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第25話
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レイヴンは生まれてこの方初めてなほど、触手に全エネルギーを注ぎ入れた。幸いエネルギーの素となる分子は海水中から無限に取り込める。生成する端から各触手に送り込み、各細胞で燃焼させた。
サブ触手の数本をワタリアホウドリに巻きつけまた収容籠をしっかりと抱き、メイン触手をクジラの口端まで伸ばして出口付近の歯──というか髭のようだが──を掴む。
「レイヴン!」
「がんばれ!」
「すごい、ぼくも手伝う」収容籠の中の動物たちが激励(と多少のわがまま)を叫ぶ。
「おお、うおお、わあおおう!」ワタリアホウドリは言葉にもならない声で喚く。
「ちっきしょおおおおおお」レイヴンはついに自らも叫んだ。
その言葉は動物たちを守り育てる彼の職務からすると決して口にしてはならないものかも知れなかったが、そんなことよりも大声で叫んだおかげで彼は限界を突破できたのだと、後に思うことになった。
と同時にザトウクジラは突然むせかえった──のだと思われた。
激しい圧力が背後から掛かり、レイヴンたちは一瞬で大気中に押し出されたのだ。
「おおっ!」ワタリアホウドリが叫んだ。
「うわあ」
「出られた」
「やったあ」動物たちも歓喜の声を挙げる。
レイヴンはまずワタリアホウドリを、ほぼ投げ捨てるような形で手放した。ワタリアホウドリは慌てて羽を大気に叩きつけ、必死で空中滞在を維持した。
誰も言葉を交わし合うことをしなかった、だが互いの生存を確かめ合えるのが嬉しいことはきっと間違いなかった。
「ああ、よかった」その気持ちをワタリアホウドリが最初に口にした。「ありがとう!」
「こちらこそ」レイヴンもようやく息を整え礼を述べた。「助けてくれて──くれようとしてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」ワタリアホウドリは続いて訊ねた。「君が、レイヴン?」
「え」レイヴンは少し驚いたがすぐに、収容籠を見た。それはそうだろう、この動物たちが何度も自分の名を叫んでいたじゃないか。「そうだよ、ぼくがレイヴン」
「仲間を探しているんだって?」
「え」レイヴンは今度は大きく驚いた。「何故それを知っているの?」
「仲間の鳥がどこかで他の鳥から聞いたみたいで、もうこの辺の鳥たちは皆知っているよ」ワタリアホウドリは空中すべてを羽で示すように大きな翼を広げる。
「もう? すごいな」レイヴンは舌を巻いた。
「まあただ、君とタイム・クルセイダーズの情報がごっちゃになってる部分もあるみたいでね」
「えっ」レイヴンは更に驚いた。「タイム・クルセイダーズと? いや、ぼくは彼らとは全然」
「うん」ワタリアホウドリは深く頷く。「俺様は賢いからすぐにわかったよ。タイム・クルセイダーズは生き物をさらっていく奴で、レイヴン、君は仲間を探している。だからタイム・クルセイダーズには出くわさないように注意して、レイヴン、君には親切にしてやるようにと通達が来てたんだ」
「そうか」あのフェネックギツネの顔が思い出される。彼女が素早く行動してくれたのだ、じんわりと熱い感動が湧いてくる。
「君は触手を持っていて、タイム・クルセイダーズは双葉みたいな形をしている」アホウドリはおさらいを続けた。「触手には親切に、そして双葉には警戒を」
「そうか……そうだね」レイヴンは何度も頷いた。
「しかしこれを、逆に覚えてしまいがちなんだよな」ワタリアホウドリは困ったような声で言った。「なにしろ俺様たちにとっては触手よりも双葉のほうが形態的に見慣れているからさ。逆に、双葉には親切にして触手には警戒をしなきゃならないって覚え込む奴も、中にはいる」
「え」レイヴンはいささか困惑した。「そ、そうなのか」
「うん、だから俺様が言えることはただひとつ」ワタリアホウドリは最後に真面目な顔でレイヴンに告げた。「この先、気をつけろ!」
「──」レイヴンは何と返事すればよいかわからなくなったが、ひとまず「ああ」と頷いた。「ありがとう」これで恐らくまとまるに違いない。
「それじゃ!」予想通りワタリアホウドリは高く飛び上がり去って行った。
「ぼくたちのこと、多くの鳥たちに知られているんだね」キオスが言う。
「ああ」レイヴンはなかば茫然と頷く。
「気をつけろって、どういうこと?」コスが訊く。「ぼくたちの事とタイム・クルセイダーズのことがごちゃ混ぜになった鳥たちが、ぼくたちに何か攻撃を仕掛けてくるのかな」
「いや」レイヴンは否定する。「警戒しろって言われているようだから、こちらが何もしなければ危害を加えることはしないと思うよ……多分ね」
「もしそうなったら、ぼく戦うよ」オリュクスが叫ぶ。「ぼく、強いよ」
「なんかさっきの鳥さんって」コスが呆れたように言う。「オリュクスに似てたよね」
サブ触手の数本をワタリアホウドリに巻きつけまた収容籠をしっかりと抱き、メイン触手をクジラの口端まで伸ばして出口付近の歯──というか髭のようだが──を掴む。
「レイヴン!」
「がんばれ!」
「すごい、ぼくも手伝う」収容籠の中の動物たちが激励(と多少のわがまま)を叫ぶ。
「おお、うおお、わあおおう!」ワタリアホウドリは言葉にもならない声で喚く。
「ちっきしょおおおおおお」レイヴンはついに自らも叫んだ。
その言葉は動物たちを守り育てる彼の職務からすると決して口にしてはならないものかも知れなかったが、そんなことよりも大声で叫んだおかげで彼は限界を突破できたのだと、後に思うことになった。
と同時にザトウクジラは突然むせかえった──のだと思われた。
激しい圧力が背後から掛かり、レイヴンたちは一瞬で大気中に押し出されたのだ。
「おおっ!」ワタリアホウドリが叫んだ。
「うわあ」
「出られた」
「やったあ」動物たちも歓喜の声を挙げる。
レイヴンはまずワタリアホウドリを、ほぼ投げ捨てるような形で手放した。ワタリアホウドリは慌てて羽を大気に叩きつけ、必死で空中滞在を維持した。
誰も言葉を交わし合うことをしなかった、だが互いの生存を確かめ合えるのが嬉しいことはきっと間違いなかった。
「ああ、よかった」その気持ちをワタリアホウドリが最初に口にした。「ありがとう!」
「こちらこそ」レイヴンもようやく息を整え礼を述べた。「助けてくれて──くれようとしてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」ワタリアホウドリは続いて訊ねた。「君が、レイヴン?」
「え」レイヴンは少し驚いたがすぐに、収容籠を見た。それはそうだろう、この動物たちが何度も自分の名を叫んでいたじゃないか。「そうだよ、ぼくがレイヴン」
「仲間を探しているんだって?」
「え」レイヴンは今度は大きく驚いた。「何故それを知っているの?」
「仲間の鳥がどこかで他の鳥から聞いたみたいで、もうこの辺の鳥たちは皆知っているよ」ワタリアホウドリは空中すべてを羽で示すように大きな翼を広げる。
「もう? すごいな」レイヴンは舌を巻いた。
「まあただ、君とタイム・クルセイダーズの情報がごっちゃになってる部分もあるみたいでね」
「えっ」レイヴンは更に驚いた。「タイム・クルセイダーズと? いや、ぼくは彼らとは全然」
「うん」ワタリアホウドリは深く頷く。「俺様は賢いからすぐにわかったよ。タイム・クルセイダーズは生き物をさらっていく奴で、レイヴン、君は仲間を探している。だからタイム・クルセイダーズには出くわさないように注意して、レイヴン、君には親切にしてやるようにと通達が来てたんだ」
「そうか」あのフェネックギツネの顔が思い出される。彼女が素早く行動してくれたのだ、じんわりと熱い感動が湧いてくる。
「君は触手を持っていて、タイム・クルセイダーズは双葉みたいな形をしている」アホウドリはおさらいを続けた。「触手には親切に、そして双葉には警戒を」
「そうか……そうだね」レイヴンは何度も頷いた。
「しかしこれを、逆に覚えてしまいがちなんだよな」ワタリアホウドリは困ったような声で言った。「なにしろ俺様たちにとっては触手よりも双葉のほうが形態的に見慣れているからさ。逆に、双葉には親切にして触手には警戒をしなきゃならないって覚え込む奴も、中にはいる」
「え」レイヴンはいささか困惑した。「そ、そうなのか」
「うん、だから俺様が言えることはただひとつ」ワタリアホウドリは最後に真面目な顔でレイヴンに告げた。「この先、気をつけろ!」
「──」レイヴンは何と返事すればよいかわからなくなったが、ひとまず「ああ」と頷いた。「ありがとう」これで恐らくまとまるに違いない。
「それじゃ!」予想通りワタリアホウドリは高く飛び上がり去って行った。
「ぼくたちのこと、多くの鳥たちに知られているんだね」キオスが言う。
「ああ」レイヴンはなかば茫然と頷く。
「気をつけろって、どういうこと?」コスが訊く。「ぼくたちの事とタイム・クルセイダーズのことがごちゃ混ぜになった鳥たちが、ぼくたちに何か攻撃を仕掛けてくるのかな」
「いや」レイヴンは否定する。「警戒しろって言われているようだから、こちらが何もしなければ危害を加えることはしないと思うよ……多分ね」
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