生贄令嬢は竜神に溺愛される

影茸

文字の大きさ
9 / 36

第8話 確信

しおりを挟む
 「ん、んん……」

 私が目を覚ました時、真っ先に感じたのは仄かな暖かさだった。
 それに眠りに落ちるまでの記憶を思い出した私は疑問を覚える。

 「……ようやく目を覚ましたか」

 「っ!」

 けれども、次の瞬間響いた青年の声にその疑問を忘れ、私は文字通り飛び起きる羽目になった。
 目を開いた瞬間、私の目に飛び込んできたのは寝る前と同じ部屋の景色。

 「これは……」

 けれども何故か、ソファに横たわっていた私の身体には分厚い毛布がかけられていた。

 「……風邪はひいていないな」

 一瞬、その毛布に何が起きたのかわからず困惑した私。
 けれども、少し決まりが悪そうに告げた青年の態度に、この毛布をかけてくれたのは彼であることを理解する。

 「……え?」

 そして次の瞬間、私は思わず戸惑いの言葉を漏らしていた。
 青年は今まで私を追い出そうとしていたはずだ。
 だからこそ、毛布を私にかけたその青年の行動に私は驚きの声を漏らす。

 「……凍死されるのは面倒だっただけだ」

 その私の反応に、青年は苦々しげにそう答える。
 それはまるで私の自身ことなんて何にも心配していなかったことを示しているような態度で……

 「ふふ、」

 「っ!」

 ーー けれども、青年の手に握られている湯気の立つコップが、その態度は張りぼてであることを示していた。

 どうやら、青年は私が思っていたよりもはるかに優しい人間であったらしい。
 ……そして、クラッスター家に裏切られたことがかなり応えていた私は、その優しさにいつのまにか笑みを浮かべていた。
 その私の笑みをどうとらえたのか、青年の顔はさらに気まずげなものとなる。
 そして青年は、誤魔化そうとでも考えたのか、何事かを告げようと口を開きかけて、けれども嘆息を漏らすだけにとどめた。

 「君の決心の硬さは良く理解した。まさか令嬢が凍死寸前まで粘るとは……」

 ……凍死寸前というその言葉に、まさかそんな危険な状態に自分がなっているとは思っていなかった私は少し焦る。

 「その頑固さに免じて、この家へ少し留まることを許そう。……こうでも言わない限りなんか怖いからな」

 「ふふん」

 しかし、私の行動に度肝を抜かれたという様子の青年の様子に私は胸を張って見せた。
 どこか済ました印象を受ける青年が、そんな態度をとることが新鮮で、そしてその態度を自分が取らせたことに少しだけ誇らしさのようなものを感じたのだ。
 その私の態度に、青年は一瞬褒めていない、とでも言いたげな表情を作る。
 だが、私に何を言っても無駄だと判断したのか、直ぐにその表情を崩した。

 「まぁ、いい。……アルフォートだ。あまり歓迎したくはないが、滞在を許可しよう」

 「っ!」

 そして、代わりに青年は私へと手を差し出してくる。
 一瞬その青年、アルフォートが差し出した手に私は戸惑う。
 けれども次の瞬間には笑みを共に手を差し出して私もまた口を開いた。

 「私はレシアス。レシアス・クラ……いえ、ただのレシアです。滞在の許可、心から感謝します!」

 その時、そう笑顔で言い切った私はこの先何が起こるかを知らない。
 たしかに未来を見ることのできる魔法は存在するのだが、そんな魔法を私は扱えないのだから。

 けれども、何故か私はこの時とある確信を抱いていた。

 気まづそうに、なのにどこか期待を込めたような表情で私の手を取ったアルフォート。

 ーーー 彼とは長い付き合いになるだろうという、そのことを。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...