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第二章
その日サフィリアは、姉とその夫に連れられて夜会に参加していた。
サフィリアには、まだ婚約者がいなかった。学園を卒業して二年になるのに、両親はサフィリアに伴侶を見繕うことをしなかった。
何故だなんて聞かずとも分かる。聞くだけ淋しくなるから聞かないが、敢えて言うなら探しようがなかったのだろう。何故なら地味地味サフィリアには売り込みようがなかったのだもの。
身も心も地味な娘を持った両親。
それなのに、慈しみ育ててくれた両親。
両親には足を向けて寝られない。
ついでに言うなら、姉にもその夫にも足を向けて寝られない。何故なら姉はサフィリアを、幼少の頃から今の今までとても可愛がってくれていた。
二人姉妹の姉は、幼い頃から嫡女の気概を持って凛々しく見えた。姉はサフィリアの憧れの存在だった。姉に名を呼ばれれば、サフィリアは手懐けられた仔犬のように駆け寄った。姉はそんなサフィリアを、よく手懐けた仔犬を愛でるように可愛がってくれた。
そんな両親と姉夫妻に守られて、学園卒業後も勤労をすることなく、生家で姉の執務の手伝いをしてサフィリアは過ごしていた。
この夜の夜会は特別なものだった。
それは王家主催の会で、社交シーズンの終わりを飾る盛大なものだった。パートナーのいないサフィリアは姉夫妻に伴われて、一応未婚の令嬢として参加した。
見渡せば、昨冬のデヴュタントで成人したばかりの令嬢たちが幾人もいた。眩しく輝く若い肌。弾ける笑みに彼女たちの未来はとても明るく見えた。
サフィリアは、そこそこまあまあ上位に食い込む程度に高成績の、学園ではそこそこまあまあよく出来た生徒だった。だがそれは、令嬢としての価値を高めるものではなかった。
当たり前に友人もいたし、その中には親しく挨拶を交わす異性の学友もいたのだが、三年間で何処にも縁付くことはなかった。
だから今もこうして姉夫妻の側で、眩しく輝く令嬢たちを薄目を開けて見つめている。
「サフィリア。これ美味しいわよ」
姉が壁の花となっているサフィリアにシャンパンを差し出した。滴が浮かぶグラスには、琥珀色の液体が細かな気泡を漂わせている。
物凄く美味しそうだ。
「お姉様、ありがとうございます」
サフィリアがそういえば、姉は目を細めて頷いた。
「さあ、ぐいっと」
姉に促されるまま、サフィリアはぐいっとグラスを呷った。
きりりと冷えたシャンパンがぷちぷち爆ぜながら喉を通る。なんて美味しいのかしら。お姉様が持ってきてくださったからかしら。
「サフィリア。良い飲みっぷりだわ。流石は私の可愛い妹だわ」
可愛いだなんて言われる年齢ではないのだが、姉に褒められるのは嬉しい。
「さあ、サフィリア。もう一杯どうだろう。これも絶対美味しいよ」
義兄が二杯目を持ってきた。姉の夫もまた、サフィリアをとても可愛がってくれる。今も義妹の喉を潤す為に、態々二杯目のシャンパンを取ってきてくれた。
「お義兄様、ありがとうございます」
サフィリアがそういえば、姉と義兄は目を細めて頷いた。
「さあ、ぐいっと」
姉と義兄に見守られて、言われるままサフィリアはグラスを呷った。
憶えているのはここまでだった。次に目覚めた時には、隣に誰かがいた。隣の誰かはサフィリアを抱き締めて、サフィリアは彼に抱え込まれるようになって寝ていた。
彼というのだから当然彼は男性で、二人きりの寝台でサフィリアは、男性に抱き締められたまま目を覚ました。
サフィリアには、まだ婚約者がいなかった。学園を卒業して二年になるのに、両親はサフィリアに伴侶を見繕うことをしなかった。
何故だなんて聞かずとも分かる。聞くだけ淋しくなるから聞かないが、敢えて言うなら探しようがなかったのだろう。何故なら地味地味サフィリアには売り込みようがなかったのだもの。
身も心も地味な娘を持った両親。
それなのに、慈しみ育ててくれた両親。
両親には足を向けて寝られない。
ついでに言うなら、姉にもその夫にも足を向けて寝られない。何故なら姉はサフィリアを、幼少の頃から今の今までとても可愛がってくれていた。
二人姉妹の姉は、幼い頃から嫡女の気概を持って凛々しく見えた。姉はサフィリアの憧れの存在だった。姉に名を呼ばれれば、サフィリアは手懐けられた仔犬のように駆け寄った。姉はそんなサフィリアを、よく手懐けた仔犬を愛でるように可愛がってくれた。
そんな両親と姉夫妻に守られて、学園卒業後も勤労をすることなく、生家で姉の執務の手伝いをしてサフィリアは過ごしていた。
この夜の夜会は特別なものだった。
それは王家主催の会で、社交シーズンの終わりを飾る盛大なものだった。パートナーのいないサフィリアは姉夫妻に伴われて、一応未婚の令嬢として参加した。
見渡せば、昨冬のデヴュタントで成人したばかりの令嬢たちが幾人もいた。眩しく輝く若い肌。弾ける笑みに彼女たちの未来はとても明るく見えた。
サフィリアは、そこそこまあまあ上位に食い込む程度に高成績の、学園ではそこそこまあまあよく出来た生徒だった。だがそれは、令嬢としての価値を高めるものではなかった。
当たり前に友人もいたし、その中には親しく挨拶を交わす異性の学友もいたのだが、三年間で何処にも縁付くことはなかった。
だから今もこうして姉夫妻の側で、眩しく輝く令嬢たちを薄目を開けて見つめている。
「サフィリア。これ美味しいわよ」
姉が壁の花となっているサフィリアにシャンパンを差し出した。滴が浮かぶグラスには、琥珀色の液体が細かな気泡を漂わせている。
物凄く美味しそうだ。
「お姉様、ありがとうございます」
サフィリアがそういえば、姉は目を細めて頷いた。
「さあ、ぐいっと」
姉に促されるまま、サフィリアはぐいっとグラスを呷った。
きりりと冷えたシャンパンがぷちぷち爆ぜながら喉を通る。なんて美味しいのかしら。お姉様が持ってきてくださったからかしら。
「サフィリア。良い飲みっぷりだわ。流石は私の可愛い妹だわ」
可愛いだなんて言われる年齢ではないのだが、姉に褒められるのは嬉しい。
「さあ、サフィリア。もう一杯どうだろう。これも絶対美味しいよ」
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「お義兄様、ありがとうございます」
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「さあ、ぐいっと」
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