婚約破棄されましたが、特に問題ありませんでした

影茸

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 私の言葉のあと、暫くマークは青ざめた顔のまま黙り混んでいた。

 「誤魔化そうと出鱈目を言っても無駄だ。ネストリア。お前が侯爵家としての権力を振るおうが、婚約破棄は覆らない!何故なら、お前が豪遊したという過去は変わらないからだ!」

 しかし、それでもマークが諦めることはなかった。
 必死に私を貶めようと、言葉を重ねる。
 それははたから見れば、やけになっているようにしか見えない姿だった。
 先ほどのマークと私の会話だけで、マークの非難が的外れであるのは周囲も知ることとなっただろう。
 だが、それでもマークはまるで主張を変えようとしない。
 それは普通に考えれば、愚かとしか言いようがない行為。

 「……っ!」

 ……けれども、マークの狙いを理解した私は、思わず顔を痙攣らせることになった。

 「ネストリア!お前がどれ程言い訳しても、この場にいる方々を騙すことはできないぞ!」

 次の瞬間、マークはその言葉に賛同を求めるように周囲へと目をやった。
 通常であれば、何の根拠もなく私が悪いとだけのマークの言葉に賛同する人間はいないだろう。

 「おお、全くその通りではないかっ!バーベスト家のご子息は、この強欲令嬢との婚約をここまで保ったことを褒められはしても、非難されることはないだろう!」

 「それに比べてネストリア嬢は仮にも侯爵令嬢でありながら何と情けない。やはり侯爵家はあの時家を潰しておくべきだったのだ!」

 けれども今この広場は、通常の状態ではなかった。

 周囲の貴族の中に、マークの言葉の根拠のなさを指摘するものはいなかった。
 それどころか、彼らはマークの言葉に賛同の意を示し、広場全体の貴族達は私を責め始める。
 そしてその光景を前に、マークの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。

 「……やはり」

 ……どうやら、最初からマークはこの状況を期待していたらしい。
 そのことを、私はマークの表情から確信することになった。

 マークが狙っていたのは、私が悪事を犯したとこの場の人間に思わせることではなかったのだ。
 マークが狙ったのは、私に付け込ませる隙を作ることだったのだ。

 もしこの場の貴族達が、婚約破棄は私が全面的に非があると決めたなら、貴族社会では私が悪いと広まることになるだろう。
 本当に私が悪いかなんて関係なく。
 それを狙ったからこそマークは、本来ならば婚約を発表するはずのこの場で、婚約破棄を宣言したのだ。

 婚約する場で婚約破棄、その行為でバーベス家は多少なりとも非難される。
 それでも多くの貴族が集まるこの場所は、根拠のない冤罪を本当にあったものだと貴族社会に認識させられる場所だ。
 だからマークは、肉を切らせて骨を断つ、バーベス家への被害が最小限のやり方で、婚約破棄を成し遂げようとしたのだ。

 マークが、私の豪遊したという証拠を用意していなかったのも、必要ないと考えたからだろう。

 「侯爵家の人間が、本当に情けない」

 「ええ。本当に恥知らずにも程がある」

 ……そして実際今、貴族達は私が悪事を成したという証拠の有無など気にすることなく、私を責め立てる言葉を重ねていた。

 別に貴族達は、本当に私が豪遊したかどうかなどどうでも良いのだ。
 大切なのはただ一つ。
 この状況なら、忌々しい侯爵家の力を削げるかもしれないという、そんな考えだけ。

 「っ!」

 広場中から向けられた、悪意の込められた視線。
 ……それを感じた私は、嫌悪感を隠そうともしない表情で唇を噛み締めた。
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