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 私の言葉の後、広場は静まり返ることになった。
 その広場を前に、私は思わず満足げな笑みを浮かべる。

 これでもう、マストーリ家に対して侮辱できる貴族はいないだろうと確信して。

 私がマストーリ家を侮辱したとして、名指しした貴族は二人。
 また、この広場で働いているマストーリ家のメイドは、4、5人程度しかおらず、そんな人数では誰がマストーリ家を侮辱したかなんて分かるはずがない。

 それだけを聞けば、私のしたことは抑止力となるには不十分に感じるかもしれない。
 だが、私はこれで十分だと判断していた。

 たしかに私側からすれば、中途半端なことをしたようにしか感じられない。
 だが、そんなことこの場にいる貴族達には分からないだろう。

 人混みの中の野次から、誰が何を言ったのか特定した私の姿。
 それだけで相当貴族達は動揺しているはずだ。
 また、側にいるメイド達は全員マストーリ家の人間に思えていてもおかしくはない。

 もし、私の限界に貴族がいたとしても、その貴族達も野次ることはないだろう。
 何せ、限界があること理解できたところで、完璧に私の限界を理解できるわけではない。
 つまりその貴族達には、私がどれだけのことを聞くことができ、そしてどのメイドがマストーリ家の人間か分からないのだ。
 そんな状況で態々私を敵に回しかねない行動を取るわけがない。

 そして、その私の想像通りどれだけ時間が経とうが、貴族達が私に対する侮辱を再開することはなかった。

 「な、なぜ誰も声を上げない!?この女は強欲令嬢だぞ!」

 「そうよ!何で悪者のこの女を責め立てなさいよ!」

 ……たった二人の貴族を除いて。

 そう叫ぶのは、マークと彼の浮気相手である少女だった。
 二人は急変した状況に顔を青くしながら叫ぶ。
 だが、誰一人としてその二人の言葉に反応する貴族はなかった。

 当たり前だろう。
 何せ、私は他の貴族と争っていただけあり、かなりの数の貴族の家の弱みを握っていたり、借金を貸し出していたりする。
 そしてそんな私と敵対しかねない行動を、この場にいる貴族達は取ることは出来ない。
 先程までの貴族達が纏まっている状況は、あくまで自分一人がマストーリに目をつけられる訳ではないだろうと思っていたからの行動。
 そうではないと知らされた今、貴族達に危険を冒すだけの理由はない。

 「相手は憎き、平民上がりだぞ!何を躊躇している!」

 「そうよ!この意気地なし!」

 ……だが、その貴族の事情を理解しても、マーク達は諦めることができなかった。

 何故ならマーク達は理解しているのだ。
 このままでは、本来隠し通せるはずだった婚約破棄の汚名が、明らかになることを。
 だからこそ、マーク達はなんとか貴族達に私を敵視させようとする。
 もう手遅れだと気付きながらも、後に引くことが出来ないのだ。

 「もう良い加減にしてもらえないかしら」

 そして、そんな二人に留めを刺すべく私は口を開いた。
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