冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸

文字の大きさ
11 / 54

第11話 伯爵ヤラム・マークタット

しおりを挟む
 アグルスのその言葉に対し、しばしの間私は反応を返すことが出来なかった。
 アグルスの言葉、そのあまりの衝撃に一瞬私は理解するのを放棄したのだ。

 「では。これで私は」

 「っ!待って!」

 ……けれども、それだけを告げてこの場を後にしようとするアグルスに対し、だんまりを決め込むことはできなかった。

 「いきなり何を言うのだ!貴様は自分がどれ程非常識なことを言っているのか理解できていないのか!」

 私は私を押し退けこの場から去ろうとするアグルスの肩を掴み、そう叫んだ。
 正直、私には何故アグルスがいきなりこんな言葉を言い出したのか全く理解できなかった。
 なにせルスタニアの大陸連盟の加盟についてはもう既に決まったことな上、ルスタニアとアレスターレの間には全くなんの問題も起きていないのだから。

 「一歩間違えればアレスターレとルスタニアとの戦争だぞ!何故こんな非常なことを……」

 だから私はアグルスがルスタニアの外交官であることも忘れ、そう怒鳴りつけていた。
 目の前の男は化け狐とよばれ、アレスターレの文官にずっと恐れられていた存在なのだ。
 なのに何故こんな簡単なことも理解出来ないのか、私は首を傾げそうになる。

 「……はぁ。ここまでマーセリア孃の後任が愚かだとは思わなかった」

 「なっ!?」

 ……けれども、その私の言葉に対するアグルスの対応は呆れの嘆息だった。
 そしてそのアグルスの顔に私の顔は怒りで朱に染まることになる。
 相手がおかしいのは分かりきっているのにもかかわらず、逆に馬鹿にされたという事実は私のプライドを痛く傷つけることになったのだ。
 そして次の瞬間、その怒りを抑えることができず、私はアグルスに向かって口を開いていた。

 「ふ、ふざけるな!愚かだと言いたいのはこちらの方だ!大きな問題など起きてもいないのに一方的に加盟を破棄……」

 「大きな問題が起きていない?」

 「っ!?」

 ……だが、アグルスに対する怒りを私は最後まで言い切ることが出来なかった。
 私の言葉が終わるより先にアグルスが話の言葉を遮り声をあげたのだ。

 今までとは違う、怒気を露にした声を。

 今までアグルスは不機嫌さを露にしながらも、それでもそのようすは何時もの好好爺然とした態度から逸脱するものではなかった。
 ……けれども、今目の前で怒気を露にするアグルスは先程までの好好爺然とした様子が嘘のような威圧感を放っていた。

 今目の前にいるのは歴戦の猛者といわれても信じてしまいそうな威圧感を。

 「ひ、ひぃっ!」

 そしてそのアグルスを前にして私は恐怖を隠すことが出来なかった。
 今までアグルスに怒りを抱いたことさえ忘れ、私はがたがたと体を震わす。

 「マーセリア孃を追い出したことが大事でない?貴様はマーセリア孃がいなくなれば大陸連盟が成り立たなくなることさえ理解できんのか。……本当にマーセリア孃は上の人間に恵まれなかったようだ」

 そんな私を汚物でも見るような目で一別し、アグルスはそう憐れみのこもった言葉を漏らした。
 それはアグルスのマーセリアにたいする敬意が浮かんだ言葉だった。
 そしてそのアグルスの敬意には、マーセリアが老練な外交官でさえ認める能力を有していることを示していて。

 「……けるな」

 「何か」

 「ふざけるな!あの女はただの無能だ!」

 ……けれども、その事を私は認めることが出来なかった。
しおりを挟む
感想 222

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

処理中です...