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第34話 (上層部の)言ってることと(現場の)やってることが違。
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「危険を察知する能力」結城が叫び、
「自ら遠ざけた」時中が呟き、
「まあ、素敵」本原が溜息混じりに囁き、他の二人が振り向いたがまったく目を合わせなかった。
「はい」天津は目を閉じ俯いた。「神の救済を信じる――その想いを他の人間たちと共有し、コミュニティという安住の地を拵え、人間は個々の力を合わせることで、苦境を潜り抜けるという生き延び方を見つけました。目に見えない不確かな第六感は、用をなさなくなっていったんです」
「ははあ」結城が口をぽっかりと開けて頷く。「野生の勘ってやつが、文明に追いやられて消えてったんですね」
「そこもまた、人間のストイックな面といえるんじゃないかと思います」天津は結城に目を上げまた微笑んだ。「自分独りが勘に任せて助かるのではなく、皆で力を合わせて皆で一緒に助かることこそが、正しいのだと」
「逆に、皆で足を引っ張り合って一緒に滅亡するという悲劇も起こり得る」時中が呟き、他の二人が振り向いたがまったく目を合わせなかった。
「そのリスクは否定できません」天津は哀しげにまた目を伏せた。「独り独りがそれぞれ勝手に逃げ延びれば、終局的には人間という種族全体の維持は可能なはずだと思うんですが……人間たちにとっては“共有”そして“共存”が何よりも重要なものになっている。人間にとっては“種族”の存続ではなく、“社会”の存続こそが必要不可欠なんです」
「そうっすね。俺たち一人じゃなんにもできないっすもんね。山に籠もって自給自足するにしても一人じゃ難しいっすよね。バディが要りますよねバディが」結城が何度も頷きながら他の二人を見回すが二人とも一切目を合わせなかった。
「なので」天津は目を開け、岩天井を振り仰いだ。「今のこの、人間社会の姿というのはあるべくしてあるものだと、我々は考える。決して我々の望んでいた形と違うなどということはない。我々は人間の築いてきたものに満足しているし、築いてきてくれたことに感謝している」
「へえー」突然、明瞭な男の声が洞窟内に響き渡った。「そうかねえ。本当かねえ」
「誰――」天津が一瞬、辺りを目で見回そうとしたがすぐに硬直し言葉をなくした。
「誰?」代わりに結城が訊く。
「この声は」時中が呟く。
「どなたですか」本原が溜息混じりに囁きかけて訊く。
「――まさか」天津が視線を硬直させたまま、信じられないといった声音で溢(こぼ)す。
「えっ、まさかこの声、地球?」結城が天津を見て問う。
「まさか」時中がすぐに否定するが、その瞼がぴくりと震える。
「地球さまなのですか」本原が確認する。
「――」天津はしかし、答えない。
「岩っちじゃ、ないよ」鯰(なまず)が答えるが、その声にも不審げな色が現れていた。
「誰だ」天津が、岩天井に向けて問う。
「スサノオノミコト」明瞭な男の声が、答えた。
「え」
「何」
「どういうこと?」
「――」
「そんな」
「ばかな」社の者たちは同時に、一斉に声を挙げた。挙げざるを、得なかった。
「違うっていうの」木之花もまた、事務室で驚愕に目を見開いていた。
「――」伊勢は何も言わず、表情を変えるでもなく、ただ凝と一点を見つめていた。が、やがて目を閉じ、また開け、ふいと横を向いてふ、と息を吐いた。
「え、スサノオ?」結城が叫ぶ。「俺?」自分を指差す。
「誰だよ、お前」明瞭な男の声が少し怒ったように訊く。「スサノオは俺だよ」
「あ」結城は頭に手を当てた。「そうすか」
「本当なのですか」本原が天津に振り向き問う。「この声は、スサノオノミコトさまなのですか」
「だからそうだって」スサノオは呆れたような声でもう一度言う。
「――」天津は言葉もなく、ただ佇み様子を伺っていた。「鯰」呼ぶ。
「何」鯰は甲高い声で答える。
「地球は、何か言っているのか」天津が問う。
「――スサノオだ、って言ってる」鯰が答える。
「まじすか」結城が叫ぶ。「お二人、知り合いなんすか」
「さっき知り合ったって言ってる」鯰が答える。
「どこにいるんだ」時中が眉根を寄せる。「姿は見せないのか」
「それよりもさ」スサノオは委細構わず話を続けた。「神たちは人間の仕事に満足し感謝してるって……それ、一体誰がそう言ってたの」
「それは」天津が答えかけ、しかし言葉を続けることができなかった。
「なんとなく、か」スサノオは少し意地悪げな声色で訊く。「特段はっきりと誰それがそう宣告したわけじゃあなく、なんとなく神々皆そんな雰囲気だっていうのか」
「――」天津はいよいよもって言葉を継ぐことができなくなっていた。
「社長、どうする」訊いたのは、恵比寿だった。「天津君に、助け舟出す?」
「――」大山も眉根を寄せた表情で固まっていたが、ゆっくりと唇を開き「いや」と答えた。「会社の理念は充分知り尽くしてるから。天津に任せる」
「けど」恵比寿は更に問う。「……スサノオ、だよ」
「――」大山は再び、言葉をなくす。
「結界だけ、張っとこう」そう言葉を差し挟んできたのは、酒林だった。
「結界か」大山は答え、頷く。「新人たちにね」
「うん」酒林も頷く。「何してくるかわからないからね。“スサノオ”は」
「よし」
かくして三人の周りには、前日と同様の、幸福感に満ちた空間が作られた。
「おお」結城が溜息混じりに囁き、
「結界か」時中が溜息混じりに囁き、
「神さま」本原が溜息混じりに囁く。
「自ら遠ざけた」時中が呟き、
「まあ、素敵」本原が溜息混じりに囁き、他の二人が振り向いたがまったく目を合わせなかった。
「はい」天津は目を閉じ俯いた。「神の救済を信じる――その想いを他の人間たちと共有し、コミュニティという安住の地を拵え、人間は個々の力を合わせることで、苦境を潜り抜けるという生き延び方を見つけました。目に見えない不確かな第六感は、用をなさなくなっていったんです」
「ははあ」結城が口をぽっかりと開けて頷く。「野生の勘ってやつが、文明に追いやられて消えてったんですね」
「そこもまた、人間のストイックな面といえるんじゃないかと思います」天津は結城に目を上げまた微笑んだ。「自分独りが勘に任せて助かるのではなく、皆で力を合わせて皆で一緒に助かることこそが、正しいのだと」
「逆に、皆で足を引っ張り合って一緒に滅亡するという悲劇も起こり得る」時中が呟き、他の二人が振り向いたがまったく目を合わせなかった。
「そのリスクは否定できません」天津は哀しげにまた目を伏せた。「独り独りがそれぞれ勝手に逃げ延びれば、終局的には人間という種族全体の維持は可能なはずだと思うんですが……人間たちにとっては“共有”そして“共存”が何よりも重要なものになっている。人間にとっては“種族”の存続ではなく、“社会”の存続こそが必要不可欠なんです」
「そうっすね。俺たち一人じゃなんにもできないっすもんね。山に籠もって自給自足するにしても一人じゃ難しいっすよね。バディが要りますよねバディが」結城が何度も頷きながら他の二人を見回すが二人とも一切目を合わせなかった。
「なので」天津は目を開け、岩天井を振り仰いだ。「今のこの、人間社会の姿というのはあるべくしてあるものだと、我々は考える。決して我々の望んでいた形と違うなどということはない。我々は人間の築いてきたものに満足しているし、築いてきてくれたことに感謝している」
「へえー」突然、明瞭な男の声が洞窟内に響き渡った。「そうかねえ。本当かねえ」
「誰――」天津が一瞬、辺りを目で見回そうとしたがすぐに硬直し言葉をなくした。
「誰?」代わりに結城が訊く。
「この声は」時中が呟く。
「どなたですか」本原が溜息混じりに囁きかけて訊く。
「――まさか」天津が視線を硬直させたまま、信じられないといった声音で溢(こぼ)す。
「えっ、まさかこの声、地球?」結城が天津を見て問う。
「まさか」時中がすぐに否定するが、その瞼がぴくりと震える。
「地球さまなのですか」本原が確認する。
「――」天津はしかし、答えない。
「岩っちじゃ、ないよ」鯰(なまず)が答えるが、その声にも不審げな色が現れていた。
「誰だ」天津が、岩天井に向けて問う。
「スサノオノミコト」明瞭な男の声が、答えた。
「え」
「何」
「どういうこと?」
「――」
「そんな」
「ばかな」社の者たちは同時に、一斉に声を挙げた。挙げざるを、得なかった。
「違うっていうの」木之花もまた、事務室で驚愕に目を見開いていた。
「――」伊勢は何も言わず、表情を変えるでもなく、ただ凝と一点を見つめていた。が、やがて目を閉じ、また開け、ふいと横を向いてふ、と息を吐いた。
「え、スサノオ?」結城が叫ぶ。「俺?」自分を指差す。
「誰だよ、お前」明瞭な男の声が少し怒ったように訊く。「スサノオは俺だよ」
「あ」結城は頭に手を当てた。「そうすか」
「本当なのですか」本原が天津に振り向き問う。「この声は、スサノオノミコトさまなのですか」
「だからそうだって」スサノオは呆れたような声でもう一度言う。
「――」天津は言葉もなく、ただ佇み様子を伺っていた。「鯰」呼ぶ。
「何」鯰は甲高い声で答える。
「地球は、何か言っているのか」天津が問う。
「――スサノオだ、って言ってる」鯰が答える。
「まじすか」結城が叫ぶ。「お二人、知り合いなんすか」
「さっき知り合ったって言ってる」鯰が答える。
「どこにいるんだ」時中が眉根を寄せる。「姿は見せないのか」
「それよりもさ」スサノオは委細構わず話を続けた。「神たちは人間の仕事に満足し感謝してるって……それ、一体誰がそう言ってたの」
「それは」天津が答えかけ、しかし言葉を続けることができなかった。
「なんとなく、か」スサノオは少し意地悪げな声色で訊く。「特段はっきりと誰それがそう宣告したわけじゃあなく、なんとなく神々皆そんな雰囲気だっていうのか」
「――」天津はいよいよもって言葉を継ぐことができなくなっていた。
「社長、どうする」訊いたのは、恵比寿だった。「天津君に、助け舟出す?」
「――」大山も眉根を寄せた表情で固まっていたが、ゆっくりと唇を開き「いや」と答えた。「会社の理念は充分知り尽くしてるから。天津に任せる」
「けど」恵比寿は更に問う。「……スサノオ、だよ」
「――」大山は再び、言葉をなくす。
「結界だけ、張っとこう」そう言葉を差し挟んできたのは、酒林だった。
「結界か」大山は答え、頷く。「新人たちにね」
「うん」酒林も頷く。「何してくるかわからないからね。“スサノオ”は」
「よし」
かくして三人の周りには、前日と同様の、幸福感に満ちた空間が作られた。
「おお」結城が溜息混じりに囁き、
「結界か」時中が溜息混じりに囁き、
「神さま」本原が溜息混じりに囁く。
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