婚約破棄されましたが、特に問題ありませんでした

影茸

文字の大きさ
7 / 35

7

しおりを挟む
 私の言葉に対し、顔をこちらに向けたマークの顔に浮かんでいたのは隠しきれない恐怖だった。
 まるで懇願してるかのような目を私に向ける。

 「ここは婚約のパーティーでしたわよね?一歩譲って婚約破棄はいいとしましょう?けれどもこの場で言い出すのは重大なマナー違反ではなくて?」

 だが私は、そのマークの懇願をあっさりと無視した。

 「それに先程喚いていた彼女、彼の方は以前貴方といた人間ですわね。やはり貴方は浮気していたのですね。もしかして、彼女を正妻にするためにこんな茶番を演じてみせたのかしら」

 私はまるで傷ついた様子を振舞いながら、どんどんとマークの悪事を口にしていく。
 マークに逃げ場がなくなるように、計算しながら。

 「私が本当に豪遊したかという証拠もなく、強欲令嬢なんて罵って……マーク、貴方はそんな人でしたのね」

 「……頼む、辞めてくれ。もう……」

 マークは青を超えて土気色になった顔で、そう呟いた。
 私以外、誰の耳にも入らない程の弱々しい声で。
 それに私は、マークに対して呆れを覚えていた。

 無駄な戦いを挑み、その結果どん底に陥れられる。
 それは情けなくとも、まだ許せるものだろう。
 人はどれだけ無謀だと知りつつ、挑まないといけない時があるものだから。

 ……だが、その無謀を働いた理由が人に唆されたという酷くどうしようもない理由な上、少しどん底に陥っただけで諦めるマークは、あまりにも情けなかった。

 その姿に、私はマークを後に残してこの場から去りたい気になる。
 しかし、そうして去るにはマークのやろうとしたことは許せるものではなかった。

 強欲令嬢、貴族社会では蔑むために使われるその名を実は私は嫌いではなかった。
 元は私に振られた貴族達が広めた名前だが、その名前は私の本質をついたものだったから。
 物欲に関しては、私はそれほど無いだろう。
 だが、家族や領民のことに関しては、私は自他共に認める強欲な人間だった。

 だから私は、マークに強欲令嬢と罵られても、別に怒りなんて覚えていなかった。

 たしかに婚約破棄されれば、私はこの先婚約の機会が減るかもしれない。
 しかし、それも私は気にしていなかった。
 そもそもマークとの婚約だって政治的な理由があった、政略的なものだし、私は最早理想の結婚なんて求めていない。
 それに元々悪い自分の評判が下がったところで、特に思うところなんて無かった。

 だから私は、マークが自分を攻撃するだけならば、ある程度の自衛しかしないつもりだった。
 そう、ただの婚約破棄であれば、マークに対して攻撃するつもりも、必要も無いはずだった。

 …… だが、マストーリ家を狙うとなれば話は別だった。

 マークとしては、マストーリ家の悪評を利用としたのは、出来心でしか無かったのだろう。
 しかしそんなことは最早関係ない。
 大切なものに手を出そうとした時点で、私にはマークを許すつもりなど一切なかった。
 それを教えるべく、私はマークへと笑いかけその耳元で呟く。

 「やり過ぎなければ、良かったわね」

 「…………っ!」

 その瞬間、マークの顔は絶望に染まった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...