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第七章
サフィリアは、そこそこまあまあ上位に食い込む程度の高成績で、学園ではそこそこまあまあよく出来る生徒だった。
だから密かに仕事も出来る。デキる伯爵夫人なのである。密かに仕事のデキる伯爵夫人サフィリアは、午前中の早いうちに家政の大半を終えてしまう。
そんなデキるサフィリアを、生家では姉は大層重宝してくれた。密かに父より役に立つと言って褒めてくれたものだ。そこでふと父の顔が思い浮かんだが、直ぐに忘れた。
さて、そんなサフィリアは、有り余る時間を贖罪と懺悔の祈りに割り当てた。
早々に家政を終えれば、午前のうちに教会へ行く。そうして馬車に侍女を残して、一人礼拝堂に向かう。そこには女神の像があり、真っ白な像の足下に跪いて、ひたすら神に祈りを捧げる。
神よお許し下さい。旦那様よ、ごめんなさい。貴方の妻になってしまってごめんなさい。
あの時、調子に乗ってシャンパン二杯飲んでしまってごめんなさい。シャンパン美味しかった、じゃない、美味しいシャンパンに惑わされてしまってごめんなさい。
まるでエデンの園で蛇の誘惑に負けて林檎を食べてしまったイヴのようだ。今ならイヴの気持ちがよく分かる。林檎、美味しかったのよね、だってシャンパン美味しかったもの。
サフィリアは、来る日も来る日も祈りを捧げた。夫への贖罪に、ひたすら祈った。
「告解室?」
それは礼拝堂の脇にあった。告解室とは司祭に罪を告白して、神様の許しを得る場所である。
「告解室……。告解する部屋なのね」
当たり前のことを言いながら、そうだ告解しようと思い立った。
「あのぅ」
告解室には小さな窓がある。磨り硝子の向こう側は曇っているうえに暗くてよく見えない。
見えないならば、あちらはサフィリアだと気がつくことはないだろう。よし、思いっきり告解できる。
サフィリアは、心に決めた。告解するのだ、夫の為に。罪深きこの身を神にお赦し願えるだろうか。
「はい」
ビクッとサフィリアは、ちょっと飛んだ。びっくりした。返事をするとは思わなかった。
あのぅ、とこちらから呼んでおきながら、返事に驚くのは失礼なことだ。だが、サフィリアはそんなことには思い至らず、コホンとひとつ咳をした。
「んっんっ、ここは懺悔の言葉を申し上げてよろしいのでしょうか」
「どうぞ」
磨り硝子の向こう側の人物は、どうやら無口のようだった。どうぞと言ったきり黙り込んだ。
サフィリアは、隅にあった椅子を勝手に引き摺って持ち出した。
ギギィギギィと床を摺る音が鳴って、向こう側の人物が何事だろうと頭を揺らす。そんなことはお構いなしに、サフィリアは椅子に座った。
私の罪深き罪を聞いてください。多分、長くなるからお覚悟なさいまし。
そう心の中で詫びてから、サフィリアは罪の告白を始めた。
何故、夫の妻になったのか。何故、王城の控えの間に寝転ぶこととなったのか。
何故、シャンパンを駆けつけ二杯飲むことになったのか。何故、姉夫婦に引っ付いて夜会にいたのか、そもそも何故、自分には婚約者がいなかったのか。
夫に自分という、美しくもなく成績が良いくらいしか取り柄が無く、家政を熟すのが早いくらいしか役に立てない、駄目な妻を娶らせたこの深き罪。神よどうぞ許し給え。アーメン。
サフィリアは、それから毎日長い祈りの後に、「あのぅ」と一声かけてから、これまた長い告解をするのだった。
だから密かに仕事も出来る。デキる伯爵夫人なのである。密かに仕事のデキる伯爵夫人サフィリアは、午前中の早いうちに家政の大半を終えてしまう。
そんなデキるサフィリアを、生家では姉は大層重宝してくれた。密かに父より役に立つと言って褒めてくれたものだ。そこでふと父の顔が思い浮かんだが、直ぐに忘れた。
さて、そんなサフィリアは、有り余る時間を贖罪と懺悔の祈りに割り当てた。
早々に家政を終えれば、午前のうちに教会へ行く。そうして馬車に侍女を残して、一人礼拝堂に向かう。そこには女神の像があり、真っ白な像の足下に跪いて、ひたすら神に祈りを捧げる。
神よお許し下さい。旦那様よ、ごめんなさい。貴方の妻になってしまってごめんなさい。
あの時、調子に乗ってシャンパン二杯飲んでしまってごめんなさい。シャンパン美味しかった、じゃない、美味しいシャンパンに惑わされてしまってごめんなさい。
まるでエデンの園で蛇の誘惑に負けて林檎を食べてしまったイヴのようだ。今ならイヴの気持ちがよく分かる。林檎、美味しかったのよね、だってシャンパン美味しかったもの。
サフィリアは、来る日も来る日も祈りを捧げた。夫への贖罪に、ひたすら祈った。
「告解室?」
それは礼拝堂の脇にあった。告解室とは司祭に罪を告白して、神様の許しを得る場所である。
「告解室……。告解する部屋なのね」
当たり前のことを言いながら、そうだ告解しようと思い立った。
「あのぅ」
告解室には小さな窓がある。磨り硝子の向こう側は曇っているうえに暗くてよく見えない。
見えないならば、あちらはサフィリアだと気がつくことはないだろう。よし、思いっきり告解できる。
サフィリアは、心に決めた。告解するのだ、夫の為に。罪深きこの身を神にお赦し願えるだろうか。
「はい」
ビクッとサフィリアは、ちょっと飛んだ。びっくりした。返事をするとは思わなかった。
あのぅ、とこちらから呼んでおきながら、返事に驚くのは失礼なことだ。だが、サフィリアはそんなことには思い至らず、コホンとひとつ咳をした。
「んっんっ、ここは懺悔の言葉を申し上げてよろしいのでしょうか」
「どうぞ」
磨り硝子の向こう側の人物は、どうやら無口のようだった。どうぞと言ったきり黙り込んだ。
サフィリアは、隅にあった椅子を勝手に引き摺って持ち出した。
ギギィギギィと床を摺る音が鳴って、向こう側の人物が何事だろうと頭を揺らす。そんなことはお構いなしに、サフィリアは椅子に座った。
私の罪深き罪を聞いてください。多分、長くなるからお覚悟なさいまし。
そう心の中で詫びてから、サフィリアは罪の告白を始めた。
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何故、シャンパンを駆けつけ二杯飲むことになったのか。何故、姉夫婦に引っ付いて夜会にいたのか、そもそも何故、自分には婚約者がいなかったのか。
夫に自分という、美しくもなく成績が良いくらいしか取り柄が無く、家政を熟すのが早いくらいしか役に立てない、駄目な妻を娶らせたこの深き罪。神よどうぞ許し給え。アーメン。
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