駆け落ちから四年後、元婚約者が戻ってきたんですが

影茸

文字の大きさ
26 / 26

謎の女性 Ⅷ

しおりを挟む
「……魔術師、なにを言っているのですか? 私にはそんなお金なんて」

 困惑を隠せない様子で、アイラが告げた声。
 それは、隠すことなど不可能な程に震えていた。
 それも当たり前だろう。
 普通、平民が魔術を学ぼうとすれば、多大な資金が必要になるのだから。
 野良魔術師、なんて物がはびこるのも、きちんとした資格を得るのには様々な知識が必要となるのが原因だからだ。

 それを理解した上で、私は当然のように告げる。

「あら、その魅了を一切コントロールもできなくて仕事になるとも?」

「……それは」

 途端に無言になるアイラ。
 しかし、すぐに何らかの決意を固めたような顔で告げる。

「私のこの力なら、色仕掛けを仕掛けることも可能です。マルシア様がお望みなら!」

「そんな物騒な手、誰が好んで使うのよ……」

 その言葉に、私は呆れた様子も隠さずに告げる。

「貴女程度が考えたことなど、私が想像していないとでも?」

「……いえ、それは」

 私の言葉に、萎縮したようにアイラが俯く。
 内心、罪悪感が浮かぶがそれを私が表に出すことはなかった。

「私が価値を見いだしたのは、魅了以外の部分よ。先天魔法持ちの人間は強大な魔術師になる可能性がある。邪魔にしかならない能力は早くコントロールしてほしいだけ」

 私の言葉に、アイラの体が硬直するのが分かる。
 それがアイラの動揺を物語っていることを理解しながらも、私は続ける。

「分かったら、明日ここに来るようシャルルには伝えて頂戴。それ以降、貴女にはこの屋敷で過ごしてもらうわ」

「……はい」

 絞り出すようなかすかな声でそう告げたアイラは、自ら扉を開く。
 そして、今度こそ屋敷を去っていった……。


 ◇◆◇


「相変わらず、きつい言葉ですね」

 私のそばにいた魔術師がそう口を開いたのは、アイラが去って完全に足音も聞こえなくなった時だった。
 その言葉に、私は思わず顔をゆがめる。
 つきあいが比較的長くなると、内心を見抜いてこようとして困ると。

「……何のことかしら?」

「私相手に、そんな雑なやり方でごまかせると思います?」

 つん、とそっぽを向く私に呆れを隠さない様子で彼は告げる。

「かつて同じやり方で引き抜いた人間を相手ですよ、私は」

 そう告げる彼に、私の頭にかつての記憶が蘇る。
 それは、今目の前にいる魔術師、カルタナと出会ったときの記憶。
 ……そしてそれは、確かに先ほどのアイラと似た出会いであった。

「お、覚えてないわ」

「それなら、その口ごもり様はなんですか」

 蒸し返すな、と沈黙で圧をかける私に失笑しながら、カルタナは告げる。

「私はよく覚えていますよ。──無才、そう呼ばれた私を貴女がスカウトに来た時を」
しおりを挟む
感想 40

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(40件)

wednesday
2024.09.06 wednesday

最初は面白かったのに…
ゆ、許しちゃうの?よ、4年、しかも駆け落ちもどき…義両親の決断は?
ヒロインが優しく、大らかなのはわかりましたが…

解除
たまご
2023.05.13 たまご

悪いことをしたのは、元婚約者に浮気相手です。
ざまぁのタグが詐欺になるので消した方がいいですよ。多く読んで貰いたい気持ちはわかるけれど、詐欺行為までしてはどうかと思います。正直、『ざまぁ?』も無しだと思います。

解除
ゆきんこ
2022.12.31 ゆきんこ
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。