ヴィオレットの夢

桃井すもも

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六の姫4

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「お痛い所はございませんか?」と侍女等が案するのだが、ヴィオレットは未だ声を発する事が出来ずにいた。

怪我がないか確かめられ、部屋に戻って汗まれの身体を清められ静かな時間が戻っても、ヴィオレットの胸はドクドクと早鐘を打って静まることはなかった。


数日後に、兄と従兄弟が並び歩いているのを見掛けた途端、駆け出してしまった。
謝りたかったし、何処か痛めていなかったか心配だった。

だから、
「私に近寄らないでくれないか。」
と、顔を半身ごと背けられた時に、ヴィオレットは絶望してしまった。

優しい従兄弟であった。
兄と共にヴィオレットを気遣ってくれるデイビッドはもう一人の兄のようで、ヴィオレットの大切な人であった。

不注意から、大切な人を傷付けてしまった。

(嫌われてしまったのだわ。)

その晩、ヴィオレットはいつまでも寝付けなかった。

後から後から湧いてくる涙が止まらず、空が白む頃に泣き疲れて漸く浅い眠りについた。


********


「大したことではないでしょう。気にする事はないわ。」

すぐ上の五の姫、姉が云う。

男子(おのこ)なんて、そんなものでしょう? 剣の稽古に比べたら、撫でられたようなものよ。

と、続けて云う。

姉は自分の様にくよくよするところの無い、のんびりとした気質である。
神経質で少々近寄り難い母ではあるが、本来の母も、こんな気安い性質だったのではないかとヴィオレットは思っている。

「いい頃合いじゃない。男子と走り回る年ではなくなったのよ。」

「私達のようなものは、大人しくしていれば良いのよ。宮に籠もっていれば、誰も何も言わないわ。お姉様方に比べたら気楽なものよ。」

温かなお茶を含みながら、姉が云う。

第一王女は厳しい教育を施された。
女王になる将来を見据えなければならなかった。

続く姉達も、国内外の外交の駒となるべく王女教育を受けて来た。

王子が生まれて重責から開放された時、一の姫は「清々したわ。」と云ったらしい。

そんな姉達や兄に比べ、すぐ上の姉や自分は駒にも成り切れない、政策的にも旨味の無い王女なのである。

ヴィオレットは、改めて自分の立場について思い知るようで、心が沈む感覚を覚えた。


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