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第65話
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「ふむ」新たな情報のもたらす衝撃は、結構な甚大さだった。「なんと」
「おお」隣にいる仲間も同じく結構な衝撃をうけたようだった。「双葉と」
「レイヴンの仲間が」二頭は顔を振り向け目を見合わせた。
「これは、あれか」
「どうだろう、それなのか」
「しかしこの、やり取りの内容からすると」
「やはり、そうなのだろうか」
なかなかに信じがたい、しかし植物から得られるデータはどう見てもそういうことであると伝えて来ている。
がさがさがさ
不意に聞こえた葉擦れの音に、二頭ははっと考察を止め振り向いた。
大きな体に、白と黒の二色にはっきりと染め分けられた体毛を持つ生き物が、そこに現れ出た。
ジャイアントパンダだ。
「あ」
「パンダ先生」
二頭のレッサーパンダは背筋と尻尾を伸ばし、挨拶した。「こんにちは」「ご機嫌よう」
ジャイアントパンダは二秒ほど二頭のレッサーパンダを見、それから右前肢を伸ばしてそこに生えているタケを掴み引き寄せた。完全に折り取れないうちから口に持って行き、噛みつく。
ばりばりばり
わしゃわしゃわしゃ
タケを噛み砕き咀嚼する音が続く。
二頭のレッサーパンダはどうすることもできずただその様子を見つめていた。
ジャイアントパンダは勢いよくむしゃむしゃタケを食べる。
二頭のレッサーパンダは見守っていた、が、うまそうだな、とは、どちらも思わなかった。
「あ」
「あの」
「パンダ先生」やがて痺れを切らしたように、レッサーパンダらはどちらからともなく話しかけた。
ジャイアントパンダは引き続きタケにかじりつき、わしゃわしゃと咀嚼し続けた。
「先生も、お聞きになりましたよ、ね」
「タケが発する情報、を」
二頭のレッサーパンダはおずおずと進言した。
わしゃわしゃわしゃ
ジャイアントパンダは答えない。
「──」
「──」レッサーパンダらは顔を向き合わせ、目を見交わし合った。
「あ、あの」再度試みる。
「双葉と、レ」
「お前らさ」不意にジャイアントパンダは二頭の方を見て言った。「さっき、あっちの方にいなかった?」
「え」
「あっち?」レッサーパンダらはジャイアントパンダが指差す──タケを握り込みながら──方向に目をやった。
それは、今ジャイアントパンダがやって来たまさにその方向だった。
「い、いえ」
「我々は、そちらの方にはいませんでした」否定の回答をする。
「あれ、でも」ジャイアントパンダは再びタケをかじりながら言った。「さっきあっちで、二頭、赤い毛のやつ見たけど」
「──」
「──それ、は」レッサーパンダは推測し回答した。
「ドールでは、ないでしょうか」
「恐らく、ドールだと思います」
わしゃわしゃわしゃ。
ジャイアントパンダはタケを咀嚼した。
「──イヌ科、の」
「我らは、アライグマ科、でありますので」
がりがりがり
「確かに」
「赤い毛、というところは、似ております、が」
わしゃわしゃわしゃ
「──」
「──」
二頭のレッサーパンダは再び互いの顔を見合わせ、目を見交わし合った。
がりがりがり
「パンダ先生」
「あの、先生は」
ついに堪らず二頭のレッサーパンダはジャイアントパンダに向け声高に進言した。
「本来なら、肉食獣の捕食者として強く無敵に生きておられるはずのお方です」
「しかし、にも関わらず先生は、ほぼタケだけを食しておられる」
「この、決してお世辞にもうまいとは言えぬ植物を」
「大して栄養効率の良くもないこの茎と葉っぱを」
「それは」
「先生が」
「他でもない植物たちからの世界における新着情報を常に取り入れんがため」
「その選択をなさっておられるものとお察しいたします」
「我らレッパン部隊と同様に」
「いえ、決して我らが取り込む情報量など、先生のそれとは比べものにならぬほど矮小であるに過ぎません」
「パンダ先生の食されるタケ、とりこまれる情報量はさぞかし、莫大なものになりましょう」
「ですので、ぜひ」
「我らとともに、他動物たちにその情報の宝の山を、伝えて行っていただけないでありましょうか」
「無論、パンダ先生にレッパン部隊に入れなど口が裂けても申し上げることはできません」
「なんであれば、レッパン部隊の名を『ジャイパン部隊』に改名し、その動きを今よりさらに拡大させ、世界に知らしめたく存じる次第であります」
「どうか、パンダ先生のお力添えを」
「どうか」
ばりばりばりばり
わしゃわしゃわしゃわしゃ
レッサーパンダらの渾身の訴えが終了した後も、ジャイアントパンダはひたすらタケを食べていた。
ぜい、ぜい、ぜい
はあ、はあ、はあ
二頭のレッサーパンダは息を切らしつつ、返答を待った。
わしゃわしゃわしゃ
咀嚼の音を聞きつつ、返答を待った。
「そうか」
やがて、ジャイアントパンダは言った。
二頭のレッサーパンダは真っ黒な目を見開いた。
「ドールか」ジャイアントパンダは言った。
しばらく、時が経った。
ばりばりばり
わしゃわしゃわしゃ
がりがりがり
わしゃわしゃわしゃ
二頭のレッサーパンダの息はすっかり整い、互いに黒い目を見交わし合った。
がりがりがり
二頭のレッサーパンダは、黙って頭を下げると向きを変えその場を立ち去ろうとした。
「いつかね」ジャイアントパンダが言った。
はっと息を呑み、振り向く。
「そう思える日が来るのを、待ってるんだ」ジャイアントパンダは続けて言った。
「え」
「そう、思える?」二頭のレッサーパンダは黒い目を丸くして問うた。
「とは」
「どう、思える日、でありま、しょうか」
「このタケ」ジャイアントパンダは右前肢に握る植物を見下ろして言った。「うまいなあ、って」
「──」
「──」二頭のレッサーパンダは言葉を返せなかった。
がりがりがり
ジャイアントパンダは引き続きタケにかじりついた。
「おお」隣にいる仲間も同じく結構な衝撃をうけたようだった。「双葉と」
「レイヴンの仲間が」二頭は顔を振り向け目を見合わせた。
「これは、あれか」
「どうだろう、それなのか」
「しかしこの、やり取りの内容からすると」
「やはり、そうなのだろうか」
なかなかに信じがたい、しかし植物から得られるデータはどう見てもそういうことであると伝えて来ている。
がさがさがさ
不意に聞こえた葉擦れの音に、二頭ははっと考察を止め振り向いた。
大きな体に、白と黒の二色にはっきりと染め分けられた体毛を持つ生き物が、そこに現れ出た。
ジャイアントパンダだ。
「あ」
「パンダ先生」
二頭のレッサーパンダは背筋と尻尾を伸ばし、挨拶した。「こんにちは」「ご機嫌よう」
ジャイアントパンダは二秒ほど二頭のレッサーパンダを見、それから右前肢を伸ばしてそこに生えているタケを掴み引き寄せた。完全に折り取れないうちから口に持って行き、噛みつく。
ばりばりばり
わしゃわしゃわしゃ
タケを噛み砕き咀嚼する音が続く。
二頭のレッサーパンダはどうすることもできずただその様子を見つめていた。
ジャイアントパンダは勢いよくむしゃむしゃタケを食べる。
二頭のレッサーパンダは見守っていた、が、うまそうだな、とは、どちらも思わなかった。
「あ」
「あの」
「パンダ先生」やがて痺れを切らしたように、レッサーパンダらはどちらからともなく話しかけた。
ジャイアントパンダは引き続きタケにかじりつき、わしゃわしゃと咀嚼し続けた。
「先生も、お聞きになりましたよ、ね」
「タケが発する情報、を」
二頭のレッサーパンダはおずおずと進言した。
わしゃわしゃわしゃ
ジャイアントパンダは答えない。
「──」
「──」レッサーパンダらは顔を向き合わせ、目を見交わし合った。
「あ、あの」再度試みる。
「双葉と、レ」
「お前らさ」不意にジャイアントパンダは二頭の方を見て言った。「さっき、あっちの方にいなかった?」
「え」
「あっち?」レッサーパンダらはジャイアントパンダが指差す──タケを握り込みながら──方向に目をやった。
それは、今ジャイアントパンダがやって来たまさにその方向だった。
「い、いえ」
「我々は、そちらの方にはいませんでした」否定の回答をする。
「あれ、でも」ジャイアントパンダは再びタケをかじりながら言った。「さっきあっちで、二頭、赤い毛のやつ見たけど」
「──」
「──それ、は」レッサーパンダは推測し回答した。
「ドールでは、ないでしょうか」
「恐らく、ドールだと思います」
わしゃわしゃわしゃ。
ジャイアントパンダはタケを咀嚼した。
「──イヌ科、の」
「我らは、アライグマ科、でありますので」
がりがりがり
「確かに」
「赤い毛、というところは、似ております、が」
わしゃわしゃわしゃ
「──」
「──」
二頭のレッサーパンダは再び互いの顔を見合わせ、目を見交わし合った。
がりがりがり
「パンダ先生」
「あの、先生は」
ついに堪らず二頭のレッサーパンダはジャイアントパンダに向け声高に進言した。
「本来なら、肉食獣の捕食者として強く無敵に生きておられるはずのお方です」
「しかし、にも関わらず先生は、ほぼタケだけを食しておられる」
「この、決してお世辞にもうまいとは言えぬ植物を」
「大して栄養効率の良くもないこの茎と葉っぱを」
「それは」
「先生が」
「他でもない植物たちからの世界における新着情報を常に取り入れんがため」
「その選択をなさっておられるものとお察しいたします」
「我らレッパン部隊と同様に」
「いえ、決して我らが取り込む情報量など、先生のそれとは比べものにならぬほど矮小であるに過ぎません」
「パンダ先生の食されるタケ、とりこまれる情報量はさぞかし、莫大なものになりましょう」
「ですので、ぜひ」
「我らとともに、他動物たちにその情報の宝の山を、伝えて行っていただけないでありましょうか」
「無論、パンダ先生にレッパン部隊に入れなど口が裂けても申し上げることはできません」
「なんであれば、レッパン部隊の名を『ジャイパン部隊』に改名し、その動きを今よりさらに拡大させ、世界に知らしめたく存じる次第であります」
「どうか、パンダ先生のお力添えを」
「どうか」
ばりばりばりばり
わしゃわしゃわしゃわしゃ
レッサーパンダらの渾身の訴えが終了した後も、ジャイアントパンダはひたすらタケを食べていた。
ぜい、ぜい、ぜい
はあ、はあ、はあ
二頭のレッサーパンダは息を切らしつつ、返答を待った。
わしゃわしゃわしゃ
咀嚼の音を聞きつつ、返答を待った。
「そうか」
やがて、ジャイアントパンダは言った。
二頭のレッサーパンダは真っ黒な目を見開いた。
「ドールか」ジャイアントパンダは言った。
しばらく、時が経った。
ばりばりばり
わしゃわしゃわしゃ
がりがりがり
わしゃわしゃわしゃ
二頭のレッサーパンダの息はすっかり整い、互いに黒い目を見交わし合った。
がりがりがり
二頭のレッサーパンダは、黙って頭を下げると向きを変えその場を立ち去ろうとした。
「いつかね」ジャイアントパンダが言った。
はっと息を呑み、振り向く。
「そう思える日が来るのを、待ってるんだ」ジャイアントパンダは続けて言った。
「え」
「そう、思える?」二頭のレッサーパンダは黒い目を丸くして問うた。
「とは」
「どう、思える日、でありま、しょうか」
「このタケ」ジャイアントパンダは右前肢に握る植物を見下ろして言った。「うまいなあ、って」
「──」
「──」二頭のレッサーパンダは言葉を返せなかった。
がりがりがり
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