3 / 35
3
しおりを挟む
私の言葉のあと、暫くマークは青ざめた顔のまま黙り混んでいた。
「誤魔化そうと出鱈目を言っても無駄だ。ネストリア。お前が侯爵家としての権力を振るおうが、婚約破棄は覆らない!何故なら、お前が豪遊したという過去は変わらないからだ!」
しかし、それでもマークが諦めることはなかった。
必死に私を貶めようと、言葉を重ねる。
それははたから見れば、やけになっているようにしか見えない姿だった。
先ほどのマークと私の会話だけで、マークの非難が的外れであるのは周囲も知ることとなっただろう。
だが、それでもマークはまるで主張を変えようとしない。
それは普通に考えれば、愚かとしか言いようがない行為。
「……っ!」
……けれども、マークの狙いを理解した私は、思わず顔を痙攣らせることになった。
「ネストリア!お前がどれ程言い訳しても、この場にいる方々を騙すことはできないぞ!」
次の瞬間、マークはその言葉に賛同を求めるように周囲へと目をやった。
通常であれば、何の根拠もなく私が悪いとだけのマークの言葉に賛同する人間はいないだろう。
「おお、全くその通りではないかっ!バーベスト家のご子息は、この強欲令嬢との婚約をここまで保ったことを褒められはしても、非難されることはないだろう!」
「それに比べてネストリア嬢は仮にも侯爵令嬢でありながら何と情けない。やはり侯爵家はあの時家を潰しておくべきだったのだ!」
けれども今この広場は、通常の状態ではなかった。
周囲の貴族の中に、マークの言葉の根拠のなさを指摘するものはいなかった。
それどころか、彼らはマークの言葉に賛同の意を示し、広場全体の貴族達は私を責め始める。
そしてその光景を前に、マークの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
「……やはり」
……どうやら、最初からマークはこの状況を期待していたらしい。
そのことを、私はマークの表情から確信することになった。
マークが狙っていたのは、私が悪事を犯したとこの場の人間に思わせることではなかったのだ。
マークが狙ったのは、私に付け込ませる隙を作ることだったのだ。
もしこの場の貴族達が、婚約破棄は私が全面的に非があると決めたなら、貴族社会では私が悪いと広まることになるだろう。
本当に私が悪いかなんて関係なく。
それを狙ったからこそマークは、本来ならば婚約を発表するはずのこの場で、婚約破棄を宣言したのだ。
婚約する場で婚約破棄、その行為でバーベス家は多少なりとも非難される。
それでも多くの貴族が集まるこの場所は、根拠のない冤罪を本当にあったものだと貴族社会に認識させられる場所だ。
だからマークは、肉を切らせて骨を断つ、バーベス家への被害が最小限のやり方で、婚約破棄を成し遂げようとしたのだ。
マークが、私の豪遊したという証拠を用意していなかったのも、必要ないと考えたからだろう。
「侯爵家の人間が、本当に情けない」
「ええ。本当に恥知らずにも程がある」
……そして実際今、貴族達は私が悪事を成したという証拠の有無など気にすることなく、私を責め立てる言葉を重ねていた。
別に貴族達は、本当に私が豪遊したかどうかなどどうでも良いのだ。
大切なのはただ一つ。
この状況なら、忌々しい侯爵家の力を削げるかもしれないという、そんな考えだけ。
「っ!」
広場中から向けられた、悪意の込められた視線。
……それを感じた私は、嫌悪感を隠そうともしない表情で唇を噛み締めた。
「誤魔化そうと出鱈目を言っても無駄だ。ネストリア。お前が侯爵家としての権力を振るおうが、婚約破棄は覆らない!何故なら、お前が豪遊したという過去は変わらないからだ!」
しかし、それでもマークが諦めることはなかった。
必死に私を貶めようと、言葉を重ねる。
それははたから見れば、やけになっているようにしか見えない姿だった。
先ほどのマークと私の会話だけで、マークの非難が的外れであるのは周囲も知ることとなっただろう。
だが、それでもマークはまるで主張を変えようとしない。
それは普通に考えれば、愚かとしか言いようがない行為。
「……っ!」
……けれども、マークの狙いを理解した私は、思わず顔を痙攣らせることになった。
「ネストリア!お前がどれ程言い訳しても、この場にいる方々を騙すことはできないぞ!」
次の瞬間、マークはその言葉に賛同を求めるように周囲へと目をやった。
通常であれば、何の根拠もなく私が悪いとだけのマークの言葉に賛同する人間はいないだろう。
「おお、全くその通りではないかっ!バーベスト家のご子息は、この強欲令嬢との婚約をここまで保ったことを褒められはしても、非難されることはないだろう!」
「それに比べてネストリア嬢は仮にも侯爵令嬢でありながら何と情けない。やはり侯爵家はあの時家を潰しておくべきだったのだ!」
けれども今この広場は、通常の状態ではなかった。
周囲の貴族の中に、マークの言葉の根拠のなさを指摘するものはいなかった。
それどころか、彼らはマークの言葉に賛同の意を示し、広場全体の貴族達は私を責め始める。
そしてその光景を前に、マークの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
「……やはり」
……どうやら、最初からマークはこの状況を期待していたらしい。
そのことを、私はマークの表情から確信することになった。
マークが狙っていたのは、私が悪事を犯したとこの場の人間に思わせることではなかったのだ。
マークが狙ったのは、私に付け込ませる隙を作ることだったのだ。
もしこの場の貴族達が、婚約破棄は私が全面的に非があると決めたなら、貴族社会では私が悪いと広まることになるだろう。
本当に私が悪いかなんて関係なく。
それを狙ったからこそマークは、本来ならば婚約を発表するはずのこの場で、婚約破棄を宣言したのだ。
婚約する場で婚約破棄、その行為でバーベス家は多少なりとも非難される。
それでも多くの貴族が集まるこの場所は、根拠のない冤罪を本当にあったものだと貴族社会に認識させられる場所だ。
だからマークは、肉を切らせて骨を断つ、バーベス家への被害が最小限のやり方で、婚約破棄を成し遂げようとしたのだ。
マークが、私の豪遊したという証拠を用意していなかったのも、必要ないと考えたからだろう。
「侯爵家の人間が、本当に情けない」
「ええ。本当に恥知らずにも程がある」
……そして実際今、貴族達は私が悪事を成したという証拠の有無など気にすることなく、私を責め立てる言葉を重ねていた。
別に貴族達は、本当に私が豪遊したかどうかなどどうでも良いのだ。
大切なのはただ一つ。
この状況なら、忌々しい侯爵家の力を削げるかもしれないという、そんな考えだけ。
「っ!」
広場中から向けられた、悪意の込められた視線。
……それを感じた私は、嫌悪感を隠そうともしない表情で唇を噛み締めた。
2
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる