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第十三章
その日、サフィリアは教会へは行かなかった。忙しかったのだ。なにせ身辺整理をしなければならない。
物持ちの良いサフィリアは、元から持ち物はそう多くはなかった。
今あるものは、ほとんどが夫から贈られたものだ。輿入れの際にも夫は身一つで来るようにと言ったから、それは勅命だと思ったサフィリアは、本当にその日着ているドレスのほかは、三日分の着替えとお気に入りの小説だけを持って嫁いできた。
初めて夫人の私室に通されたとき、ドレスばかりか靴も装飾品も下着まで、たっぷり用意されていた。
クローゼットの中は既にぱんぱんで、それはきっと姉が袖の下を渡して使用人に用意させたのだと思った。
可哀想に、ルクスの愛は全て姉の手柄になっていた。
大量の私物の中から生家から持ってきたものだけをトランクに詰めていた、その時だった。
ドタンバタンがらがらガッシャン。
この世の擬音の全てと言っても過言ではない。慌てる際のオノマトペを総動員して、ルクスがばーんと扉を開けた。お陰でサフィリアはぴょーんと跳ねた。
「何をしている」
「どこに行く」
「それはなんだ」
「そんなことは許さない」
以上は全てがルクスの言葉で、サフィリアが呆気に取られてひと言も返せないでいるのもお構いなしに、彼は息もつかずに言い切った。
ツカツカツカと部屋に入り、文机の上にあったものをグシャリと握り、そのままビリリと引き裂いた。
引き裂いたのを忌々しそうに床にぶちまけ、あろうことがギュッギュッと踏みつけた。
「だ、だ、旦那様、何をなさるの?それは大切な離「そんなものは要らない」
「旦那様、いけません。それは離「だからそんな必要は無い」
ビリビリ破いた離縁の誓約書を床に捨てて踏みつけにした後、ルクスはツカツカツカとサフィリアに歩み寄った。
それからガシリと両肩に手を置き、腰を屈めてサフィリアを真正面から覗き見た。
「私がこの世で一番忌み嫌う言葉を知っているか?」
「サフィリアかしら」「違う!」
怒られてしまった。
「離縁だ。くそ、自分でわざわざ言ってしまった忌々しいっ」
ルクスはそこで本心から忌々しく思うような、悔しげな顔をした。
「兎に角」
両肩に置かれた手に力がこもる。
「君は生涯未来永劫いつでもどこまでも私の妻だ。私の妻以外有り得ない。そうでなくっちゃ駄目なんだ」
こんな真剣な眼差しは、閨で見つめ合うときくらいしか見たことがない。やだわ、私ったらこんな時にあんな事やこんな事を思い出してしまうだなんて。
ぽっと頬が染まってしまった。それが恥ずかしくて思わず顔を伏せた。だが、夫から視線を外しては失礼かと思い直して夫の目を見つめた。結果、あざとい上目遣いになってしまった。
「ぐっ」
夫が呻いた。だ、旦那様、どこか痛いの?
心配になったサフィリアは、そこで更に夫を仰ぎ見た。あざとい上目遣いにうるうるが加わった。
「うっ」
ルクスが途端に苦悶の表情を浮かべた。
「大丈夫!?旦那様!」
慌てたサフィリアの問い掛けに、ルクスは答えた。
「大丈夫じゃない。君がいてくれなければ死んでしまう」
「駄目よ駄目駄目、死んじゃ駄目!」
「なら、君は何をしてくれる?」
「え?」
「私の願いを聞いてくれるなら、或いは死なずに済むかもしれない」
「しますします、何でもします!だから旦那様、死んでは駄目よ!」
その言葉に、ルクスの瞳に仄暗い光が宿った。
物持ちの良いサフィリアは、元から持ち物はそう多くはなかった。
今あるものは、ほとんどが夫から贈られたものだ。輿入れの際にも夫は身一つで来るようにと言ったから、それは勅命だと思ったサフィリアは、本当にその日着ているドレスのほかは、三日分の着替えとお気に入りの小説だけを持って嫁いできた。
初めて夫人の私室に通されたとき、ドレスばかりか靴も装飾品も下着まで、たっぷり用意されていた。
クローゼットの中は既にぱんぱんで、それはきっと姉が袖の下を渡して使用人に用意させたのだと思った。
可哀想に、ルクスの愛は全て姉の手柄になっていた。
大量の私物の中から生家から持ってきたものだけをトランクに詰めていた、その時だった。
ドタンバタンがらがらガッシャン。
この世の擬音の全てと言っても過言ではない。慌てる際のオノマトペを総動員して、ルクスがばーんと扉を開けた。お陰でサフィリアはぴょーんと跳ねた。
「何をしている」
「どこに行く」
「それはなんだ」
「そんなことは許さない」
以上は全てがルクスの言葉で、サフィリアが呆気に取られてひと言も返せないでいるのもお構いなしに、彼は息もつかずに言い切った。
ツカツカツカと部屋に入り、文机の上にあったものをグシャリと握り、そのままビリリと引き裂いた。
引き裂いたのを忌々しそうに床にぶちまけ、あろうことがギュッギュッと踏みつけた。
「だ、だ、旦那様、何をなさるの?それは大切な離「そんなものは要らない」
「旦那様、いけません。それは離「だからそんな必要は無い」
ビリビリ破いた離縁の誓約書を床に捨てて踏みつけにした後、ルクスはツカツカツカとサフィリアに歩み寄った。
それからガシリと両肩に手を置き、腰を屈めてサフィリアを真正面から覗き見た。
「私がこの世で一番忌み嫌う言葉を知っているか?」
「サフィリアかしら」「違う!」
怒られてしまった。
「離縁だ。くそ、自分でわざわざ言ってしまった忌々しいっ」
ルクスはそこで本心から忌々しく思うような、悔しげな顔をした。
「兎に角」
両肩に置かれた手に力がこもる。
「君は生涯未来永劫いつでもどこまでも私の妻だ。私の妻以外有り得ない。そうでなくっちゃ駄目なんだ」
こんな真剣な眼差しは、閨で見つめ合うときくらいしか見たことがない。やだわ、私ったらこんな時にあんな事やこんな事を思い出してしまうだなんて。
ぽっと頬が染まってしまった。それが恥ずかしくて思わず顔を伏せた。だが、夫から視線を外しては失礼かと思い直して夫の目を見つめた。結果、あざとい上目遣いになってしまった。
「ぐっ」
夫が呻いた。だ、旦那様、どこか痛いの?
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「なら、君は何をしてくれる?」
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