異世界暗殺者の英雄譚

影茸

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5.迷宮

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 「ここが、迷宮……」

 翌日の午後、僕は光り輝く岩に囲まれた洞窟、迷宮にいた。
 昨日、力を得なければならないとそう判断した僕は翌朝国王に、クラスメイトの役に立ちたいので迷宮で鍛えたいと、騎士同伴の元の迷宮探索を頼み込んだ。
 そしてその懇願はあっさりと通り、僕はその日の午後から迷宮へと挑むこととなった。
 
 「それにしても嫌にあっさりと認められたな……」

 この世界にはレベルというゲームのような概念はない。
 しかし迷宮だけは特別で、出てくる魔物を倒すことでレベルアップのように、身体能力を無尽蔵に上げることができる。
 だが、迷宮に行くと頼み込んだ僕に対して国王は驚く程無関心だった。
 まるで僕が強くなることなどあり得ないと決めつけているように。
 そしてそれは多分僕の勘違いではない。
 
 「気をつけて下さいね」

 僕が振り返ると、僕の後ろから2人の青年の騎士が付いてくるのが分かる。
 その2人は国王が僕の要求に応じて付けてくれた護衛だったが、その表情にはありありと不満が浮かんでいた。
 さらに2人の実力的には、2人同時に相手してもスキルを持っていなかった頃の僕であっても勝ていると確信できる程度。
 そんな護衛つけられて、迷宮探索に行ったところで恐らく中層にも入れない。
 僕は冷静に騎士2人の実力を図り、そう判断する。
 確かに迷宮で強くなれるといっても、それは強い魔物を倒してやっと少し効果が見えてくる程度のもの。
 実力が跳ね上がる程の魔物を倒そうと思うならば、迷宮の深部にいる最強の種族である竜種を倒さなければならない。
 そして国王はそんな難易度で、僕が実力を手にすることが出来るなど一切思っていないのだろう。
 
 「でも、こんな死なせない最低限の護衛だけしかつけられないとは……」

 それにしても扱いが悪すぎると僕は騎士2人に聞こえないよう小さくぼやく。
 此方側に不満を持っていて、さらに実力的にはかなり弱い護衛などあまりにも酷すぎる。

 「そこにの崖には落ちないでください。下には泉があるので落ちて死ぬことはありませんが、下層まで繋がっているので最終的に待っているのは死です」

 「うん、わかりました」

 だが、それでも一応は敬語を使ってくれている騎士を見て、何時もよりはましかもしれないと僕は考える。
 恐らく、本人がいる前で悪口を堂々と言えるような度胸が無いだけだろうが、それでも常にメイドなどや騎士に陰口を囁かれている王宮での生活に比べれば大分マシだろう。
 
 「ていうか、本当に僕の扱い悪いな……」
 
 そこで僕は王宮での扱いに嘆息する。
 だが、次の瞬間僕の顔に浮かんだのは計画がうまく進んでいることに対する安堵だった。
 
 「だけど、僕の実力が未だバレていない。だったら、気づかないうちに全ての計画を潰してやる」

 背後から付いてくる騎士2人の気配を感じながら、僕はそう決意を固める。
 実力を隠そうとする限り、この護衛がいる限り僕は本格的には迷宮探索に乗り出せない。
  だが、それでも迷宮探索の経験が騎士2人に囲まれ、実戦を経験していくことで僕は確実に強くなれる。
 それからはまだ考えていないが、とにかく今は実戦を経験することしか……

 「えっ?」

 そう決断しかけた、その時だった。
 僕は背後からの衝撃とともに身体に浮遊感を感じ、背後を向く。

 「っ!」

 ーーーそこには嗜虐的な笑みを浮かべ、俺を崖へとつき押した騎士2人の姿があった。
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