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第13話 一瞬の安寧
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アルフォートが渋々ながら、それでもこの家の滞在を認めてくれてから私はとても機嫌が良かった。
アルフォートも、最初はどこか暗い表情を浮かべていたのだが、けれども私の作った料理を食べた瞬間、ぱぁっと顔を輝かせて、そこからは先程の暗い表情など嘘みたいになくなった。
そのアルフォートの態度を何故か私は酷く子供っぽく感じて笑って、その私の様子の理由が分からなかったのか、アルフォートはこちらの方を怪訝そうに見ていて、それに私はまた笑ってしまった。
その日の夕食、それは私にとって楽しい時間となった……
◇◆◇
「明日も頑張らないと!」
少しして、食事と入浴を終え、寝るために自室に戻る途中、私は今日の晩餐のことを思い出して思わず小さな微笑みを浮かべた。
アルフォートと過ごした時間、それは決して特別な何かがあった訳ではなかった。
ただ、二人で一緒に食事をとったそれだけのこと。
けれども、ただそれだけのことが私にとっては酷く心地よいものだった。
……私が未だ王国でいた頃の生活、それは本当に酷いものだった。
若くして侍女頭に昇進した私、それはもちろん家のコネを使ったわけでも、若い貴族に言い寄ってその地位を手にしたわけでもない。
私は身を粉にして必死に働き、その結果あの地位を手にしたのだ。
……だが、周囲の人間は妬みからそのことを認めようとはせず、私が不正をしたものとして酷い噂を流した。
それは、家のコネでその地位を奪ったとか、または貴族に言い寄ったなどの根も蓋もないもの。
何せ私のクラッスター家の評判は酷く悪い。
つまりコネなど使えないし、強引にその地位に着かせるための財力だってない。
それに仕事をする私は、ボロボロの服を身につけていて、そんな状態で貴族に言い寄れる訳が無いのだ。
……けれども、そんなこと周囲の人間には関係なかった。
私の他の侍女頭達は私をいじめ、そして侍女達は表立って逆らうことこそなかったものの、裏では何をしていたのか私は知らない。
しかし、そんな状況でもあれ、私は家のために必死に働いて……
……けれども、家族達はその私の努力を認めようともしなかった。
それから数年後には、私を侍女頭に抜擢した貴族と、クラッスター家の当主代理として付き合いのある貴族達の存在によって、私の人間関係は少しづつましになっていたが、それでも決して楽とは言えない日々だった。
私を評価するのは、普段私と交流がない人間達で、私と交流のある人間達の殆どは妬みなどの感情から私を嫌っていたのだから。
だからこそ、アルフォートとの一緒の食事は私にとって一人きりではない久々の晩餐だったのだ。
「うん、楽しかったな」
今までなら、胸を締め付けてきたはずの過去の記憶。
けれども今、その記憶は今日のことを際立たせるための背景にしか感じなくて、私はまた笑みを浮かべた。
何故かは分からない。
けれども、アルフォートと共にいる時間はとても心が安らいで、だからこそ今の私には心配することなんか何も無いように感じて。
「おやすみなさい」
だからこそ、私は微笑みを浮かべたまま目を閉じた。
……でも、私が過去を克服することが出来ていた訳などあるはずがなかった。
アルフォートも、最初はどこか暗い表情を浮かべていたのだが、けれども私の作った料理を食べた瞬間、ぱぁっと顔を輝かせて、そこからは先程の暗い表情など嘘みたいになくなった。
そのアルフォートの態度を何故か私は酷く子供っぽく感じて笑って、その私の様子の理由が分からなかったのか、アルフォートはこちらの方を怪訝そうに見ていて、それに私はまた笑ってしまった。
その日の夕食、それは私にとって楽しい時間となった……
◇◆◇
「明日も頑張らないと!」
少しして、食事と入浴を終え、寝るために自室に戻る途中、私は今日の晩餐のことを思い出して思わず小さな微笑みを浮かべた。
アルフォートと過ごした時間、それは決して特別な何かがあった訳ではなかった。
ただ、二人で一緒に食事をとったそれだけのこと。
けれども、ただそれだけのことが私にとっては酷く心地よいものだった。
……私が未だ王国でいた頃の生活、それは本当に酷いものだった。
若くして侍女頭に昇進した私、それはもちろん家のコネを使ったわけでも、若い貴族に言い寄ってその地位を手にしたわけでもない。
私は身を粉にして必死に働き、その結果あの地位を手にしたのだ。
……だが、周囲の人間は妬みからそのことを認めようとはせず、私が不正をしたものとして酷い噂を流した。
それは、家のコネでその地位を奪ったとか、または貴族に言い寄ったなどの根も蓋もないもの。
何せ私のクラッスター家の評判は酷く悪い。
つまりコネなど使えないし、強引にその地位に着かせるための財力だってない。
それに仕事をする私は、ボロボロの服を身につけていて、そんな状態で貴族に言い寄れる訳が無いのだ。
……けれども、そんなこと周囲の人間には関係なかった。
私の他の侍女頭達は私をいじめ、そして侍女達は表立って逆らうことこそなかったものの、裏では何をしていたのか私は知らない。
しかし、そんな状況でもあれ、私は家のために必死に働いて……
……けれども、家族達はその私の努力を認めようともしなかった。
それから数年後には、私を侍女頭に抜擢した貴族と、クラッスター家の当主代理として付き合いのある貴族達の存在によって、私の人間関係は少しづつましになっていたが、それでも決して楽とは言えない日々だった。
私を評価するのは、普段私と交流がない人間達で、私と交流のある人間達の殆どは妬みなどの感情から私を嫌っていたのだから。
だからこそ、アルフォートとの一緒の食事は私にとって一人きりではない久々の晩餐だったのだ。
「うん、楽しかったな」
今までなら、胸を締め付けてきたはずの過去の記憶。
けれども今、その記憶は今日のことを際立たせるための背景にしか感じなくて、私はまた笑みを浮かべた。
何故かは分からない。
けれども、アルフォートと共にいる時間はとても心が安らいで、だからこそ今の私には心配することなんか何も無いように感じて。
「おやすみなさい」
だからこそ、私は微笑みを浮かべたまま目を閉じた。
……でも、私が過去を克服することが出来ていた訳などあるはずがなかった。
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