負社員

葵むらさき

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第67話 仕事とプライベートとどっちが大事だと思ってると思ってるんですか

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「参加してどうするというのだ」時中が訊き返す。
「仕事上の愚痴をこぼし合うのでしょうか」本原が確認する。
「うーん」結城はハンマーを肩の上に振り上げながら上方に視線を移した。「どうなのかなあ。同じ会社に勤めてるわけでもないしねえ、話が合うかどうか」
「下手に仲間面して祟られたりしたらどうするつもりだ」時中が眉をひそめる。
「祟られるのですか」本原が確認する。「出現物というのは悪霊の仲間なのでしょうか」
「まあ大丈夫だよ」結城はこつこつと岩を叩き始めた。「いざとなったら神様たちが何とかしてくれるんじゃない?」
「その神たちと今、連絡が取れないんだぞ」時中はさらに眉をひそめる。
「じゃあ地球とかさ」結城は肩越しに振り向いて機嫌よく笑う。「さっきもなんやかんや助けてくれたじゃん?」
「わかりました」本原が結城に続いて岩壁を叩き始めた。
「おっサンキュー、本原ちゃん!」結城が岩を叩きながら声を張り上げる。
「その呼び方はやめて下さい」本原が岩を叩きながら拒絶する。
「効率が悪過ぎる」時中は首を振る。「もう少し待てば、またさっきの磯田源一郎のいる所へ戻るかも知れない。そうすればさっきの約束通り正式な謝罪をして帰りのエレベータの位置を教えてもらえる。今は体力を温存しておくべきではないのか」
「でもさあ、じっと待っとくのも気が落ち着かないじゃん?」結城は叩きながら肩をすくめながら言う。「何かしとかないと」
「走る電車の中で駆け足するようなものだ」時中は首を振る。「効率が悪い上に、意味がない」
「職業病とうつ病、罹るとしたらどっちがいい?」出現物の質問の声がした。
「何だよその究極の終末的選択」「うつ病は辛いけど、職業病ってどうなんだ?」「あれはクセのようなもんだから、辛いとかはないんじゃないかな」「あとうつ病は病院とか薬とかで治せるけど、職業病はな」「仕事辞めたら治るんだろ」「その代わり金欠病になる」「あと敗北感からやっぱり精神的になんかダメージ受けそうだな」
「俺は職業病よりはうつ病を取るなあ」結城が岩を叩きながら話に割り込む。
「どうしてですか」本原が岩を叩きながら質問する。
「だって、プライベートの方がやっぱり大事だもんね」結城は岩を叩きながら肩を竦める。「まあ、だから転職したわけだけどさ」
「プライベートが大事にできなかったのですか、前職では」本原は岩を叩きながらさらに質問した。
「うん」結城は岩を叩きながら頷いた。「残業とか休出とか、まあ超長時間労働だったよ」
「人手不足だったのですか」本原は岩を叩きながらさらに質問した。
「うん」結城は岩を叩きながら頷いた。「新しい人も入るんだけど、皆短期間で辞めてっちゃうんだよねえ。きついから」
「結城さんはどうして辞めずにいたのですか」本原は岩を叩きながらさらに質問した。
「もう、取りすがられる感じだよ」結城は岩を叩きながら肩をすくめ笑った。「上司から、頼むからもう少しだけ待ってくれって。何とかするからって」
「何とかなったのですか」本原は岩を叩きながらさらに質問する。
「ならなかったねえ」結城は岩を叩きながら首を傾げた。「多分今も、何ともなってないんじゃないかな」
「戻って来てくれと言われないのですか」本原は岩を叩きながらさらに質問する。
「うん」結城は岩を叩きながら頷く。「言われる」
「戻って来てくれないか」突然、痛々しげな声が響いた。
「え」結城が岩を叩く手を止め上方を見遣った。
「上司の方ですか」本原も岩を叩く手を止め上方を見た。
「来月、新人十名採用の予定にしている。本来四週間の研修期間を二週間に縮めて、早々に現場に出そうと思う。それでなんとか現状改善につなげられると踏んでるんだ、だからあと少しだけ」「研修二週間って、そんなことするから皆辞めてくんですよ」「そうそう」「どうしてわかんないのかなあ、そこ」
「うわびっくりした」結城が再び岩を叩き始める。「うちの会社のことかと思った」
「うちの会社というのは、新日本地質調査のことですか」本原も再び岩を叩き始めながら質問する。
「あ、いや違った、前の会社」結城が岩を叩きながら訂正する。
「どこの会社も似たような状況だということだろうな」時中が言葉を挟み、そして岩を叩き始めた。
「おっトキ君、サンキュー!」結城が岩を叩きながら声を張り上げる。
「その呼び方はよせ」時中は岩を叩きながら拒絶した。
「けどさあ、今こうしてやってることもさ」結城は岩を叩きながら考えを述べる。「結局は業務上の作業だよねえ」
「プライベートではないと思います」本原が岩を叩きながらコメントする。
「業務を終えることができない状況を強いられているからな」時中も岩を叩きながらコメントする。
「これしか、やれる事ないもんねえ……っていうその考え方が、もうすでに職業病なのかなあ」結城が岩を叩きながら考えを述べる。
「毎日職場に通うってのが既に職業病なんじゃねえの?」出現物がコメントした。
「だな」「なんで通うんだろ」「そのモチベーションは何だ」「責任もあるし」「他に行く所もないし」「家族養わなきゃいけないし」
「家族かあ」結城が岩を叩きながら出現物たちの対話に割り込む。「俺は独り者だからなあ……トキ君は、お子さんいるの?」
「いない」時中は岩を叩きながら答えた。
「奥さんと二人暮らしなの?」結城が岩を叩きながら訊く。
「そうだ」時中が岩を叩きながら答える。
「じゃあちゃっちゃと終わらせて早く帰ってあげないとねえ」結城が岩を叩きながらコメントする。「奥さん心配するだろうし」
「警察に通報したりなさるのでしょうか」本原が岩を叩きながら想像したことを述べる。
「てか、浮気してんじゃないかとか疑ったりしてね」結城も岩を叩きながら想像したことを述べる。「今、携帯もつながらないしさ。どういうこと? 電源オフにして、誰と会ってるの? 何してるの? って」
「そんなに信用の薄い間柄ではない」時中は岩を叩きながら否定した。
「じゃあ逆に、もう、帰って来ないのが悪いんだからね! とかって奥さんの方が浮気に走っちゃったりして」結城は岩を叩きながら空想したことを述べる。
「貴様、最低だな」時中が岩を叩きながら怒りの声を挙げた。「最低というか最悪というか、最低だ」
「語彙」本原が岩を叩きながらコメントした。
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