16 / 18
第十六章
「死にたい」
抱き締めた胸の中で聞こえた声で目が覚めた。声まで可愛らしい。こちらが昇天しそうであった。
だがしかし、聞き捨てならない、死なせてならない。
「死んでは駄目だ」
「へ?」
サフィリアの目の前に、綺麗な深緑の瞳が見えた。灯りを絞った室内の薄闇でもわかる、深海色の瞳がサフィリアを見つめていた。
「ど、どなた?」
ルクスはなにを聞かれても可愛くて仕方ない。
「私は、ルクス・バイロン・コットナーという。コットナー伯爵家の者だ」
絶対憶えてほしいから、フルネームで答えた。この名はいずれ君の名となる。忘れないで今すぐここで憶えてくれ。
その後のことは一日だって忘れない。忘れようもない。そこで示し合わせていた姉夫婦が扉を開けて、事の次第をサフィリアに説明する。義兄がチラチラチラチラ確認の為に視線を寄越すのが若干ウザかった。
姉と目が合い、互いに頷く。
今だ、言うぞ。
昨晩何度も練習した台詞をルクスは披露した。
「責任を取らせて頂く」
それからは、毎日がスキップしたい日々だった。
両家の顔合わせから始まり、教会を押さえて、社交シーズンが終わったのを良いことに、身内だけで式の段取りが為された。
知らぬはサフィリアばかりなり。
彼女は夜会の出会いが偶然だと信じている。
すまない、サフィリア。全部罠だ。子栗鼠、もとい可愛いサフィリアを手中に収めるために、両家が一致団結して君に仕掛けた罠なんだ。
サフィリアは、どうやらあの控えの間で、二人が酩酊状態のまま事に及んでしまったと思っている。
純潔を喪失したばかりに、必然的にルクスの妻となったと信じている。
どう誤解してくれても構わない。
お胸は確かにモミモミした。手の平に収まりきってしまう囁かな膨らみが愛おしかった。
君が気に病む「乙女の喪失」なんて、そんなものは憂いにもならない。なにせ直ぐに無くなるんだから。
喪失?間違えないでもらいたい。
与えるのみ。我が子種を君にひたすら与えるのだ。失ったなんて悲しまないでくれないか。
婚約期間はゼロ期間、出会い=婚姻という、この年、王国で最短記録の婚礼は、ひと夏の間に速やかに為された。なので喪失を気に病む暇がないほどに、結局、サフィリアは初夜であっという間に乙女を失った。
あれから二年。
あのボケナス王太子の無茶振りのお陰でなかなか家に帰れない。帰れないが帰ったらそれはそれで長すぎる蜜月を楽しんだ。
城に泊まる日には着替えを持って王城に来るサフィリアが自慢の妻で、どうだ我が妻、可愛いだろーとそこいらへんにそれとなく見せびらかした。
どうやら本人は、自分を「地味」だなんて思い違いをしているが、それはあの強烈な姉を見すぎたからだ。
姉が深紅の薔薇なら君は可憐なペンペン草。路傍を愛らしく飾る私の花。
そう古い友人に聞かせていたのだが、奴は朴念仁だから、可怪しな表情をするだけだった。
可怪しな表情をする友人は貴族の三男で、継ぐ家がないからと神籍に入った。学園時代からの友である。
その友人がある日、王城を訪ねてきた。可及的速やかに対処しろと言われた。
そこでサフィリアの思い違いも甚だしい、呪わしい計画ついて知らされたのだった。
抱き締めた胸の中で聞こえた声で目が覚めた。声まで可愛らしい。こちらが昇天しそうであった。
だがしかし、聞き捨てならない、死なせてならない。
「死んでは駄目だ」
「へ?」
サフィリアの目の前に、綺麗な深緑の瞳が見えた。灯りを絞った室内の薄闇でもわかる、深海色の瞳がサフィリアを見つめていた。
「ど、どなた?」
ルクスはなにを聞かれても可愛くて仕方ない。
「私は、ルクス・バイロン・コットナーという。コットナー伯爵家の者だ」
絶対憶えてほしいから、フルネームで答えた。この名はいずれ君の名となる。忘れないで今すぐここで憶えてくれ。
その後のことは一日だって忘れない。忘れようもない。そこで示し合わせていた姉夫婦が扉を開けて、事の次第をサフィリアに説明する。義兄がチラチラチラチラ確認の為に視線を寄越すのが若干ウザかった。
姉と目が合い、互いに頷く。
今だ、言うぞ。
昨晩何度も練習した台詞をルクスは披露した。
「責任を取らせて頂く」
それからは、毎日がスキップしたい日々だった。
両家の顔合わせから始まり、教会を押さえて、社交シーズンが終わったのを良いことに、身内だけで式の段取りが為された。
知らぬはサフィリアばかりなり。
彼女は夜会の出会いが偶然だと信じている。
すまない、サフィリア。全部罠だ。子栗鼠、もとい可愛いサフィリアを手中に収めるために、両家が一致団結して君に仕掛けた罠なんだ。
サフィリアは、どうやらあの控えの間で、二人が酩酊状態のまま事に及んでしまったと思っている。
純潔を喪失したばかりに、必然的にルクスの妻となったと信じている。
どう誤解してくれても構わない。
お胸は確かにモミモミした。手の平に収まりきってしまう囁かな膨らみが愛おしかった。
君が気に病む「乙女の喪失」なんて、そんなものは憂いにもならない。なにせ直ぐに無くなるんだから。
喪失?間違えないでもらいたい。
与えるのみ。我が子種を君にひたすら与えるのだ。失ったなんて悲しまないでくれないか。
婚約期間はゼロ期間、出会い=婚姻という、この年、王国で最短記録の婚礼は、ひと夏の間に速やかに為された。なので喪失を気に病む暇がないほどに、結局、サフィリアは初夜であっという間に乙女を失った。
あれから二年。
あのボケナス王太子の無茶振りのお陰でなかなか家に帰れない。帰れないが帰ったらそれはそれで長すぎる蜜月を楽しんだ。
城に泊まる日には着替えを持って王城に来るサフィリアが自慢の妻で、どうだ我が妻、可愛いだろーとそこいらへんにそれとなく見せびらかした。
どうやら本人は、自分を「地味」だなんて思い違いをしているが、それはあの強烈な姉を見すぎたからだ。
姉が深紅の薔薇なら君は可憐なペンペン草。路傍を愛らしく飾る私の花。
そう古い友人に聞かせていたのだが、奴は朴念仁だから、可怪しな表情をするだけだった。
可怪しな表情をする友人は貴族の三男で、継ぐ家がないからと神籍に入った。学園時代からの友である。
その友人がある日、王城を訪ねてきた。可及的速やかに対処しろと言われた。
そこでサフィリアの思い違いも甚だしい、呪わしい計画ついて知らされたのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来
鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」
婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。
王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。
アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。
だが、彼女は決して屈しない。
「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」
そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。
――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。
彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
やっぱりあなたは無理でした
あや乃
恋愛
愛する婚約者とその恋人に嵌められ、断罪された挙句惨めに捨てられた侯爵令嬢フローリア・コーラル。
修道院に向かう途中で不遇の死を遂げた彼女は願った、もう一度人生をやり直したいと―― 目覚めた時彼女の時間は半年前に巻き戻っていた。
今度こそ第一王子ジュリアンの心を取り戻し「愛する人から愛される」というささやかな願いを叶えたいと奮闘するフローリアだが、半年後フローリアが断罪されたあの日が再び訪れてしまう。
同じ光景、同じ台詞、何もかもが同じ……でもたった一つだけ違っていることがあって!?
※「小説家になろう」さまにも掲載中
あなたの絶望のカウントダウン
nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。
王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。
しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。
ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。
「本当にいいのですね?」
クラウディアは暗い目で王太子に告げる。
「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。