ヴィオレットの夢

桃井すもも

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異なる路

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立太子を目前に兄は益々多忙となり、ヴィオレットと会うことは少なくなった。

公式の行事に於いても、次期国王の兄と末王女のヴィオレットとでは立場が異なる。座も離れており言葉を掛けることなど出来なかった。

兄に控える従兄弟とも、結局あのまま話せず終いで今日まで来てしまった。

仲の良い従兄弟であった。
もしかしたら、そう思っているのはヴィオレットだけだったのかもしれない。
ヴィオレットは、もう諦めようと思った。

同じ親から産まれたとて、兄と自分の進む道は異なる。

立場など、雲泥の違いであることは幼いながら解っていた。
兄との距離は従兄弟との距離となって、ヴィオレットの心に視えない壁を作った。
そうすると、進む廊下の先に二人を見掛けても、いつかの様な泣きたい気持ちにはならなかった。

時折、隙間の時間を工面した兄がヴィオレットに会いに来てくれることがあった。

「やあ、僕の可愛いヴィオレット。」
などと気安く接してくれる兄が、ヴィオレットは好きであった。

晩餐は、家族の会話の時間ではなかったし、そもそも父と兄は政務の間に母や幼い弟と食事をする。

ヴィオレット達王女はその席にいない事の方が多かった。

だから、父王や母王妃とは相容れないものを感じていたし、幼い弟とはそもそも接点が少な過ぎた。

ヴィオレットにとっての家族とは、姉達とこの兄のみであった。


********


すぐ上の姉も学園に通い始めた。
姉はヴィオレットの二つ上である。
ヴィオレットは今年11歳となった。

日中を一人で過ごすようになると、注力することは自ずと勉学のみになってしまった。

父王の時代から王子王女の教育を担って来た教師のお歴々も、引退間近の年齢を迎えていた。

弟には、母が選んだ若い教師が付いている。

王族への教育をヴィオレットが最後と認めた教師達は、手厚い教育をヴィオレットに施した。

若い頃は厳しさが先立っていた教師たちも、老成した熟練の師となってからは、ヴィオレットを最後の愛弟子の如く接した。ヴィオレットはそんな彼らから学ぶの事が誇らしく、また、楽しかった。

姉達は殆どが嫁いでいたし、すぐ上の姉も学友と過ごす事が多くなっていた。

爺婆に囲まれて、孫娘の様になりながらも学びは深く手厚く、教師たちもヴィオレットを聡明な姫だと励ましてくれた。

だから、こんな提案がなされた時には驚きが勝って暫くして漸く喜びを感じた。

帝国学園への入学の勧めであった。


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