22 / 24
苦悶の聖獣 (三人称)
しおりを挟む
聖獣はいつもの定位置である王宮から、人間たちの騒ぎを眺めていた。
まるで反乱でも起きたかのような騒ぎにも関わらず、聖獣は一切の感情も見えない目で眺めていた。
背後から声が響いたのは、そのときだった。
「やっぱりここにいたか」
振り返るまでもなく、その人物が何者なのか、聖獣には理解できていた。
そもそもこんな風に聖獣のそばにやってくれる人間が数少ないのだから。
だから、淡々と聖獣は口を開く。
「なんのようだ。龍殺し」
「いや、お礼をと思ってね」
「礼?」
まるで想像もしない言葉に振りかけると、そこにいた龍殺しは珍しくまじめな表情でたたずんでいた。
「ああ。あの男の処理を僕に譲ってくれたことさ」
「カイザードのことか」
そこまでいって、ようやく聖獣にもライハートの言いたいことが理解できる。
しかし、理解した上で聖獣は首を横に振った。
「不要だ。今回お前がやってくれたお陰で全てはうまく言った。マレシアを認めた我の名誉も守られたし、借りに感じる必要はない。我にはこうも鮮やかにはできなかっただろうからな」
それは聖獣の心からの本心だった。
聖獣ならば、こうもことを運ぶことはできなかっただろう。
聖獣にできるは、あくまで王子を殺すことだけ。
それを考えれば、こうしてうまくことを運んだライハートには礼を言わなければならない程だろう。
……けれどそう考えながらも、聖獣の胸からしこりが消えることはなかった。
それを見抜いたように、ライハートは遠慮がちに口を開く。
「……だが、お前も自分の手で報いを与えたかったんだろう?」
瞬間、かすかに聖獣の口元がゆがむ。
……それは、自身の内心を言い当てられたが故の反応だった。
カイザードへの煮えたぎるような怒り、それは未だ聖獣の胸の中に残っている。
そのことをライハートには気づかれていて。
「なんのことだ?」
……それを理解しても、聖獣がその気持ちを認めることはなかった。
けだるそうに、まるでなにかわからないと言いたげな様子で、聖獣はそう吐き捨てる。
「……いや、勘違いだった」
その聖獣の姿に、それ以上ライハートが追求することはなかった。
いつもの飄々とした態度に戻り、聖獣に背を向ける。
「まあ、助かったのは事実だ。いつか礼は返すさ」
「いらん」
聖獣の返事も聞くことなくライハートはすぐにこの場からさり、周囲を再度沈黙が覆う。
それを確認して、小さく聖獣は口を動かした。
「……認められる訳がないだろうが」
必死に隠し、苦手だと嫌いだと言い聞かせてもなお消えない思い。
厄介極まりないない胸中の熱に、つよく拳を握りしめ、聖獣は吐き捨てる。
「人間に恋慕してることなど、絶対に」
それは身分違いなど、そんなレベルの話ではない。
聖獣という圧倒的存在の思いは、簡単に相手の人間の人生を壊す。
故に、聖獣は必死にその恋慕を胸の奥底に封じ込める。
なのにどうしようもなく熱に羽化されている自分から目をそらせず、聖獣は顔を歪め吐き捨てる。
「だから大嫌いなのだ。──諦めることさえ、させてくれないあの女が」
その苦悶の言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
まるで反乱でも起きたかのような騒ぎにも関わらず、聖獣は一切の感情も見えない目で眺めていた。
背後から声が響いたのは、そのときだった。
「やっぱりここにいたか」
振り返るまでもなく、その人物が何者なのか、聖獣には理解できていた。
そもそもこんな風に聖獣のそばにやってくれる人間が数少ないのだから。
だから、淡々と聖獣は口を開く。
「なんのようだ。龍殺し」
「いや、お礼をと思ってね」
「礼?」
まるで想像もしない言葉に振りかけると、そこにいた龍殺しは珍しくまじめな表情でたたずんでいた。
「ああ。あの男の処理を僕に譲ってくれたことさ」
「カイザードのことか」
そこまでいって、ようやく聖獣にもライハートの言いたいことが理解できる。
しかし、理解した上で聖獣は首を横に振った。
「不要だ。今回お前がやってくれたお陰で全てはうまく言った。マレシアを認めた我の名誉も守られたし、借りに感じる必要はない。我にはこうも鮮やかにはできなかっただろうからな」
それは聖獣の心からの本心だった。
聖獣ならば、こうもことを運ぶことはできなかっただろう。
聖獣にできるは、あくまで王子を殺すことだけ。
それを考えれば、こうしてうまくことを運んだライハートには礼を言わなければならない程だろう。
……けれどそう考えながらも、聖獣の胸からしこりが消えることはなかった。
それを見抜いたように、ライハートは遠慮がちに口を開く。
「……だが、お前も自分の手で報いを与えたかったんだろう?」
瞬間、かすかに聖獣の口元がゆがむ。
……それは、自身の内心を言い当てられたが故の反応だった。
カイザードへの煮えたぎるような怒り、それは未だ聖獣の胸の中に残っている。
そのことをライハートには気づかれていて。
「なんのことだ?」
……それを理解しても、聖獣がその気持ちを認めることはなかった。
けだるそうに、まるでなにかわからないと言いたげな様子で、聖獣はそう吐き捨てる。
「……いや、勘違いだった」
その聖獣の姿に、それ以上ライハートが追求することはなかった。
いつもの飄々とした態度に戻り、聖獣に背を向ける。
「まあ、助かったのは事実だ。いつか礼は返すさ」
「いらん」
聖獣の返事も聞くことなくライハートはすぐにこの場からさり、周囲を再度沈黙が覆う。
それを確認して、小さく聖獣は口を動かした。
「……認められる訳がないだろうが」
必死に隠し、苦手だと嫌いだと言い聞かせてもなお消えない思い。
厄介極まりないない胸中の熱に、つよく拳を握りしめ、聖獣は吐き捨てる。
「人間に恋慕してることなど、絶対に」
それは身分違いなど、そんなレベルの話ではない。
聖獣という圧倒的存在の思いは、簡単に相手の人間の人生を壊す。
故に、聖獣は必死にその恋慕を胸の奥底に封じ込める。
なのにどうしようもなく熱に羽化されている自分から目をそらせず、聖獣は顔を歪め吐き捨てる。
「だから大嫌いなのだ。──諦めることさえ、させてくれないあの女が」
その苦悶の言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
293
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く
基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」
王太子は女を突き飛ばした。
「その恩も忘れて、お前は何をした!」
突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。
その姿に王太子は更に苛立った。
「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」
「ソル…?」
「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」
王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける
基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。
「王太子殿下。お初にお目にかかります」
聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。
「魅了だって?王族が…?ありえないよ」
男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。
聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。
王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。
その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。
いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。
「あの女…っ王族に魅了魔法を!」
「魅了は解けましたか?」
「ああ。感謝する」
王太子はすぐに行動にうつした。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる