《短編版》或る伯爵夫人が一人思い悩んだ末の事の顛末

桃井すもも

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第十五章

 こう言ってはなんだが、ルクスは仕事がデキる漢である。自分でもそれはわかっているのだが、そんなこと当り前だからなんとも思わない。だって仕事がデキるんだもの。

 デキる漢ルクスは早速動いた。サフィリアの姉に接触を図った。彼女は月に数度は城にくる。そこで提案をしたのである。

「まあ。妹を?」
「左様。貴女の妹君を私の妻に迎えたい」
「ストレートですのね」
「性根が真っ直ぐなところがチャームポイントだ」

 ルクスは、自分で自分を売り込んだ。

「でもぉ、妹がいないと困るんですの。あの子は優秀ですから」
「そう言って、サフィリアにとって最適な嫁ぎ先を吟味しているのを私は知っている」
「へえ」
「君と私の仲じゃあないか」
「書類の提出と受領するだけの仲ですわね」
「些事は気にしないでくれたまえ」

 仕方がないと言った姉だが、実のところ彼女はルクスを認めていた。実直で誠実なデキる漢だとわかっていた。
 彼は姉を女伯爵と侮ることはなかったし、姉の知る限り彼ほどデキる漢は見当たらなかった。

 ルクスは文官であるが伯爵家の嫡男だ。小さいが領地もあるし、両親は健在で父親は長く陛下に仕えている。彼らの夢はルクスが妻を娶ったなら速攻で城を辞して領地に引きこもり、人生の最期の瞬きを夫婦二人で謳歌することだという。

 亭主元気で留守がいい。
 先達の残した言葉に嘘はない。夫は城に元気に出掛けて邸にはジジババもいない。元気に働き昼日中は留守をしてくれるルクスとは、妹にとって最高の夫となるだろう。

 姉が生家の両親と夫に根回しする間、ルクスは両親と古い友人に根回しをした。その友人がの司祭だった。

 婚姻式も彼に頼んだ。婚約期間だなんて、そんなまどろっこしいものは要らない。両親は夢が叶うと万歳三唱していた。ルクスも心の中で一緒に万歳した。

 出会いの計画は緻密に綿密に立てた。サフィリアの姉とその夫とも打ち合わせをみっちりした。
 王城で夜会がある。そこが彼女との出会いの場だ。サフィリアの姉が既に第一案を練っていた。

 ①姉→サフィリアにシャンパン飲ませる
 (一杯目)
 ②義兄→サフィリアにシャンパン飲ませる
 (二杯目)
 ③サフィリア酔ってふらふらする
 ④サフィリア倒れる→ルクス、サフィリアキャッチ

 ④番、ここで行き成りルクスが出る。唐突すぎやしないかと思うも、姉が練った計画に口出しはできない。

 サフィリアはアルコールにめっぽう弱い。嫌いではないのに耐性がない。大抵二杯目でダウンするので、サフィリアの生家ではアルコールは一日一杯までと決められている。
 それをサフィリアは姉と義兄に勧められるのを断りきれずに二杯きっちり飲み干した。

 後はルクスが倒れ込んだサフィリアを抱き留めて、控えの間まで運んで介抱してあげるのが表向きの計画だった。

 だが、デキる筈のルクスはしくじった。
 彼まで酒精にやられてしまった。サフィリアを抱き留めるのだと、そう思うだけで珍しくルクスは緊張して、それで一杯だけとシャンパンを飲んでしまった。下戸なのに。

 介抱する筈だった。何とか控えの間までサフィリアを運び込めた。姉と義兄が両親を呼ぶまで、サフィリアを懇切丁寧優しく介抱する筈だったのに。

 彼はそこで正体を失くす。おのれ、シャンパン……。呟きながら無意識にまさぐった手は、サフィリアの慎ましいお胸をモミモミしていた。

 それが最後の記憶で、目覚めた時には天使を抱き締めていた。


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