裏切り者、そう呼ばれた令嬢は

影茸

文字の大きさ
2 / 52

第2話

しおりを挟む
 「貴方が何を言おうが、最早無駄ですわ。確たる証拠を私は目にしておりますし、それをマーリス様も信じてくださってますから」

 マルシェは、呆然とする私に対し、そう勝ち誇ったような笑みを浮かべた状態で告げた。
 その笑みを目にし、私は先程の自分の考えが正しいことを確信する。

 ……即ち、今回の誤解は、私とマーリスとの関係を妬んだ、マルシェの仕業だったのだと。

 「貴方は!」

 そのことに気づいた瞬間、思わず私は声を荒げていた。
 マルシェは、辺境伯の令嬢で、自身の家よりも格が高いことなど、最早頭の中には無かった。
 頭の中を支配するのは、女々しい嫉妬で私の人生を潰そうとすることへの怒りで支配される。

 「……逆恨み、か。本当に情けない」

 だが、マーリスが漏らした言葉が、怒りに支配された私の頭を急速に冷やすこととなった。
 マーリスの言葉は、短いもの。
 それでも、その言葉に込めれられた失望は、マーリスがマルシェの方を信頼していることを雄弁に語っていた。
 その事実に、私は衝撃を隠しきれない。

 「私はお前との婚姻が待ち遠しかった。だが、こうなればもう終わりだ。サラリア・マーセルラフト、貴様との婚約を破棄する」

 「────っ!」

 ……そんな私へと、マーリスは決定的な言葉を告げた。

 私は、マーリスのその言葉に、必死に涙を抑える。
 幼い頃から、常に身の丈に合わない夢を抱いていたマーリス。
 そんなマーリスを言い諌めながらも、そんなマーリスを支えるのが私は嫌いではなかった。

 他の令嬢のように、盲目的な愛情をマーリスに私は抱いてはいない。
 それでも私はマーリスに対して、手のかかる弟のような愛情を抱いていた。
 これから、マーリスが自分の夢を歩んでいくのを手伝っていきたい、そう思えるくらいにはマーリスと共に過ごしてきた。

 「もう何も言うことはない。速やかにここから去れ」

 ……だからこそ、私は突然のマーリスとの関係の変化に、動揺を隠せない。

 マーリスがこちらへと向ける冷ややかな目、それに私は、どれだけ自分が無実を訴えても無駄なことを悟り唇を噛み締め、この場を去るために歩き出した。

 けれど、私はみすみす婚約破棄を受け入れるつもりはなかった。
 こちらに嘲るような目を向けるマルシェを睨みつけ、胸の中にある決意を抱く。

 マルシェの嘘の決定的な証拠を掴み、マーリスの眼を覚ますと。

 私の婚約破棄、それが正式に決まるまではある程度の時間が必要になるだろう。
 だとしたら、それまでに全ての証拠を掴む。


 ……しかし、そう決意を固めていた私は気づいていなかった。

 ─── 本来ならば婚約者に裏切られ、悲嘆に暮れているはずのマーリス目に、隠しきれない嘲りが浮かんでいたことに。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

処理中です...