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第4話 それはさっくりと、心臓だけをえぐり取るような視線だった
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「つまりリソスフェアの下部にはアセノスフェアがありアセノスフェアの下部にはメソスフェアがあります。リソスフェアを作るのがプレートというものでこれはアセノスフェアの対流に乗って水平運動をしている、というのがいわゆるプレートテクトニクス理論です」
天津はホワイトボードに描いた「地球の内部」の図を手で示し指で差ししながら三人の新入社員に説いた。
「テクトニクス論には他に、プリュームテクトニクスというのもあります。これはマントルの動きについての論で、マントル深部から出て来る上昇流、ホットスポットなどと呼ばれるものなんかの現象についての理論です」
三人は無言でそして無表情で天津の示し差すホワイトボードと、天津の手と、天津の顔を見ていた。その中の一人、結城だけが、基本的に口を開け、天津の語りを聞きながら恰もその単語群を復唱するかのごとくにぱくぱくと、あるいはあうあうと、その唇を時折上下させていた。
「えーとじゃあ、ここまでで何か質問、ないですか」天津は三人を見回して言った。
誰も何も答えず、身動きもしなかった。
「……」天津はしばらく口を閉ざし、三人をゆっくり見回したが、三人は何ひとつ反応を示さずにいた。「何か……ないですか?」天津は独り言のように小さく呟き、「本原さん、何か質問はないですか?」と指名した。
「何を質問すればいいんですか?」本原は対応した。
「え」天津は眉を上げ目を見開いて訊き返した。「あいや、ここまででわからない事があれば」ホワイトボードに振り向き、そこに書かれたことを手で示す。
「何がわかってて何がわからないんですか?」本原は特に表情を変えもせず続けた。「私は」
「――」天津はまた目を見開き本原を見た。「……あ、そうか」やがて頷き始める。「そうだよね。うん、そういう事ね」自らを納得させるように、計十回ほど彼は頷きを繰り返した。
「まだ、質問ができるほどにも理解できていないって事ですよね、ハハハ」結城が口を添え、明るく笑って空気を和ませる。
だが本原及び時中は無表情のまま返答もなく、結城と天津の笑い声が室内に数秒響き渡った後、消えた。
「えー、じゃあ、続けていきます」天津は俯き加減に言葉を繋げた。「じゃあ次は、岩盤というものの構成について」手許のテキスト――A4サイズの紙を簡単にホッチキスで止めたもの――をめくる。「テキストの十四ページを開いてください」
ぱらぱら、と、三人がテキストを繰る音が室内に響く。
「お疲れ様」昼休みの指示を出した後事務室内に戻ると、木之花がタイピングの手を止め声を掛けてきた。
「はー」天津は深くため息をつきながら自分の席にどかりと腰掛けた。
「今の子たちの研修って、大変よね」木之花が僅かに苦笑を見せながら言う。「これまでのどの子たちより教える内容が濃厚になってるし」
「そう」天津は背もたれに上半身を預けて嘆いた。「人間たちも頑張ったからねえ……この短い期間に実にたくさん発見してくれちゃって」
「何年になるっけ」木之花はふと天井を見上げて問いかけた。「前の研修から」
「んーと」天津も天井を見上げる。「かれこれ……三百年ぐらいじゃ、ない?」
「そっか。宝永地震の頃よね」
「うん」天津は視線を下ろし、壁の方を見てはいるが遠い眼差しとなっていた。
「――」木之花は少しの間それを見ていたが、やがてPCに向かいタイピングを再開しはじめた。
「水の星」天津は独り言なのかどうなのか判別の難しいトーンの声で呟いた。「天と地と、水があった」
「ナマズと」木之花がPCを見たまま付け足す。
「ナマズと」天津は繰り返す。
「けど三百年って」木之花がまたタイプする手を止める。「人間たちには長い時なんだろうけど……地球にしたら、ほんの瞬きする間なのかもね」
「瞬きは大げさだよ」天津は薄く笑う。「お茶ひと口飲むぐらいじゃない?」
「どっちにしても、うぜえって思ってるんでしょうね」木之花は顎を引き、PCを睨みつける。「勝手にクニとか創りやがって、って」
「最初に言わないからだよ、ここに立ち入んな、出てけ、もう来るな、って」
「高をくくってたんでしょ。どうせ大した事もできないだろう、って」
「それかもしくは」天津は頭のうしろで手を組んだ。「――」少し考える。
「何よ」木之花が天津の方を見る。
「どうせ」天津は目を瞑る。「お茶何杯か飲んでる間に滅び去るからいっか、ってな」
「――」木之花は目を細めて天津を見ていたが、何も返さずPC作業に戻った。
天津は目を開けて自分の膝元を見ていたが、やがて立ち上がり「コーヒー買って来る」と言って部屋を出て行った。
「生物の出現というのが、地球環境に重大な影響を与えました」天津の話は“地球の歴史”という範疇に及んでいた。「藍藻類の光合成が酸素を大量に生み出し、藻類が身につけた炭酸カルシウムの殻は石灰岩を作りました」
「質問です」時中が右手を軽く挙げ発言した。
「あ」天津は眼をしばたたかせたがすぐに「はい、どうぞ」と声を明るくして頷いた。
「その生物の出現というのは、地球にとっては要するに“汚染の始まり”だったんですか」
「え」天津はまた眼をしばたたかせた。「汚染……?」
「木之花さんが、私たち人間は汚れた忌むべき存在だと仰ってました」本原が言葉を添える。
「……ああ……」天津は視線を落とし、何か思い当たる節がありそうな表情となった。
「そんな馬鹿な」結城が、まるで舞台俳優のように両手を広げながら大声で否定した。「誰がそんなことを言うんだ。失礼じゃないか」
「洞窟に棲むフェアリーたち」本原が結城の問いかけに対し真顔で答える。
「フェアリー?」結城が声を裏返して訊き返す。「羽が生えてて、魔法を使って勇者を助けたりとかするやつ?」
「話が逸れすぎだ」時中が苦虫を噛み潰したような顔で間に割り込む。「人間を汚れた忌むべきと言ったのは洞窟内に棲む“聖なる存在”だ」
「だからフェアリーなの」本原も引かない。「フェアリーにはいろんなタイプがいるの」
「フェアリーだったら人間を助けるのが筋だろう。汚れたとか、なにその上から目線」結城がまたしても両手を大きく広げて叫ぶ。
「はい、一旦落ち着きましょう」天津が苦笑しながら両手で空気を抑えるジェスチャーをした。
三人は取り敢えず口を閉じ教育担当を見てその答えを待った。
「確かに、洞窟内には不思議な存在がいます。聖なる存在にしろフェアリーにしろ、その呼び方というものは定まっていません。どちらも“似たような感じ”です」そこまで言うと天津は一度大きく息を吸い込んだ。「しかし」
三人の新入社員は回答の受け入れ態勢となりわずかに頷く。
「たとえ人間が、生物が汚れた存在だと忌み嫌われているにせよ、その当事者である人間だって、ちゃんと生きているわけです。もう存在しているんです。だったら、排除ばかりでなく共存の方法というものを、構築していくべきだと僕は思います」
天津が一息にそこまで言った後、室内は静かになった。天津は顔をやや俯けて、眉をしかめるように眼を閉じた。その顔は、まるで何かに耐えているように見えた。
――来ない、な……
天津は内心、そんなことを思っていたのだ。来ない、つまり――“反撃”が、だ。今の自分の“身の程をわきまえぬ、大それた発言”に対する“しっぺ返し”が、だ。ふうぅ……と、天津は多少震えた吐息を洩らした。
ごつん。
その瞬間、足の裏から脳天まで貫くような衝撃と大きな音が、走った。
「あっ――」天津は思わず顔を歪めて床に座り込み、新入社員三人も同様に顔をしかめ自らの頭を両手で押さえ仰け反るかまたは机に突っ伏した。
皆しばらくは、全身に響きわたる金属塊をぶつけ合わせたような振動の余韻をやり過ごすため身動きが取れなかった。
「な、何今の」結城が椅子から立ち上がり、きょろきょろと辺りを見回しながら叫んだ。「地震?」
「揺れてはいない」時中が眉を最大限にしかめ、片耳に手を当てながら答えた。「何かが建物にぶつかったか」
「頭が痛い」本原は両手で自分の頭を抑えていた。「きーんって来ました」
「皆さん、大丈夫ですか」天津は顔をしかめたまま片目を開け聞いた。「すみません、僕がちょっと、楯突くような事言ってしまったんで“警告”が来たんですね」
「警告?」時中が眉を更にしかめて訊き返した。「誰からの?」
「えーと」天津は下を向き、恐る恐るのようにもう一度顔を挙げた。「聖なる存在、からの」
「大丈夫ですか、皆さん」叫びながら木之花がドアを勢いよく開け飛び込んできた。「怪我はないですか」
「木之花さん」結城が眼を丸くする。
「怪我はしてないです」本原が冷静に答える。「でも頭がきーんってなりました」
「大丈夫ですか」木之花は本原の傍に駆け寄りその背に手を当てた。「痛いですか」
「もう大丈夫です」本原は小さく頷いた。
「何やってんの」木之花は天津に振り向き言った。「また何か怒らせるようなこと言ったんでしょう」
「――」天津は気まずそうな表情で木之花を見た。
声と口調は静かなものだが、彼女の眼は細められ、瞬きもせず天津を真っ直ぐ貫いていた。天津は頭の中でだけそっと、自分の心臓を手で抑えた。そして彼は両手を合わせ頭を下げた。「ごめん。すみません、皆さん」
「怒らせる、つまり“聖なる存在”を、ですか」時中が質問する。
天津と木之花はすぐに答えなかった。
「まじで?」結城が大声で叫ぶ。「あのゴツンって来たの、聖なる存在の人がやったってこと? フェアリーが?」
「一体、何なんですか」時中は木之花と天津に視線を向けたまま質問した。「聖なる存在とは」
木之花は僅かに俯き、天津は木之花の顔を見、それから時中を見た。
「地球、です」無精髭の教育担当は、答えて言った。
天津はホワイトボードに描いた「地球の内部」の図を手で示し指で差ししながら三人の新入社員に説いた。
「テクトニクス論には他に、プリュームテクトニクスというのもあります。これはマントルの動きについての論で、マントル深部から出て来る上昇流、ホットスポットなどと呼ばれるものなんかの現象についての理論です」
三人は無言でそして無表情で天津の示し差すホワイトボードと、天津の手と、天津の顔を見ていた。その中の一人、結城だけが、基本的に口を開け、天津の語りを聞きながら恰もその単語群を復唱するかのごとくにぱくぱくと、あるいはあうあうと、その唇を時折上下させていた。
「えーとじゃあ、ここまでで何か質問、ないですか」天津は三人を見回して言った。
誰も何も答えず、身動きもしなかった。
「……」天津はしばらく口を閉ざし、三人をゆっくり見回したが、三人は何ひとつ反応を示さずにいた。「何か……ないですか?」天津は独り言のように小さく呟き、「本原さん、何か質問はないですか?」と指名した。
「何を質問すればいいんですか?」本原は対応した。
「え」天津は眉を上げ目を見開いて訊き返した。「あいや、ここまででわからない事があれば」ホワイトボードに振り向き、そこに書かれたことを手で示す。
「何がわかってて何がわからないんですか?」本原は特に表情を変えもせず続けた。「私は」
「――」天津はまた目を見開き本原を見た。「……あ、そうか」やがて頷き始める。「そうだよね。うん、そういう事ね」自らを納得させるように、計十回ほど彼は頷きを繰り返した。
「まだ、質問ができるほどにも理解できていないって事ですよね、ハハハ」結城が口を添え、明るく笑って空気を和ませる。
だが本原及び時中は無表情のまま返答もなく、結城と天津の笑い声が室内に数秒響き渡った後、消えた。
「えー、じゃあ、続けていきます」天津は俯き加減に言葉を繋げた。「じゃあ次は、岩盤というものの構成について」手許のテキスト――A4サイズの紙を簡単にホッチキスで止めたもの――をめくる。「テキストの十四ページを開いてください」
ぱらぱら、と、三人がテキストを繰る音が室内に響く。
「お疲れ様」昼休みの指示を出した後事務室内に戻ると、木之花がタイピングの手を止め声を掛けてきた。
「はー」天津は深くため息をつきながら自分の席にどかりと腰掛けた。
「今の子たちの研修って、大変よね」木之花が僅かに苦笑を見せながら言う。「これまでのどの子たちより教える内容が濃厚になってるし」
「そう」天津は背もたれに上半身を預けて嘆いた。「人間たちも頑張ったからねえ……この短い期間に実にたくさん発見してくれちゃって」
「何年になるっけ」木之花はふと天井を見上げて問いかけた。「前の研修から」
「んーと」天津も天井を見上げる。「かれこれ……三百年ぐらいじゃ、ない?」
「そっか。宝永地震の頃よね」
「うん」天津は視線を下ろし、壁の方を見てはいるが遠い眼差しとなっていた。
「――」木之花は少しの間それを見ていたが、やがてPCに向かいタイピングを再開しはじめた。
「水の星」天津は独り言なのかどうなのか判別の難しいトーンの声で呟いた。「天と地と、水があった」
「ナマズと」木之花がPCを見たまま付け足す。
「ナマズと」天津は繰り返す。
「けど三百年って」木之花がまたタイプする手を止める。「人間たちには長い時なんだろうけど……地球にしたら、ほんの瞬きする間なのかもね」
「瞬きは大げさだよ」天津は薄く笑う。「お茶ひと口飲むぐらいじゃない?」
「どっちにしても、うぜえって思ってるんでしょうね」木之花は顎を引き、PCを睨みつける。「勝手にクニとか創りやがって、って」
「最初に言わないからだよ、ここに立ち入んな、出てけ、もう来るな、って」
「高をくくってたんでしょ。どうせ大した事もできないだろう、って」
「それかもしくは」天津は頭のうしろで手を組んだ。「――」少し考える。
「何よ」木之花が天津の方を見る。
「どうせ」天津は目を瞑る。「お茶何杯か飲んでる間に滅び去るからいっか、ってな」
「――」木之花は目を細めて天津を見ていたが、何も返さずPC作業に戻った。
天津は目を開けて自分の膝元を見ていたが、やがて立ち上がり「コーヒー買って来る」と言って部屋を出て行った。
「生物の出現というのが、地球環境に重大な影響を与えました」天津の話は“地球の歴史”という範疇に及んでいた。「藍藻類の光合成が酸素を大量に生み出し、藻類が身につけた炭酸カルシウムの殻は石灰岩を作りました」
「質問です」時中が右手を軽く挙げ発言した。
「あ」天津は眼をしばたたかせたがすぐに「はい、どうぞ」と声を明るくして頷いた。
「その生物の出現というのは、地球にとっては要するに“汚染の始まり”だったんですか」
「え」天津はまた眼をしばたたかせた。「汚染……?」
「木之花さんが、私たち人間は汚れた忌むべき存在だと仰ってました」本原が言葉を添える。
「……ああ……」天津は視線を落とし、何か思い当たる節がありそうな表情となった。
「そんな馬鹿な」結城が、まるで舞台俳優のように両手を広げながら大声で否定した。「誰がそんなことを言うんだ。失礼じゃないか」
「洞窟に棲むフェアリーたち」本原が結城の問いかけに対し真顔で答える。
「フェアリー?」結城が声を裏返して訊き返す。「羽が生えてて、魔法を使って勇者を助けたりとかするやつ?」
「話が逸れすぎだ」時中が苦虫を噛み潰したような顔で間に割り込む。「人間を汚れた忌むべきと言ったのは洞窟内に棲む“聖なる存在”だ」
「だからフェアリーなの」本原も引かない。「フェアリーにはいろんなタイプがいるの」
「フェアリーだったら人間を助けるのが筋だろう。汚れたとか、なにその上から目線」結城がまたしても両手を大きく広げて叫ぶ。
「はい、一旦落ち着きましょう」天津が苦笑しながら両手で空気を抑えるジェスチャーをした。
三人は取り敢えず口を閉じ教育担当を見てその答えを待った。
「確かに、洞窟内には不思議な存在がいます。聖なる存在にしろフェアリーにしろ、その呼び方というものは定まっていません。どちらも“似たような感じ”です」そこまで言うと天津は一度大きく息を吸い込んだ。「しかし」
三人の新入社員は回答の受け入れ態勢となりわずかに頷く。
「たとえ人間が、生物が汚れた存在だと忌み嫌われているにせよ、その当事者である人間だって、ちゃんと生きているわけです。もう存在しているんです。だったら、排除ばかりでなく共存の方法というものを、構築していくべきだと僕は思います」
天津が一息にそこまで言った後、室内は静かになった。天津は顔をやや俯けて、眉をしかめるように眼を閉じた。その顔は、まるで何かに耐えているように見えた。
――来ない、な……
天津は内心、そんなことを思っていたのだ。来ない、つまり――“反撃”が、だ。今の自分の“身の程をわきまえぬ、大それた発言”に対する“しっぺ返し”が、だ。ふうぅ……と、天津は多少震えた吐息を洩らした。
ごつん。
その瞬間、足の裏から脳天まで貫くような衝撃と大きな音が、走った。
「あっ――」天津は思わず顔を歪めて床に座り込み、新入社員三人も同様に顔をしかめ自らの頭を両手で押さえ仰け反るかまたは机に突っ伏した。
皆しばらくは、全身に響きわたる金属塊をぶつけ合わせたような振動の余韻をやり過ごすため身動きが取れなかった。
「な、何今の」結城が椅子から立ち上がり、きょろきょろと辺りを見回しながら叫んだ。「地震?」
「揺れてはいない」時中が眉を最大限にしかめ、片耳に手を当てながら答えた。「何かが建物にぶつかったか」
「頭が痛い」本原は両手で自分の頭を抑えていた。「きーんって来ました」
「皆さん、大丈夫ですか」天津は顔をしかめたまま片目を開け聞いた。「すみません、僕がちょっと、楯突くような事言ってしまったんで“警告”が来たんですね」
「警告?」時中が眉を更にしかめて訊き返した。「誰からの?」
「えーと」天津は下を向き、恐る恐るのようにもう一度顔を挙げた。「聖なる存在、からの」
「大丈夫ですか、皆さん」叫びながら木之花がドアを勢いよく開け飛び込んできた。「怪我はないですか」
「木之花さん」結城が眼を丸くする。
「怪我はしてないです」本原が冷静に答える。「でも頭がきーんってなりました」
「大丈夫ですか」木之花は本原の傍に駆け寄りその背に手を当てた。「痛いですか」
「もう大丈夫です」本原は小さく頷いた。
「何やってんの」木之花は天津に振り向き言った。「また何か怒らせるようなこと言ったんでしょう」
「――」天津は気まずそうな表情で木之花を見た。
声と口調は静かなものだが、彼女の眼は細められ、瞬きもせず天津を真っ直ぐ貫いていた。天津は頭の中でだけそっと、自分の心臓を手で抑えた。そして彼は両手を合わせ頭を下げた。「ごめん。すみません、皆さん」
「怒らせる、つまり“聖なる存在”を、ですか」時中が質問する。
天津と木之花はすぐに答えなかった。
「まじで?」結城が大声で叫ぶ。「あのゴツンって来たの、聖なる存在の人がやったってこと? フェアリーが?」
「一体、何なんですか」時中は木之花と天津に視線を向けたまま質問した。「聖なる存在とは」
木之花は僅かに俯き、天津は木之花の顔を見、それから時中を見た。
「地球、です」無精髭の教育担当は、答えて言った。
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