6 / 32
【6】
しおりを挟む
「王子妃教育?」
「ええ、王城から文が届いている筈です。」
さては父の所で止まっているな?ソフィアはのんびり顔で朝食を摂っていた父の顔を思い浮かべた。
「御免こうむりたいところですね。」ソフィアが言えば、
「ええ、同感ですわ。」アナスタシアが同意する。
「教育の内容とは?」
「ええ、各家に教師が遣わされるのだそうです。けれど、」
「けれど?」
「ダンスの授業は王宮で殿下と一緒に受ける様です。」
「御免こうむりたい。」
「同感ですわ。」
果たして邸に戻って父を問い詰めれば、ああ忘れていた、そうそう教師が来るそうだ、とどこまでもソフィアを軽んじる発言に「禿げてしまえ」と心の中で呪ってやった。
教師は皆良い教師であった。
同じ教師達がそれぞれの令嬢宅に赴くのだが、他のご令嬢と無闇に比べることも無く、どうやら同程度の教育を等しく施しているらしい。
学びは楽しい。
知らない世界が開けてくる。
ソフィアは実のところ、将来は家を出ようと考えていた。王宮に文官として出仕しても良いし、ガヴァネスとして何処かの邸に居候しても良い。他国に移るのも選択枝の一つである。お姉様の嫁がれる公国なんてどうだろう。
侯爵家令嬢と言っても、それは父の爵位であって、ソフィアは無位の令嬢に過ぎない。
自分の生き方を見定めなくてはならない。
ソフィアは婚姻に夢を抱けずにいる。
恋する心を知ったなら、また違うことを考えられたかもしれないが、色に己を見失い正しく判断すら出来ない色ボケ王子とその取り巻きを見るにつけ、こんな阿呆と一緒になりたくないと思うのであった。
あれから伯爵令息は大人しく、寧ろソフィアを避けている。彼は伯爵家の次男で、将来は第二王子の側近と目されていた。因みに彼の長兄は王太子殿下の側近である。
他にも宰相である侯爵家の令息やら、財務大臣の令息やら、第二王子の側近候補は数人いる。第二王子を護るとは、その妃も護ることであろうに、今からあんな調子で大丈夫なのだろうか。お前達が護るのは妃であって愛人ではないのだと分からないのか?
それにつけても王太子殿下の素晴らしい事。一目であのピンクの虚言を見破って(まあ、分からない方が可怪しいのだが)、可怪しなものに関わろうとする弟殿下を諌めていた。
そう、あんなお方の婚約者候補であったなら、きっと胸も弾んだはず。
残念ながら、王太子殿下には隣国王女と云う婚約者がいらっしゃる。
あの涼し気なロイヤルブルーの瞳。
煌めく金色の髪。
麗しくも凛々しい王太子殿下を思い出しながら、あれ?それって見た目だけならあの色ボケ第二王子も同じだわ。と、そこに気付いてしまってゲンナリした。
幸いあの可怪しな言い掛かりの場面は学園を見回る衛兵が目撃していたし、他にも多くの生徒が観ていた。
何処からソフィアの名前が出たのかを、訝しそうにする者もいたくらいである。
心の中のメモ帳を広げ中央に線引をして、右は阿呆、左は常識人と分けて名を綴って行く。
残念ながら、今のところ阿呆チームの方が優勢だ。
それでも常識人の欄には確かな信頼が置ける面々の名が書かれたことに、ソフィアはほくそ笑んだ。
アナスタシア侯爵令嬢
アダム侯爵令息
ローレン王太子殿下
常識人とは安心して会話が出来る。
そう、こんな風に腹の底を探るような関わり合いをせずに済むのだ。
ダンスの稽古で第二王子にホールドされながら、ソフィアは身も心も鎧で隙間なく武装するのであった。
「ええ、王城から文が届いている筈です。」
さては父の所で止まっているな?ソフィアはのんびり顔で朝食を摂っていた父の顔を思い浮かべた。
「御免こうむりたいところですね。」ソフィアが言えば、
「ええ、同感ですわ。」アナスタシアが同意する。
「教育の内容とは?」
「ええ、各家に教師が遣わされるのだそうです。けれど、」
「けれど?」
「ダンスの授業は王宮で殿下と一緒に受ける様です。」
「御免こうむりたい。」
「同感ですわ。」
果たして邸に戻って父を問い詰めれば、ああ忘れていた、そうそう教師が来るそうだ、とどこまでもソフィアを軽んじる発言に「禿げてしまえ」と心の中で呪ってやった。
教師は皆良い教師であった。
同じ教師達がそれぞれの令嬢宅に赴くのだが、他のご令嬢と無闇に比べることも無く、どうやら同程度の教育を等しく施しているらしい。
学びは楽しい。
知らない世界が開けてくる。
ソフィアは実のところ、将来は家を出ようと考えていた。王宮に文官として出仕しても良いし、ガヴァネスとして何処かの邸に居候しても良い。他国に移るのも選択枝の一つである。お姉様の嫁がれる公国なんてどうだろう。
侯爵家令嬢と言っても、それは父の爵位であって、ソフィアは無位の令嬢に過ぎない。
自分の生き方を見定めなくてはならない。
ソフィアは婚姻に夢を抱けずにいる。
恋する心を知ったなら、また違うことを考えられたかもしれないが、色に己を見失い正しく判断すら出来ない色ボケ王子とその取り巻きを見るにつけ、こんな阿呆と一緒になりたくないと思うのであった。
あれから伯爵令息は大人しく、寧ろソフィアを避けている。彼は伯爵家の次男で、将来は第二王子の側近と目されていた。因みに彼の長兄は王太子殿下の側近である。
他にも宰相である侯爵家の令息やら、財務大臣の令息やら、第二王子の側近候補は数人いる。第二王子を護るとは、その妃も護ることであろうに、今からあんな調子で大丈夫なのだろうか。お前達が護るのは妃であって愛人ではないのだと分からないのか?
それにつけても王太子殿下の素晴らしい事。一目であのピンクの虚言を見破って(まあ、分からない方が可怪しいのだが)、可怪しなものに関わろうとする弟殿下を諌めていた。
そう、あんなお方の婚約者候補であったなら、きっと胸も弾んだはず。
残念ながら、王太子殿下には隣国王女と云う婚約者がいらっしゃる。
あの涼し気なロイヤルブルーの瞳。
煌めく金色の髪。
麗しくも凛々しい王太子殿下を思い出しながら、あれ?それって見た目だけならあの色ボケ第二王子も同じだわ。と、そこに気付いてしまってゲンナリした。
幸いあの可怪しな言い掛かりの場面は学園を見回る衛兵が目撃していたし、他にも多くの生徒が観ていた。
何処からソフィアの名前が出たのかを、訝しそうにする者もいたくらいである。
心の中のメモ帳を広げ中央に線引をして、右は阿呆、左は常識人と分けて名を綴って行く。
残念ながら、今のところ阿呆チームの方が優勢だ。
それでも常識人の欄には確かな信頼が置ける面々の名が書かれたことに、ソフィアはほくそ笑んだ。
アナスタシア侯爵令嬢
アダム侯爵令息
ローレン王太子殿下
常識人とは安心して会話が出来る。
そう、こんな風に腹の底を探るような関わり合いをせずに済むのだ。
ダンスの稽古で第二王子にホールドされながら、ソフィアは身も心も鎧で隙間なく武装するのであった。
3,333
あなたにおすすめの小説
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
貴方の知る私はもういない
藍田ひびき
恋愛
「ローゼマリー。婚約を解消して欲しい」
ファインベルグ公爵令嬢ローゼマリーは、婚約者のヘンリック王子から婚約解消を言い渡される。
表向きはエルヴィラ・ボーデ子爵令嬢を愛してしまったからという理由だが、彼には別の目的があった。
ローゼマリーが承諾したことで速やかに婚約は解消されたが、事態はヘンリック王子の想定しない方向へと進んでいく――。
※ 他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる