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プロローグ 裏切り
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「貴女は強い子よ。だからどんな苦境に陥っても決してめげないで。……クラッスター家をお願い」
それは、私レシアス・クラッスターに母、カザリアが残した最後の言葉だった。
母は病弱で、けれどもクラッスター家の中で唯一の私の味方だった。
優れた魔力を有していたため、平民でありながら貴族に強引に嫁がされることになった母。
彼女のクラッスター家での生活は決して恵まれたものではなかった。
何せ父は自分が婚姻を強引に押し進めたくせに、母を平民、私を平民の穢れた血がこもっていると疎み、他に愛人を作っていたのだから。
だからこそ、私は何故死の間際になって母がクラッスター家をそこまで気にかけるのか分からなかった。
たしかに母が病床に着いてからクラッスター家の財政はまた悪化して、今では没落寸前。
後数年後には爵位を売り払っていてもおかしくない状態にあった。
けれども、例えクラッスター家が滅亡の危機に瀕していても母がなんとかする義理なんて無いはずなのだから。
クラッスター家は最悪の貴族で、母はその被害者だった。
「わ、分か、……っ!りましたっ」
……けれども、その最後の母の言葉に私は泣きながら従うことを決めた。
決してクラッスター家のことが好きではなく、そして母の最後の言葉の理由も分からなかった。
しかし、私は母がどれほど聡明であるかを知っていた。
……そして何より、母がいないこの先私に残されたのは、クラッスター伯爵家令嬢という肩書きだけだったのだ。
だから唯一家族だと思っていた母を亡くした私はその肩書きに依存した。
クラッスター家を守ることに母の存在の名残を感じる、そんなことしか当時幼かった私には生きがいを見つけることが出来なかったのだ。
……それはどうしようもない未練だった。
しかし当時8歳と未だ幼い私には、その未練に執着することしかできなかった……
◇◆◇
それから私はクラッスター家再興のために動き始めた。
……しかし、8歳の子供に財政のことなんて分かるわけがなかった。
そして、そのことを学ぶ時間さえも私には与えられていなかった。
母が亡くなった後、父はもう誰にも憚ることはないとばかりに、愛人を後妻に迎えた。
そして、後妻は私と一つしか変わらない異母姉妹とともに、私を虐め、散財を始めたのだ。
……それは、ぎりぎりの所まで来ていたクラッスター家にとってはあまりにも致命的な出来事だった。
それでなくとも後数年持てばいいような、そんな状態にもう既にクラッスター家が追い込まれて上での散財だ。
直ぐにクラッスター家はぎりぎりの状態になり、そしてそんな中、私は動き出すことを決めた。
その当時、まだ私は10歳と未だ大人とは言える年齢ではなかったが、無理を言って王宮のしも使いとして働き始めた。
伯爵令嬢であるにもかかわらずだ。
そして虐めがより一層激しくなるのを悟りながら、父親に頼んで継母達の散財を禁止した。
そのおかげで、今すぐ爵位を売り払わなければならないと言った極限の状態からはクラッスター家は解放されたが……
…… けれども、その後私に待っていたのはあまりにも厳しい日々だった。
私は子供の身でありながら、家族が養えるだけのお金を稼ぐために、身を粉にして働いた。
それは大人の家政婦達と変わらないほどの仕事量で、どんどん私の身体には疲労が溜まっていった。
……しかし、そんな状態でも継母達は私へのいじめを止めようとはしなかった。
へとへとに疲れて帰って来れば、泥水をかけられたなんてまだいい方だ。
それどころか、冬に毛布一枚で廊下で睡らせられたこともある。
父が散財禁止の理由を全て私に押し付けたせいで、継母達はさらに私を敵視するようになっていたのだ。
……私が風邪でも引いて、仕事を休むようなことがあれば、さらにクラッスター家の暮らしは厳しくなるにもかかわらずだ。
丈夫な身体を有していたのか、私が風邪を引くことはなかったのだが。
そして、私がそこまでしてもクラッスター家の家計はぎりぎりより少しマシになった程度だった。
その事実は、精神的な重荷となり常に私について回って、肉体的な疲労とあいまり私は常にぼろぼろだった。
けれどもそんな中、私は必死に耐え抜いた。
そして仕事を始めてから6年後、つまり私が16歳の時、私は婚約を他の貴族と結んで資金援助を約束交わした。
そのおかげでクラッスター家の家計は以前からは考えられないほど良いものとなっていた。
それは私が必死に駆けずり回した成果だった。
だから、私はようやく一息つけるとそう安心して……
「レシアス・クラッスター!私は貴様との婚約を破棄して、貴様の妹であるビビスと婚約を結ぶ!ビビスから聞いたぞ!貴様が後妻の娘であるのをいいことに、妹であるビビスを虐めたことを!」
「マールズ様ぁ!」
「……は?」
………けれども、私に安息が訪れることはなかった。
何とかクラッスター家の財政が落ち着いて来たことを祝う祝宴での出来事だった。
その時、私は義妹を伴った婚約者、マールズ・マスタールの言葉で、突然婚約を破棄されることとなったのだから……
それは、私レシアス・クラッスターに母、カザリアが残した最後の言葉だった。
母は病弱で、けれどもクラッスター家の中で唯一の私の味方だった。
優れた魔力を有していたため、平民でありながら貴族に強引に嫁がされることになった母。
彼女のクラッスター家での生活は決して恵まれたものではなかった。
何せ父は自分が婚姻を強引に押し進めたくせに、母を平民、私を平民の穢れた血がこもっていると疎み、他に愛人を作っていたのだから。
だからこそ、私は何故死の間際になって母がクラッスター家をそこまで気にかけるのか分からなかった。
たしかに母が病床に着いてからクラッスター家の財政はまた悪化して、今では没落寸前。
後数年後には爵位を売り払っていてもおかしくない状態にあった。
けれども、例えクラッスター家が滅亡の危機に瀕していても母がなんとかする義理なんて無いはずなのだから。
クラッスター家は最悪の貴族で、母はその被害者だった。
「わ、分か、……っ!りましたっ」
……けれども、その最後の母の言葉に私は泣きながら従うことを決めた。
決してクラッスター家のことが好きではなく、そして母の最後の言葉の理由も分からなかった。
しかし、私は母がどれほど聡明であるかを知っていた。
……そして何より、母がいないこの先私に残されたのは、クラッスター伯爵家令嬢という肩書きだけだったのだ。
だから唯一家族だと思っていた母を亡くした私はその肩書きに依存した。
クラッスター家を守ることに母の存在の名残を感じる、そんなことしか当時幼かった私には生きがいを見つけることが出来なかったのだ。
……それはどうしようもない未練だった。
しかし当時8歳と未だ幼い私には、その未練に執着することしかできなかった……
◇◆◇
それから私はクラッスター家再興のために動き始めた。
……しかし、8歳の子供に財政のことなんて分かるわけがなかった。
そして、そのことを学ぶ時間さえも私には与えられていなかった。
母が亡くなった後、父はもう誰にも憚ることはないとばかりに、愛人を後妻に迎えた。
そして、後妻は私と一つしか変わらない異母姉妹とともに、私を虐め、散財を始めたのだ。
……それは、ぎりぎりの所まで来ていたクラッスター家にとってはあまりにも致命的な出来事だった。
それでなくとも後数年持てばいいような、そんな状態にもう既にクラッスター家が追い込まれて上での散財だ。
直ぐにクラッスター家はぎりぎりの状態になり、そしてそんな中、私は動き出すことを決めた。
その当時、まだ私は10歳と未だ大人とは言える年齢ではなかったが、無理を言って王宮のしも使いとして働き始めた。
伯爵令嬢であるにもかかわらずだ。
そして虐めがより一層激しくなるのを悟りながら、父親に頼んで継母達の散財を禁止した。
そのおかげで、今すぐ爵位を売り払わなければならないと言った極限の状態からはクラッスター家は解放されたが……
…… けれども、その後私に待っていたのはあまりにも厳しい日々だった。
私は子供の身でありながら、家族が養えるだけのお金を稼ぐために、身を粉にして働いた。
それは大人の家政婦達と変わらないほどの仕事量で、どんどん私の身体には疲労が溜まっていった。
……しかし、そんな状態でも継母達は私へのいじめを止めようとはしなかった。
へとへとに疲れて帰って来れば、泥水をかけられたなんてまだいい方だ。
それどころか、冬に毛布一枚で廊下で睡らせられたこともある。
父が散財禁止の理由を全て私に押し付けたせいで、継母達はさらに私を敵視するようになっていたのだ。
……私が風邪でも引いて、仕事を休むようなことがあれば、さらにクラッスター家の暮らしは厳しくなるにもかかわらずだ。
丈夫な身体を有していたのか、私が風邪を引くことはなかったのだが。
そして、私がそこまでしてもクラッスター家の家計はぎりぎりより少しマシになった程度だった。
その事実は、精神的な重荷となり常に私について回って、肉体的な疲労とあいまり私は常にぼろぼろだった。
けれどもそんな中、私は必死に耐え抜いた。
そして仕事を始めてから6年後、つまり私が16歳の時、私は婚約を他の貴族と結んで資金援助を約束交わした。
そのおかげでクラッスター家の家計は以前からは考えられないほど良いものとなっていた。
それは私が必死に駆けずり回した成果だった。
だから、私はようやく一息つけるとそう安心して……
「レシアス・クラッスター!私は貴様との婚約を破棄して、貴様の妹であるビビスと婚約を結ぶ!ビビスから聞いたぞ!貴様が後妻の娘であるのをいいことに、妹であるビビスを虐めたことを!」
「マールズ様ぁ!」
「……は?」
………けれども、私に安息が訪れることはなかった。
何とかクラッスター家の財政が落ち着いて来たことを祝う祝宴での出来事だった。
その時、私は義妹を伴った婚約者、マールズ・マスタールの言葉で、突然婚約を破棄されることとなったのだから……
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