どうぶつたちのキャンプ 2

葵むらさき

文字の大きさ
23 / 38

第65話

しおりを挟む
「ふむ」新たな情報のもたらす衝撃は、結構な甚大さだった。「なんと」
「おお」隣にいる仲間も同じく結構な衝撃をうけたようだった。「双葉と」
「レイヴンの仲間が」二頭は顔を振り向け目を見合わせた。
「これは、あれか」
「どうだろう、それなのか」
「しかしこの、やり取りの内容からすると」
「やはり、そうなのだろうか」
 なかなかに信じがたい、しかし植物から得られるデータはどう見てもそういうことであると伝えて来ている。

 がさがさがさ

 不意に聞こえた葉擦れの音に、二頭ははっと考察を止め振り向いた。
 大きな体に、白と黒の二色にはっきりと染め分けられた体毛を持つ生き物が、そこに現れ出た。
 ジャイアントパンダだ。
「あ」
「パンダ先生」
 二頭のレッサーパンダは背筋と尻尾を伸ばし、挨拶した。「こんにちは」「ご機嫌よう」
 ジャイアントパンダは二秒ほど二頭のレッサーパンダを見、それから右前肢を伸ばしてそこに生えているタケを掴み引き寄せた。完全に折り取れないうちから口に持って行き、噛みつく。
 ばりばりばり
 わしゃわしゃわしゃ
 タケを噛み砕き咀嚼する音が続く。
 二頭のレッサーパンダはどうすることもできずただその様子を見つめていた。
 ジャイアントパンダは勢いよくむしゃむしゃタケを食べる。
 二頭のレッサーパンダは見守っていた、が、うまそうだな、とは、どちらも思わなかった。
「あ」
「あの」
「パンダ先生」やがて痺れを切らしたように、レッサーパンダらはどちらからともなく話しかけた。
 ジャイアントパンダは引き続きタケにかじりつき、わしゃわしゃと咀嚼し続けた。
「先生も、お聞きになりましたよ、ね」
「タケが発する情報、を」
 二頭のレッサーパンダはおずおずと進言した。
 わしゃわしゃわしゃ
 ジャイアントパンダは答えない。
「──」
「──」レッサーパンダらは顔を向き合わせ、目を見交わし合った。
「あ、あの」再度試みる。
「双葉と、レ」
「お前らさ」不意にジャイアントパンダは二頭の方を見て言った。「さっき、あっちの方にいなかった?」
「え」
「あっち?」レッサーパンダらはジャイアントパンダが指差す──タケを握り込みながら──方向に目をやった。
 それは、今ジャイアントパンダがやって来たまさにその方向だった。
「い、いえ」
「我々は、そちらの方にはいませんでした」否定の回答をする。
「あれ、でも」ジャイアントパンダは再びタケをかじりながら言った。「さっきあっちで、二頭、赤い毛のやつ見たけど」
「──」
「──それ、は」レッサーパンダは推測し回答した。
「ドールでは、ないでしょうか」
「恐らく、ドールだと思います」
 わしゃわしゃわしゃ。
 ジャイアントパンダはタケを咀嚼した。
「──イヌ科、の」
「我らは、アライグマ科、でありますので」
 がりがりがり
「確かに」
「赤い毛、というところは、似ております、が」
 わしゃわしゃわしゃ
「──」
「──」
 二頭のレッサーパンダは再び互いの顔を見合わせ、目を見交わし合った。
 がりがりがり
「パンダ先生」
「あの、先生は」
 ついに堪らず二頭のレッサーパンダはジャイアントパンダに向け声高に進言した。
「本来なら、肉食獣の捕食者として強く無敵に生きておられるはずのお方です」
「しかし、にも関わらず先生は、ほぼタケだけを食しておられる」
「この、決してお世辞にもうまいとは言えぬ植物を」
「大して栄養効率の良くもないこの茎と葉っぱを」
「それは」
「先生が」
「他でもない植物たちからの世界における新着情報を常に取り入れんがため」
「その選択をなさっておられるものとお察しいたします」
「我らレッパン部隊と同様に」
「いえ、決して我らが取り込む情報量など、先生のそれとは比べものにならぬほど矮小であるに過ぎません」
「パンダ先生の食されるタケ、とりこまれる情報量はさぞかし、莫大なものになりましょう」
「ですので、ぜひ」
「我らとともに、他動物たちにその情報の宝の山を、伝えて行っていただけないでありましょうか」
「無論、パンダ先生にレッパン部隊に入れなど口が裂けても申し上げることはできません」
「なんであれば、レッパン部隊の名を『ジャイパン部隊』に改名し、その動きを今よりさらに拡大させ、世界に知らしめたく存じる次第であります」
「どうか、パンダ先生のお力添えを」
「どうか」
 ばりばりばりばり
 わしゃわしゃわしゃわしゃ
 レッサーパンダらの渾身の訴えが終了した後も、ジャイアントパンダはひたすらタケを食べていた。
 ぜい、ぜい、ぜい
 はあ、はあ、はあ
 二頭のレッサーパンダは息を切らしつつ、返答を待った。
 わしゃわしゃわしゃ
 咀嚼の音を聞きつつ、返答を待った。

「そうか」

 やがて、ジャイアントパンダは言った。
 二頭のレッサーパンダは真っ黒な目を見開いた。
「ドールか」ジャイアントパンダは言った。
 しばらく、時が経った。
 ばりばりばり
 わしゃわしゃわしゃ
 がりがりがり
 わしゃわしゃわしゃ
 二頭のレッサーパンダの息はすっかり整い、互いに黒い目を見交わし合った。
 がりがりがり
 二頭のレッサーパンダは、黙って頭を下げると向きを変えその場を立ち去ろうとした。
「いつかね」ジャイアントパンダが言った。
 はっと息を呑み、振り向く。
「そう思える日が来るのを、待ってるんだ」ジャイアントパンダは続けて言った。
「え」
「そう、思える?」二頭のレッサーパンダは黒い目を丸くして問うた。
「とは」
「どう、思える日、でありま、しょうか」
「このタケ」ジャイアントパンダは右前肢に握る植物を見下ろして言った。「うまいなあ、って」
「──」
「──」二頭のレッサーパンダは言葉を返せなかった。
 がりがりがり
 ジャイアントパンダは引き続きタケにかじりついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【新作】1分で読める! SFショートショート

Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

処理中です...