするが、その前に男の手が私の服を掴んだ。

「きゃっ!」

「なんで逃げるんだい? ようやく見つけられたのに」

 引き寄せてくる男の力に必死に抵抗するが、女である私が腕力で勝てる訳がなかった。
 どんどんと引きずられていき、逃げられないことを悟った私の顔に絶望がよぎる。

「お嬢様の目を汚すな」

「がっ!」

「……え?」

 ……だが、次の瞬間響いた若い男のものと思われる声が響いた瞬間、私の服を握っていた男の力が失われた。

 助かった、一瞬安堵が胸に広がる。
 が、突然男の力が失われたことでバランスを大きく崩した私は、前に倒れ込んでしまう。

「あ、しまった」

「ハンス!? 貴方相変わらず乱暴すぎるわ!」

 焦った様子で響いた若い女性の声を耳にし、私は今更ながら若い女性が助けに来てくれたことに気づく。
 お嬢様、ということはどこかの貴族なのだろうか。
 どこか聞き覚えのある気がする声に、そんなことを私は考える。
 いや、そんなことは今は関係ないか。
 とにかく今は助けて貰ったことに対するお礼をしなければ。

「貴女、大丈夫! うちの執事が本当にごめんなさい」

 申し訳なさそうに話しかけてくる貴族の令嬢らしきその人へと、私はお礼を告げるため顔を上げる。

「助けて貰ったのに文句なん……え?」

 ……その令嬢の顔を、私が見ることになったのは次の瞬間だった。

 相手も、私がこの場所にいることが予想外だったのか、一瞬驚愕が浮かぶ。
 しかし次の瞬間、その令嬢の顔は怒りが入り交じった喜びが浮かんだ。

「ようやく見つけたわ、アリミナ!」

「……っ!」

 先程男性に迫られたなど比にならない危機を感じた私の顔から血の気が引く。

 目の前に経つ令嬢は、私が婚約者を奪った人間の一人。

 侯爵令嬢、マーガレット・ムトスワールだった。
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