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私の家であるマストーリ侯爵家は現在、大きな影響力を有している。
元々侯爵家として武力を有しているマストーリ家は、他の貴族には無い影響力があった。
そして、アルフォス・マストーリ、私の義兄にあたる現在のマストーリ家の当主は優秀な人間で、義兄が党首になってから、さはにマストーリ家は財力的にも大きな影響力を有すようになっていた。
今やマストーリ家は、公爵家になってもおかしくない程の力を有している。
……だがそれだけ大きな影響力を有しているのにも関わらず、いや、有しているからこそマストーリ家は多くの恨みを買うことになった。
男尊女卑や選民思想で凝りかためられた考えを持つ、この国の貴族達から。
先程から義兄、という表現を使っていることから分かるように、私とアルフォスは血が繋がっていない。
元々アルフォスは、マストーリ家の領地にいた一領民だった。
そして、その出自から義兄は貴族達からの敵意を向けられることになった。
有能だったからこそ、より一層。
「やはり侯爵家はもうダメでしょうな。貴族に劣る平民が当主になってしまった時点で、侯爵家の血が穢れてしまったに違いない」
「全くだ。貴族に劣る平民を当主にするなど、まともな人間の考えではありませんな。そんな家の結果がネストリア嬢とは、何とも分かりすい結果ですな」
……だからこそ、貴族達は少しでも侯爵家を貶められる機会があれば、義兄を嵌めようと行動し始める。
真っ向勝負では能力も、底力もまるで敵わない。
それでも諦めず、元平民である義兄を貶めようと、その立場から引きずり落とそうと考えている。
だから貴族達はこの明らかにマークの方に非がある婚約破棄を、正当なものにしようとしているのだ。
私に非があったと決めつけ、マストーリ家を非難するために。
そしてそこから、当主にも責任があるとして、義兄に攻撃するために。
そんな貴族達の思惑を理解し、私の顔は怒りを隠しきれずに歪む。
「ふは、ははは」
私の横から、勝利を確信したような笑いが聞こえてきたのはその時だった。
横を見ると、そこには隠しきれない愉悦を顔に浮かべ、隠しきれない笑みを顔に浮かべたマークの姿があった。
……マークの狙いは、この貴族達の侯爵家への反感を利用することだったのだろう。
普通に考えれば、ほかに好きな人が出来たので婚約したいなど、そんな話は通らない。
婚約破棄が出来ても、自身の家名は大きな傷を負うことになる。
だから彼は他の貴族達を利用した。
貴族たちの目の前に、マストーリ家に漬け込めるチャンスという餌を吊り下げ自分の醜聞を書き消そうとしたのだ。
そして現在マークは、自身の計画が成功したと確信していて。
「……本当に愚か」
「……え?」
そんなマークへと、私は隠そうともしない嫌悪と嘲りのこもった視線を向けた。
マークは今、誰を敵にしたのか理解しているのだろうか。
一体誰を本気にさせてしまったのか。
最早私のなかには、今回の騒ぎを程々で終わらすという選択肢は無くなっていた。
今も広場からは私を非難し、マストーリ家を、そして義兄を嘲る言葉が聞こえて来る。
その言葉に私は、まるで自分以外が敵になってしまったような錯覚に陥る。
だが生憎、私はこの感覚にはもう慣れきっていた。
「マストーリ家への不満がおありならば、僭越ながらこの私が答えさせて頂きましょう」
次の瞬間私は、広場の貴族の方へと振り向きそう笑いかけた。
それが、反撃の始まりだった。
元々侯爵家として武力を有しているマストーリ家は、他の貴族には無い影響力があった。
そして、アルフォス・マストーリ、私の義兄にあたる現在のマストーリ家の当主は優秀な人間で、義兄が党首になってから、さはにマストーリ家は財力的にも大きな影響力を有すようになっていた。
今やマストーリ家は、公爵家になってもおかしくない程の力を有している。
……だがそれだけ大きな影響力を有しているのにも関わらず、いや、有しているからこそマストーリ家は多くの恨みを買うことになった。
男尊女卑や選民思想で凝りかためられた考えを持つ、この国の貴族達から。
先程から義兄、という表現を使っていることから分かるように、私とアルフォスは血が繋がっていない。
元々アルフォスは、マストーリ家の領地にいた一領民だった。
そして、その出自から義兄は貴族達からの敵意を向けられることになった。
有能だったからこそ、より一層。
「やはり侯爵家はもうダメでしょうな。貴族に劣る平民が当主になってしまった時点で、侯爵家の血が穢れてしまったに違いない」
「全くだ。貴族に劣る平民を当主にするなど、まともな人間の考えではありませんな。そんな家の結果がネストリア嬢とは、何とも分かりすい結果ですな」
……だからこそ、貴族達は少しでも侯爵家を貶められる機会があれば、義兄を嵌めようと行動し始める。
真っ向勝負では能力も、底力もまるで敵わない。
それでも諦めず、元平民である義兄を貶めようと、その立場から引きずり落とそうと考えている。
だから貴族達はこの明らかにマークの方に非がある婚約破棄を、正当なものにしようとしているのだ。
私に非があったと決めつけ、マストーリ家を非難するために。
そしてそこから、当主にも責任があるとして、義兄に攻撃するために。
そんな貴族達の思惑を理解し、私の顔は怒りを隠しきれずに歪む。
「ふは、ははは」
私の横から、勝利を確信したような笑いが聞こえてきたのはその時だった。
横を見ると、そこには隠しきれない愉悦を顔に浮かべ、隠しきれない笑みを顔に浮かべたマークの姿があった。
……マークの狙いは、この貴族達の侯爵家への反感を利用することだったのだろう。
普通に考えれば、ほかに好きな人が出来たので婚約したいなど、そんな話は通らない。
婚約破棄が出来ても、自身の家名は大きな傷を負うことになる。
だから彼は他の貴族達を利用した。
貴族たちの目の前に、マストーリ家に漬け込めるチャンスという餌を吊り下げ自分の醜聞を書き消そうとしたのだ。
そして現在マークは、自身の計画が成功したと確信していて。
「……本当に愚か」
「……え?」
そんなマークへと、私は隠そうともしない嫌悪と嘲りのこもった視線を向けた。
マークは今、誰を敵にしたのか理解しているのだろうか。
一体誰を本気にさせてしまったのか。
最早私のなかには、今回の騒ぎを程々で終わらすという選択肢は無くなっていた。
今も広場からは私を非難し、マストーリ家を、そして義兄を嘲る言葉が聞こえて来る。
その言葉に私は、まるで自分以外が敵になってしまったような錯覚に陥る。
だが生憎、私はこの感覚にはもう慣れきっていた。
「マストーリ家への不満がおありならば、僭越ながらこの私が答えさせて頂きましょう」
次の瞬間私は、広場の貴族の方へと振り向きそう笑いかけた。
それが、反撃の始まりだった。
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