婚約破棄されましたが、特に問題ありませんでした

影茸

文字の大きさ
4 / 35

4

しおりを挟む
 私の家であるマストーリ侯爵家は現在、大きな影響力を有している。
 元々侯爵家として武力を有しているマストーリ家は、他の貴族には無い影響力があった。
 そして、アルフォス・マストーリ、私の義兄にあたる現在のマストーリ家の当主は優秀な人間で、義兄が党首になってから、さはにマストーリ家は財力的にも大きな影響力を有すようになっていた。
 今やマストーリ家は、公爵家になってもおかしくない程の力を有している。

 ……だがそれだけ大きな影響力を有しているのにも関わらず、いや、有しているからこそマストーリ家は多くの恨みを買うことになった。

 男尊女卑や選民思想で凝りかためられた考えを持つ、この国の貴族達から。
 先程から義兄、という表現を使っていることから分かるように、私とアルフォスは血が繋がっていない。
 元々アルフォスは、マストーリ家の領地にいた一領民だった。

 そして、その出自から義兄は貴族達からの敵意を向けられることになった。
 有能だったからこそ、より一層。

「やはり侯爵家はもうダメでしょうな。貴族に劣る平民が当主になってしまった時点で、侯爵家の血が穢れてしまったに違いない」

 「全くだ。貴族に劣る平民を当主にするなど、まともな人間の考えではありませんな。そんな家の結果がネストリア嬢とは、何とも分かりすい結果ですな」

 ……だからこそ、貴族達は少しでも侯爵家を貶められる機会があれば、義兄を嵌めようと行動し始める。

 真っ向勝負では能力も、底力もまるで敵わない。
 それでも諦めず、元平民である義兄を貶めようと、その立場から引きずり落とそうと考えている。
 だから貴族達はこの明らかにマークの方に非がある婚約破棄を、正当なものにしようとしているのだ。
 私に非があったと決めつけ、マストーリ家を非難するために。

 そしてそこから、当主にも責任があるとして、義兄に攻撃するために。

 そんな貴族達の思惑を理解し、私の顔は怒りを隠しきれずに歪む。

 「ふは、ははは」

 私の横から、勝利を確信したような笑いが聞こえてきたのはその時だった。
 横を見ると、そこには隠しきれない愉悦を顔に浮かべ、隠しきれない笑みを顔に浮かべたマークの姿があった。

……マークの狙いは、この貴族達の侯爵家への反感を利用することだったのだろう。

 普通に考えれば、ほかに好きな人が出来たので婚約したいなど、そんな話は通らない。
 婚約破棄が出来ても、自身の家名は大きな傷を負うことになる。

 だから彼は他の貴族達を利用した。
 貴族たちの目の前に、マストーリ家に漬け込めるチャンスという餌を吊り下げ自分の醜聞を書き消そうとしたのだ。
 そして現在マークは、自身の計画が成功したと確信していて。

 「……本当に愚か」


 「……え?」

 そんなマークへと、私は隠そうともしない嫌悪と嘲りのこもった視線を向けた。
 マークは今、誰を敵にしたのか理解しているのだろうか。
 一体誰を本気にさせてしまったのか。

 最早私のなかには、今回の騒ぎを程々で終わらすという選択肢は無くなっていた。

 今も広場からは私を非難し、マストーリ家を、そして義兄を嘲る言葉が聞こえて来る。
 その言葉に私は、まるで自分以外が敵になってしまったような錯覚に陥る。

 だが生憎、私はこの感覚にはもう慣れきっていた。

 「マストーリ家への不満がおありならば、僭越ながらこの私が答えさせて頂きましょう」

 次の瞬間私は、広場の貴族の方へと振り向きそう笑いかけた。

 それが、反撃の始まりだった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...